さへずり草紙NEO

旧はてなダイアリーを引き継いでいます。

歸つてきた奥様と蔵の中

学校の試験があるので丸二日間、下の居間へも降りず書生部屋に缶詰になつて勉強してゐましたら、ダダダダ、と階段を駆け上る音がして、襖を蹴破る勢いで女中のお八重が飛び込んできました。お八重は床に両手をついて肩でハアハアと荒い息をつきながら塩辛声…

再開

はてなダイアリーの旧記事をインポートしてみます。

星子の巴里祭(上)

1 赤と白と青染められた小さな提灯がいくつもいくつも道路の上に翩翻と揺れている巴里は、ちようど巴里祭でした。提灯の群れとはためく仏蘭西国旗は、水分を多めに含んだ濃紺の空にすばらしく良く映えました。 「巴里よ!自由の国だわ!」 星子さんは軽やか…

星子と南十字星(下)

カモメの交わす声もかまびすしく、眩い朝日が窓からキャビンに丸い光を突き刺してゐました。 「ちよ、ちよつと!そんなに勢ひよく突き込んで、まさか本当に中に出すつもり?やめて頂戴!アヽッ」 「だつてモウ入れちやつてるんだから止めやうつたつて止まら…

星子と南十字星(上)

星子さんと僕はふたゝび船の人となつてゐました。アメリカから出航したノルマンディ号は轟々とたゞ一筋に欧州を目指してゐます。ノルマンディ号はツイ去年の一九三五年、フランス・ラインに就航したばかりの最新鋭豪華客船で、其の流線型のフォルムは如何に…

摩天楼の星子 3

四十二番街には本や映画で知つてゐるだけの有名な劇場が建ち並んでゐます。しかしお昼前のことですから、何処もまだ公演を打つてゐません。 「なあんだ。詰まんない」 星子さんはブロードウェイの舗道に仁王立ちになつてネオン灯の落ちた看板を眺めながら悔…

摩天楼の星子 2

サヴォイ•ボールルームの外は朝日の眩しい、白茶けた街でした。真紅なボディのブガッティが土埃を巻き上げるやうな爆音をあげてダウンタウン方面へ走り去りました。ボールルームの客なのでせう。 「あれは1936年型のアトランティックといふモデルよ」 星子さ…

摩天楼の星子 1

「凄いわ!見て御覧なさい」 マンハッタンの街で上空を見上げて星子さんが感嘆の声を漏らしました。彼女が軽く飛び跳ねながら指差す先に、エンパイヤ•ステイト•ビルやクライスラア•ビルといつた摩天楼の天辺すれすれに腹をかすめるやうに、巨大なツェッペリ…

星子の船出

1 或る日、お天気がいゝのでウキウキと気持ちよくなつてお屋敷の長い長い廊下を暑いくらいの陽光に差されながら、タタタタヽヽヽヽと高々とお尻を掲げて雑巾がけしてゐたら、前方からミニ戦車に乗つた星子さんがキュルキュルキュルキュルとやつて来て、砲塔…

銀座ホールのバレンタイン

1 チュンチュンといふ雀の声に誘はれて目を覚ますと、目の前が真暗でしかも布団をかぶつた下半身にまつたりとしてゐながら切迫した尖鋭的な快感が押し寄せてゐました。手を伸ばして確かめやうとしたら、両手も縛られて既に痺れてゐます。熱く包み込まれるよ…

星子とパンピネオ

お屋敷の広い玄関に流れてゐた元日の朝の静寂(しじま)は、星子の絹を裂くやうな叫び声で鋭く破られました。 「キャアアアーーー」 自分の部屋のベッドで微睡んでゐた僕は仰天して三寸ばかりスプリングの効いたベッドから飛び上がり、取るものも取り敢へず着…

1*シャンクレールの夜

1 夜も更けて、東京の郊外よりウンと郊外のダンスホールも、煌々と輝いたまゝ、踊りのお終いを迎へました。汗ばんだ躰で蕨町のボールルーム「シャンクレール」の扉を排すると、氷の粒を散らかしたやうな星空の濃紺色の夜空が広がつてゐました。振り返ると、…

ルルの伯林デビュー

1 ヒトラー総統の計らいでホテル・エデンの最上階を住処にしてゐたルルと僕とパンピネオは、流石に一ヶ月もすると灰色と赤色と黒色の伯林の街並みに飽きてきました。ダンスにもレヴュー観劇にも飽きたルルは或る日、カーデーヴェー百貨店の大きな包みをパン…

「ルル伯林へ行く」(下)

クールフュアステンダム通りは、四月といふのにまだ分厚い外套を着こむだ紳士淑女でごつたがへしてゐました。空気の澄んだ真青な空に赤と白と黒の鉤十字旗がはらはらとはためいて目にも鮮やかでした。通りの街頭ごとに旗が飾してあつて、赤い波が通りの彼方…

