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2008-01-12

努力教とハゲタカ教と最善説

http://d.hatena.ne.jp/guri_2/20080109/1199875970

http://d.hatena.ne.jp/fromdusktildawn/20080111/1200020891

これらは本当に酷いです。本当に酷いと思っていたら、id:y_arimが何か書いていたので、私も便乗して何か書いておこうと思いました。

これらの記事は、いわゆる成功哲学とか自己啓発とかその手の分野に該当すると思いますが、こうした議論の前提にあるのは、何らかの楽天主義です。

上の記事は、自分が変われば世界はあなたにとって優しくなることを説いています。ネガティブはだめなのです。なるようになるのです。世界があなたを否定するのはあなたがさもしい心だからであって、あなたが心を入れ替えようと頑張ればきっと世界はあなたに報いるのです。灯里ちゃんが素敵だからこの世界は素敵なのです。そんなの僕らのARIAじゃない!!!

下の記事は、これはもう典型的な竹中平蔵主義です。優秀な人間が社会を引っ張っていくのです。ハゲタカ金融マンなどの優秀な人間は社会の人間みんなをハッピーにするのです。10分で直る機械を30万で買って3000万で売りさばいても、それはけして詐欺では無いのです。確かにそこで格差が生じるように見えるけど、それは格差では無いのです。格差が広がったのはけして彼らのせいでは無く、地道な努力に甘んじていたバカどもが悪いのです。最終的にはみんな幸せになるようになっているのです。だから、上げ潮なのです!みんなでアイデアを出し合えば、格差なんて解決するのです!ああ醜い!!!

さてこうした楽天主義は、17世紀にドイツで生まれた哲学者、ライプニッツの最善説を源流としていると言われています。

ライプニッツは「この世界はあらゆる可能な世界の中で最善の世界」であると言いました。その理屈はこうです。ライプニッツは、この世界に生じた事物・現象には、必ず何らかの理由があると考えました(充足理由律)。もちろん大部分の理由は人間には理解できませんが、神には理解できます。神はあらゆる可能性の中から、もっとも合理的な選択肢を選びつづけていきます。神はけして非合理な選択はしないのだから、いかに世の中に悲惨な事象が溢れようとも、それは大きな視点で見れば合理的な予定調和の中にあり、この世界は最善であるといえるわけです。つまり、最善の善ってのはこの世界は良いことで溢れてますよということではなくて、この世界がベストであるという意味ですが、まあぶっちゃけ酷い議論をしようと思えば出来なくも無い。

たとえば、あなたがワープアなのは、ニートなのは、非コミュなのは、みんな最善なのだ。ベストなのだ。だから現状に甘んじろという話にはなりません。しかし、少なくとも現状あなたがそうであるのは当然で、社会や世界に反感を持つのはお門違いなのです。

これはさすがにあんまりだ、と言った人物の一人に、18世紀のフランスで生まれた哲学者ヴォルテールがいます。ヴォルテールは、最初は最善説に対してそれほど否定的ではありませんでしたが、1755年のリスボン大地震をきっかけに、一転して最善説を攻撃するようになります。これほどの悲惨を目の前にして、まだこの世界はベストであると物申すか、と。

ヴォルテールの最善説批判の哲学コントとして有名なのが、『カンディード』です。このコントでは、徹底的に最善説を揶揄した、パングロスという人物が登場します。主人公カンディードとパングロスは、ヨーロッパと新大陸を旅して廻り、行くところ行くところでとにかく酷い目に合うのですが、パングロスは一貫して「これがベストである」と言いつづけるのです。ジャックという商人の、戦争や財産を巡る争いを見るに人間は自然を堕落させたのではないか、という質問に、パングロスはこう答えます。

「そうしたことはすべて必要不可欠だった」と片目の博士はすかさず言い返した。「個々の不孝は全体の幸福をつくり出す。それゆえに、個々の不幸が多ければ多いほど、すべては善なのだ」

ちなみにジャックはリスボン沖で溺死するのですが、パングロスは「リスボン沖の停泊地はあの再洗礼派の男(ジャック)が溺死するように特別につくられたのだと証明」するのです。

パングロスはid:guri_2です。少なくとも、みんながありがたがっているあの記事をつきつめていけば、そうならざるを得ないのです。あのアドバイスは、世界の理不尽は見ないようにしようと言っているのみならず、そもそもあのアドバイス自体が、世界の理不尽は無いことにしないと成り立たないのですから。

