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2017-07-26

第47回 目から鱗が一掃、唯一無二の読書体験―ビネ『HHhH』(執筆者・♪akira)

 

 全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは!

 ノンフィクション・ノヴェルといえば、トルーマン・カポーティ『冷血』を思い出す方も多いのでは。筆者はそれを中学時代に読んで早々にギブアップした暗い過去があるのですが、後年出た佐々田雅子氏による新訳版で再度トライしたところ、これがもう圧倒的な面白さで、訳でこんなにも変わるのか! と嬉しい驚きでした。実はそれまでノンフィクションや歴史ものなど、事実にもとづいて出来事を記録した作品が苦手で、歴史の教科書には「でもこれ書いた人、その場にいなかったよね! 見てないよね!」と不信感を持ち、当時の書物に「全国民に慕われている眉目秀麗のナントカ国王」などと書いてあっても、「脅されて書いたのでは」と疑い続けて今に至ります。同じように思う人は他にもいるはずだけど、多分大きな声では言えないんだろうなあ……と思っていたら、それをそのまま本にしたありがたい人がいたのです!!!

 

 2010年度のゴンクール賞新人賞を受賞したローラン・ビネ『HHhH――プラハ、1942年』(訳・高橋啓東京創元社)は、目から鱗が一掃の超絶作品でした。1942年5月27日にチェコのプラハで起きたナチ高官暗殺事件――暗号名“エンスラポイド(類人猿)作戦”――の顛末を描いたこの作品、今回再読し、あらためて作者がこの事件にいかに魅了されたか、そしてそれに関係した当時の人たちをどれだけ大切に思っているかをひしひしと感じました。膨大な資料の見極めに偏執的なまでにこだわり、実在した憧れの人物を陳腐に理想化せずに、どうやってその偉業を伝えることができるかを、小説内で書き手が自問自答するという斬新さ! しかも、たまにちょっと言い訳したりするのも可笑しいです。

 

 しかしその史実というのが「事実は小説よりも奇なり」であった場合、虚飾を交えずに物語る苦労は相当なはず。というのも、“エンスラポイド作戦”は、成功の可能性が限りなく低く、さらには、実行の結果起きた出来事がアクション映画以上にスリリングで荒唐無稽だったからです。

 

 イギリスに亡命したチェコ政府は、悪名高きゲシュタポの長官であり「金髪の野獣」と呼ばれるラインハルト・ハイドリヒの暗殺計画を実行に移します。任命された二人の若者、スロヴァキア人のヨゼフ・ガブチークとチェコ人のヤン・クビシュはパラシュートでチェコへと降り立ち、現地の協力者たちの助けを借りて、来るべきXデイに備えます。

 本書発表時に30代だった作者は戦争を体験していません。二人の英雄やハイドリヒについて、『暁の7人』死刑執行人もまた死すといった映画を観た上で、あくまでも当時の資料を重視し、再現を試みようとします。そんな作者がガブチークとクビシュの特徴が詳しく書かれた貴重なファイルを偶然見つけて大喜びするくだりは、読み手のこちらも思わずガッツポーズしそうになりました。

 

 小柄でエネルギッシュな熱血漢のガブチークと、大柄で温厚な思慮深いクビシュ。性格もよく女性にもてて、下宿のおかみさんの記録からも二人が好青年だったことがわかります。その後の展開を知るだけに、ハイドリヒを含むナチの想像を絶する非情な思考回路と比べると、より悲劇度が濃厚に。裏切り者の存在も影を落とします。

 

 ついに作戦実行の日、予想もしなかったアクシデントが彼らを襲います。ここから先は一挙にスピードが上がり、スパイもの、戦争もの、さらには捜査もののスリルとサスペンスが待ちうけているのですが、そこで作者が繰り出す驚きの超絶技により、本書は恐るべき唯一無比のものとなるのです。読了後、「なんか凄い本を読んでしまった……」としばしぼーっとしましたが、けして難しい本ではなく、映画のトリヴィアなどもたくさん出てきます。中でも、占領区での国対抗サッカー試合でドイツが負けた試合終了後に、民衆がピッチになだれ込んで選手達を逃がすという、実際の『勝利への脱出』エピソードが出てきたりして映画ファンにも楽しめますし、ハラルト・ギルバース『ゲルマニアで言及されたアルベルト・シュペーアも登場しますので、未読の方はぜひお手に取って下さいませ。

 

 

