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第八回翻訳ミステリー大賞 決定!!

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2012-01-11

第九の刺客:アーロン&シャーロット・エルキンズ(その1)

 自分探しの旅に出ようと思ったものの自分を探すためにはどこに行けばいいのか、そもそも自分とは探すもんなのかと疑問に思いつつ温泉に入ったりご当地グルメを堪能したりしていたところ、ずいぶんとご無沙汰な更新になってしまいました。どうも小財満です。

 久しぶりのコージー、今回の題材はゴルフなんですって。ゴルフと聞いて居ても立ってもいられなくなり『黄金のラフ 草太のスタンス(なかいま強)』と『風の大地(作/坂田信弘・画/かざま鋭二)』をまとめ読みした俺に死角はないんじゃね*1

 プロアマ混合の女子トーナメントに出場中の新人プロゴルファー、リー・オフステッドは練習中に池の中から撲殺死体を発見する。死体の正体はリーのあこがれのトッププロ、ケイト・オブライアンだった。ゴルフ場で起きた事件だというのに、捜査を行うのはゴルフ知識皆無のグレアム警部補(ただしイケメン)。彼に事件を任せてはおけないと、リーはおせっかいなアマ・ゴルファー、ペグと共に犯人捜しを始める。


 言葉は悪いですが、毒にも薬にも……という言葉がぴったりな一冊。いや、完成度という意味ではそれなりに高いと思います。なんせ作者のうち一人はスケルトン探偵シリーズのアーロン・エルキンズである。と、歯切れが悪くなってしまったがこのシリーズ、ロマンス作家でアーロン・エルキンズの妻、シャーロット・エルキンズとの共著なのだ。ちなみに本書、翻訳は最近ですが初出は1989年とかなり古め。スケルトン探偵で言うと『呪い!』あたりと同時期の作品です。

 ゴルフ→殺人事件→恋愛→事件解決と押さえる要素はきっちり押さえてテンポもいいとなれば別に文句はないわけですが、大団円を迎えて読み終えた後には読者に何も残らない、ある意味で娯楽小説のお手本のような作品で物足りないと言えば物足りない。お手軽に読めるものを目指した作品にとって毒にも薬にもならないって褒め言葉なのかもしれねえなあ、てなことを思うわけでした。


 ともあれ本書に関して読者の興味として筆頭にあがってくるのは女子プロゴルフの世界でありましょう。ゴルフといえばセレブリティなスポーツ。金満家の政治家や社長さんが接待に使っているイメージしか私の貧困な頭にはないわけですが、プロ1年目の新人、しかも成績だって大したことがないとなればスポンサーがつくわけでも賞金が入ってくるわけでもなく、その生活は厳しいご様子。従って本作のゴルフ要素は貧乏自慢から始まります。

 貧乏自慢その1。なんせ主人公のリーさん、ツアーの移動は基本的に車、しかも自分で運転。日本国内の話であればまあね、遠いと言っても車で3〜4時間の距離なわけですが、なんせアメリカの話ですからね……。リーさんかわいそうです。

 貧乏自慢その2。自分のクラブは人のお下がり。ゴルフを始める人が親のお下がりをもらうとか中古のクラブを買うという話は聞かないでもないですが、もらい物かよ! プロなのに……(一応トッププロのケイトから最高級品のクラブをもらったという設定あり。でも商売道具くらい自分で買っておくれ!)。

 貧乏自慢その3。そもそも借金がある。米国女子ゴルフツアーにはシーズンを乗り切るのに十分な資金を有している者のみが参加を許される。従ってお金がないリーさんは借金をし、それを自分がもとから持っているお金だと偽ってツアーに参加しているのである。そりゃあお金に困ってるわけだ……リーさんかわいそうです!

 とはいえ別にリーがプロ1年目の新人、すなわち“ラビット”として特殊な環境にあるわけではないらしい。華やかに見えるプロゴルフの世界だが、こうした底辺の裾野が広さがてっぺんを獲った時の輝きをまばゆいものにしているのでしょう。もっと平たく言えばタイガー・ウッズの賞金って数多の激貧ラビットの上に成り立っているもんなんだよなあ……って身も蓋もない。本書ではそんなこんなのプロゴルフの世界を読者にチラ見させてくれるのでした。


 ところでこの作品、殺人事件自体はあんまり見せ場がないのです。確かにゴルフならでのアイデアはあるのですが、これも前半で回収してしまうくらいの伏線。しかも解説で「プロゴルファーにはありえない」と否定される始末。このあたりには目をつぶって、ここではコージーの大事な要素、恋愛(ロマンス)の部分を取り上げてみましょう。

