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2009-12-31

年末特別企画2009〜2010年末年始に読みたいこの1冊 その9


(承前)

 続いては、三人の書評七福神が名前を挙げた作家を紹介したいと思います。さすがに、これはという定番の名前が挙げられていますね。


【3人が選んだ作家】

94『狩りのとき』スティーヴン・ハンター/公手成幸訳(扶桑社ミステリー)1998年刊行。

 ハンターのピークとも言うべきアクション小説の傑作。(北上)

狩りのとき〈上〉 (扶桑社ミステリー)狩りのとき〈下〉 (扶桑社ミステリー)

95『ダーティホワイトボーイズ』スティーヴン・ハンター/公手成幸訳(扶桑社ミステリー)1994年刊行

 重犯罪刑務所に収容された終身因の脱走行。ワルたちばかりか追いかける警官含め、それぞれの個性が強烈。細部までの濃い描写とすさまじい活劇。サスペンスを盛りあげる巧みなプロット。もう読みだしたらやめられない。(吉野)

ダーティホワイトボーイズ (扶桑社ミステリー)

96『真夜中のデッドリミット』スティーヴン・ハンター/染田屋茂訳(新潮文庫)1989年刊行

 テロ集団が核ミサイル基地を襲撃。そんな物語に載せて、双肩に世界の命運を負わされてしまった平凡な職業人たちが振り絞るなけなしの勇気をハンターは熱く熱く綴る。全男子必読。ていうか女子も読め。(霜月)

真夜中のデッド・リミット〈上巻〉 (新潮文庫)真夜中のデッド・リミット〈下巻〉 (新潮文庫)


97『最後の一撃』エラリイ・クイーン/青田勝訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1958年刊行

 「正月に読むミステリ」というお題から最初に思いついたのがこれ。クリスマス・イヴからの12日間、毎日届けられる12の贈り物の謎……。エラリイが解決までに最も長い歳月を要した怪事件。(千街)

最後の一撃 (ハヤカワ・ミステリ文庫 2-14)

98『Xの悲劇』エラリー・クイーン/越前敏弥訳(角川文庫)1932年刊行

 動く密室空間ともいうべきニューヨークの市電の中で起きた、奇妙な凶器による殺人事件。大胆きわまりない伏線と緻密な論理展開、そして最後の衝撃度は、クイーン全作品中でも一二を争う、これぞ本格ミステリのお手本といえる傑作。(川出)

 《レーン四部作》の第一弾という意味もあるが、ダイイングメッセージものとしてもこの一作の切れ味は抜群。どうせなら新訳で読んでみよう。(村上)

Xの悲劇 (角川文庫)


99『大穴』ディック・フランシス/菊池光訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1965年刊行

 レースで負傷し、引退を余儀なくされた騎手シッド・ハレー。探偵社の調査員としてくすぶった日々を送っていた彼が、ある出来事をきっかけに、悪役との闘いを通じて再生していく物語。ハレーが取り戻していく矜恃が読む者の心を強烈に惹きつける。(村上)

大穴 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12-2))

100『興奮』ディック・フランシス/菊池光訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1965年刊行

 競馬にまったく関心のない者まで夢中になってしまうことで有名な競馬シリーズのなかでも人気の一作。必ずしもスーパーヒーローではない主人公の不屈の闘志を描かせたら、フランシスの右に出るものなし。まさに興奮。(吉野)

興奮 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12-1))

101『度胸』ディック・フランシス/菊池光訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1964年刊行

 競馬シリーズを未読のひとが心底うらやましい。どれから読んでもいいと思うんだが、競馬シリーズの真髄が全部そろった本書をおすすめしたい。理不尽な悪への屈服を良しとせぬ意志の力。それだ。(霜月)

度胸 (ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 1-5 競馬シリーズ)


102『三つの棺』ジョン・ディクスン・カー/三田村裕訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1935年刊行

 密室で撃たれた教授。同じ夜、雪の路上でも不可能殺人が……。とびきりの謎と解決が用意されたカーの最高傑作。登場人物の発言の意味がすべて二重に解釈可能という超絶技巧に注目。(千街)

三つの棺 (ハヤカワ・ミステリ文庫 カ 2-3)

103『皇帝のかぎ煙草入れ』ジョン・ディクスン・カー/井上一夫訳(創元推理文庫)1942年刊行

 向かいの家のドアから誰かが出ていった直後、そこに住む婚約者の父が殺害されているのを見てしまったイヴ。容疑の目を向けられるものの、警察に協力することはできなかった。なぜならそのとき一緒にいたのは、別れた夫だったのだから。オカルトと密室の巨匠という先入観を吹き飛ばす、シンプルながら破壊力抜群の本格ミステリ。(川出)

皇帝のかぎ煙草入れ (創元推理文庫 118-11)

104『カー短篇全集2 妖魔の森の家』ジョン・ディクスン・カー/宇野利泰訳(創元推理文庫)表題作は1946年発表

 人間消失! 本格ミステリを読む愉しさがぎゅっと凝縮された表題作を堪能せよ。短篇もうまいカーだが、なかでもこの表題作は特に素晴らしい。(村上)

妖魔の森の家 (創元推理文庫―カー短編全集 (118‐2))


(つづく)

年末特別企画2009〜2010年末年始に読みたいこの1冊 その8



 ここからはちょっと趣向を変えて、リストの重複作品をご紹介していきたいと思います。まずは、2人の書評家が名前を挙げた作家と作品からです。


【2人が選んだ作家】

76『狼殺し』クレイグ・トーマス/竹内泰之訳(河出文庫)1978年刊行☆

 スパイ冒険小説の大傑作。いま読んでも興奮に打ち震えるだろう。(北上)

 全体液をアドレナリンに総とっかえしたみたいな生理的昂奮。それがトーマスの昂奮である。謀略戦の道具だった男の本能が暴発するさまを描く本書。その剥き出しの攻撃性はヨーロッパ現代史と政治力学までをも貫く。(霜月)

狼殺し (河出文庫)

77『闇の奥へ』クレイグ・トーマス/田村源二訳(扶桑社ミステリー)1985年刊行

 トーマス作品の多くは「敵地への侵入&脱出」でできている。その究極が本書。映画《ボーン・アルティメイタム》にサウナスーツを着せて地獄谷でマラソンさせてるみたいな熱気と窒息感。昂揚のキモは異様に感覚的な文章にある。(霜月)

