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法華狼の日記

2018-04-21 上げたのは1日後

[][][]『ブラザーフッド

朝鮮戦争から半世紀、発掘された白骨死体の正体と思われた人物生存していた。映画は、その人物が兄弟とともに巻きこまれた朝鮮戦争のすべてを回想していく。

貧しくも希望のあった韓国社会に、突如として朝鮮人民軍が侵攻。徴兵された弟を救うため、兄も韓国軍に入ることとなり、英雄的に活躍しはじめたが……


2004年の韓国映画。朝鮮戦争において兄弟が戦いながら傷ついていくドラマを、約2時間半かけて刺激的かつ娯楽色たっぷりに見せて、韓国内で観客動員数を更新した。

この作品は、娯楽らしく主人公兄弟の家族愛を賞揚しつつも、それへの懐疑も深く組みこんでいる。

まず兄視点で描かれるのは、国家を守るためでなく、ただ家族を守るために戦いぬく物語だ。活躍とひきかえに弟を家族へ帰すため、兄は激しい戦場へと身を投じていく。

自身の危険をかえりみずに家族を助けようとするドラマと、そうして活躍する戦闘のエンターテイメントとして、前半まではオーソドックスに完成されている。

しかし弟は兄の献身を喜ばず、むしろ負担として嫌悪しつづける。理想的な軍人になっていくことを批判すらする。兄視点においては理不尽な展開だろう。

そこで後半になると、家族だけを守ろうとする兄がそれ以外を軽視している問題が示されていく。残虐な共産党への嫌悪を育てながら、兄は戦友を危地へ巻きこむことに躊躇しなくなり、敵と思った相手への態度も苛烈になっていく。

はっきり転換点となるのは、共産主義者とみなされた人々が虐殺された歴史「保導連盟事件」*1の引用だ。反共のために成立した国家の暗部を観客につきつけて、主人公の闇に重ねあわせていく。

そして北朝鮮への恐怖と嫌悪を描いてきたはずの物語は、家族愛が国家の動員に利用される危険と、大切なもの以外を切りすてることが大切なことをも傷つけかねない問題を、刻みつけるように終わった。

あくまで娯楽大作として完成しつつ、歴史と社会への視点をゆりうごかし、それが物語の意外性と起伏を生む。21世紀の韓国映画の力を実感できる初期作品のひとつだ。


映像作品としても、同時代の世界水準にとどいており、「ハリウッドを超えた!韓国映画史上空前の戦争スペクタクル超大作!!」というキャッチコピーも許せる。邦画で1年後に公開された『男たちの大和/YAMATO』や『ローレライ』と比べれば、彼我の差が実感できてしまう*2

画面を横切る曳光弾や手持ちカメラの不安感といった演出や、手足や頭を吹き飛ばし内臓をさらけだす残虐性など、ポスト『プライベート・ライアン』な戦争映画として完成している。それでいて過剰なまでに作りこんだ肉体損傷と、必ずしも画面で大写しにしない上品さのかねあいは、たしかに韓国映画でしか味わえない。

8億ウォン*3をかけて43棟ものセットを作った平壌での戦闘も、舞台の広さに依存するだけで終わらず、立体的な戦場を攻略していく主人公を映像で描写できている。都市部以外での戦闘も、塹壕戦や雪上戦などの舞台から演出スタイルまで変化させて、約2時間半をまったく飽きさせない。爆発描写も、セメントや黒鉛など多様な素材を用いて、人体への弾着で血煙を見せたりして、ガソリン爆発が目立った2003年の『シルミド』から大幅にアップデートされている。

ただひとつ同時代でも致命的だったのが、軍用機関係のVFX。高空の隊列が等間隔すぎることくらいは背景だから許せるとして、よりによってクライマックスの攻撃描写に説得力がない。撃墜場面の質感は甘いし動きは軽いし、機銃掃射は地上との距離が近すぎる。それ以外が世界水準だっただけに、同時代では邦画の最高水準にも劣るVFXが悪い意味できわだった。


ちなみに邦題は英題から引いているが、初期会見などでは韓国語原題を直訳した『太極旗を翻して』が用いられていた。

「ブラザーフッド」なのか「太極旗を翻して」なのか - さぼりいのこりしらけどり

この作品は日本での公開が決まってから、「ブラザーフッド」という邦題がつきました。これ、原題とはずいぶんと違ったものですよね。原題を直訳すると「太極旗を翻して」。韓国メディアの日本語サイトではこのタイトルがしばらく使用されていました。

韓流ブームの絶頂期に公開され、主人公弟を演じたウォンビンをブレイクさせた作品だが、それでも韓国色を抑えたコンテンツとして展開したのが興味深い。

*1:しかし題材とした映画がヒットした2004年以降も、なぜか日本語圏のWEBでは、いまだ韓国において知られざるタブーのように主張されているところがある。

*2徴兵制度の残る休戦国家ならではの迫真性かと思いきや、DVDのメイキングを見ると、撮影監督のインタビューで、自分たちの世代では戦争が身近ではなくなったという認識が語られている。