 先に結論から言っておきますと、このシリーズ、「簡単にベスト・ハーフが見つかってシリーズ中ずーっといちゃいちゃいちゃいちゃしている」タイプのようです。リーさんの恋のお相手はといえば一人しかいない、グレアム警部補なのだけれど、個人的に気になるのは主人公のリーさん共々なんというか……非常にチョロい点。もう別にネタバレにもならないというか話の展開で気になるところでもないので言っちゃいますが、出会って3日目には互いに告白→カップル成立というスピード恋愛っぷりですよ。なんともチョロい。君たちチョロすぎやしないか? 色恋沙汰に人がどうこう言う筋合いはないかもしれないが、成田離婚をする手合いというのはこういうタイプではなかろうか。彼らにはぜひとも結婚詐欺なぞに引っかからないように注意していただきたい。

 とまれ、スケルトン探偵シリーズの主人公・オリヴァー夫妻もずいぶんなオシドリ夫婦でして、それを考えれば別段不思議でもないです。ただしシャーロット・エルキンズはロマンス小説の作家ということなのだけれど、シリーズ2作目以降ではこのあたり、うまく盛り上げてくれるのではないかと期待しておきます。ベスト・ハーフもの、しかもカップルの相方が警官というのもジル・チャーチルなんかでよく見た形態で、変に奇をてらったもによりは非常に安心して読めます。よきかな。


小財満判定:今回の課題作はあり? なし?*2

 まあ普通にありでしょう。

 それより個人的に気になったのはこのシリーズ、コージーであることは間違いないものの、コージーの読者に対しての希求力はどの程度のものなのか、ということ。

 コージー・ミステリの要素としてはミステリ、そしてロマンスとそのプラスアルファの部分があると思うのですが、本シリーズに置けるプラスアルファの部分というのは間違いなく「ゴルフ」です。今まで扱ってきた作品を見渡すと、子育て、料理、コーヒー、犬猫などなど、このプラスアルファの部分は女性、しかもインドア派にターゲットを絞って展開しているように思えます。ここでゴルフというアウトドア趣味はコージーの読者にとってどうなのか。さらに言えばゴルフ人口における女性の割合は3〜4%*3(日本国内の場合。なおアメリカでは女性の割合は25%程度)とのこと、あまり女性に馴染みのないスポーツでもありさらにどうなのか。読んでしまえば普通のコージーとして楽しめるはず……ということもあり、このあたり市場的な部分で興味はつきません。

コージー番長・杉江松恋より一言。

 小財先生、ご病気からの回復おめでとうございます(棒読み)。本来は先週掲載予定の原稿が今日アップされたいきさつは、みなさん察してください。きっと後で一月遅れのお歳暮がうちに届くんだろうなー。

 アーロン・エルキンズは達者な作家で、スケルトン探偵のシリーズをこつこつと書き続けています。フォーマット通りの観光ミステリーを書いて、毎作きちんと水準を維持できているという職人技が素晴らしい。そういう作家がコージーを描いたらどうなるか、という点に興味があるので、続けてもう一作行ってみましょう。第二作『悪夢の優勝カップ』が一月二十日発売だ。次回はそれでお願いします。


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小財満

ミステリ研究家

1984年生まれ。ジェイムズ・エルロイの洗礼を受けて海外ミステリーに目覚めるも、現在はただのひきこもり系酔っ払いなミステリ読み。酒癖と本の雪崩には気をつけたい。

過去の「俺、このコージー連載が終わったら彼女に告白するんだ……」はこちら。

*1:つまり小財満のゴルフ知識はフィクションの中でだけ、と言いたかったらしい。

*2:この判定でシリーズを続けて読むか否かが決まるらしいですよ。その詳しい法則は小財満も知りません。

*3レジャー白書・2011

2012-01-04

番外篇:コージー番長よりひとこと

 みなさま、あけましておめでとうございます。

 本日は小財満氏のコージー連載を更新する予定ですが、事情により来週回しになってしまいました。急遽ピンチヒッターで私、杉江松恋がご機嫌伺いにやってまいりました。

 お寒うございますが、風邪など召されていませんか? 正月の松も取れて、いよいよ2012年が始まったという感じですね。


 コージーにまつわる話題といえば、昨年の末にこんなことがありました。

 場所はとある忘年会の席上、書評家の北上次郎氏にある質問を受けたのです。

「あのな、松恋くん」

 はいはい。

「君たちがよく読んでいる〈コージー〉っていうの、あれは〈ブルーノ〉も当てはまるのかな。僕は最近あれを読んで結構おもしろかったんだけど」

 おおー、まさか北上“冒険小説の時代”次郎さんからそういう質問を受けるとは。

 質問のあった〈ブルーノ〉とは、マーティン・ウォーカー『緋色の十字章 警察署長ブルーノ』のことであります。ウォーカーはイギリス人なのだけど、これはフランス南西部の小村サンドニを舞台にした作品です。主人公ブノワ・クレージュことブルーノはフランス人だし、登場人物の大半も同じ。彼はこの小さな村の警察署長――といっても職員は1人だけなので実質は村の駐在さんのようなもの――なのですね。

