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2011-11-08

第十二回『エニグマ奇襲指令』の巻(執筆者・東京創元社S)

 

 みなさんこんにちは! なんだかもう、この「ラムネ」の記事はきちんとご挨拶をしないと書けないような体になっている気がします。しかーし! 今回は挨拶もそっちのけで作品の紹介をしたいと思います。のっけからテンション高いです!

 

 さて、今回の課題はマイケル・バー=ゾウハー『エニグマ奇襲指令』です。

 

 1944年3月、英国はナチの最新ロケット兵器完成の報を入手した。その攻撃を未然に防ぐには、敵の暗号通信の解読が不可欠。だが秘密暗号機エニグマによって作成される敵の通信文は解読不可能だった。残された手段はエニグマを奪取するのみ――しかも敵に感知されずに! 傑出した変装術をもつ服役中の大泥棒ベルヴォアールは自由と多額の現金を約束され、ドイツ占領下のフランスへ単身潜入するが……戦争冒険小説の傑作!(本のあらすじより)

 

 まずおもしろいな〜と思ったのは、あらすじでした。秘密暗号機! 変装術! 大泥棒! などなど、なんだかド派手な要素が揃っていてそそられます。読み進めていくと、なんと「敵をいかにあざむくか」という頭脳戦じゃあないですか。ちょっと違うかもしれませんが「オーシャンズ11」みたいな、盗みのアイディアが冴えわたっている作品だと感じました。エニグマを盗み出す方法、まさかあんな風だったとは思いませんでした。びっくり!

 

 また、展開のしかたもすばらしいです。冒頭がナチの最新ロケット兵器が完成する、という印象的なシーンなのですが、これがまさか最後でこういう意味があったとは! 素直に驚きました。最後のどんでん返しはオドロキでしたよー、こういうの大好物ですよもー! 300ページもない短い作品なのですが、そうとは思えないほどおもしろさがぎゅぎゅっと詰まっています。

 

 そしてそしてそして、この物語、何がいいってもう「主人公と敵(ライバル)の関係性」です!! これ、重要。ここ、声を大にして主張したいです! 

 

 主人公のフランシス・ベルヴォアールはヨーロッパで名の知れた大泥棒。父親は勝手に「男爵」と名のっていたフランス人の泥棒で、フランシスはマカオで生まれます。詐欺や泥棒を働きながら成長し、16歳のとき父親が死んだので、でっちあげの称号と稼業を受け継いで父親をしのぐ大泥棒になります。そして紆余曲折あった末に、なんとゲシュタポの保管倉庫から金(きん)半トンを盗み出したのです! これは「ゲシュタポの金塊事件」と呼ばれ、ベルヴォアールの名は天才肌の大泥棒として広まります。しかし密告者のせいでイギリスで逮捕され、ダートムアの刑務所で服役していました。そこへイギリス軍の将校が「エニグマ」奪取を依頼しにやってくるのです。

 

 悪い男って、なんだかんだいってもやっぱりいいですよね〜(にっこり)。ベルヴォアールの危険を好む性格、新しい挑戦や難しいミッションほど燃える性格というのは、ほんとうに魅力的だと思います。そして同時に、冷徹でもあるところもいい……。彼、けっこうひどいことをするのですよ。目的のためには他人を犠牲にできる、という人物なのです。しかし、それにもちゃんと理由があって、「他人を信用しない人間」になったというきっかけもきちんと語られています。おまけに、その冷酷さが、だんだん揺らいできちゃったりするところもいいです! 「他人を信用しない」とかいっている男ほど、心の底では信用できる人間を求めているものですよね。うむうむ。

 

 そして、ベルヴォアールのライバル、エニグマ奪取を阻もうとするルドルフ・フォン・ベック大佐のキャラクターもすばらしいのです。

 