もし、世界には理不尽があることを知っていて、あのようなアドバイスをしているとしたら、それはそのアドバイスが効果的かどうかに関わらず、欺瞞でしかありえません。id:fromdusktildawnならばそれでいいでしょう。竹中主義者に欺瞞以上のものを期待することは出来ません。勿論、それ以下は期待可能です。つまり本物のバカ野郎であるという期待ですが。ハゲタカに倫理は無いでしょう。そう装おうとはしていますが、もしそうでは無いこと、つまりハゲタカが他人の不幸の上に成り立つ成功であることを証明したとしても、彼らにとっては、つまりブクマで賞賛コメをつけている連中にとっては、成功すれば何だって良いのです。元々成功するためにはどうすればよいか書かれた記事であって、他人がどうなろうが知ったこっちゃ無いのです。3000万で売れると分っているものを30万で買うことは、世界が許しているから正当なのであって、倫理なんて知ったこっちゃ無いのです。ああ、つまりこれも理不尽ではありえない世界ですね。

でも、私は少なくともid:guri_2は倫理的であることを目指している、と思っています。だとすれば、あのアドバイスはけしてありがたがってはいけないのです。

同じヴォルテールの哲学コントに『ザディーグまたは運命』というものがあるのですが、そこで彼はサティーというインドの風習を紹介しています。サティーというのは、夫が死んで寡婦になった妻が、夫の葬式時に火葬するための炎に飛び込んで殉死する、という風習です。私達の感覚では、これは明らかに野蛮な行為です。ところが、id:guri_2式のアドバイスを前提にすると、これはどうしても認めざるを得ない。あのアドバイスには、世界の理不尽を許容するすべはあっても、世界の理不尽を弾劾するすべは無いからです。文化はそれぞれ。私達から見て理不尽でも、きっとその文化内では合理的なわけで、そういうものは見なければいことだ……。

サティーは遠い国の話です。しかし我々の社会にも、サティーは無いでしょうか。世の中の理不尽を気にしなくなることでその人が幸せになったとして、その代償として世の中の理不尽が当たり前のように許容されることになるとするならば、果たしてそれは倫理的にどうなのでしょう?もちろん、わたしこんな考え方でしあわせになったよーくらいのことだったら、ふーんですむ話です。しかし、そうした考え方があそこまでありがたがられるとは……少し恐怖を覚えてしまいます。

小市民的な生き方を行うことと、小市民的な生き方をありがたがることの間には、差があります。まさに19世紀前半のドイツは、小市民的な生き方がありがたがられた時代でした(ビーダーマイヤー時代)。ところが同時にそれは、ウィーン体制化で市民の政治的運動が強固に抑圧されていた時代でもありました。

別に世の中のことにもっと関心を持てよというつもりはありませんが、世の中に関心を持つなという考え方がありがたがられるのは、もう、ちょっと個人的にダメです。まして世の中の理不尽を正当とし、それに乗っかって成功するぜという考え方は、もう全然ダメなのです。

daisuke1975daisuke1975 2008/01/14 02:36 素晴らしい。故か、理解したくない奴が多くいるかも。

↓こんなサイトと同じかな???
http://swinglike.ojaru.jp/

ryoryoryoryo 2008/01/14 13:45 興味深いエントリーをありがとうございます。
>3000万で売れると分っているものを30万で買うこと
は、>他人の不幸の上に成り立つ成功
であるように書いてありますが、私は”売主の不幸の緩和”をしていると感じます。
工作機械を30万で売った人間は、リスク無しで30万円を儲けています。後々この話を聞いたら、損したと感じるでしょう。しかし、ハゲタカが売主を不幸にしているわけではありません。売主が不幸になったのは機械が壊れたからです。それも、機械が正常に動作し続けるより、不幸になったというだけです。その機械は壊れるまで売主に十分利益を与えた可能性もあります。
それに売主だって”馬鹿”じゃない、ハゲタカに話を聞いたら壊れた機械に価値があることくらい気付いたでしょう。この場合のハゲタカは、売主の不幸も緩和しています。

aa 2008/01/14 15:38 >10分で直る機械を30万で買って3000万で売りさばいても、それはけして詐欺では無いのです。確かにそこで格差が生じるように見えるけど、それは格差では無いのです。
格差が広がったのはけして彼らのせいでは無く、地道な努力に甘んじていたバカどもが悪いのです。