闇の奥へ〈上〉 (扶桑社ミステリー)


78『ポアロのクリスマス』アガサ・クリスティー/村上啓夫訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1939年刊行

一族全員が揃った時、ゴーストン館の狷介な老当主が惨殺された……。クリスティーの脂が乗りきった時期に書かれた秀作で、すべての手掛かりがあるべき場所に嵌まった時に浮上する真相は意外性満点。(千街)

ポアロのクリスマス (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

79『そして誰もいなくなった』アガサ・クリスティー/清水俊二訳(クリスティー文庫)1939年刊行

 この問題設定を思いついた段階で、まずはクリスティーの勝ちが決まったようなものだが、それをきっちりと勝ちきったところが凄い。(村上)

そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)


80『鉄の門』マーガレット・ミラー/青木久恵訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1945年刊行☆

 冬の朝、見知らぬ男が持参した小箱から、人びとの運命は狂い、悲劇は悲劇を呼ぶ。ミラーの作品中でも非情さが際立つニューロティック・スリラー。ラストで犯人を押しつぶす孤独の重さには身が凍る。(千街)

鉄の門 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

81『殺す風』マーガレット・ミラー/吉野美恵子訳(創元推理文庫)1957年刊行☆

 些細なことから妻と口論した男は、友人たちの待つ別荘に行くと言って家を出た。そして、それっきり行方が分からなくなってしまう。ごく普通の小説の随所に巧妙に埋め込まれた〈謎〉が明らかになるとき立ち上がってくる、まったく別の物語に、唖然とすること必至。サスペンスの鬼才ミラーの最高傑作にして、ミステリの到達点の一つ。(川出)

殺す風 (創元推理文庫)


82『ブラック・ダリア』ジェイムズ・エルロイ/吉野美恵子訳(文春文庫)1987年刊行

 実際に1940年代のLAで起きた事件が題材の作品で、同時に作者自身の悪夢を投影させた記念碑的な長編作。これが『ビッグ・ノーウェア』の衝撃、そして『ホワイト・ジャズ』の狂気へと向かう序章にすぎないとは。(吉野)

ブラック・ダリア (文春文庫)

83『ホワイト・ジャズ』ジェイムズ・エルロイ/佐々田雅子訳(文春文庫)1992年刊行☆

 クール/ブルータル/緻密/知的。再読、再々読に足る稀有な小説——機銃掃射のごとき言葉たちを音楽のように浴び、細緻に編まれた謀略を解読し、熱病じみた情念に脈拍を狂わせ、おれはこの本を十回以上読んでしまった。(霜月)

ホワイト・ジャズ (文春文庫)

84『ビッグ・ノーウェア』ジェイムズ・エルロイ/二宮馨訳(文春文庫)1987年刊行☆

 純度100%のピュア・ノワール。エルロイを読むならまずここからだ。下巻前半で起きる衝撃的な事態にエルロイの真っ暗な真髄がある。本書にはじまる三作品は緻密な陰謀小説でもあり、本格ファンにもおすすめできる。(霜月)

ビッグ・ノーウェア〈上〉 (文春文庫)ビッグ・ノーウェア〈下〉 (文春文庫)


【2人が選んだ作品】

85『千尋の闇』ロバート・ゴダード/幸田敦子(創元推理文庫)1986年刊行

 センチメンタル・ワールド全開の傑作。(北上)

 ポルトガルに旅した男は、政治家の謎めいた失脚の物語を聞くことになる……。過去と現在、物語のなかの物語、嘘と真実。小説の迷宮をロバート・ゴダードの道案内で旅する時間は、ただひたすらに幸せである。(村上)

千尋の闇〈上〉 (創元推理文庫)千尋の闇〈下〉 (創元推理文庫)


86『闇よ、我が手を取りたまえ』デニス・レヘイン/鎌田三平訳(角川文庫)1996年刊行

 私立探偵パトリックと相棒アンジーが活躍するシリーズのピークとも言える作品だ。(北上)

 ジャズでなくグランジやハードコアの似合う現在的なハードボイルドの収穫。近作で著者が見せる安定感はここにはないが、空気は棘々しく尖り、絶望と背中合わせの正義への意志は痛々しく、それゆえに比類なくパワフル。(霜月)

闇よ、我が手を取りたまえ (角川文庫)


87『刑事の誇り』マイクル・Z・リューイン/田口俊樹訳(ハヤカワ文庫)

 気難しい余計者を描いたハードボイルド。(北上)

 パウダー警部補は、次から次へと舞い込んでくる失踪事件に手こずるばかりか、息子の問題に悩まされ、さらに新たな相棒は車椅子の女刑事……。人物同士のぶつかりあいや会話の妙、そして意外な展開と見事に読ませる。(吉野)

刑事の誇り (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 165-7))

88『薔薇の名前』ウンベルト・エーコ/河島英昭訳(東京創元社)1980年刊行

 言わずと知れた中世ミステリの傑作。しかし、かなり手強い内容と長さなのも事実。こういう作品は、正月休みにでもじっくりと読み進めるのが正しい読み方では。(千街)

 中世イタリアの修道院で連続する怪事件。重厚であり、相当に衒学的ではあるが、驚くほど読みやすい。シンプルなトリックが舞台設定と一体化している点も評価したい。(村上)

薔薇の名前〈上〉薔薇の名前〈下〉


89『シャイニング』スティーヴン・キング/深町眞理子訳(文春文庫)1977年刊行

 山上の雪深いホテルに管理人としてやってきた小説家志望の元教師とその家族を襲う怪異。キングの力強い筆致をいやというほど堪能できる、幽霊屋敷ホラーの金字塔。(千街)

 モダン・ホラーも入れておきましょう。雪に閉ざされたリゾート・ホテルの管理人一家を襲う怪異を、細密なディテール、見事なサスペンス、鮮烈なイメージで描き切る。冬の旅行のおともにどうぞ。レドラム!(霜月)

シャイニング〈上〉 (文春文庫)シャイニング〈下〉 (文春文庫)


90『警察署長』スチュアート・ウッズ/真野明裕訳(ハヤカワ文庫NV)1981年刊行

 アメリカ深南部の田舎町を舞台に、三代にわたる警察署長と殺人鬼との対決を描いた大河警察小説。同時に、1920年代から60年代までのアメリカ社会の変遷を、町の発展とそこに暮らす人々の人生を通じて描き出した豊饒なる物語でもあり、あらゆる小説好きに自信を持ってお薦めできる傑作。(川出)