*3:ただし設営中に台風で壊滅したため、最終的に16億ウォンがかかったという。

2018-02-17

[][]兵本達吉の除名をもって日本共産党が政党として拉致問題を無視したという主張には無理がある

id:kanose氏のはてなブックマークで、興味深いページを見つけた。「拉致なんてないと言ってた人たちリスト」というのだが……

参議院会議録情報 第112回国会 予算委員会 第15号

■日本共産党

 日本共産党は実は80年代には拉致問題を「事件」と認識していた。国会でも共産党議員が拉致問題について質問している。特に共産党員で国会議員秘書の兵本達吉氏は、拉致事件を熱心に調べていた。

 が、共産党は90年代になって主張を反転、「拉致は疑惑の段階でしかない」という論調に変わった。兵本氏も共産党を除名された。

初期に国会で疑惑をとりあげた日本共産党は、疑惑があると評価したことで否定したことになっている。しかし辞書的に解釈するとしても、疑惑という評価は否定とは解釈できない。

また、秘書の除名をもって政党全体が否定したと位置づけるならば、拉致問題を否定した政治家*1を自民党は除名したかというと、そうではない。

■自民党の一部

 野中広務は1990年、金丸訪朝団の一員として北朝鮮を訪れて以来、国家公安委員長を含む政府と与党の要職を歴任しながら、日朝国交正常化を「ライフワーク」として取り組み、訪朝を重ね北朝鮮要人・朝鮮総連幹部とも接触を続けてきた。

とりあげられている政治家はどれもそれなりの要職についた有力者であり、「一部」として切断処理できるものではない。

これも先日にとりあげた事例*2と同じく、一方の勢力は100点満点でなければ全体を不合格として、もう一方の勢力は1点でも合格で不合格者は例外あつかいする、よくある詐術だ。


何より、国会で議員が質問したことは、政党としての動きと評価されるべきだ。良くも悪くも、日本共産党の場合は特にそう位置づけるべきだろう。

そして1988年に拉致問題を質問した政治家は兵本氏ではなく、橋本敦氏という。議事録を見ても政党の一員としての行動であって、党に反した動きではない。

参議院会議録情報 第112回国会 予算委員会 第15号

1990年代に日本共産党が態度を変えて拉致問題の追及者を排除したのならば、橋本氏もそうなるはずだ。

しかし現実は異なる。除名されなかったどころか、1997年にも日本共産党の政治家として、国会で拉致事件について質問している。

参議院会議録情報 第140回国会 法務委員会 第12号

弁護士として活動する現在も政治家時代をプロフィールに記載。参加している各団体を見ても政党との関係が悪化したようには見えない。

橋本 敦 – 北大阪総合法律事務所|労働問題(解雇、雇止め、残業代、過労、パワハラ、ブラック企業など)…何でもお気軽にご相談ください

こうした橋本氏を日本共産党が否定にまわった時期があるとは寡聞にして知らない。


橋本氏以外の質問者や兵本氏の除名もふくめて、日本共産党の機関紙で経緯のまとめがある。

視聴者を欺く「ノンフィクションドラマ」の虚構

誤解を恐れずにいえば、強硬一辺倒な交渉を求める立場からは方針に不満をもつことも理解はする。対立した党員を排除するという逸話も、いかにも日本共産党らしいとは感じる。

しかし兵本氏の除名理由については、まさしく現在進行形で話題になっている潜入工作員と関連しつつ、拉致問題とは異なることが説明されている。

警備公安警察官と会食し、国会議員秘書を退職した後の「就職」あっせんを依頼していたことがわかり、日本共産党から除名されたのです。日本共産党などにたいし、違法な情報収集や謀略活動をおこなっている警備公安警察の関係者とひそかに会い、「就職」あっせんを依頼することは、日本共産党員と両立しないからです。

こうした内部事情の事実確認は困難だが、たしかに外部から確認できる対外発信においては、程度はともかく拉致問題を追及する立場で政党が一貫している。

それでも日本共産党が拉致問題を無視したと主張するならば、成果の簒奪でしかない。せめて橋本氏くらいは正当な評価がおこなわれるべきだろう。

*1:これも実際に各政治家の行動を見ると、軽視ではあっても否定ではなかったり、強硬でない交渉を否定あつかいしているものが多いのだが。

*2自分が使う無敵論法を他人が使っているかのように見せかけるgryphon氏 - 法華狼の日記

2018-01-06

[][][]従軍慰安婦に年齢から突っ込みをいれようとしながら、足し算や引き算ができないmouseion氏の不思議

日韓合意の不充分さを当事者に大統領が謝罪したという報道に対して、id:mouseion氏がはてなブックマークで下記のようにコメントしていた。

はてなブックマーク - 韓国ムン大統領「合意は誤りだった」元慰安婦らに謝罪 | NHKニュース

先日90歳のおじいさんを持つ孫の戦闘機の話で思ったけど、あれは嘘松なんだけど、遡っても少年兵であろう年齢なのよね。つまり従軍慰安婦の中に80代がいればあんた当時幼児だぞと突っ込みたくなる。