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 作者の二人への愛は感じられるけど、なんか今回あまり腐ってないなあ…とご不満なあなた! それは映像の方で申し分なく補充されるのですよ!!! 本書の映画化『HHhH』は来年あたり公開が予定されていますが、それに先立ち、“エンスラポイド作戦”そのものを描いた『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』(原題 Anthropoid チェコ、イギリス、フランス合作/2016)が8月12日から公開です。

 

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 前述のアラン・バージェス原作映画『暁の7人』(米/1975年)と比べてみると、新作の方が、暗さ、悲壮感、リアルさにおいてかなり細部へのこだわりが感じられました。それもそのはず、ロケの全てがプラハで行われ、クライマックスも本物の聖キュリロス・聖メトディオス正教会の前で撮影。さらにはチェコ出身の役者やスタッフが多く参加しています。

 

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 主人公ガブチークとクビシュを演じるのは、キリアン・マーフィジェイミー・ドーナン。この映画の成功はまさにこの二人の起用といっても過言ではありません! 特にキリアンは悲劇が似合う!! 映画『白鯨との闘い』(原作が超面白い!)や連続ドラマピーキー・ブラインダーズ』など、運命に翻弄され、目の前に絶望しかない時の彼の美しさは他の追随を許しません(断言)。たまに見せる笑顔もまたいいんですよ(泣)。そして最近ではフィフティ・シェイズ・オブ・グレイシリーズで富豪の変態クリスチャン・グレイを演じて大人気のジェイミーも、刹那的な日常を力の限り生き抜こうとする青年クビシュを好演。敵役のハイドリヒを演じているのは Detlef Bothe というドイツの俳優なのですが、この人、タイトルがそのものズバリの 『Lidice』(リディチェ村) という2011年の未公開チェコ映画でもハイドリヒ役でなんか気の毒(笑)。

 

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 それにしても『暁の7人』のラストシーンの大サービス感はいったい……。あれ、さすがの私でも盛りすぎだと思ったんですけど!!! あー言いたい!!(でもネタをばらすので言えない)日本版DVDの復活を求む!

 

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タイトル『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』

公開表記:8月12日(土)より新宿武蔵野館他全国順次公開

2016年/チェコ=イギリス=フランス

原題Anthropoid

5.1ch/ワイドスクリーン/120分

© 2016 Project Anth LLC All Rights Reserved. ※PG12

公式HPhttp://shoot-heydrich.com/

 

監督・脚本:ショーン・エリス

脚本:ショーン・エリス、アンソニー・フルーウィン

撮影:ショーン・エリス

編集:リチャード・メトラー

出演キリアン・マーフィ ジェイミー・ドーナン ハリー・ロイド  シャルロット・ルボン アンナ・ガイスレロヴァー トビー・ジョーンズ

配給:アンプラグド

    

akira

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  BBC版シャーロックではレストレードのファン。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらってます。トヨザキ社長の書評王ブログ『書評王の島』にて「愛としみのスットコ映画」を超不定期に連載中。

 

本の雑誌410号2017年8月号

本の雑誌410号2017年8月号

 

  

冷血 (新潮文庫)

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暁の7人 [DVD]

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死刑執行人もまた死す [DVD]

死刑執行人もまた死す [DVD]

勝利への脱出 [DVD]

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【偏愛レビュー】読んで、腐って、萌えつきて【毎月更新】バックナンバー

2017-06-27

第46回 正義感に燃えるイケメン3人組に萌えろ―クレイス『約束』(執筆者・♪akira)

  

 全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは!

 TVシリーズ『パーソン・オブ・インタレスト』が終わってしまって寂しい方も多いのでは。あのシリーズ、フィンチ(計画)&リース(実戦)のコンビだけで充分萌えられたのに、シーズン2の第1話で、ギャングが番犬として飼っていた凶暴なデカい犬(ベルジアン・マリノア種)をリースが瞬時に手なずけ、“犬にも好かれるナイスガイ”っぷりを見せた上、連れて帰って相棒フィンチに有無を言わせず「2人で」飼うことにして、犬好き腐女子を心肺停止させたものでした(しかも後半はウルトラ美老人悪役まで投入されてサービス良すぎなんですけど!)。

 

 というわけで今回は、全国の犬好き&これで犬好きになった方々の間で大好評を博したロバート・クレイス『容疑者』の続編、『約束』(高橋恭美子訳/創元推理文庫)をご紹介いたします!(訳者の高橋さんもお書きになっているように、原題そのままとはいえこのタイトルのそっけなさはある意味貴重)