 米国南部の田舎町を舞台にした警察小説。三世代の警察署長たちが、それぞれの想いを持って、ある一つの事件と対峙する。大河小説の醍醐味を満喫できるミステリだ。佐々木譲『警官の血』のファンにもお勧め。(村上)

警察署長〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)警察署長〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)


91『クリスマスに少女は還る』キャロル・オコンネル/務台夏子訳(創元推理文庫)1998年刊行

 読者に一生忘れられない驚愕と感動をふたつながら与えるミステリなど滅多にあるものではないけれど、これはその稀な一冊。邦題のつけ方もお見事。(千街)

 クリスマスを間近に控えたある日、二人の少女が忽然と姿を消した。超絶技巧のプロットと幻想感を漂わせながらうねり脈打つ文章が、読む者の心をとらえて放さない。衝撃と深い感動を与えてくれる、愛と救済と贖罪にみちた奇蹟のミステリ。ヒロインの少女を愛さずにいられる読者がいるだろうか。(川出)

クリスマスに少女は還る (創元推理文庫)


92『ウッドストック行き最終バス』コリン・デクスター/大庭忠男訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1975年刊行

 いつまでたっても来ないバスに痺れを切らして、ヒッチハイクを試みた二人の娘。やがて一人が死体で発見される。大胆な仮定と飛躍した論理から意外な”真相”をビルド&スクラップし続けるという斬新なスタイルで、現代本格ミステリの幕を開けた記念すべき名作。(川出)

 最初に読んだときは、モース警部という珍無類の探偵におそれをなし、すこぶる面白いが好きにはなれないキャラクターだと敬遠しかけた。だがシリーズを読み進めるうちに彼のことが好きになりすぎるほどに好きになってしまった。いいやつだ、モースは。(杉)

ウッドストック行最終バス (ハヤカワ・ミステリ文庫)


93『毒薬の小壜』シャーロット・アームストロング/小笠原豊樹訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1956年刊行

 自殺を決意した初老の男が毒薬を入手した……。その毒薬を巡って繰り広げられる大騒動。手に汗握る展開でありつつ、温もりに満ちた物語という奇跡の1冊。(村上)

 人間も捨てたもんじゃないよな。そう思わせてくれるミステリ史上屈指の感涙作。心優しいがゆえに自殺を決意したおじさんのために、たくさんの人が走る、走る! ミステリ版《素晴らしき哉、人生!》です。(霜月)

毒薬の小壜 (ハヤカワ・ミステリ文庫 46-1)


(つづく)

年末特別企画2009〜2010年末年始に読みたいこの1冊 その7


(承前)


 個人リストの最後は杉江松恋です。


【杉江松恋のお薦め作品】※他の七福神との重複除く。☆は残念ながら現在品切れです。

59『庭に孔雀、裏には死体』ドナ・アンドリュース/島村浩子訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1999年刊行

 好感の持てる主人公、彼女のロマンスをいつもぶち壊しにする変人ぞろいの親戚や隣人たち、意味もなくうろうろしている鳥たち、そして何よりも考え抜かれたトリック! コージー・ミステリーに必要なものが全部揃った好シリーズだ。翻訳再開しないかな。(杉江)

庭に孔雀、裏には死体 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

60『毒蛇』レックス・スタウト/佐倉潤吾訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1934年刊行

 洒脱を売り物にする作品はいくらでもあるだろうが、私はこのシリーズからその言葉の意味を教わった。体重七分の一トンの巨漢探偵と女にもてて仕方がない洒落者の助手は、私にとって永遠のアイドルだ。(杉江)

毒蛇 (ハヤカワ・ミステリ文庫 35-3)

61『殺す者と殺される者』ヘレン・マクロイ/務台夏子訳(創元推理文庫)1957年刊行

 すれっからしの読者なら、読み始めてすぐに結末の予想をつけてしまうはずだ。だが、途中で投げ出さないでいただきたい。トリックという素材だけでミステリーは成り立たず、小説としての書きようで生きも死にもするのだということを痛感させられるはずだ。(杉江)

殺す者と殺される者 (創元推理文庫)

62『毒入りチョコレート事件』アントニイ・バークリー/高橋泰邦訳(創元推理文庫)1929年刊行

 バークリーという作家はたいへんなひねくれ者だったそうだが、本書はその資質が存分に発揮された、素晴らしい作品である。一つの事件をめぐっていくつもの説が呈示される多重解決小説で、ミステリーマニアならマニアであるほど嫌な気分にさせられます。マゾヒスト向き。(杉江)

毒入りチョコレート事件【新版】 (創元推理文庫)

63『大当りをあてろ』A・A・フェア/砧一郎訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1941年刊行

 ラスヴェガスのいかさま博打にからんだ事件を、度胸は満点だが身長だけはちと足りないドナルド・ラムが追いかける。何が素晴らしいかというと、これは己れの信じたものを命がけで守ろうとする男の子の小説なのである。なんともいえない読後感の結末だけを、今でもときどき読み返しています。(杉江)

大当りをあてろ (ハヤカワ・ミステリ文庫 4-6)

64『緑は危険』クリスチアナ・ブランド/中村保男訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1943年刊行

 意地悪作家の作品、その2。戦時下の特殊な状況を利用した作品として『爬虫類館の殺人』に並ぶ傑作だ。小説中に「私が犯人でござい」と名乗りを挙げる人物が登場し、にもかかわらず真相はその時点で明らかにならないという、人を食った趣向があることでも有名です。(杉江)

緑は危険 (ハヤカワ・ミステリ文庫 57-1)

65『風の向くまま』ジル・チャーチル/戸田早紀訳(創元推理文庫)1999年刊行

 大恐慌のアメリカを舞台にしたシリーズの第一作。世間知らずだった元上流階級の兄妹が、田舎町の人々との出会いを通じて人間的に成長していく姿を描いた作品でもある。ジル・チャーチルには他に主婦探偵ジェーンものもあるが、個人的にはこっちから読んでほしいな。(杉江)

風の向くまま (創元推理文庫)

66『古い骨』アーロン・エルキンズ/青木久恵訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1987年刊行

