法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話』前編

脚本家の野木亜紀子による完全オリジナルストーリー。食品異物混入をめぐるサイバーカスケードを、新聞社からWEBメディアに出向した女性記者が追う。


50分枠の前後編で放映されたNHK土曜ドラマ。木曜早朝の再放送で視聴した。
フェイクニュース | NHK 土曜ドラマ
ほとんど描写の元ネタや類似例に見当がつくが*1、それで物語がどう転ぶかはわからない。次々に新情報が出てくる予測不能の展開に、素直に先行きが気になる。
ささいな手がかりから謎を解いていく過程だけで、ミステリとして楽しい。PV数ばかり気にする編集長がけして無能ではなく、「フェイクニュース」に初めて気づくバランスもいい。
ひとつの描写に多重の意味をこめ、伏線を印象づけつつ隠す巧みさに、見ていて何度となく感心した。インターネットの炎上を無責任に楽しんでいた若者が、ちゃんと本筋にかかわっていると示した場面には本気で驚いた。


ちゃんと現代的な社会派テーマに目配せしているのもいい。それも単に言及するだけでなく、問題提起の一歩先を行って、ちゃんと物語になじませている。
たとえば外国人労働者の問題に言及しつつ、笑いあう日常を見せる。なおかつ、その光景だけでは奴隷状態の反証にはならないと主人公は留意する。
たとえば主人公がテコンドーをしていた過去から反日あつかいされる。日本人と表明するよう編集長が指示するが、それは差別への加担だと主人公は指摘する。
社会派エンタメは、どうしても藁人形論法に近しくなってしまうが、それでも藁人形の精度を高めれば、ちゃんと立場にそったキャラクターとして成立するのだ。
そしてそうした多様な社会派テーマのとりこみが、ミステリ展開を複雑にもして、さらに娯楽性を高めている。


物語に必要な要素ばかりつめこんだことで、やや人間関係などに作為を感じなくもなかったが、50分を飽きることなく楽しめたことも事実。
そうして明らかになった人間関係で情報が「つながった」と思わせながら、それがミスディレクションだったと示唆する結末もいい。フェイクニュースに騙されないつもりでも、謎を解いた結果のそれらしい真実を信じてしまう恐ろしさを、娯楽ミステリの構造にうまく落としこんでいた。

*1:たとえば、悪質なバイラルメディア「アノニマスポスト」の前歴を洗う動きは、半年ほど前にくわしくエントリで紹介した。アノニマスポストと仁藤夢乃氏の奇妙な因縁 - 法華狼の日記