このコメントに対して、少なくないアカウントがはてなスターをつけている*1

一方、コメントへのはてなブックマークでは、きちんと批判されている。

はてなブックマーク - 先日90歳のおじいさんを持つ孫の戦闘機の話で思ったけど、あれは嘘松なんだけど、遡っても少年兵であろう年齢なのよね。つまり従軍慰安婦の中に80代がいればあんた当時幼児だぞと突っ

念のために説明しておくと、幼児とは一般的に幼い年齢のことで、法律では6歳までを指す。

幼児(ヨウジ)とは - コトバンク

2 児童福祉法で、満1歳から小学校に就学するまでの子供。

1945年に6歳であれば、2018年には79歳になる。つまり現在に80代であれば、まず終戦時に幼児であるとは考えられない。

2017-12-19 上げたのは1日後

[][]『鬼郷』や『軍艦島』といった映画を、「エンタメ」と認めつつ「根拠」を求めるsimesaba0141氏の不思議

上記ツイートを批判されたからといって、補足として下記のようにツイートしたsimesaba0141氏。

しかし「エンタメと言いながら」から「余りにも根拠に乏しい鬼郷や軍艦島の描写」という評価につながる意味がよくわからない。

物語として効果的でさえあれば、根拠に乏しいどころか、はっきり歴史に反しても許されるのがエンタメというものだ。

柳生一族の陰謀

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もちろん『鬼郷』も『軍艦島』も、歴史を題材としつつ劇映画であることは最初から明らかにしている。

「初っ端から大嘘ついてマウント取ろうとする」や「指摘されたらあっけらかんと嘘を認めて」の具体例としてふさわしいといえるだろうか?


そもそも、simesaba0141氏は『鬼郷』や『軍艦島』を実際に観ているのだろうか?

残念ながら『軍艦島』は日本で鑑賞する方法がいまのところなくて未見だが、映画への反発として日本が加害した史実が否定されていることは知っている。

韓国映画『軍艦島』を利用した歴史の否定がおこなわれつつある - 法華狼の日記

崔碩栄氏が映画『軍艦島』を批判しようとして、想像力のなさをさらけだす - 法華狼の日記

下記ツイートを見るかぎり、やはりsimesaba0141氏もまた史実を嫌っているように見える。

また、『鬼郷』は観賞することができたが、日本の加害として描写されている大半は、歴史学で一定の妥当性が認められているものばかりだった。

慰安婦を題材にした韓国映画『鬼郷』への、niwakaha氏による奇妙な難癖 - 法華狼の日記

『鬼郷』 - 法華狼の日記

逆に下記ツイートを見るかぎり、映画のような慰安婦虐殺を日本政府も半公式的に認めていることすらsimesaba0141氏は知らないようだ。

simesaba0141氏がフィクションとノンフィクションを区別できないのは本人の問題として、日本の歴史学が韓国の嘘あつかいされるのは歴史教育の敗北といえるだろう。

2017-12-11

[][][][]従軍慰安婦の記念碑がフィリピンに建立された報道と、意味不明な反発と

日本軍慰安所制度は日韓間だけの問題という虚偽が、またしても破綻を明らかにした。

エラー|NHK NEWS WEB

このNHK記事では、アジア女性基金を拒否した動きが韓国だけではなかったことも指摘している。

フィリピンでは、1990年代に旧日本軍の慰安婦だったという女性たちが名乗り出て、村山内閣当時の1995年に発足した「アジア女性基金」から「償い金」の支給などが実施されましたが、これを拒否して日本政府に「公式な謝罪と賠償」を求める人たちもいます。

日本軍が被害を与えたことを日本政府が公的にも認めているのに、なぜか日本大使館は「懸念」を伝えたという。

フィリピンで慰安婦問題を表す女性の像が設置されたのは初めてで、マニラにある日本大使館は、フィリピン政府に対して設置までの詳しいいきさつなどを確認するとともに、両国関係に及ぼす影響への懸念を伝えました。


そして、はてなブックマークを見ていると、日本大使館以上に意味不明なコメントがあった。

はてなブックマーク - フィリピンに慰安婦像 日本大使館が懸念表明 | NHKニュース

id:zions 歴史を語り継げって偉そうに言う割に、日本人の慰安婦は視界にすら入れないのは何故?本当に歴史の問題なの?

「歴史を語り継げ」という文言へ反発していることから、下記コメントへの反応だろうか。

id:Kitajgorodskij 歴史を語り継げ。もっと作れ作れ。

しかし、どう読んでもKitajgorodskij氏のコメントから「日本人の慰安婦は視界にすら入れない」という解釈はできない。記憶の対象を制限するような文言はどこにもない。

「もっと作れ作れ」という言葉からは、むしろ日本人の慰安婦を記念することも推奨されていると読める。事実として、日本国内で建てられた数少ない記念碑のひとつは、日本内地が出身の慰安婦もいたことが明記されている。

宮古島上野野原の日本軍「慰安婦」祈念碑 - YouTube

なぜzions氏は日本出身者が除外されていると解釈したのだろうか。自国の被害者を日本が忘却していることは、日本の加害を忘却させる理由にならないのだが。