 観光ミステリーといえば、かつてはアガサ・クリスティーやパトリシア・モイーズが名手として知られていたが、今は断然エルキンズでしょう。スケルトン探偵オリヴァーが世界各地の名所に行っては事件に巻きこまれる、というステロタイプを実に楽しく書くのだ。毎回きちんとしたトリックを使っている点も好感度大。(杉江)

古い骨 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

67『フリッカー あるいは映画の魔』セオドア・ローザック/田中靖訳(文春文庫)1991年刊行

 映画業界には一般人にはまったく知らされていない秘密がある……という陰謀論者の妄想のような始まり方をするのだが、その秘密なるものの奇想天外さゆえに物語にひきつけられてしまう。映画史を一から書き直す歴史改変ものでもあるのだ。(杉江)

フリッカー、あるいは映画の魔〈上〉 (文春文庫)フリッカー、あるいは映画の魔〈下〉 (文春文庫)

68『警官嫌い』エド・マクベイン/井上一夫訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1956年刊行

 ヘニング・マンケルだって好きだけど、やはり元祖はエドマク。ニューヨークを舞台にした架空都市アイソラは、ミステリーファンにとって夢の遊園地だった。警察小説のすべてのパターンは、この都市で最初に試されたと言ってもいいだろう。第一作です。キャレラもまだ若々しくて、独身なんだぜ。(杉江)

警官嫌い (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 13‐1))

69『世界をおれのポケットに』ジェイムズ・ハドリー・チェイス/小笠原豊樹訳(創元推理文庫)1959年刊行

金に地位に名誉、何も持っていない若者が自分の命をかけて世界を手に入れようと企む。現金輸送車襲撃をテーマとした犯罪小説なのだが、読んでいるうちに気持ちが主人公に同化してしまい、体内から湧き上がる感情に胸を焼き尽くされそうになる。俺は不遇だと思っている人すべてに読んでもらいたい小説だ。(杉江)

世界をおれのポケットに (創元推理文庫)

70『密室殺人傑作選』ハンス・S・サンテッスン/山本俊子訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1968年刊行

 アンソロジーを一つ選ぶとしたら、これでしょう。チェスタトン「犬のお告げ」のような正統派から、有名すぎるパロディ、ブルテン「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」まで、ありとあらゆるバリエーションの密室ミステリーが詰め込まれている。お買い得。(杉江)

密室殺人傑作選 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

71『百万に一つの偶然』ロイ・ヴィカーズ/宇野利泰訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1950年刊行

 「ケイゾク」とか「時効警察」の元ネタはこれなんじゃないかと思うんですけどね。スコットランドヤードの中に「迷宮課」という部署があるんだそうな。倒叙ミステリー集であることと、小道具が効果的に使われることばかりがよく言及されるが、犯人の動機が毎回異常極まりない点も特筆すべきです。(杉江)

百万に一つの偶然―迷宮課事件簿〈2〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

72『怪盗ニック登場』エドワード・D・ホック/木村二郎訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)日本オリジナル

 1980年代に翻訳ミステリーを読み始めた人の何割かは、入り口がホックだったはず。「価値のないものしか盗まない」という怪盗ニックが活躍する連作集で、モンキー・パンチ原作版の『ルパン三世』と同じくらいおもしろいです(TV版じゃないよ)。犯罪小説なのだが、本格ミステリーでもある稀有な作品。(杉江)

怪盗ニック登場 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

73『まっ白な嘘』フレドリック・ブラウン/中村保男訳(創元推理文庫)1953年刊行

 そして1970年代にファンになった人の何割かは、ブラウンの薫陶を受けているはずなのだ。名作「うしろを見るな」をはじめ、アイデアの玉手箱といってもいいほどの名作短篇集である。ブラウンは短篇がよくて長篇はだめ、という人もいるけど、そんなことはないですよ。『3・1・2とノックせよ』なんて傑作です。(杉江)

まっ白な嘘 (創元推理文庫)

74『復讐はお好き』カール・ハイアセン/田村義進訳(文春文庫)2004年刊行

 現代犯罪小説界の巨匠といえばこの人。一冊選ぶとすれば本書が妥当でしょう。ろくでなしの夫によって海に投げこまれた女性が復讐を遂げる、という単純極まりないプロットの物語なのだが、脇を固める豊富な脇役陣のおかげでよれまくったお話になっているのである。ちゃんとロマンスだってあるよ!(杉江)

復讐はお好き? (文春文庫)

75『食物連鎖』ジェフ・ニコルスン/宮脇孝雄訳(早川書房)1992年刊行

 最後は一冊だけ趣味に走らせていただきます。極北の美食ミステリーというべき作品だ。アメリカ人の青年が諸事情あってイギリスに逃亡し、各地で美食を楽しみながら旅をする(レストラン経営者の息子なのです)という漫遊記の物語なのだが、ありとあらゆる意味で官能的であり、退廃的なのだ。これ文庫にならないかな。(杉江)

食物連鎖 (Riverside press)


(つづく)

年末特別企画2009〜2010年末年始に読みたいこの1冊 その6


(承前)


 ラス前は霜月蒼のリストからお送りします。

【霜月蒼のお薦め作品】※他の七福神との重複除く。☆は残念ながら現在品切れです。

51『グリーンリバー・ライジング』ティム・ウィロックス/東江一紀訳(角川文庫)1994年刊行

 刑務所で暴動が発生、外界からシャットダウンされたガラスの天蓋のもとで地獄絵図が沸騰――神を擬装する狂える所長、非道と悪徳を呼吸する囚人ども。徹底的にヴァイオレントであるがゆえに崇高。唯一無二の傑作。(霜月)

グリーンリバー・ライジング (角川文庫)

52『暗闇にひと突き』ローレンス・ブロック/田口俊樹訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1981年刊行

 現代ハードボイルドとは何か?と問われたら、この作品だとおれは答える。余分なものを徹底して削り落とした末に残った暗い結晶のごとき一作。ここから現代最高のハードボイルド・シリーズがはじまる。(霜月)

暗闇にひと突き (ハヤカワ・ミステリ文庫)

53『虎よ、虎よ!』アルフレッド・ベスター/中田耕治訳(ハヤカワSF文庫)1956年刊行

 華麗なる大SF活劇。なのにプラスチックっぽい冷えた感じがないのは駆動装置が復讐の念というオーガニックな感情だからなのだ。理屈抜きにカッコよい。度肝を引き抜くクライマックスは忘却不能。(霜月)

