北斗の日記

2008-02-10 新月

 この東方の、そこに住む者にとってはどうやら小さいらしいが、なかなか歴史も国の大きさも、世界的な目で見ると決して見劣りはしない、謙虚ながら自国に誇りと、わずかばかりの虚勢を持つ人が暮らす島国に来て、早くもひと月が過ぎた。住まいは仕事とする金融会社と地下鉄の路線1本でつながる、とはいえ外国人のあまり多いとはいえない、ゆえに孤独で異国の風習に不慣れな私のような者が選ぶには、多くの者が否定的であるような首都の北東に、あえてかまえてみた。すぐ下を高い堤防で囲まれた川が流れ(その水の色は、世界中の多くの大都市と同じく灰色に汚れており、空が晴れている日には薄い空色、かつて印象派の画家がはじめて水を描いたときに絵の具で着色した「水色」とでも言うべき色に染まる)、高層住宅の、かなり上に位置する私の部屋からは、この国を代表する姿かたちの美しい、孤立した山が見えるはずだった。ただ、熱帯ほどには暑くないにしても、この国の夏を過ごしやすくさせることは決してない過剰な大気中の水分は、一年の四季のうち三つの季節においてその山を霞や雲などで隠すことに成功しており、以前に比べるとだいぶましになったという話でも、自動車の排気ガスその他は、私の勤務先である高層ビルさえも霞ませるだけの汚れを持っている。

 わびしい一人暮らしを続けるには、とはいえこの街は様々な誘惑があり、たとえばそれは、客あしらいにおいては世界の中でもきわめて洗練された、黒い、あるいは栗色のスリムな夜の酒場の女であり(異国の者はこの地では排斥されることは滅多にないが、ちょうど紙と木でできたこの国のドアのように、決して立ち入らせはしない秘密のベールで、その全体像を見せることもない)。

 私がその街で最初に知り合いになったのは、物語の読み手が期待するような、どこか素敵で個性的な美人ではなく、いや、美人といえば美人なのだが、そして個性的といえばこれ以上に個性的な存在ではないかもしれないが、人の言葉を理解し、話すことができる黒い猫だった。