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2017-02-08

第1回 フランス語未訳短篇発掘プロジェクトって何?(執筆者・高野優)

 

 皆さまこんにちは。フランス語翻訳家の高野優です。毎日、寒い日が続きますね。それでも窓から入ってくる日差しは明るく、それだけを見ているともう春が来たようです。まさに「光の春」ですね。このまま暖かくなって、本格的な春を迎えたら、翻訳ミステリー大賞の発表もまもなくです。

 

 さて、翻訳ミステリー大賞の授賞式では、一昨年から「フランス語短篇翻訳コンテスト」の表彰式を行ってきました。これは会を運営するシンジケートのご好意によるものですが、参加者の皆さまには、いったいこの表彰式はなんなのだろう? どんなところが主催して、どんな目的があるのだろうと不思議に思っていらっしゃる方がいるかと存じます。そこで、本稿ではそういった皆さまの疑問にお答えし、私どものプロジェクト、そして表彰式にご理解をいただきたいと思っております。

  

 まず、主催するのは、「フランス語未訳短篇発掘プロジェクト事務局」で、その母体は高野が主宰するフランス語翻訳教室で、メンバーは教室で一定の課程を修了なさった方に限られています(メンバーは100人ほどで、そのなかには以前高野が教鞭をとっていた翻訳学校 Babel University時代の修了生も含まれています)。また、顧問は文芸・ミステリの分野で幅広い活躍をしていらっしゃる書評家の吉野仁さんにお願いし、毎回、全作品に目を通していただいて、ご講評をいただいています。

 

■フレンチミステリの魅力を紹介したい

 目的は、その名前のとおり、フランス語で書かれた未訳短篇を発掘することです。皆さまもご存じのように、ここ数年、文春文庫で刊行された『その女アレックス』をかわきりに(訳者の橘明美さんはBaBel時代の修了生です)、フレンチミステリが注目されていますが、その独特の味わいもあって、その魅力が十分に理解されているとは言えません。その一方で、フランスにはそのちょっとひねった魅力を理解していただければ、面白い作品がたくさん眠っています。

 そうなったら、まずフレンチミステリの独特の魅力を伝える作品を読者の皆さんにご紹介するのが一番だということになりますが、いきなり長篇となるとなかなか出版が難しく、かといってレジュメだけではその魅力が十分に伝わりません。作品の魅力を理解していただくためには、作品を読んでいただくしかないからです。もしそうなら、短篇のほうが雑誌などで紹介しやすく、気楽に作品を読んでいただけるという利点があります(実際、第1回の優秀作品は早川書房の『ミステリマガジン』2015年5月号で紹介されています)。また優れた短篇の作者は当然のことながら、優れた長篇も書くと思われます。したがって、未訳短篇の発掘が未訳長篇の発掘にもつながると考えています。ともかく、フレンチミステリならではの魅力を皆さんに味わっていただきたいというところから始まって、未訳短篇の発掘がそのきっかけとなればというのが、このプロジェクトの第一の目的です。

 

■フレンチミステリの訳者を育てたい

 もうひとつの目的は、フレンスミステリを訳す翻訳者を養成することです。あたりまえのことですが、海外ミステリを出版して、読者の皆さんに楽しんでいただくためには、そのミステリを日本語にする翻訳者が必要です。けれども、その翻訳者を養成するには、それなりの時間がかかります。ミステリを単独で翻訳するには、勉強を始めてから早くても5年は必要ではないでしょうか? といっても、教室のほうは2年から3年で修了になりますので、翻訳者を目指す人は、教室での勉強とはちがうかたちで腕を磨く必要が出てきます。だとしたら、翻訳者を目指す人に面白い未訳短篇を発掘してもらい(これによって、作品を見る目が鍛えられます)、その面白さを伝える訳をつくって、メンバーがひとりの読者としてその作品を読み、コンテストをしたら、優秀な作品が発掘できるいっぽう、翻訳者を目指す人のステップアップにつながるのではないか? そう考えたわけです。翻訳を勉強して教室で優秀な成績を収めた人がプロの翻訳者になるためには目に見えない壁を越える必要があって、その壁は自分の訳したものが読者の目にさらされることによってはじめて越えられます。未訳短篇発掘プロジェクトの一環として短篇翻訳コンテストをするのは、そういった目的があるのです。 

 

 そういった目的で、3年前から始めたこのプロジェクトですが、現在、ミステリを中心に50冊ほどの短篇集に収められた1000以上の短篇(古典から現代まで、またノワールからサスペンスまで幅広い分野にわたっています)から傑作を見つけようと、メンバーが片端から読んでいき、その結果、これは面白そうだと選んだ短篇が2014年度は42篇、2015年度が39篇、そして2016年度は38篇、合計で119篇訳されています。

 

 そして、2016年度の優秀作品については、本年も翻訳ミステリー大賞を運営するシンジケートのご好意により、4月22日に行なわれる大賞の公開開票式&授賞式で、表彰式を行なう予定になっています。ただ、版権の問題があって、せっかく優秀作品を表彰しても、その作品を皆さまに直接ご紹介することができません。これは大変残念です。また、皆さまのほうも、「作品を読んだこともないのに、またすぐに読めるわけでもないのに、コンテストの結果だけ知らされても」というお気持ちがあるだろうと思います。その点につきましては、受賞の決まった作品の内容や作家についての情報を別途お知らせするいっぽう、たとえば、そのうちに翻訳された短篇がたまったら、顧問である吉野仁さんに選者になっていただき、『フランスミステリ短篇傑作集』を編んでいただくなど、なるべく早い機会に、皆さまに素晴らしい作品をご紹介し、フレンチミステリの魅力を味わっていただけるような企画を考えていきたいと思っています。

 

 というわけで、現在のところ、きわめて地味なプロジェクトではありますが、こういった地道な活動がやがて、フレンチミステリの傑作の発見につながり、その傑作を『その女アレックス』の橘さんの訳のような素晴らしい訳で読んでいただけることにつながるのではないかと考えています。

 どうぞこの「フランス語未訳短篇発掘プロジェクト」及び「フランス語短篇翻訳コンテスト」を温かい目で見守ってくださるよう、よろしくお願いいたします。

 

高野優(たかの ゆう)

 フランス語翻訳家。高野優フランス語翻訳教室主宰。白百合女子大学大学院非常勤講師。訳書にヴォートラン『パパはビリー・ズ・キックをつかまえられない』『グルーム』、カミ『機械探偵クリク・ロボット』『ルーフォック・オルメスの冒険』ほか多数。

 

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