虎よ、虎よ! (ハヤカワ文庫 SF ヘ 1-2)

54『神は銃弾』ボストン・テラン/田口俊樹訳(文春文庫)1999年刊行

 激情はカオティックなものなのだ。娘を奪還するだけの物語が、カオスをカオスのままに描く異形の文体と、随所で放たれる名台詞によって神話にまで高まる。主人公の女戦士はミステリ史に名を残すほどファッキング・クール。(霜月)

神は銃弾 (文春文庫)

55『暗闇の終わり』キース・ピータースン/芹澤恵訳(創元推理文庫)1988年刊行☆

 娘を自殺で失った新聞記者が田舎町のティーンエイジャー連続自殺事件に挑む。罪悪感を抱える私立探偵というテーゼは60年代以降の流れだが、その究極が本書。過去の己の贖罪を事件解決に重ね合わせて走る主人公に泣く。(霜月)

暗闇の終わり (創元推理文庫)

56『地下組織ナーダ』J・P・マンシェット/岡村孝一訳(ハヤカワ・ミステリ)1972年刊行

 頭からケツまでフルスロットルの超高速ヴァイオレント絵巻。何もかもエクストリームすぎて真っ黒い笑いをあげるしかなくなる。過剰なテロ集団vs過剰な刑事による狂犬同士の殺し合い。すげえよ。(霜月)

57『わが心臓の痛み』マイクル・コナリー/古沢嘉通訳(扶桑社ミステリー)1998年刊行

 コナリーはトウィステッド・プロットの名手なのだ。ひねりにひねってリアリティを犠牲にした感さえある本書、ディーヴァーの最良作に匹敵し、人工的なまでに巧んだゲームのごときプロッティングは本格読みにこそすすめる。(霜月)

わが心臓の痛み〈上〉 (扶桑社ミステリー)わが心臓の痛み〈下〉 (扶桑社ミステリー)

58『TOKYO YEAR ZERO』デイヴィッド・ピース/酒井武志訳(文藝春秋)2007年刊行

 すでにピースは現代文学の文脈で語られているのである。脳内に反復される無意識の残響を紙の上にぶちまけた語り口は読み手の聴覚を侵す。終戦直後の東京でアンビエント・ノイズをバックに上田秋成が奏でる暗黒小説。(霜月)

TOKYO YEAR ZERO


(つづく)

年末特別企画2009〜2010年末年始に読みたいこの1冊 その5


(承前)


 そして吉野仁のリストです。

【吉野仁のお薦め作品】※他の七福神との重複除く。☆は残念ながら現在品切れです。

39『黄色い部屋の謎』ガストン・ルルー/宮崎嶺雄訳(創元推理文庫)1907年刊行

 子供の頃から海外探偵小説に親しんでいる方なら、すでにこの古典を読破しているだろう。だが、いま一度ソポクレス『オイディプス王』の物語をじっくりと味わってからの再読をお薦めしたい。2度目の驚きがあるはず。(吉野)

黄色い部屋の謎 (創元推理文庫)

40『猿来たりなば』エリザベス・フェラーズ/中村有希訳(創元推理文庫)1942年刊行

 題名が示しているとおり、ユーモアとひねりに満ちた英国本格ミステリ。主役のコンビが捜査するのは、なんとチンパンジー殺害事件だ。どうして猿が出てくる探偵小説はこうも傑作なのか。猿ものを追わずにいられない。(吉野)

猿来たりなば (創元推理文庫)

41『おれの中の殺し屋』ジム・トンプスン/三川基好訳(扶桑社ミステリー)1952年刊行

 「おそらく私がいままで出会った中で、犯罪者のゆがんだ心理を描いた、もっとも真実味のある、かつもっとも私の心胆を寒からしめた一人称小説」(映画監督スタンリー・キューブリック)に異議なし。これぞ真の金字塔。(吉野)

おれの中の殺し屋 (扶桑社ミステリー)

42『女王陛下のユリシーズ号』アリステア・マクリーン/村上博基訳(ハヤカワ文庫NV)1955年刊行

 あらゆる困難を乗り越えて戦う主人公(たち)の姿を読むことこそが冒険小説の醍醐味だとするならば、その乗り越えるべき困難の質や格が違う。ゆえに、これほどの感動を味わえる作品は他にない。最高峰である。(吉野)

女王陛下のユリシーズ号 (ハヤカワ文庫 NV (7))

43『ふくろうの叫び』パトリシア・ハイスミス/宮脇裕子訳(河出文庫)1962年刊行☆

 ハイスミス未体験の方は処女作『見知らぬ乗客』や『リプリー(太陽がいっぱい)』からどうぞ。本作もただ奇妙な話なだけでない。人間の悪意を生み出す「見えない何か」に思いがけず直面してしまう。なんという怖さ。(吉野)

ふくろうの叫び (河出文庫)

44『マラソンマン』ウィリアム・ゴールドマン/沢川進訳(ハヤカワ文庫NV)1974年刊行

 ごく平凡な若者が突然ナチの残党に狙われ逃げまわる。単純なストーリーに思えるが、場面場面の展開がすこぶる巧みに描かれており、迫真のサスペンスに仕上がっている。なにより「あの」有名な拷問シーンの怖いこと!(吉野)

マラソン・マン (ハヤカワ文庫 NV (1085))

45『消されかけた男』ブライアン・フリーマントル/稲葉明雄訳(新潮文庫)1977年刊行

 印象的な主人公像もさることながら、著者の初期作品には、単なる冷戦スパイ小説の枠にとどまらず、巧妙な伏線の上の「どんでん返し」に長けたものが多い。最後にとんでもない「うっちゃり」を喰わされるだろう。

消されかけた男 (新潮文庫)

46『真夜中の相棒』テリー・ホワイト/小菅正夫訳(文春文庫)1982年刊行☆

 ベトナム戦争帰りで精神を病んだ殺し屋の青年、その青年とともに生きるアウトローの男、そして自身の相棒を殺され彼らを執念深く追う刑事。この歪んだトライアングルのたどる運命から目をそらすことができない。(吉野)

真夜中の相棒 (文春文庫 (275‐17))

