法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『デイ・アフター・トゥモロー』

地球温暖化によって極地の氷が海へと流出。塩分濃度が変わったことで海流も変わり、地球全体で異常気象が蔓延する。
その後の寒冷化まで予測できていた気象学者は、米国政府へ対策を求めつつ、寒冷地にとりのこされた息子を思う……


ローランド・エメリッヒ監督による2004年のアメリカ映画。全世界的な凍結現象を、米国中心の描写として見せていく。
:: デイ・アフター・トゥモロー ::
10月13日に金曜ロードShow!で放映予定。2時間2分の作品なのに、2時間未満の通常枠で放映するので、かなりカットされるだろう。
金曜ロードシネマクラブ|日本テレビ

信じられないような災害の数々に立ち向かうのは、気候学者の父と高校生の息子。彼らは自然の驚異にどう立ち向かい、いかに生き抜くのか。決して希望を捨てない父子の姿を、最後まで見届けたい!!

まず映像面においては、ディザスタームービーらしい情景変化をVFXで楽しませてはくれる。
以前の監督作では、意外とミニチュアも多用していた。対する2004年の今回は、実物大セットと3DCGだけで大津波や急速凍結を表現したという。雪がふりしきる場面が多いこともあって、現在にDVDで見直しても違和感のない質感と重量感で、ILMデジタル・ドメインなどの技術力を感じさせる。
SFX/VFX映画時評

ニューヨーク市をミニチュアでなくすべてディジタルで作ったということに驚かされた。どう考えても,模型の方がコスト面でも品質面でも上のはずなのに,CGを選択した理由は後半に隠されていた。氷河期を迎えて凍りつくマンハッタンの光景を再登場させるには,CGの方が有利だったのである。

摩天楼の底で画面奥から巨大な災厄が襲ってくるシチュエーションは、1996年や1999年の同監督作『インデペンデンス・デイ』や『GODZILLA』を思わせる。きっと監督の作風なのだろう。海面上昇により水没した都市をタンカーが流れてくる場面など、ノアの箱舟を思わせる静謐で抒情的なVFXまである。
ただ、物資を求めてタンカーへ潜入した時、狼に襲われる描写はつまらない。扉を使ったかけひきや、いったん船外に出て脱出路を確保する展開など、やるべき描写はおさえているのだが、メリハリが足りないのか不思議と怖さがない。思えば『GODZILLA』のベビーゴジラも緊張感のなさがひどかった。閉鎖空間で等身大の敵に襲われる演出が、あまりエメリッヒ監督は得意ではないのかもしれない。


さて、物語については同監督作品らしく薄くて、後述のように主軸で問題をかかえているのだが、現在に見ると興味深いところがあった。
米国の出来事が世界の出来事と同一化され、外国の描写が軽くすまされる問題は『インデペンデンス・デイ』と同じだが、そもそも米国のような先進国が温暖化をひきおこし、そのしっぺ返しを受けている構図だ。最初に被害を受ける日本*1も、劇中でも言及される京都議定書でかかわりがありつつ、やはり温室効果ガスの排出をつづけている国家のひとつ。
やがて北半球の3地域で上空の冷気が急速下降する現象が起きて、人々は南への避難をせまられる。米国も極一部の南部をのぞいて凍結することから、メキシコの国境へ殺到。まだ相手国の政府が受け入れを決める前から不法に越境をはじめる。マスメディアにおいては、不法移民の流れが逆転したとコメントされる。
つまりこの作品は1973年に映画化された『日本沈没』と同じく、先進国が途上国への難民を生みだす仮定というテーマを隠しもっていたわけだ。そしてその問いは、日本や米国が余裕をよそおえなくなった現在、より切迫した問題として存在している。
トランプ氏「政府閉鎖してでも」メキシコとの壁建設と 支援者集会で - BBCニュース

大統領は、不法移民の流入を阻止するには壁が「不可欠」だというのが国境付近で働く移民係官の意見だと述べ、「たとえ政府を閉鎖しなくてはならないとしても、壁は造る」と言明した。

最後の米大統領による演説も、途上国と位置づけてきた諸国へ、救援への感謝を述べるというもの。自信を失っていた米国の気分を反映した物語だったと考えていいだろうか。


ただし、先述したようにドラマは良くない。とにかく主軸の父子のドラマがダメすぎる。
なんといっても、父親が息子を助けにいく必然性が弱すぎる。ただ単に、ちょっと距離があった息子へ電話口で約束したというだけ。長期間にわたって屋外に出られないというだけで、わざわざ行かなければ息子か仲間が死ぬような設定ではない。周囲の批判を押しきって会いに行くという熱意すら表現されない。
そして息子のいる図書館までついた時、凍結が穏和化しているという遅さ。そのまま生存者のため米国政府が飛ばしていたヘリの1機に乗れたことから、そもそも父親は凍結終了まで耐えてヘリに乗りこむべきだったことになる。ちなみに凍結中に強行軍したため、ふたりいた仲間のひとりを死なせていた。
どうしても子供に会いに行くドラマを描きつつ、父親を危機に直面させたいのだとしても、やりようはあったろう。たとえば複数の気象学者が実地観測する計画がたちあがり、最も危険なかわりに息子のいる場所への探索を父親が選択したという展開でも良かった。
天災に巻きこまれていく人々を点景で描いていくパートは悪くないし、図書館に避難した人々が書物を燃やして暖をとりつつ知識を活用するシーンなど、群像劇としては良いところもあるのだが。

*1:きちんと聞き取れる日本語だし、狭い飲み屋街に電柱はならんでいるし、看板の文字が間違っているわけでもないのに、日本っぽく見えないことが逆にすごい。