 ルドルフ・フォン・ベックは34歳、ドイツ軍情報部(アプヴェール)の大佐で、かつてはロンメルの下で機甲大隊の指揮官も務めていたエリートです。彼は「男はかならず職業軍人になる」という伝統をもった、由緒正しい愛国心にあふれた保守的な一族の出なのですが、同時にパリの街と文化をこよなく愛し、フランスの歴史と文学に精通しているリベラルな夢想家です。十代のころからエドガー・ライス・バロウズやエドガー・アラン・ポーを読み、バイロン卿やラファイエットなど自由のために抑圧国と闘った勇士に魅せられ、ジュール・ヴェルヌの著作に啓発されてフランス人の自由を愛する心に共感し、逆にドイツ人の冷たさに反感を感じていました。そして「世界を放浪し、はるかかなたのエキゾティックな土地で、危険な仕事に命を張り、純真で神秘的な乙女とあつい恋におちる冒険家になる」のが夢でした。ほんとうにドイツの軍人さんなの? というくらい、ロマンティックなお人なのです。

 

 そんな彼が、ベルヴォアール男爵に対して抱いた想い……。それは、

 

 長いあいだ、フォン・ベックは奇妙な物思いにふけっていた。灰色の瞳をした、同年配の、りりしい青年の写真を見ていると、称賛と嫉妬の念がこもごもわきあがってくるのを禁じえなかった。情け容赦なくたたきつぶさねばならない敵は、若きルディ・フォン・ベックが心からあこがれた人生を生きてきた男だった。世界を股にかけ、命を張って危険な橋をわたり、あつい恋をする真の冒険者だった。ため息が出た。自分にとってはロマンティックな遠い夢にすぎなかったものを、ベルヴォアールは現実のものとして生きてきたのだ。

 

 もーもーもー、この部分を読んだ瞬間に震えましたね! なりたかった「自分」というのが敵だった、という設定。自分の理想、自分がなれなかった自分の姿なわけです。だからこそ、敵がいかにすごいかがわかる。だからこそ、真剣に、すべてをかけて闘わねばならない。すーてーきすぎるー!!!(感涙)。そしてベルヴォアールのほうでも、フォン・ベックを手ごわい相手だと認めているのです! 私はこの、主人公とライバルがお互いを認め合っていて、時代や立場が違えば無二の親友になれたかもしれない、という「平行線の関係」に弱いのです。根っこでは似ているんだけど、現実では敵! 誰よりも相手のすごさをわかっているのが、仲間でも友人でもなくライバル! という。彼らの生き方はけっして重ならないし、仲間になることはない……。うう、すばらしい……。このふたりの関係が、とにかくいいドラマを生み出しています。もう、ラストのふたりの対面シーンなんてね! 完璧でしたね! あーほんと、1ページまるごと引用したいくらいです!

 

 とにかくキャラクターがよい小説でした。メインキャラクターについては数ページぐらいで容貌や過去の人生についての説明があるのですが、より深いところまで想像(妄想?)したくなるような書き方がされています。また、ファッションや好みの音楽、何に価値観を置いているかを的確に描写する筆力もすばらしいと思います。おまけに嘘みたいな美女も登場するし、もー(じたばた)。よくある「絶世の美女」なんですが、ステレオタイプではなく、壮絶な過去を背負っているところも好きー!!! とにかくどの人物にもドラマがある、ということを感じました。 

 

 ふう、ひさしぶりに筆がほとばしってしまったぜ……。あ、あとお読みになる際のアドバイスとしては、巻末の「著者ノート」と「訳者あとがき」は最後に読んだほうがいいです。オドロキが半減してしまうかもしれません。とにもかくにも、めちゃくちゃおもしろい物語でした。主に電車のなかで本を開いていたのですが、感情が顔に出やすい(というか丸わかりな)私は始終ニヤニヤしていたと思います。乗り合わせたみなさんごめんなさい。でも、楽しい本だったのよ……。未読の方は、ぜひぜひ! お手にとってみてください!

 

【北上次郎のひとこと】

ゾウハーは通常はスパイ小説作家に分類される。『エニグマ奇襲指令』はそのゾウハーの唯一の冒険小説だ。スパイ小説でもよければ、これに負けず劣らず傑作なのが『パンドラ抹殺文書』。共通するのは、スピーディな展開とたたみかけるプロットの冴えで、ゾウハーはそういう職人作家なのである。いまで言えば、ディーヴァーか。できれば他の作品にも手を伸ばしていただけると嬉しい。

 

 

マイケル・バー=ゾウハー公式サイト(英語)

 

当サイト掲載 文庫解説図書館 マイケル・バー=ゾウハー『影の兄弟』(吉野仁)

 

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