法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『戦国自衛隊』

演習予定地に集まろうとしていた自衛隊の一部隊。異変とともに海岸の風景が一変していることに気づく。
その直後、かげろうのように戦国武将があらわれて、部隊は弓矢での攻撃を受けはじめる……


思うところがあって2時間18分の全長版を初めて視聴した。しかし1979年の作品なのにエンドロールがなく、細かなスタッフクレジットが表示されないことを知って驚いた。

戦国自衛隊 ブルーレイ [Blu-ray]

戦国自衛隊 ブルーレイ [Blu-ray]

物語は、SFらしい異化効果や歴史考証よりも、青春群像劇らしさを優先。鎌田敏夫脚本らしい反抗心と挫折感が満ちている。
さまざまな動機で部隊を離れる隊員が出てきて、なかには戦国時代の強者となることを選んで女性へ性的暴行をふるう連中も出てくる*1。本来の時代へ戻るために歴史を狂わせようとした主流派も、徒労に終わってしまう*2。救われたのは、武器を捨てて現地へ根づこうとした隊員くらい。主人公側が最新鋭の現代兵器を持っていることは、あくまで転落を強調するための踏み台だ。
あまりにも個人の動機で動いて統制がとれない隊員に、かつては違和感もあったが、さまざまな問題が表出している今になって思うと、意外とリアルな描写だったのかもしれない。そもそも劇中でも、予定外に合流した少人数のよせあつめであり、クーデター計画が直前でつぶされた確執もかかえているという、統制がとれない背景は描かれている。


もちろん当時の角川映画らしく、邦画の枠を超えようとするアクション大作としても成立している。
ヘリコプターや哨戒艇や戦車まで実物大で稼働するプロップを作って、対する戦国時代も画面をうめつくすエキストラや騎馬を用意。砦や廃寺のオープンセットも大がかり。哨戒艇とヘリコプターの一部でミニチュア特撮が使われているが、前後との違和感は少なく、映像のスケール感を損なわない。現在に見て古びて感じられるのは、生首などの質感の無さくらいだ。
主演をかねる千葉真一のアクション演出もアイデアが多彩で、肉体をつかったスタントも迫真的。手裏剣を使うニンジャ的アクションが特撮ヒーローっぽくて楽しい。かくして現代兵器が人海戦術と策略で消耗していく過程が念入りに描かれた。

*1:あえて能天気な音楽がつけられていることが印象的。映画の全体としては時代によりそった挿入歌が多用されて古びた印象をもたらしているが、暴力や挫折をえがく場面のカウンタープンクトは現在でも通用するだろう。

*2:主人公の過去の時代であるために、世界を変えることがタイムパラドックスをひきおこしてしまう。『ナルニア国物語』あたりにはじまる「異世界転移」とは違って、最初から世界を改変することに制限があると思われ、それが主人公たちの希望につながるわけだが……

あくまで「小説家になろう」で自作を発表しているアマチュアのひとりを、サイトの代表のようにあつかうのはやめよう

二度目の人生を異世界で』の問題*1を受けて、南京事件否定論を主張するhimuwata氏のツイートが、Togetterにまとめられていた。
『二度目の人生を異世界で』騒動を受けなろう小説家、自著の中韓への出版を拒否。また、チャイナ服キャラは台湾人設定へ - Togetter

しかしTogetterでは「なろう小説家」と表記されているが、そもそも作家デビューはしていないと自己認識している。

商業化もされていない現時点では“なろうユーザー”や“なろう投稿者”と表記するべきだろう。
実態以上に表現者としての発言力を大きく見せかけることは、その加害を強めかねない。


もちろん、南京事件否定論者であること自体は批判されて当然ではあるだろう。先日も南京事件否定論を問題視するドキュメンタリ番組が話題になったばかりだ。
『NNNドキュメント'18』南京事件II 歴史修正を検証せよ - 法華狼の日記
また、そのような意識を反映させていくという作者のツイートが本心ならば、作品も評価しづらいものになると予想される。
実際にツイートを読んでいくと、「可愛い」という評価は対象を下に見ているのではないか?という問題意識すらもっていない素朴さを確認できる*2

チャイナドレスという文化に興味が薄いだろうこともうかがえる。台湾にしても都合のいい中国の代替とみなしているだけで、蒋介石南京事件を主張していたこと*3は無視されている。


ちなみに、中国文化を愛好しつつ現在の中国政府に批判的な小説家がいるが、その作品『創竜伝』は政治批判をふくむ巻も中国で出版されているそうである。
「日中文化交流」と書いてオタ活動と読む : 創竜伝、政治収容所に殴りこむ巻もちゃんと中国で売ってるみたいです

創竜伝の何が問題かといいますと、作中で頻繁に出てくる政治関連の風刺や皮肉の対象に中国共産党が含まれていまして、天安門事件について言及していたりもします。
更には舞台が中国本土になる巻では主役の竜堂四兄弟が解放軍と戦ったり、共産党の政治収容所に殴り込みをかけたりします。

天安門事件を蔑視の根拠ではなく人権の問題としてとらえて、きちんと作品化して発表できるならば、それはそれで素晴らしいことだ。

*1:私自身も言及はしたが、作品は関連部分に目をとおしたくらいで、あまり全体の状況は追えていない。商業化およびTVアニメ化までされるWEB小説『二度目の人生を異世界で』の作者が、ありふれた保守的思想をたれながしていた件について - 法華狼の日記

*2:もっとも、片言表現は私自身も悩みながら最終的に使用したことがある。この件はブーメランで切腹する気分で書いている。

*3:「蒋介石秘録」に見る南京大虐殺 - 誰かの妄想・はてなブログ版