【上橋菜穂子】天と地の守り人 第二部 カンバル王国編、第三部 新ヨゴ皇国編

天と地の守り人〈第2部〉カンバル王国編 (新潮文庫) 天と地の守り人〈第3部〉新ヨゴ皇国編 (新潮文庫)



精霊の守り人シリーズ最終章。全部で三部構成になっていますが、第一部を読み終わった後にとてもじゃないけど堪えられる気がしなかったので一気に残りの2冊も読んじゃう。これにて終了じゃぁ!
そんな感じでこんにちは。しばらくのんびりと読んできた守り人シリーズの最終巻「天と地の守り人」の第二部と第三部よりお送りしていきます。
精霊の守り人が始まって以来で初めての、そしておそらく最後の大規模な戦争へと向かう新ヨゴ皇国の姿が描かれているのが今回の三部作のお話です。主人公さん達の新ヨゴ皇国は侵略される側の国ですので、襲いかかってくる敵国は確実な勝算を見込んで戦争を仕掛けてきます。おかげで初っ端は兵士の人数にウン十倍の差があって、負ける気しかしない絶体絶命どころかもう詰んでるのではなかろうかと思われる最悪の状態からスタート!そこで必死に生き残る策を様々な人間が探し求めるのが主に第一部の内容でして、微かに纏まったギリギリのプランを組み立てていくのが最大の胆である第二部、そしてプランを実行に移して残りの成り行きを天に任せる第三部と、綺麗に役割が三つに分かれて進んでいきました。
多くの人間が参加する国レベル戦争ですから、やはりお話を動かす中心にいるのは皇位継承権(ついでに主人公継承権も)第一位のチャグムくん。彼の行動が何万もの人間を動かし、彼らもまた様々な物語を紡いでいきます。誰か目立つ人間はいるものの、その一人だけでお話が解決してしまうような狭い世界観ではなく、大勢の人間が主役になる丹念に作られたお話で読むだけのこちらも思わず力が入ってしまいました。そんな大勢の主役の中にシリーズの主役であるバルサさんも混じっている、そんな感じの印象を受けます。
シリーズで何度も顔を出しているお馴染みの人物たちが、戦争の様々な側面や空気を伝えてきてこれはホントよく出来てますね。チャグムくんが皇太子の遥か高みの地位から少し先の国の未来を見せてくれるかと思えば、バルサさんの幼馴染で気弱な小市民代表のタンダさんは戦場へ送り込まれて兵士の凄惨さをリポートしてくれます。バルサさんは非戦闘員の市民たちの護衛をしながら残された人々がいるという現実を常に思い出させ、シュガさんやトロガイばあさんのような有力者は圧倒的な敵軍を前に何も出来きないわけじゃないという希望を見せてくれます。みんなそれぞれの場所で主役になっているんですよね。
まぁ確かに住み分けがキッチリ出来ているぶん、バルサさんが戦争に赴いて槍を思いっきりぶん回すとかイレギュラーな事態にならなくて個人的には残念に感じる部分もあるにはありましたけどね。でも盾や鎧で武装した兵隊の中にバルサさんが混じっているというのも変な感じはしますし、相手の土俵に上がって戦うような真似をしないからこそバルサさんは強いし生き残ってこれたんだろうなぁと思うので納得する部分もあります。うーん、オレって欲張りかなぁ!?
精霊だとか異世界だとかいくらでも都合よく解釈できそうな要素があるのに、国の運命を決める大事なところはチャグムくんだけの意志と行動で進んでくれる、とことん現実から逃げない姿勢が超好感触。というか守り人シリーズって基本はファンタジーを逃げに使ったりしませんよね。もうそういうの凄い好きです。ピンチになって後悔してると、不思議な力が主人公に覚醒して敵を打ち負かしたりするの、たぶん絶対に起こりそうにないですし。戦わなきゃ現実と!そして打ち負かすファンタジー!求めてるファンタジーの部分って、昔から私はそんな感じです。
チャグムくんがチャグムさんへとなってしまったラストは寂しさもあり喜びもあり、そして何より精霊の守り人シリーズがという意味だけでなくて終わってしまったという感慨深さがありました。チャグムくんのお母ちゃんが自分の息子の寝姿を見て見知らぬ人のようね…とボソリ呟いていた場面がありましたが、今なら少しは気持ちが分かる気がします。もうチャグムくんに向かって「いい子やね」とは言えなくて、「イイ男やね」と言わなくちゃならないですね。(あらやだ、なんかニュアンスが…)
さぁて、ともかくこれにて「精霊の守り人」シリーズも終了!楽しかったよ!
♪(≧∀≦)ノ