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2017-06-15

書評七福神の五月度ベスト発表!

 

書評七福神とは翻訳ミステリが好きでたまらない書評家七人のことなんである。


 今月も書評七福神がやってまいりました。先月のこの欄更新時には杉江松恋はえっちらおっちら箱根山を越えていたわけなのですが、その後日を改めて三島宿から吉原宿までまた歩いてきました。6月の陽射しですっかり灼けたのですが、その後AbemaTVというところで生放送に出る機会があり、失敗したなと思いました。ドーランでも隠しきれない日焼け痕が。頭にタオルを巻いていたので額に境界線ができて、まるでベビーカステラでしたよ。境界線といえば国境を越えておもしろいのが翻訳ミステリー。というわけで今月も始まります。

 

(ルール)

  1. この一ヶ月で読んだ中でいちばんおもしろかった/胸に迫った/爆笑した/虚をつかれた/この作者の作品をもっと読みたいと思った作品を事前相談なしに各自が挙げる。
  2. 挙げた作品の重複は気にしない。
  3. 挙げる作品は必ずしもその月のものとは限らず、同年度の刊行であれば、何月に出た作品を挙げても構わない。
  4. 要するに、本の選択に関しては各人のプライドだけで決定すること。
  5. 掲載は原稿の到着順。

川出正樹

プリズン・ガール』LS・ホーカー/村井智之訳

ハーパーBOOKS

プリズン・ガール (ハーパーBOOKS)

 Kick ass,badass! 色々と荒削りで回収し切れていないエピソードもあるんだけれど、この勢いと、なにより主人公ペティの魅力の前には、そんな細かいことはすべて吹き飛んでしまった。

 十八年間、カンザス州の片田舎で父と二人だけで暮らし、学校にも行ったことがなければ一度も町に出たこともない少女ペティ。世間から隔離され、なぜか銃火器の扱いと体術を教えこまれてきた少女が、父の死を契機に普通の人生を送るべく、生まれて初めて自分自身で考え、行動し、理不尽な状況に抗い、一人の青年と手を携えて強欲な輩に闘いを挑む。国際スリラー賞最優秀新人賞にノミネートされた、スピード感溢れる“闘うガール・ミーツ・ボーイ”のパワフルなれど健気な活躍に胸が躍る。

 今月は、エドワード・ケアリーの《アイアマンガー三部作》第二部『穢れの町』(東京創元社)も猛烈に推したい。それにしてもケアリーめ、なんてところで終わってくれるんだ。第一部『堆塵館』のときも大概だったけれど、今回、こんなところでTo be continued. とは! 前作で敷かれた伏線と布石が、次々と効果を発揮し、一段と大きく躍動的になった物語に身を委ねていたら、もうめくるページがないなんて。ああ早く、第三部『肺都』が読みたい。


霜月蒼

プリズン・ガール』LS・ホーカー/村井智之訳

ハーパーBOOKS

プリズン・ガール (ハーパーBOOKS)

 世界は危険な敵でいっぱいだ――そう告げる父親に半ば幽閉されるように田舎の一軒家で育てられ、護身術・射撃・格闘技などを叩きこまれた20歳の娘は、ある朝、父が突然死を遂げているのを見つける。身を守り、敵を倒すことしか知らない彼女は突如、外界に放り出された。そして父の遺言がキッカケで、孤独な娘に悪意が牙を剥いた……

 卓抜な着想をボーイ・ミーツ・ガールの瑞々しさで調理、仕上がりはノンストップ・サスペンスだが、ロード・ノヴェル=成長小説のプロットが謎の探索とかみ合い、最後には若い女性が自分のために自分の意志で戦う冒険小説となるのである。快作。

 ただ、ある一点が個人的には気になるのだが、読んだ者同士でそこについて議論するのも面白いかも。今月は豊作なので七福神の推しが割れそうだが、ほかにSFスリラー『巨神計画』(シルヴァン・ヌーヴェル/創元SF文庫上下)なども楽しみました。



吉野仁

『ささやかな頼み』ダーシー・ベル/東野さやか訳

ハヤカワ・ミステリ文庫

ささやかな頼み (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 語り手は、ある母親ブロガーで、「息子の友だちのお母さんが失踪した」というのが話の発端。なのだが、その母親も、失踪したママ友の母親も、さまざまな秘密を抱えていたり、表と裏を使い分けて何か企んでいたりという化粧と腹黒のサスペンスが全面展開していく物語である。これはもう明らかにギリアン・フリン『ゴーン・ガール』の影響がうかがえ、いささか極端で強引に思える場面もあるものの、人物造型や細部は作者ならではの巧さを見せている。極端で強引といえば、LS・ホーカー『プリズン・ガール』もそうした設定で出来上がっているかもしれないが、闘うヒロインの姿が印象に残った。あとは、なんといってもエドワード・ケアリー『穢れの町』(アイアマンガー三部作 2)で、1同様、この先どうなっちゃうのはやく続きを知りたい、という驚愕のラストだ。完結したらまた最初から通して三冊読みたくなること必至である。


北上次郎

『サイレント』カリン・スローター/田辺千幸訳

ハーパーBOOKS

サイレント 上 (ハーパーBOOKS) サイレント 下 (ハーパーBOOKS)

 サラ・リントンを主人公とする「グラント郡シリーズ」は、2002年に翻訳された『開かれた瞳孔』から始まったが、全6巻で一応の終幕を迎え、2006年から始まったウィル・トレント・シリーズにサラは出張出演していく。その「新ウィル・トレント・シリーズ」の第1作『ハンティング』で初めてこの作家の真価に気がついた私はあわてて『開かれた瞳孔』に遡ったが(これがすごいのなんの)、問題は「グラント郡シリーズ」の第2〜6巻がいまだに未訳であることだ。サラの夫ジェフリーの死でこのシリーズは一応完結したというのだが、具体的にどういうことがあったのか知りたい。そこで早川書房さんにお願い。『開かれた瞳孔』を復刊し、次に第2〜6巻を翻訳してもらえないだろうか。復刊帯のメインコピーはすでに決めている。

 本書は2002年のベスト1である−−と2017年になって気がついた!