47『グルーム』ジャン・ヴォートラン/高野優訳(文春文庫)1981年刊行

 母親と暮らすひきこもりの青年。彼のとめどない妄想と奇妙な現実が同時に暴走しはじめたとき、歪んだ世界はますます歪みを増していく。もはや笑って読むしかすべのない狂気の果ての異色作。ヴォートラン万歳!(吉野)

グルーム (文春文庫)

48『バスク、真夏の死』トレヴェニアン/町田康子訳(角川文庫)1983年刊行

 トレヴェニアンは寡作家ながら、ほとんどの長編がその年の海外ミステリのベストと言っても過言ではない。その傑作群のなかで、本作はとくに美しくも切なく、そして妖しい魅力をそなえた、完成度の高い恋愛サスペンス。(吉野)

バスク、真夏の死 (角川文庫)

49『緋色の記憶』トマス・H・クック/鴻巣友季子訳(文春文庫)1996年刊行

 あまりにも切ない過去の回想、あこがれの美しき女性教師の秘め事、繊細な心をもつ少年がたどる運命、そして明かされる事件の真相……。感動の深いクック作品のなかでもとくに劇的な名作。何度でも読み返したい。(吉野)

緋色の記憶 (文春文庫)

50『皇帝の血脈』アラン・フォルサム/戸田裕之訳(新潮文庫)2004年刊行

 近年の追跡逃亡もののベストといえるサスペンス巨篇。後半からは国際謀略小説に流れてしまうものの、逆転と意外性の大技がこれでもかと連続していく前半はとにかく凄い。凄すぎてションベンちびる。読み逃すなかれ!(吉野)

皇帝の血脈〈上〉 (新潮文庫)皇帝の血脈〈下〉 (新潮文庫)


(つづく)

年末特別企画2009〜2010年末年始に読みたいこの1冊 その4


(承前)


 4番手は村上貴史リストです。


【村上貴史のお薦め作品】※他の七福神との重複除く。☆は残念ながら現在品切れです。

32『高い砦』デズモンド・バグリイ/矢野徹訳(ハヤカワ文庫NV)1965年刊行

 飛行機はアンデス山脈の高地に不時着した。下山しようとする彼等を、謎の銃撃が襲う。人間の知力と体力の限りを尽くし、大自然のなかで繰り広げられる闘いはまさに圧巻。(村上)

高い砦 (ハヤカワ文庫NV)

33『少年時代』ロバート・R・マキャモン/二宮馨訳(ヴィレッジブックス)1991年刊行

 アメリカ南部で暮らす十二歳の少年の一年間を描いた一冊。殺人事件、野球のうまい少年、愛犬との交流……様々な出来事を経験して成長する少年の姿の、なんと輝いていることか。(村上)

少年時代〈上〉 (ヴィレッジブックス)少年時代〈下〉 (ヴィレッジブックス)

34『暁の死線』ウィリアム・アイリッシュ/稲葉明雄訳(創元推理文庫)1944年刊行

 明日の朝に出るバスで故郷に帰るんだ――そう決意した若い男女の必死の調査を描いた一夜のサスペンス。タイムリミットの不自然さをねじ伏せ、緊迫感のなかで男女の心の動きをきっちりと伝えきるアイリッシュの筆力に驚嘆。(村上)

暁の死線 (創元推理文庫 120-2)

35『五輪の薔薇』チャールズ・パリサー/甲斐萬里江訳(ハヤカワ文庫NV)1989年刊行

 少年対大陰謀。みっしりとエピソードが詰まっており、文庫全五巻という巨篇であることそれ自体も幸せであると思える。(村上)

五輪の薔薇〈1〉 (ハヤカワ文庫NV)五輪の薔薇〈2〉 (ハヤカワ文庫NV)五輪の薔薇〈3〉 (ハヤカワ文庫NV)五輪の薔薇〈4〉 (ハヤカワ文庫NV)五輪の薔薇〈5〉 (ハヤカワ文庫NV)

36『シンプル・プラン』スコット・スミス/近藤純夫訳(扶桑社ミステリー)1993年刊行

 偶然手にした大金が、三人の運命を狂わせる……。先の読めない展開、強烈なスリル。とにかく一気読み必至の一冊だ。(村上)

シンプル・プラン (扶桑社ミステリー)

37『黒後家蜘蛛の会』アイザック・アシモフ/池央耿訳(創元推理文庫)1974年刊行(邦訳は1〜5巻)

 SFの大家が生んだ洒落たミステリ短篇集。おなじみの面々がゲストを交えて一つの謎についてあれやこれやと語り合う様が実に愉しい。給仕ヘンリーによるしめくくりも鮮やか。(村上)

黒後家蜘蛛の会 1 (創元推理文庫 167-1)黒後家蜘蛛の会 2 (創元推理文庫 167-2)黒後家蜘蛛の会 3 (創元推理文庫 167-3)黒後家蜘蛛の会 (4) (創元推理文庫 (167‐5))黒後家蜘蛛の会〈5〉 (創元推理文庫)

38『深夜プラス1』ギャビン・ライアル/菊池光(ハヤカワ・ミステリ文庫)1965年刊行

 大富豪を目的地まで連れて行く仕事を請け負ったドライバー。ガンマンを相棒に移動する彼等を殺し屋が狙う……。タイトルもキャラクターも展開もとことん魅力的な冒険小説だ。(村上)

深夜プラス1 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 18‐1))


(つづく)

年末特別企画2009〜2010年末年始に読みたいこの1冊 その3


(承前)


 続いては川出正樹リストから。


【川出正樹のお薦め作品】※他の七福神との重複除く。☆は残念ながら現在品切れです。

22『ながい眠り』ヒラリー・ウォー/法村里絵訳(創元推理文庫)1959年刊行

 アメリカの郊外住宅地(サバービア)に、本格ものと警察小説を融合させた新たなミステリの土壌を見いだしたパイオニアによる逸品。胴体だけの女性の死体を前に、仮説・推論・検証を繰り返して徐々に事件の全容を明確にしていく過程の、なんとスリリングなことか。(川出)

ながい眠り (創元推理文庫)

23『ウサギ料理は殺しの味』ピエール・シニアック/藤田宜永訳(創元推理文庫)1981年刊行

フランスの田舎町のレストランで、木曜日の晩に”狩人風ウサギ料理”がメニューに載ると、必ず若い女性が町のどこかで殺される。一体どうして??? ねじれた論理と黒いユーモアが全編を支配する、史上例のない奇妙奇天烈な謎解きミステリ。この真相を見破れる読者は、まずいないだろう。(川出)

