法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『科捜研の女 season17』File3 折り鶴が見た殺人

風で飛ばされてきた風船を、浜松の子供たちが見つける。風船に吊るされていた折り鶴をひらくと、殺人の告白らしき文章が出てきた。
一方、京都で技術系企業をたちあげた寝たきりの老女が絞殺体で発見された。その親友として折り紙教室をひらきながら、科学に対して嫌悪感をもつ老女が登場。
絞殺体となった老女の周囲にある折り鶴から、浜松の折り鶴の文章を犯人が書いた可能性に科捜研は気づくが……


折り鶴というモチーフから、技術系企業が支援する平和活動につながり、軍事産業に乗りだそうとする現社長と名誉顧問をつづけている老女の確執があばかれる。
ストーリー|木曜ミステリー 科捜研の女|テレビ朝日
『相棒』でも「犯人はスズキ」等の印象的なエピソードを書いていた岩下悠子が脚本。軍事的な緊張が高まっている国として、『相棒』でおなじみのエルドビア共和国も出てくる。
折り鶴の尻尾が現実の鶴と違ってピンと立っていることを、風を切って飛ぶ姿に老女が見立てて、主人公の人格になぞらえる場面など、細部のディテールも興味深かった。


まず、誰が殺人の告白を書いたのか、名誉顧問が絞殺体となった動機は何か、それぞれ今回のテーマから見当はついた。
風速から風船の飛行時間を科捜研がシミュレーションし、絞殺された時刻から飛ばしても浜松まで届かないことが判明したあたりで確信できた。
しかし名誉顧問とともに企業をたちあげた亡夫が元特攻隊という設定や、折り鶴というモチーフから広島原爆を連想したことから、折り鶴に記された悔恨が何を意味しているのかまったく気づけなかった。


そもそも、今の日本のドラマで太平洋戦争をふりかえるにおいて、日本の加害にふみこむとは思わなかった。思えばモチーフにしたミステリを読んだことがあり*1、自作の架空戦記ネタに利用したこともあったのに。
老女が物語の中心にいるので、なおさら国家から被害を受けた歴史が語られるだろうと予断をもっていた。だからこそ当時に女学生であった人々すら罪悪感をかかえもつ史実が鮮烈な印象をもたらす。
そのモチーフの歴史をふりかえることで、ドラマ冒頭の平和な光景がまったく違った意味をもってくるのも重い。折り鶴というモチーフも目くらましで終わらず、使われた和紙という関連から、問題のモチーフにつながった。


いかにも川井憲次なBGMが鳴りつづけたり、照明が全体にあたっていて画面が安っぽかったり、あくまで日本の古臭いTVドラマ的な絵作りではある。同じ物語でも『相棒』ならば、正義の暴走を注意する老女の台詞が、より印象深くなったかもしれない。しかし女性主人公ゆえの意味があった物語でもある。
名誉顧問と親友のシスターフッド的な関係や、平和のための交流行事が説得的に結実したラストまでふくめて、推理ドラマとして無駄がなく、反戦ドラマとして充実していた。