 あるいは

 カリン・スローターはここから始まった!

 これでどうだ。

 ということを考えたのは、本書『サイレント』を読んだからである。サラはまだジェフリーを忘れていないのである。その熱い感情がこの物語の底を流れている。若い女性の死体が発見され、容疑者として逮捕された男が自供したのちに留置場で自殺。地元警察の失態としてジョージア州特別捜査官のウィル・トレントがこの地にやってくるという筋立てだが、とりたてて珍しくもないこの話を色彩感豊かな物語にしているのは、サラの熱い感情にほかならない。

 ラストまで一気読みの傑作だが、これを読み終えると、「グラント郡シリーズ」を全部読みたいという思いがどんどん大きくなっていく。


酒井貞道

『ささやかな頼み』ダーシー・ベル/東野さやか訳

ハヤカワ・ミステリ文庫

ささやかな頼み (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 ママ友の友情の裏に隠された、スケール矮小な悪意を無駄にねちねちと描く、露悪的なB級ミステリなんだろうなあ……と斜に構えつつ読み始めたところ、ノワールと言い得る程にドス黒いものが噴出する作品でびっくりした。

 中盤に明かされる驚愕の事実(複数)により、登場人物は誰も彼もが一気にアンダーグラウンド臭を放ち始める。しかしもっと注目したいのは、序盤から、主人公の言うことがブログとモノローグとで違う点である。「本音と建前が逆」というよりも、「公言していることと独白がずれている」と言った方が近く、この結果、主人公は、信用できない語り手としての性格を帯びる。これに加えて、語り口自体には露悪趣味がなく、語り手は語り手なりに懸命に生きていることがしっかりわかるように書かれているので、本書は皮相なご近所イヤミスではなく、より根深い何かとして結実する。衝撃の事実発覚後の展開も、劇的で非常によろしい。オススメです。


千街晶之

グラウンド・ゼロ 台湾第四原発事故』伊格言/倉本知明訳

白水社

グラウンド・ゼロ 台湾第四原発事故

 2015年、台湾北部の第四原発がメルトダウンし、一帯は立入禁止区域となった。その時に記憶を失ったエンジニアは何故か軟禁状態に置かれ、彼の治療を担当する心理カウンセラーの周辺でも不穏な出来事が……。原発事故の日に向けての物語と、事故後の総統選挙に向けての物語という二種類のタイムリミットを並行して進行させながら、実在の台湾の政治家やメディア関係者も大勢登場するパラレルワールドSFのかたちで現実と虚構を巧みに重ね合わせた迫真のサスペンス小説だ。主人公が最後に直面する衝撃的な真実は、原発事故が社会にもたらす分断そのものを表現している。アジア初の脱原発国家の道を歩みはじめた台湾から届けられたこの物語を、日本の読者は果たしてどのように受け止めるだろうか。


杉江松恋

『穢れの町』エドワード・ケアリー/古屋美登里訳

東京創元社

穢れの町 (アイアマンガー三部作2) (アイアマンガー三部作 2)

 月末にこれを読んで以来、他の小説を選ぶなんて絶対無理、一晩でも『穢れの町』の話がしたい、というような状態になったので一も二もなく『穢れの町』なのですよ。

 エドワード・ケアリーが十年の沈黙を破って発表した〈アイアマンガー三部作〉の第二作、前作『堆塵館』はごみの売り買いで富を築いた一族の少年とメイドとしてやってきた少女が出会うボーイ・ミーツ・ガール・ストーリーで、巨大な館の中で物語が完結するゴシック・ロマンス風趣向が素敵だったのですが、今回のお話はその堆塵館を飛び出て周囲の町で繰り広げられる。これがまさかのレジスタンス小説で、強大な力を持つ者が弱者を迫害するという救いようのない図式の中に前作の結末で明かされた〈誕生の品〉の謎が絡んでいくわけですね。エキレビ!に書いたレビューで『堆塵館』は『未来少年コナン』のインダストリアみたいだと書いたのだけど、本作もそれは引き継がれ、民衆対権力者という図式が浮かび上がってきます。設定はファンタジーのそれなのだけど、時代設定が前作以上に明確にされることによって実際の歴史と接近し、現実を脅かすグロテスクな影が物語に落ちてくるのでした。両世界大戦下を舞台にしたエスピオナージュが好きな人にはお薦め、エリザベス朝の歴史ミステリー・ファンにももちろんお薦め。本シリーズにはケアリー自身によるイラストが添えられていますが、その破壊力も素晴らしい。これを読まないなんて絶対に後悔する、と断言できる無類のおもしろさでございました。


 時代を反映してか黒い淀みが根底にある作品が多く選ばれた月という気がいたします。2017年の翻訳ミステリー動向からますます目が離せなくなってきました。来月もどうぞご期待ください。(杉)

 

書評七福神の今月の一冊・バックナンバー一覧

 

グラウンド・ゼロ 台湾第四原発事故

グラウンド・ゼロ 台湾第四原発事故

未来少年コナン Blu-rayボックス

未来少年コナン Blu-rayボックス

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