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2017-01-19

第30回:呼延雲のトークショーで感じた中国ミステリに求められること(執筆者・阿井幸作)

 

 世界は2017年を迎えましたが、旧暦を重視する中国では最近ようやく正月らしくなってきて、各所に設置されたままのクリスマスの飾りもようやく仕舞われ始めました。今年の春節は1月27日から2月2日までです。この期間中、日本は中国人観光客で賑わうことでしょう。まぁ私は旧暦の正月も北京で過ごす予定ですが……。

 

 先日1月8日に北京市長富宮(ホテルニューオータニ)近くで作家による作家のためのトークショーが開かれました。

 このイベントは小説や脚本、漫画などの版権を扱う雲莱塢という会社が主催し、本来はこの会社に登録している作家や脚本家のみを対象にしたものなのですが、私はあの手この手を使って何とか潜り込むことができました。

 なぜそこまで行きたかったかと言うと、この日トークするのが本コラムの第20回で取り上げたミステリ小説家・呼延雲だったからです。

 

トークテーマ:怎様把最難的類型小説写到最好■
(訳:最も難しいジャンル小説をどうやって最高のものにしようか)

 

f:id:honyakumystery:20170108141245j:image:w450

【筆者撮影】

 

 当日、彼は中国大陸の本格ミステリ小説家、しかも専業作家(中国のミステリ小説家の大半は兼業)として、50名程度の業界関係者の前で2時間喋り続けました。ファンに向けたトークショーとは異なり、言わば講師として同業者へアドバイスをしているようなものなので創作活動で役に立つであろう実体験やテクニックを披露。事前に参加者から募った質問に答えるという進行だったので話はどれも具体的でした。

 

 ただ、最後の質疑応答の時にせっかくの機会なのに「1日何文字書けばいいのか?」というどうしようもない質問が出たことに私は呆れましたが、もしかして中国ではそれすらも調べられないのだとすれば、こういう場がビジネスチャンスに繋がるのではと思いました。今回のイベントは無料公開でしたが、せっかく版権会社が主催しているのだから素人や新人作家を対象にした有料の講座を開き、彼らをまとめて会社で囲むとかはどうでしょうか。

 

 トークショーでは「中国の作家は普段から知識を蓄えておくべきだ。京極夏彦みたいに。付け焼き刃の知識で書いたところで読者にはバレる」とか、「本格ミステリなら売れる確率が高くなる。真似るなら日本より欧米のミステリだ、日本ミステリのように文芸的、感動的な作品は中国国内では受けない」など技術的なアドバイス、そして中国でミステリが売れない原因などを詳しく語っていました。本来ならこれが今回の主題なのですが、私の興味は完全に別の点にありました。

 

今回のトークで私が注目したのは、ミステリ・サスペンスを題材にした小説やドラマの検閲が最近厳しくなっている(少なくとも私はそう思っている)ことに呼延雲が触れるかどうかでした。そしたら「(中国の作品で)警察が犯人ってことは絶対ありえませんよね?」と平然と表現規制に言及し、一般人を罵倒しない警官なんかいるはずないのに書けない、犯罪の手段も詳細に書けない等の愚痴を披露。参加者はみな笑っていました。

 

 このあたりの感覚は私も強く持っていて、中国ミステリにでてくる警官は真面目過ぎて現実とのギャップが大きすぎるのではと不満でした。だから前回の第29回では、清廉潔白のイメージとかけ離れた不良警官が出る作品を書ける台湾ミステリに対する羨ましい気持ちを述べました。

 

 では、呼延雲の作品で警察はどのように扱われているのでしょうか。

 

 2009年に出版された呼延雲のデビュー作にして2016年に再出版された『嬗変』(訳:変遷)及び『黄帝的詛語』(訳:黄帝の呪文 2014年)を読んで確かめてみましょう。

 ちなみに以前紹介した『烏盆記』を含め、呼延雲が今まで出した5作品は全て作者と同名の探偵・呼延雲が活躍するシリーズものです。

 

『嬗変』

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売春婦を凄惨な方法で虐待し、現場にマッチ箱を置くと言う犯罪者の登場に警察は威信をかけて捜査をするも、その後も何の進展もないまま次々と女性を狙った殺人事件が発生する。

 

 そのため、警察と市の上層部は事態を打開するために外部から協力を仰ぐことを決めた。そこで大学教授の林香茗が捜査班のリーダーに任命され、その他に新聞記者の郭小芬、探偵の呼延雲が加わり、一連の事件に真犯人と模倣犯がいることを突き止めるのだが捜査線上に浮かんだのは警察も躊躇するほどの大物だった。

 

 

 

 

『黄帝的詛語』

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 中国史の裏に潜む『断死師』という存在。彼らは豊富な医学知識と鍛えられた眼力によって人の死を予見することができ、伝説的な名医の華佗や名探偵・霍桑(中国の作家程小青が創作した人物。シャーロックホームズを意識した造形で中国のホームズと呼ばれる)も『断死師』であると伝えられている。