ウサギ料理は殺しの味 (創元推理文庫)

24『午後の死』シェリイ・スミス/山本俊子訳(ハヤカワ・ミステリ)1953年刊行☆

 エンジン・トラブルにより、イラン高原の砂漠に不時着した青年が、一時の涼を求めて訪れた一軒家。そこで老いた語り手(シェヘラザード)から聞かせたのは、美しくも残酷な愛の物語だった。〈ポケミス〉という、シンプルかつシックな装幀がよく似合う小粋な逸品。(川出)

午後の死 (ハヤカワ・ミステリ 1414 世界ミステリシリーズ)

25『奇妙な人生』スティーブン・ドビンズ/瓜生知寿子訳(扶桑社ミステリー)1988年刊行☆

 内乱が勃発した一夜、ドクター・パチーコの家に集った三人の旧友は、書斎に飾られた若く美しい女性の写真に魅せられる。その正体を尋ねた彼らにパチーコは答える、今夕食をサーブしている疲れ果てた中年の家政婦だと。そして明かされる二十年にも及ぶ狂おしき愛憎の物語。極限状況のもと、各人が隠し続けていた秘密が次々と明らかにされていく、静かなされど凄絶なる密室劇。逆転に次ぐ逆転の果てに待っていたのは……。(川出)

奇妙な人生 (扶桑社ミステリー)

26『源にふれろ』ケム・ナン/大久保寛訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1984年刊行☆

 二年前に砂漠の町を出たきり姿を消した姉の身に何が起きたのか? ひ弱で内向的な青年が姉の行方を追う中で、性と麻薬と暴力に翻弄されながらも成長し、人生の根源にある何かに触れる。カリフォルニアの光と陰を描いた十年に一度の大傑作。(川出)

源にふれろ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

27『シャドー81』ルシアン・ネイハム/中野圭二訳(ハヤカワ文庫NV)、1975年刊行

 ロサンゼルス発ホノルル行きのジャンボジェットを乗っ取ったという通告に、機内に緊張が走る。だが一体犯人はどこに? これ以上の予備知識は百害あって一利無し。とにかく読んで、その面白さを味わって欲しい手に汗握る冒険小説の不滅の金字塔。(川出)

シャドー81 (ハヤカワ文庫NV)

28『ソフィー』ガイ・バート/黒原敏行訳(創元推理文庫)1994年刊行

 幼き姉弟が暮らす〈楽園〉は、いかにして崩壊したのか? 時制と視点を頻繁に切り替えて独話劇と対話劇を繰り返しながら、徐々に〈真実〉を明らかにしていく密室サスペンス。読み終えた瞬間、感動と安堵、驚愕と充足、そして哀惜と諦念がないまぜとなった溜息を漏らしてしつつ、すぐに再読したくなる稀有な物語。(川出)

ソフィー (創元推理文庫)

29『死の接吻』アイラ・レヴィン/中田耕治訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1953年刊行

 類いまれな容姿と優れた頭脳を駆使して、人生の勝者となるべく着々と計画を遂行していく野心家の青年。熱き情熱と冷徹な理性を合わせ持つ彼にとって、恋人の妊娠は取り除くべき障害以外のなにものでもなかった。犯人捜しと犯罪小説とサスペンスの魅力が一冊で味わえる贅沢な一冊。この強烈な牽引力を前に、途中で巻を措ける読者はいないだろう。(川出)

死の接吻 (ハヤカワ・ミステリ文庫 20-1)

30『ビッグ・ゲーム』レナード・ワイズ/真崎義博訳(早川書房)1986年刊行

 戦場での凄惨な体験の後、十年ぶりに故郷アイオワに戻ってきたポーカーの名手は、愛する土地と人々を守るために、五年に一度開かれる最高のポーカー・ゲームに挑むことに。手に汗握るポーカー小説であると同時に、傷ついた男の再生譚である豊饒なるミステリ。文庫化もされず絶版状態だが、ネット古書店で容易に入手可能なのでぜひ読んで欲しい、雄大なる小説。(川出)

ビッグ・ゲーム〈上〉 (Hayakawa Novels)

31『黒衣のダリア』マックス・アラン・コリンズ/三川基好訳(文春文庫)2001年刊行

 〈ブラック・ダリア〉と呼ばれていた女は、なぜ無惨な殺され方をしたのか。伝統的なハードボイルド・スタイルに沿いながら、巧妙に張り巡らされた伏線と謎解きの妙味も味わえる、贅沢で芳醇な虚実皮膜をよくした物語。(川出)

黒衣のダリア (文春文庫)


(つづく)

年末特別企画2009〜2010年末年始に読みたいこの1冊 その2


(つづく)


 続いて千街晶之のリストです。


【千街晶之のお薦め作品】※他の七福神との重複除く。☆は残念ながら現在品切れです。

13『ナイン・テイラーズ』ドロシー・L・セイヤーズ/浅羽莢子訳(創元推理文庫)1934年刊行

大晦日が関係するミステリということで、これも外せない。豊饒なドラマと、「よくこんなこと思いついたなあ」と言いたくなるインパクト満点のトリック、ともに忘れ難い。(千街)

ナイン・テイラーズ (創元推理文庫)

14『死の殻』ニコラス・ブレイク/大山誠一郎訳(創元推理文庫)1936年刊行☆

死体が発見された小屋の周囲の雪上には、ただ一筋の足跡が……。登場人物の心理描写と論理的な謎解きの両立を図ったブレイクの初期の代表作。(千街)

死の殻 (創元推理文庫)

15『大鴉の啼く冬』アン・クリーヴス/玉木亨訳(創元推理文庫)2006年刊行

イギリス最北端のシェトランド島で起こった少女殺害事件。寒々しい風土で繰り広げられる陰鬱な人間模様と、大胆極まる真犯人の隠し方が印象に残る。(千街)

大鴉の啼く冬 (創元推理文庫)

16『ロジャー・マーガトロイドのしわざ』ギルバート・アデア/松本依子訳(ハヤカワ・ミステリ)2006年刊行

ミステリ好きなポストモダン文学の旗手がクリスティーに捧げたオマージュ。あっけらかんと人を食ったトリックと真相が愉快。日本の新本格ファンにもお薦め。(千街)

ロジャー・マーガトロイドのしわざ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1808)