 このサンドニで殺人事件が起き、村の平和を守るためにブルーノが奮闘する、というのが話のあらましであります。解説で吉野仁さんが「いわゆるコージー・ミステリのごとき読み心地である」と書かれているように、たしかにそういう味がある。読者の誰もが思うことは、「読んでいるとおなかが空く」ということでしょう。南西部フランスの田舎料理のことが魅力的に書いてあって、ブルーノ自身も厨房に立つのが好きな性分です。捜査で知り合った女性が訪ねてくると、サラダを任せておいて、メインの肉は自分で焼いてふるまう。また、小さな共同体らしく村の成員それぞれが顔見知りという人間関係も描かれる。何よりも主人公が、犯人捜しという謎解きの関心と同時に、事件によって乱された村の平和を取り戻すという秩序回復のために動いているところが、コージーっぽさを匂わせています。主人公がまた、変化を求めない性格なんですね。


 コージーの範疇に入るかといえば、厳密に言えば違うと思います。その最大の理由は、事件に政治が分かちがたく絡んでいることです。事件の被害者は、2つの戦争で大きな功を上げたレジスタンスの英雄なのですね。だから犯行も極右の仕業なのではないかと疑われ、中央から国家警察が乗り込んでくる。もちろん、コージーのジャンルに入る小説の中にもそうした政治の話が含まれるものはあるわけですが、決して主題にはならない。中心となるのは主人公を取り囲む小さな世界の話であって、外部から入りこんできた要素はあくまで触媒、もしくは謎解きをミスリードするおとりの役割に留められる、というのがコージーというジャンルの大きな特徴だと私は考えているのです。

 では『緋色の十字章』にいいちばんよく似た小説は何か、と考えて思いついたのがフランスの作家シャルル・エクスブラヤ『死体をどうぞ』でした。もしお手元に本があれば、読み比べてみてください。


 とはいえ、ジャンルが違うから、というだけの理由で読むべき価値のある小説を遠ざけるのは非常に愚かなことです。コージー・ミステリが好きな方に「『緋色の十字章』という作品がすごくおもしろそうなんだけど、どうなの?」と聞かれたら、私はこう答えると思います。

「普段読みなれている作品とはちょっと違う要素が入っているかもしれないけど、スパイスだと思ってください。決して嫌な気分になる小説ではないので、読んで損はないですよ」

 小財満氏にお願いしている連載は、実はここのところを見極めるためにあるのだと思っています。ジャンルじゃなくて、読む人が大事。「こういうのが好きなんだけどなあ」という気分がまずあって、それを満たしてくれるものを求めて本を探すわけです。その本選びのときに頼りになるのがジャンルです。でも逆に、そのジャンルに縛られて「ジャンルが違うから読まない」ということになったらつまらない。本の広がりはそこで止まってしまうからです。

 コージーっぽさ、っていったい何なのか。

 それを考えるため、この連載はもう少しだけ続くのじゃよ。


過去の「俺、このコージー連載が終わったら彼女に告白するんだ……」はこちら。

2011-11-16

第八の刺客:J・F・イングラート(その2)

 犬猫物だってだけでコージー・ミステリに入れちゃっていいのか? うーむ、微妙なところなんだよなー、というところで前回終わっていた〈黒ラブ探偵・ランドルフ〉シリーズ。今回は二作目になってランドルフ君の遭遇するおかしなシチュエーションもパワーアップ、『名犬ランドルフ、スパイになる 』を扱います。それでは張り切っていってみましょー。どどん。


【おはなし】

 黒ラブラドール・ランドルフの元飼い主=ハリーの元恋人のイモージェンが失踪して一年。ランドルフとハリーは警察に呼び出され、彼女がつい数日前まで暮らしていたとみられる下宿を訪れていた。イモージェンが生きているのではと喜んだのもつかの間、彼らは驚きに包まれることになる。なんとイモージェンはその下宿でおきた殺人事件の容疑者になっていたのだ。ランドルフは元・飼い主の容疑を晴らさんと調査を行うため、住人のセラピー犬としてこの下宿に潜り込むことに成功する――が、この事件の後ろには国際的な謀略が隠されているらしく!?