 ある大企業の社長が断死師に死を予言されて不可解な死に方をするが、それは現場に居合わせた法医学者の蕾蓉をはめるための罠だった。不法な臓器工場を経営する上で障害となる蕾蓉から職務を奪うため警察の一部が彼女を冤罪に陥れる。警察と探偵組織が彼女を追う中、はたして呼延雲らは蕾蓉の潔白を証明できるのか。

 

 

  

『烏盆記』

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 北京の公安処長・林鳳衝の大捕り物に協力した元刑事で記者の馬海偉が現場となった無人の花屋にいるとラジオから京劇の『烏盆記』が突如流れてくる。心霊現象かと恐怖していると、そこで京劇の内容にそっくりの真っ黒い器(烏盆)を見つける。まさかと思い烏盆を割ってみるとなんと成人の臼歯が出てきた。これはきっと自分が警察官時代に捜査を妨害されて解決できなかった違法の窯場の崩落事件による犠牲者の物だと理解した馬海偉は単身現地入りし、今度こそその窯場の所有者である趙大こと趙金龍を捕まえようと決意する。しかし現地で、烏盆の中には過去に趙大に大金を奪われて殺された自分の父親が入っていると訴え、趙大への復讐を誓っている翟朗という青年と出会う。そして事件の関係者が揃う中、疑惑の大元である趙大は密室で死体となって見つかる。事態は新たな展開を迎え、捜査に参加することになった林鳳衝は名探偵・呼延雲に協力を仰ぐ。

 

 呼延雲シリーズにはこの他に『鏡殤』(2010年)と『不可能幸存』(2011年)がありますが、読んでいないのでここでは触れません。

 

 3冊に共通しているのは、異常な事件が発生し警察の手に負えないので探偵に協力を仰ぎ、最終的に探偵が事件を解決するという流れです。この作品に限らず、探偵が出てくるミステリは大体こういう流れですので今更言う必要もないですが、呼延雲シリーズでは名探偵・呼延雲以外に民間のミステリ団体が多数登場し、警察の存在が益々脇に追いやられます。

 例えば『黄帝的詛語』では愛新覚羅・凝という天才女子大学生率いる『名茗館』という探偵組織が警察の捜査に協力し無実の蕾蓉を追い詰める(要するに推理ミス)わけですが、捜査の主導権は単なる民間団体でしかない『名茗館』にあり、欧米の先進的な捜査技術を持つ彼らは中国警察を見下しています。

 

 作中では愛新覚羅・凝を含む『名茗館』はいかにも憎たらしく描かれていて、偉そうにしている彼らが呼延雲らに論破されるシーンが痛快なのですが、前述した作者の言葉を思い返すと、探偵組織が出てくるというフィクション性の高い作品とは言え、果たして民間人が警察を小馬鹿にするような描写を書いて良いのかと、一読者として考えてしまいます。

 

『黄帝的詛語』はもともと、『断死師』というタイトルだったのですが審査の段階でタイトルに『死』が入っているのが引っかかり、現在のタイトルになったそうです。また、違法の臓器移植というデリケートな問題を描いているためか、作者は注意を受けたそうです。結局本は出版されているので軽い処分だったのでしょうが、処分の度合い次第では出版停止措置にまで至ったのでしょうか。

 

中国のミステリ小説家に求められること

 

 トークショーで「若い頃は怖いものがなかった」と語った呼延雲ですが、現在は専業作家として食っています。もし今後、中国ミステリに探偵を登場させるのが難しくなった場合、彼はシリーズとともに心中するのでしょうか。

 

 さらに彼はこうも言いました。「作家は政治をわかっていなければいけない」と。

 これは世の作家は社会派ミステリを書けという意味ではなく、新聞を読んで政治的に敏感な話題を理解し、問題のある描写を「書かない」ための情報収集を怠るなと言っているのでしょう。

 実際、作家側がいくら努力をしようが政府の胸三寸で規制される可能性は大いにあります。「作家は政治をわかっていなければいけない」という言葉は政府におもねっているように聞こえますが、くだらない規制でせっかくの作品を消されてたまるかという意地を感じます。面白い作品を書いても世に出なければ話になりません。そのためには「上に政策あれば下に対策あり」という中国のことわざのように、現状を熟知していることが大事です。中国のミステリ小説家はいい作品を書くためにあらゆる面で勉強しなければならず、また流行を知る他、空気を読む能力も求められます。このようなストレスの多い環境下で生まれる作品はきっと創意工夫を感じられるものになるでしょう。と言うよりも、読者の一人としては、状況が変えられないのであればせめて規制の中から何が生まれるのか楽しまなくてはやってられないのです。

   

阿井 幸作(あい こうさく)

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中国ミステリ愛好家。北京在住。現地のミステリーを購読・研究し、日本へ紹介していく。

・ブログ http://yominuku.blog.shinobi.jp/

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