17『ホッグ連続殺人』ウィリアム・L・デアンドリア/真崎義博訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1979年刊行

TVのミステリドラマなどでしばしば使われるネタなので、今となってはやや新味を欠くかも知れないが、やはり元祖には元祖の強みがある。ラスト一行はミステリファンにとって永遠の語り種だ。(千街)

ホッグ連続殺人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

18『割れたひづめ』ヘレン・マクロイ/好野理恵訳(国書刊行会)1968年刊行

そこで寝た者は死ぬと言われている開かずの間で、新たな犠牲者が……。巧妙な伏線の張り方と、繊細で瑞々しい情景描写が冴える、後期マクロイの代表作。(千街)

割れたひづめ   世界探偵小説全集 44

19『グリーン家殺人事件』S・S・ヴァン・ダイン/井上勇訳(創元推理文庫)1928年刊行

例年より早い冬の訪れとともに、陰惨な連続殺人事件の幕が上がる。江戸川乱歩・小栗虫太郎・浜尾四郎ら戦前の日本の探偵作家にも影響を与えた、「お屋敷もの」の古典中の古典。(千街)

グリーン家殺人事件 (創元推理文庫 103-3)

20『五番目のコード』D・M・ディヴァイン/野中千恵子訳(現代教養文庫)1967年刊行☆

黄金期本格と現代本格をつなぐ実力派ディヴァインの、復刊が待たれる逸品。物語のごく早い時点から、重大なデータをフェアかつ大胆に提示しているのには感服させられる。(千街)

五番目のコード (現代教養文庫)

21『赤き死の訪れ』ポール・ドハティー/古賀弥生訳(創元推理文庫)1992年刊

舞台は14世紀、テムズ川も凍りつく極寒のロンドン。血塗られたロンドン塔で、悪魔の仕業のような殺人が続発する。不可能興味溢れる中世歴史ミステリ。(千街)

赤き死の訪れ (創元推理文庫)

(つづく)

年末特別企画2009〜2010年末年始に読みたいこの1冊 その1

 2009年10月の開設以来、「翻訳ミステリー大賞シンジケート」はみなさまの多大なるご支持をいただいてまいりました。感謝の気持ちをこめて、大晦日特別ブックガイドをお届けします。7人の書評七福神が事前打ち合わせ全く無しに「年末年始の休みに読むべきベスト」を挙げ、108冊のリストを作り上げました。趣味嗜好はそれぞれ違いますが、共通しているのは翻訳ミステリーが好きで仕方がないということ。さあ、どんなリストが出来上がりますことか……。

 まずは、北上次郎提供のリストから始めましょう。


【北上次郎のお薦め作品】※他の七福神との重複除く。☆は残念ながら現在品切れです。

1『北壁の死闘』ボブ・ラングレー/海津正彦訳(創元ノヴェルズ)1980年刊行

 気の遠くなるようなクライミング・シーンが圧巻。ホントにすごい。(北上)

北壁の死闘 (創元ノヴェルズ)

2『穴』ジョゼ・ジョバンニ/岡村孝一訳(ハヤカワ・ミステリ)1958年刊行☆

 刑務所から脱獄するまでを克明に描くジョバンニの出世作。(北上)

穴 (ハヤカワ・ミステリ 1104)

3『夜が終わる場所』クレイグ・ホールデン/近藤純夫訳(扶桑社ミステリー)1999年刊行

 この年の自信のベスト1だったのに、各種アンケートでは下位に甘んじて淋しかった。(北上)

夜が終わる場所 (扶桑社ミステリー)

4『依頼なき弁護』スティーヴ・マルティニ/菊谷匡祐訳(集英社文庫)1994年刊行☆

 どんでん返しの職人マルティニの傑作。(北上)

依頼なき弁護(上) (集英社文庫)依頼なき弁護(下) (集英社文庫)

5『罪の段階』リチャード・ノース・パターソン/東江一紀訳(新潮文庫)1992年刊行☆

 リーガルサスペンス界の東の横綱が放つ堂々の大傑作。(北上)

罪の段階〈上〉 (新潮文庫)罪の段階〈下〉 (新潮文庫)

6『立証責任』スコット・トゥロー/上田公子訳(文春文庫)☆1990年刊行

 文学派トゥローは西の横綱だ。ちなみにグリシャムは幕下。(北上)

立証責任〈上〉 (文春文庫)立証責任〈下〉 (文春文庫)

7『ヴァチカンからの暗殺者』A・J・クイネル/大熊栄訳(新潮文庫)1987年刊行☆

 敵地潜入ものの傑作として読まれたい。(北上)

ヴァチカンからの暗殺者 (新潮文庫)

8『パンドラ抹殺文書』マイケル・バー=ゾウハー/広瀬順弘訳(ハヤカワ文庫)1980年

 こちらはスパイ小説の傑作だ。(北上)

パンドラ抹殺文書 (ハヤカワ文庫NV)

9『フィーヴァードリーム』ジョージ・R・R・マーティン/増田まもる訳(創元ノヴェルズ)1982年刊行

 人間と吸血鬼との友情を描く異色の長編。(北上)

フィーヴァードリーム〈上〉 (創元ノヴェルズ)フィーヴァードリーム〈下〉 (創元ノヴェルズ)

10『戦慄のシャドウファイア』ディーン・R・クーンツ/白石朗訳(扶桑社ミステリー)1987年刊行☆

 夫が爬虫類になって妻を延々追いかけてくる話。ただそれだけなのに、ここまで迫力満点に読ませるのがすごい。(北上)

戦慄のシャドウファイア〈上〉 (扶桑社ミステリー)戦慄のシャドウファイア〈下〉 (扶桑社ミステリー)

11『リプレイ』ケン・グリムウッド/杉山高之訳(新潮文庫)1987年刊行

 43年間生きてきた記憶と知識を持ったまま17歳の自分にタイムスリップした男が、いかに「もう一度の人生」を生きていくかを描いた胸キュン長編。(北上)

リプレイ (新潮文庫)

12『透明人間の告白』H・F・セイント/高見浩(新潮文庫)1987年刊行

透明になった途端に、どうやって会社にいけばいいか悩むところが面白い。

透明人間が都会でどう生き延びていくのかという大サバイバル小説である。(北上)

透明人間の告白〈上〉 (新潮文庫)透明人間の告白〈下〉 (新潮文庫)


(つづく)