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2010-10-18

中村有希の翻訳者はつらいよ・その3

 さて、エッセイ二回書いたところでネタもつきたので(お題が自由って、難易度高いよ!)、翻訳家の生活、みたいなものをたらたら書いてみます。

 翻訳家志望の若いかたは幻滅するかもしれませんが。

 だって、テレビや小説に出てくる翻訳家はステキすぎるよ......


 まあ、普段は家にこもりっきりで、パソコンを叩いているだけなので、その気になれば何ヶ月でも、家から一歩も出ずに過ごせちゃったりします。

 だから、意識して歩かないと、本当に足腰が弱ります。

 ちなみに師匠は体力作りのためにテニスをしたり(平日の昼間からそんなところに行くのはマダムばかりで、ハーレム状態だったらしい)、わたしの同業の友人も(なぜか真冬に)テニスを始めたり、太極拳をしたり、ヨガ教室に通ったりしているようです。

 しかし、わたしはもともと運動が嫌いなうえ、ヒマさえあればゲームばかりやっているひきこもり。前に住んでいた家はそれでも二階建てだったので、一日に何十回も階段をのぼりおりしていましたから、いくらかマシでしたが、マンションに越してきたいまは、階段なんてほぼまったく使わないどころか、へたをすると一日に百歩くらいしか歩いていないのでは、というほど坐りっぱなしです。

 買い物はほとんどネット。なので、宅配のかたがたとはすっかり顔なじみです。ここ一週間にわたしが会話した相手って、ヤマトさん、サガワさん、郵便局のおじさん......

 まずいな。ほんとにひきこもりじゃないの!

 い、いや、外出もしていますよ、ときどき。

 猫の病院。人間の病院。郵便局。銀行。ヨーカドー......

 だめだわ。やっぱりネット通販がよくないですねー。

 アレがあると、ほんとに外出しませんよねー。まったく外に出ないのに、ムダにお金だけが出ていくし。

 リチャード・アーミテージ氏のファンになってからは、eBayやAmazon.UKやBBCのショップまで覗くようになり、気がつくと、DVDボックスやCDを山ほど買っていました。

 ネット通販とクレジットカードはよくないですねー。

 そしてアマゾン、おそるべし。UKの「あなたへのおすすめ」に、RA氏関連のものばかりが並ぶようになりました。

 べ、便利な機能だけど、けっこう恥ずかしいな、これ。人様には見せられないよ。彼のナマ写真とか、ガイ・オブ・ギズボーンのフィギュアとか、そんなものまで画像つきでおすすめされるようになってしまった。

 そんなことされたら買っちゃうじゃないの→ナマ写真。

 あと、あのフィギュア、馬に乗ってるバージョンのがほしい......日本には発送不可ということで、購入手続きの途中で、はねられちゃったんですよねー。ちっ。


 と、まあ、そんな気晴らしでもしなけりゃ、やってられないというくらい、翻訳家というのは毎日毎日、もくもくとひとりでパソコンを叩き続ける職業です。

 わからないことは資料やネットで調べ、またもくもくと原書を訳し続ける。

 翻訳家にいちばん近い職業は"受験生"だと思いますよ。ひとりで毎日机に向かって、何年も何年も、ずーーーーーっとエンドレスに受験勉強をし続けているのと、全然かわらん!

 おまけに、締め切りやノルマという制限時間内に原稿をあげなきゃ、と思えば、土日祝日も「少しでも先に進んでおこうか」と仕事をしちゃうし。

 そのうち、予定よりもだんだん進行が遅れてくると、今度は一日のノルマが増え、休日が減り、美容院なんて行ってるヒマもなく、服なんかどこにも行かないんだから買う必要ないでしょ、ということになり、気がつくとおばさんどころか、おじさんになっていますよ!

 まあ、おじさんになるのは、それほど不健康じゃないからいいんですが、翻訳家をやっていていちばんしんどい職業病は、精神的なものだと思います。


 これ、わたしだけなのかなあ?


 ゲラ直しで朝から晩までずーーーーっと自分の訳文を添削している時は、読者視点と作者視点を切り替えながら、第三者の目で直していくんですが、この時の作業で、何度も何度も推敲を重ねるうちに、「自分はなんてへたくそなんだ」と次第に鬱状態になり、「わたしってプロにむいてないんだ」とどんどん落ち込んで、しばらく口をきくのも億劫になるという......


 そういうパターンで鬱っぽくなる時もありますが。


 陰気くさい主人公に何ヶ月もつきあううちに、その主人公に憑依されたようになるというか、気持ちがシンクロしすぎて、わたし自身も鬱々とした気分から抜けられなくなったり。

 過去に、陰気な主人公がずーっと一人称で暗い話を物語る作品を訳した時には、三ヶ月くらいちょっと深刻な鬱状態が続きました。

 さすがにこの時には、あまりに登場人物と同化しすぎるのは危険すぎる!と気づきましたね。

 それ以来、訳している間だけ、登場人物に憑依していただいて(笑)、その日の仕事のノルマが終わったら、キャラには本の世界にお帰りいただき、"霊媒"中村は自分の人格に戻る、という気分の切り替えをきっちり行うようになりました。

 けっこうねー。難しい本だと、一日じゅう、作品について考えっぱなしになりがちなんですが、登場人物の気持ちに一日じゅうひたり続けると、精神的にかなりの影響を受けますね。

 なので、いまは、わからない文章について「文法的にあれはどういう意味だろう?」というような疑問なら、一日じゅう考えて、お風呂の中で「わかったー!」と叫んだりもしますが、登場人物の内面について、夜中までだらだらと際限なく考えることはやめています。

 翻訳作業は何ヶ月もかかりますから、そんなに長期間、別の人格に支配されているのは、やっぱり精神衛生上、あまりよくないことだと思うんですよ。わたしの経験上。

 そのかわりに、訳者校正の一週間は短期決戦で、どっぷり作品にひたって、寝ても覚めてもセリフの言い回しや、地の文の語り口のことばかり考えています。

 もう一日じゅう、キャラに憑依されている状態ですよ。頭の中に、自分も含めて何人か住んでいるようになりますよ。

 ......まあ、その霊媒としてのストレスと、自分の訳文をがしがし添削しまくるという自虐的な作業の相乗効果で、校正している期間は、口もきけないほど鬱状態ですけどね。

 は、はは。


 しかし。実はこんな訳者校正が、翻訳作業中でいちばん愉しかったりします(笑)。

 全然ダメな訳文を、商品化できるレベルまで、これでもかと直し続け、登場人物や作者や読者の視点にくるくるカメラを切り替えて、どこから見ても「よし、オッケー!」となる瞬間を味わうまで、直して、直して、直し続け、びしびしと自分に鞭打つ、この快感がたまらん!

 ああ、また校正したい。もっと自分で自分をいじめたい!!


 ......え〜。今回のエッセイの結論は。

 翻訳家という職業は、ひきこもり生活がまったく苦にならない、しかも、どマゾの人間にむいているってこと......です。たぶん。


中村有希

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