 国際的な謀略って何ぞ……と一巻から比べると急に話が大きくなってきて一抹の不安を覚えるわけであるが、これにはちゃんと理由があって、一巻で明かされたイモージェンの生い立ちが関わっている。これは失踪前には彼女自身も知らなかったことなのだが――なんと彼女はオーストラリアの巨大なウラン鉱脈を有する土地の相続権を持っているらしい。彼女が相続できるのはまだ先のことにも関わらず、この巨大な天然資源をめぐって各国政府が暗躍し、イモージェンに様々な働きかけをしている。そして今回、イモージェンが殺人事件の容疑者になってしまったのもその一環なのである。

 それにしてもこれ、素人探偵もので(素人玄人以前に犬なわけですが)、犬猫もの――とコージー・ミステリの要素はもちろんないではないけれど、今まで読んできたコージーと比べると国際謀略なんて言葉が出てくるくらいなので、その色は薄い。で、かわりに意識させられるのが「あ、これってコメディなのか」ということなワケ。考えてみればワンちゃんが各国政府のスパイたちに混じって事件を探りながらご主人を助ける、なんて構図はコメディのそれではないか。”犬”と”国際謀略”というかけ離れた二つの要因の落差で笑わせてくれるコメディなのだ。


 ところで今回驚きだったのは一巻でランドルフがハリーに意思を伝えるときに重要な役割を果たしたアルファビッツ*1がアッサリと使われなくなってしまったこと。ちなみに理由はといえば、ハリーが足を痛めて(自称)自然療法医にかかったところ「あなたは小麦アレルギーなのでいかなる小麦にも触れてはならない」と言われ、小麦を原料とするアルファビッツも捨てられてしまうため。こう……ツッコんだら負けな雰囲気が漂いますな。

 個人的には四苦八苦しながらランドルフ君がアルファビッツを並べて文章を作る姿は嫌いではなかったのですが、犬が好き放題に意思を人間に伝えられるとするとある種作者のやりたい放題というかあまりに都合よく話を動かせてしまうので、消さざるをえなかったのでしょう。

 で、代わりに登場するのが現代の必須アイテム、インターネット&Eメール。なるほど巨悪に立ち向かうためには犬もテクノロジーを使いこなす必要があるのか! などと思うのもつかの間、実際にランドルフ君がやることと言えば飼い主ハリーのクレジットカードを使って勝手にインターネット・ショッピングをすることくらい。確かに犬がAmazonなんかで買い物ができたら何を買うんだろうって興味はあるけど……ランドルフ君、本当にそんなんでいいのか!?



コージーについて今回まででわかったこと

  1. シリーズとしてはまだまだイモージェンの失踪を中心に話が進みそう。頑張れランドルフ、負けるなハリー。
  2. あんまりコージーっぽくはないけど、背表紙のラベルにはしっかりと「COZY」と書いてある……からコージーなんでしょう。多分。

そして次回でわかること。

それはまだ……混沌の中。

それがコージー・ミステリー! ……なのか?


小財満判定:今回の課題作はあり? なし?*2

ありでお願いします。

 コージーかどうかは置いておいて、犬の目線で人間社会を練り歩く珍道中記というか、前述したように落差を利用したコメディとしてかるーく読めるのはいいところ。別に不満もないので続きも読んでいきたいと思います。

というわけであり


コージー番長・杉江松恋より一言。

〈名犬ランドルフ〉シリーズのすごいところは、最初の枠組みからどんどん外れていって、話が壮大な規模になってしまうところなんですね。こうなるともうコージーという語義からは完全に外れてしまうような気もする。何かに似ていると思ってここしばらくずっと考えていたのだけど、思い出しました。あれですよ。小林信彦〈オヨヨ・シリーズ〉ですよ。あの〈大人の童話〉風の雰囲気がお好きな方はぜひ一度試してみてください。

 というわけで今回でこのシリーズもおしまい。次はもうちょっと正攻法のミステリーに行きましょうか。アーロン&シャーロット・エルキンズ『怪しいスライス』でどうだ! 次はゴルフですよ、みなさん!


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小財満

ミステリ研究家

1984年生まれ。ジェイムズ・エルロイの洗礼を受けて海外ミステリーに目覚めるも、現在はただのひきこもり系酔っ払いなミステリ読み。酒癖と本の雪崩には気をつけたい。

過去の「俺、このコージー連載が終わったら彼女に告白するんだ……」はこちら。

オヨヨ島の冒険 (角川文庫―リバイバルコレクション)

オヨヨ島の冒険 (角川文庫―リバイバルコレクション)

*1:詳しくは前回の記事を参照のこと。

*2:この判定でシリーズを続けて読むか否かが決まるらしいですよ。その詳しい法則は小財満も知りません。