「ルル伯林へ行く」(中)

赤い翼の航研機はプロペラの軽い振動を機体に伝へて、切れ切れの雲と冴へた青空を只ひたすら西に飛んでゐました。幾つもの計器の針がフラフラと丸い計器盤で踊つてゐます。僕は機内の凄まじい寒さに歯の根も合はず、毛布にくるまつたまゝ、ルルに話しかけま…

「ルル伯林へ行く」(上)

夢の中で綺麗な奥様に乗り掛かられて騎馬位で散々に精をやらされてゐましたら、外界からルルに 「雪夫さん、雪夫さん」 と呼ばれて意識がはつきりとし、パッチリと目が覚めました。薄手のレースのカーテンを通して朝日の強烈な光が目を射りました。僕は目を…

「ルルの大放送 "Broadcast of LULU 1936"」

1 或る日、お腹がすいたので食堂へ行かうといふ態でお屋敷の一階のサンルームを横切りましたら、いつのもの昼前の習慣でルルがソファにゆつたりと凭れて、冬のあたゝかい日差しを浴びながらフランス製のノートになにやらさらさらと描いてゐました。 「ルル、…

「大東京變はり錦絵 お屋敷の元旦」

大晦日を部屋に引き籠もつてラヂオの演芸番組を聴いてゐた僕は、ルルの呼ぶ声で階下に降りますと、ルルに「アラ」といふ顔をされました。 「雪夫さん、初詣にはご一緒しないのかしら?」 「僕は其んな楽しい計画は聞いてゐませんが。」 「パンピネオ。雪夫さ…

「ダンスホールのルル」

木曜日の朝、さはやかな青空を余所に昔懐しいお屋敷の自分の部屋で読書を楽しんでゐましたら、一階の奥の風呂とおぼしき辺りからルルが「雪夫さん、雪夫さん」と呼ばはる声がするので、僕はあはてゝ本を傘に伏せて扉を飛び出し、ドタドタと階段を降りました…

「ルルの豪邸」

或る日、いつものやうにピエルブリヤントの常打ちになつてゐる松竹座の、餘つた楽屋にごろんと横になつてゐたら、掃除のをぢさんに箒の柄でたゝき起こされました。 「小僧、甘い顔してりやあ居ついちまひやがつて。叩き出すからさう思へッ」 僕は柳行李ひと…

「ルルの誕生會」

1 ヱノケン先生が映画を撮るといふので、僕は小道具を沢山持たされて、沢山のワンサガールと一緒にトラックで砧のPCLスタヂオに運ばれました。スタヂオにはカフヱーの装置が組まれてゐて、綺麗な千川輝美さんやベーちやん先生や女給の役の女優共が、リハーサ…

天下一品のポスター

大下品歌祭り。

「パンピネオの戀心」

赤くけぶつた大きな月が、松屋デパートの上にぽっかり浮かんでいました。 窓から入る月の光があんまり眩しいので、僕は支那更紗のカアテンをシャーと閉めて、劇団の雑用に草臥れた体を、給仕室の汚い畳にゴロンと横たへました。僕は二村定一さんの処を追ひ出…

「金絲鳥のルル」

奥様のお屋敷を飛び出した僕は、二村定一さんに誘はれるまゝに、田島町の二村さんの下宿に転がり込むことになりました。ルルは電気館の楽屋で二村さんに 「べーちやんせんせ、この子よろしくね」 と云つて僕を引き渡しながら、紅い唇を舌でちよつと舐めてニ…

「電氣舘のルル」

春先に珍しくサッパリと心地よく目が覚めましたので、広大なお屋敷の曲がりくねつた奥にある奥様の寝室へ朝の御挨拶に参りましたら、奥様は三人のやさ男と丸裸で獣のやうに交はつてゐました。 余りと云へば余りのことに僕は、女中に淹れてもらつた紅茶のお盆…

HIV

うさぎさんが交渉をしてます。

シロクロ3P

恐怖磔猿

部族間抗争の見せしめにされたものと思われる。

再開。

おひさしぶり。 前の記事からさらに時は経ちました。 もはやはてな書法もすっかり忘れてしまってタイトルすら付けられません。 この長い間に僕は40歳になりました。 物書きになりました。 単著を3冊出しました。 猫は死にました。変わらないのははてなのこの…

ルルの伯林デビュー

1 ヒトラー総統の計らいでホテル・エデンの最上階を住処にしてゐたルルと僕とパンピネオは、流石に一ヶ月もすると灰色と赤色と黒色の伯林の街並みに飽きてきました。ダンスにもレヴュー観劇にも飽きたルルは或る日、カーデーヴェー百貨店の大きな包みをパン…