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2017-02-15

第31回:中国人ミステリ読者とのインタビュー(執筆者・阿井幸作)

 

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 中国では毎年の春節(旧暦の年末年始)に爆竹・花火を打ち鳴らして新年の訪れを慶ぶ風習がありますが、近年は環境保護の観点から煙による大気汚染を防ぐために自粛する傾向に進んでいます。今年の北京は例年以上に締め付けが厳しく、ニュースによると、毎年この時期だけに設営される北京の花火売り屋(写真上参照)の店舗は去年より208か所少なくなったばかりか、ある地区では売ること自体許可されなかったようです。

 

 そのため、北京は春節連休中に快晴が続きましたが、この天気はいわば2017年の中国を象徴するもので、相変わらず手を付けやすい所から規制していくなぁという印象を受けました。今年もつまらないことで困らされることになりそうです。

 

 さて、本稿ではこれまで中国のミステリ小説家、翻訳者とインタビューしてきましたが、今回は読者の1人にスポットを当てました。

 

 今回インタビューを受けてくれたのは辻田秋川(もと棄之竹)というハンドルネームで活動している中国ミステリ界隈では名の知られた人物であり、天津の大学に通う学生で日本語を勉強しています。私は彼とは去年の上海ブックフェアで知り合いましたが、ミステリ小説の知識、とりわけ日本ミステリの読書量に驚かされました。

 

阿井:月に何冊本を読みますか。またその内訳は?

辻田:だいたい30冊ぐらいです。日本の小説が最も多く、原文でも読みます。

 

阿井:原文で日本のミステリ小説を読みますか?

辻田:月に一冊のペースです。

 

阿井:日本のミステリ小説家で好きな作家はいますか?

辻田:大好きな作家は3人います。1人目は江戸川乱歩で中でも『陰獣』が好きです。次に島田荘司占星術殺人事件。そして京極夏彦魍魎の匣です。いずれも刺激的で面白いですから(注:いずれも中国語訳済)

 

阿井:2016年の上海ブックフェアには伊坂幸太郎が来て、2014年には島田荘司麻耶雄嵩が来ています。次に誰が来てほしいですか。

辻田京極夏彦です。

 京極夏彦は非常に魅力的な日本の小説家です。彼が創った妖怪を題材にしたミステリは独創的なスタイルだと言えます。このようなスタイルは中国ではまだ生まれていません。もし京極夏彦が中国に来たらきっと中国の作家に独自の経験を教えてくれるでしょう。それに京極夏彦は中日両国の文化に非常に精通しているので、きっと文化的な交流にも繋がることでしょう。

 

阿井:日本人作家のサイン本もたくさん持っていますが、どのように手に入れるんですか。中でも一番大切なのは誰のですか。

辻田:いろんなサイン会に出て手に入れます。

 一番大切なのは島田荘司のです。大好きなミステリ小説家ですから。

(注:例えば2016年の上海ブックフェアでは吉田修一伊坂幸太郎が来た。島田荘司は2014年の上海ブックフェア以外にもちょくちょく中国に訪れている)

 

阿井:中国では毎年数多くの海外ミステリが出版されていますが、この現状に満足していますか?

辻田:不満です。

 中国には保守的な思想の制限があって、ポルノやバイオレンス描写などがある作品はスムーズに出版できません。あと、中国のミステリ小説市場がまだ小さく、出版社の利益を保証できないので、多くの名作の出版が困難になっています。

 

阿井:中国ミステリの特徴と短所はなんだと思いますか?

辻田:特徴:百花繚乱なこと

 実は中国国内のミステリ小説は長年にわたる進歩と過程を経て相応の実力を持っています。ただ、政策や利益などの問題があるので発展していくのが難しいのです。『唐人街探案』『心理罪』『法医秦明』などのサスペンス・ミステリ映画がヒットしてから、ミステリ―要素は売上をアップさせる上ですでに欠かせないものとなっています。時機(中国の創作活動に対する制限が緩くなるとき)さえ来れば中国ミステリはきっと火山が噴火するかのように様々な作品が生まれると思います。

 短所:傲慢なこと

 作品が粗製濫立されている現状は作者の傲慢な気持ちを表していると思います。

 

阿井:2017年の中国ミステリに何を期待していますか?

辻田:中国ミステリが様々な制限を振り切って素晴らしい作品を生み出すことです。

 

阿井:中国ミステリは将来的に作家も作品もますます増え、発行部数も増していくと思いますが、個人的に内容にはあまり期待していません。中国ミステリはますます公安小説化し、警察を主人公にする物語が占め、名探偵が消えていくと思います。中国ミステリは今後どのような方向に進むと思いますか?

辻田:中国特有の愛国主義的なミステリや警察小説が増えていくと思います。また、ミステリ小説がパターン化していくと思います。つまり、中国のお国柄はさておき、もしも中国の作家や映画会社が東野圭吾または『唐人街探案』だけを倣って利益重視になると、お金を稼げるミステリ小説はパターンが決まっていくことになると思います。

(注:中国ミステリを読んでいると明らかに東野圭吾の、特に『容疑者Xの献身』白夜行を意識した作品に出会うことがある。)

 

阿井:現在、稲村文吾が『現代華文推理系列』『ぼくは漫画大王』などの日本語訳を出し、中国ミステリが徐々に日本に浸透していっていますがこの点について何か意見はありますか?