よくわからない。地道な努力に甘んじていたバカなら毎日使っていた工作機械くらい自分で直すと思います。
この場合の問題は知らない事。残存価値や修理の可能性、新規購入の費用対効果を精査しない事。
価格比較サイトやオークションの統計ページの誕生でモノの相場がわかるようになり、むしろボロイ商売をできるような暗がりが減っているのですから改善されていないこともないと思います。

tamaotamao 2008/01/15 01:21 >10分で直る機械を30万で買って3000万で売りさばいても、それはけして詐欺では無いのです。

もともとの機械の持ち主と、修理屋だけがいれば、この話は単純なのだと思います。
直して使えることを知りながら、
それを知らない人から安く買い取り転売するというのは、
派遣会社やブローカー、ハゲタカ投資家などの発想で
本来このような人は必要ないはずです。

10分の労働に、3000万円もの価値がつくことは異常です。
たとえば、投資家が10分の間に稼ぐ3000万円は、誰が支払っているのか…

こういうのって、本当に「近道を探す努力」なんでしょうか?
正しい一発逆転なんでしょうか??

hokusyuhokusyu 2008/01/15 01:36 答えになっているかわかりませんが、エントリ起こしました。
http://d.hatena.ne.jp/hokusyu/20080114

kkkk 2008/01/19 07:07 修理サービスって実働10分でも出張修理なら1日分の費用を請求するのは当然でしょう。美味しい故障物件の情報を得るために使ってる時間やら、工場主との契約書の締結やら、事前に修理可能かどうか判定するために使った時間なども含めて、仮にトータル1週間かかってるとして、稼働率60%、年休2週間、修理成功率50%で、年収が4億円くらいかな。有能な技術者兼、営業兼、経営者の報酬としては、いんじゃないですか、別に。

taityou@8eggstaityou@8eggs 2008/03/18 10:31 >まして世の中の理不尽を正当とし、それに乗っかって成功するぜという考え方は、もう全然ダメなのです。
 それは我々自身の生活の否定です。
 この世の中には多かれ少なかれ搾取の構造がございます。
 地球人口60億人、先進国と呼ばれて贅沢な生活ができているのはものすごく雑に数えて8億人。
 いまでも、全力で資源を採取しているのですから、簡単に7倍や8倍になることは見込めません。
 環境許容度もあります。(中共の沿岸部の人が先進諸国民の生活を目指したとたんに環境破壊のオンパレードです)
 60億人全員が贅沢な我々のような生活はできないのです。
 じゃ、なんで我々が贅沢側かといえば、「世の中の理不尽を正当とし、それに乗っかって成功」しているからです。
 どこかに理不尽な収奪構造があって、例え我々自身が意識していなくても、収奪構造から富が我々に転がってくる構造に乗っかっているのです。
 特定集団の秩序維持に都合の良い「倫理」はあっても、人類普遍の「倫理」など歴史上あった試しはないし、人間地球上の物理資源の産出に制限を受けている限りはこれからも生まれないでしょう。

猫 2009/04/08 10:05 仏教だと人は生きているだけで罪を負うですからね。

私は一般に言われるような善を既定する神など居ない
(居たとしても消滅されようが何しようが逆らう気)と考えている人間ですけど。

人が死ぬのは理不尽、病気も理不尽、搾取も理不尽、
動物に生まれるのも、彼らからしたら理不尽かもしれません。

と一般エゴイズムに照らし合わせた場合、
「理不尽受け入れんと生きていけないよね」
と思っています。

ただ、最近は「バランス(継続性・安定性に関る調和)」って言う物が壊れかけてるとは思いますけどね。

とは言っても、社会的に成功して今を環境的に生き延びたとしても、
どうせ 物理的に(遺伝的にでもない) 消える(滅びる・維持が出来なくなる)と思ってる私からすれば、

「別に人類が今消えようが、隕石落下で滅びようが53兆年後に太陽に飲み込まれようが、
 ビッグクランチが起ころうが、別銀河も含めて恒星がなくなろうが、
 電子と陽子すら密度的にほとんどなくなって、熱的にも物質が出来るほどの密度がなくなろうが、結果的・本質的には「同じ」だよね」
ですけど。まぁ、せいぜい主観時間をどうこうする位が限界でしょうしね。
(人間の身体は最低分子以上が維持される世界で無いと存在出来ないですしね。
 我々の言う常温…低温ですら、宇宙から見たら「極高温」とすら言える温度(エネルギー)ですからね。
 永久機関が出来るならその頃に生まれてみたかったと思いますよ。実際。
 物質1gで9兆ジュールだったかな。カロリー。)

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