第三十七回はテス・ジェリッツェンの巻(執筆者・辻早苗)

 実はずっとずっとテス・ジェリッツェンのファンをやっています。ジェリッツェンのサスペンスは日本でも紹介されているのですが、残念ながらノン・シリーズものは二作、〈リゾーリ&アイルズ〉のシリーズは三作で邦訳が止まってしまっています。


 そんな状態なので、しかたなく(?)ひっそりと(??)原書で追いかけています。が、〈リゾーリ&アイルズ〉シリーズがキリのいい十作めの刊行を迎えたので、改めてジェリッツェンをプッシュしたくなって出てきました。しばしおつき合いください。


 まずは、2012年8月に出たシリーズ最新作、"LAST TO DIE"のあらすじをざっくりと。


Last to Die (with bonus short story John Doe): A Rizzoli & Isles Novel

Last to Die (with bonus short story John Doe): A Rizzoli & Isles Novel


 ボストン市警の殺人課刑事、ジェイン・リゾーリはある事件現場に駆けつける。テディ・クロックという少年の里親一家が何者かに惨殺されたのだ。隣家に助けを求めにいったおかげでただひとり無事だったテディだが、その後、一時滞在先の里親宅に不審者が忍びこもうとする事件が発生。このままではまたテディが襲われると考えたリゾーリは、彼をイーヴンソングという寄宿学校で預かってもらうことにして自ら送っていく。


 イーヴンソングは、殺人や陰惨な事件の犠牲者を身内に持つ生徒ばかりを集めた学校で、学業だけでなく心のケアも行なっている。運営者は〈メフィストソサエティ〉のアンソニー・サンソンだ。イーヴンソングの生徒のひとり、ジュリアンという少年と縁のあるモーラ・アイルズ(マサチューセッツ州検死官)が、休暇を一緒に過ごすためにちょうど滞在中だった。


 しかし、人里離れた場所に建ち、セキュリティも堅固であるはずのイーヴンソングで不審事が起こる。テディと似た境遇の生徒がふたりいると知ったリゾーリは、イーヴンソングをあとにして彼らの事件について調べはじめる。すると、場所と状況はまったく異なるものの、三人の家族が同じ週に亡くなり、唯一の生存者である彼らが二年後に再度事件に巻きこまれたという共通点が見つかった!


 だが、さらに調べを進めても、同じタイミングで二度の不幸に見舞われたこと以外に共通点は見つからない。三人を取り巻く事件は偶然なのか、あるいは……。


 冒頭から謎めいたイカロスという男と彼を追う存在が登場し、ところどころにその展開が挿入されるのですが、全貌がなかなか見えてこず、ぐいぐい引きこまれます。そして、それが16年前のあるできごとだと判明したのち、いくつかの小どんでん返しを経て大団円へとなだれこむのでした。


 シリーズものでも一作ごとに完結しているのでどこから読んでも大丈夫、というような推薦文をよく見かけます。たしかにそのとおりの作品も多いのですが、〈リゾーリ&アイルズ〉シリーズに関しては頭から順を追って読むことを強く、強くお勧めします。本シリーズも一作ごとに完結はしているのですが、リゾーリやアイルズの私生活面での変化はやはり最初から追ってほしいですし、過去の作品の登場人物がのちの作品に登場したりもするので、既読のほうが入っていきやすいからなんですね。今回ご紹介した"LAST TO DIE"でも、第六作の"THE MEPHISTO CLUB"のアンソニー・サンソン、第八作の"ICE COLD"のジュリアンが登場しています。


 わたしは残念ながら観られる環境にないのですが、本シリーズは2010年夏から本国アメリカでテレビドラマ化され、2012年にはシーズン4に突入しています。ということは、なかなかの人気ドラマになっているのでしょうか? 小説とドラマは別物と負け惜しみを言いつつ、視聴されている方の感想をそのうちうかがってみたいです。


 そうそう、"LAST TO DIE"は十作めと書きましたが、厳密には「本編/長編」では、です。ファン・サービスのための番外編といいますか、短編も二作書いています。もともとは電子書籍版のみでしたが、この原稿を書くにあたってチェックしたところ、シリーズ九作めの"THE SILENT GIRL"ペーパーバック化の際にボーナス・ストーリーとしてうち一作の"FREAKS"が収録されていました。


 シリーズものを追う楽しみのひとつは、お気に入りの固定登場人物ができることでしょうか。エルヴィスもいいけど、やっぱりジョー・パイクよねとか、主役ふたりはともかく、介護士のトムが好き(だから映画にはショックを受けた)とか。〈リゾーリ&アイルズ〉シリーズでは、わたしは断然リゾーリのファン! もちろん、“黄泉の女王”アイルズも好きですが、はっきり言って、二作めから登場する彼女はわたしのなかでは準主役(アイルズのファンのみなさん、ごめんなさい)。当初はリゾーリ主役のシリーズ構想だったのでは……くらいに思っています。でも、悔しい(?)けれど、アイルズの人生はそりゃあもうすさまじいまでに波瀾万丈なので、われ知らず引きこまれてしまうのでした。リゾーリのほうにもすごい身内がいますが……(苦笑)。


 読者として少々残念に思っていることがひとつ。それは、FBI捜査官のゲイブリエル・ディーンがすっかり忘れられた存在になっていること。ときどき名前だけは出てきますが……。いつか彼がリゾーリとともに大活躍する巻が出るのを期待しています。あ、でも、そうすると、「あの子」が苦難に遭う? そ、それはだめだ……(妄想暴走中)。


 ジェリッツェン自身はなかったことにしたい過去のようですが、初期にはロマンティック(・メディカル)・サスペンスも書いていて(うち二作が邦訳されています)、これがまたうまくておもしろいので、なぜ触れたがらないのかわからないくらいです。といっても、初期の作品を読んだのはそれこそ大昔なので、ちょっとあてにならない印象かもしれません、ということをここでお断りしておきます。再読してみなくては!


 人身売買、臓器売買、カルト教団などといった社会問題も果敢に取りこんできたジェリッツェンの今後にますます期待しつつ、これからも彼女の「追っかけ」を続けていくつもりです。


 全国のジェリッツェン・ファンには「ここにも仲間がいます!」という表明に、未読の方々には邦訳版や原書を手に取るきっかけになれば幸いです。


テス・ジェリッツェンの公式サイトhttp://www.tessgerritsen.com/index.html


辻 早苗 (つじ さなえ)

東京生まれ→関西育ち→横浜在住。サスペンスとロマンスを主食とするホンヤクモンスキー。最新訳書は『偽りのあなたに真実の誓いを』(サラ・マクリーン著/竹書房ラズベリーブックス)。

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