辻田:非常に意義のあることだと思い、私も嬉しいです。中日両国の文化交流の発展に繋がると思います。

 

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阿井:日本語訳が出て欲しい作品はありますか?

辻田『清明上河図密碼』(清明上河図コード)です。面白いミステリ小説(特にシリーズ作品)に最も重要なのは作品自身の構成です。冶文彪の『清明上河図密碼』は宋の時代を舞台にした歴史サスペンス小説で構成のみならず、考証も素晴らしく、読者から称賛を受けています。この作品は現代中国のサスペンスですので個人的にはこの本の日本語版が出てもっと多くの読者に読まれればと思っています。

(注:清明上河図密碼とは2015年に出版された本で、絵の中に隠された暗号を解き明かすという作品。ダン・ブラウンダ・ヴィンチ・コード(中国語タイトル:達芬奇密碼)のヒット後、中国では『蔵地密碼』山海経密碼』など『密碼』の名の付く小説が出てきたが、本書はこれらとは一線を画すと言われている)

 

阿井:日本の読者にオススメしたい中国ミステリは?

辻田『清明上河図密碼』『鏡獄島事件』です。

(注:『鏡獄島事件』は2016年の時晨の作品。第27回で紹介済→ http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/20161027/1477525446

 冶文彪『清明上河図密碼』はさっき紹介したので時晨『鏡獄島事件』について説明しますと、これは時晨の数ある佳作の中の一つです。時晨の作品は本当の意味で本格ミステリであり、彼自身非常に努力家で長期にわたる創作活動の中で絶えず自身を磨き上げていき、作風もますます際立っていきました。

 中国ミステリと日本ミステリに差があることは私も理解していますが、日本ミステリもブームになる前は欧米ミステリと大きな隔たりがありました。しかし江戸川乱歩横溝正史のような作家がいたため今日の発展を築けました。ミステリ(探偵小説)が抑圧されていた時代にも彼らが絶えず奮闘していた甲斐があって現在の日本ミステリがあります。冶文彪も時晨もどちらも今後の中国ミステリの発展において欠かせない重要な作家ですのでこの二人の作品をオススメしたいと思いました。

 

阿井:以前ネット上で小説を公開していましたが、将来ミステリ小説家になりたいですか?

(注:99話の掌編怪談を執筆した彼の『夏祭百物語』は次のリンクから読めます:目次一覧

辻田:なりたいですがたぶん社会派になると思います。

 個人的に見て本格ミステリは遅かれ早かれパターン化が避けられないので衰退していくと思います。それに「人間性」の謎を深く解き明かす方がトリックよりも面白いです。社会にはネタが無尽蔵にありますし、いま世界で起こっている様々な事件の方が小説よりよっぽど奇妙です。今後、社会派ミステリは単に社会や人間の暗部を暴露する作品ではなく一種の寓話のような存在になると私は考えています。だから、なるのであれば社会派の作家になりたいですね。

 

 

 中国ミステリに閉塞感を抱いている辻田秋川は読者の視点で今後の中国ミステリの見通しを語ってくれました。インタビューに出て来る『パターン化』とはヒット作の話の展開やキャラ設定を真似して、手本となるモデルが出来上がることを指しているのでしょう。中国は現在『IP熱』(原作ブーム。小説や脚本など原作の著作権を買い取って映画・ドラマ化を進めること)ですので二匹目のドジョウ狙い作品がどんどん画一化されていく可能性はあります。

 一口にパターン化が悪いとは言えませんし、パターンができることで新しい作家が新規参入しやすくなるメリットがありますが、中国ミステリってどれも似たような展開ばかりと誤解されてほしくはないので彼の懸念が当たらなければいいのですが。

 

 また、中国の表現規制が緩むことは多くの読者の願いでもありますが、じゃあどうすればいいのか、その方法は読者の手に委ねられておりません。だから表現規制は今後ますます厳しくなることはあるにせよ緩むことはなかなかないと思います。ミステリは儲かるということ、そして中国国外でも受けることを中国政府が理解すればお目こぼしを貰えるかもしれませんが、しかし国情にそぐわない作品がお上に気に入られ、ましてや支持される可能性は低く、結局のところたとえブームが来たとしてもそれは中国ミステリの更なるパターン化・警察小説化に繋がるだけになるでしょう。

 

 辻田秋川のように中国ミステリの現状に不満を持ちながらも将来に期待している読者は少なくないでしょう。大げさかもしれませんが、彼のように海外ミステリと中国ミステリに精通している読者がこの業界を盛り立てていき、作家や出版社を支えていくことが全体の成長の手助けとなります。そのため、辻田秋川にはもっと発言してもらいたいのですが、最近とある事情でウェイボーアカウント(棄之竹名義)を削除されてしまい、あまり無責任に背中を押せないです。

 

 ちなみに辻田秋川という少々奇妙な名前は綾辻行人島田荘司中禅寺秋彦江戸川乱歩から一文字ずつ取ったそうです。是非ともこの名前のままプロ作家としてデビューしてほしいです。

   

阿井 幸作(あい こうさく)

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中国ミステリ愛好家。北京在住。現地のミステリーを購読・研究し、日本へ紹介していく。

・ブログ http://yominuku.blog.shinobi.jp/

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