 

 前作『容疑者』は、ともに心に傷を負ったコンビ――ロス市警の巡査スコットと、かつてアフガニスタンの戦場で軍用犬として働いていたジャーマン・シェパードのマギー――が、いかにしてお互いをいたわり、信頼し、新しい人生を築き上げたかという、それはそれは心温まる物語でした。

 ……てことは今回は犬萌えなのか、と思ったそこのあなた! 違いますよ! マギーは女の子ですから! もうねー、「お嬢さん、肉でもいかがですか?」とかナンパしたくなるくらい可愛いんです(デレデレ)。そうです、本書の腐要素は、スピンオフの『天使の護衛』から6年目、本シリーズの『サンセット大通りの疑惑』からはなんと17年目にしてやっと日本に再登場した、エルヴィス・コール、ジョー・パイク&ジョン・ストーンの豪華オールスターメンズ3人組でございます!

 

 ロスアンジェルスの住宅街で、逃亡中の殺人犯を追っていたスコットとマギーは、あたり一面を吹き飛ばせるほどの大量の爆発物を偶然発見します。同じ頃、その近所で行方不明の女性を探していた私立探偵のコールは、依頼内容を明かせないことから、殺人事件の容疑者として目をつけられてしまいます。しかしスコットとマギーは、ほんの一瞬ですが、真犯人を目撃していたのです。一方、依頼人に不審な点を感じたコールは、身の潔白を証明するとともに、依頼の裏に隠された陰謀を暴くべく、相棒のパイク(またの名を秘密兵器)と、高報酬傭兵のストーンの手を借り、本格的な調査に乗り出します。

 

 警察と容疑者という関係ながらも、捜査の過程でだんだんと心を通わせるスコット&マギーとコールたち。マギーを見たストーンが、「いいねえ、犬か」と目じりを下げたり、ぶっきらぼうなパイクがすすんで挨拶のしぐさをしたり、マギーの方もコールたちになついていくくだりは、殺伐とした事件が続く中、読んでいてほっとします。

 

 スコットとマギーの仲の良さは相変わらずですが、本書ではマギーがやきもちを焼くような人物も。相棒の警察犬を守るため自らロットワイラーに立ち向かって指を食いちぎられた過去がある、警察犬隊のレジェンド、リーランド部長刑事も再登場しますが、彼の過去の逸話がもう涙なくしては読めないという…。

 

 そして本書を彩るヤロー3人組を簡単にご紹介しますと――

 

  • 口が達者な私立探偵、エルヴィス・コール
    • 見た目は気さくで軽い印象だが、重い過去あり。料理上手。ペットは猫。 
  • おしゃれ感ゼロ(原文ママ)の傭兵あがり、ジョー・パイク
    • 185センチ、88キロの筋肉質。海兵隊員、警察官の経歴あり。無口。
  • さわやか笑顔のブロンドマッチョ、ジョン・ストーン

 

 こんな人たちが犬を囲んでいちゃいちゃ、もとい、和気あいあいしたりカーチェイスしたりドンパチしたりしてるわけですよ! それだけでも今すぐ読みたくなったでしょ!? しかも充実の萌え要素! たとえば張り込みに行くのに、残りものを使ってコールがお弁当を作ったり、それをストーンが美味しそうに食べたりとか萌えどころ満載なのですが、なかでも自宅の豪邸で、ポルシェ並みのお値段の豪華ベッドでギャル2人と眠っていたストーンが、人の気配で起きるシーン。「ジョン、俺だ」って、それパイクなんですけどね。いくら急用とはいえ、音も立てずに他人の寝室に忍び込むなよ! しかも相手は女子含めて全員素っ裸。ストーンは多少驚いてましたが、パイク、もう少し気をつかってもいいんじゃないかと思うんですけど(笑)。それでもなおマッパで歩き回るストーン、お前はフォーグラーか!(注:ハラルト・ギルバース『ゲルマニア』参照のこと)

 

 そんなありがたいエピソードを挟みつつ、テンポよく読者をひっぱっていく本書、じゃあキャラだけで読ませる作品かと思われるかもしれませんが、そんなことはありません! コールたちが掴む事実は次第に様相を変えていき、クライマックスでは凶悪事件に隠された意外な真相が浮かび上がります。アメリカはもちろん、これからの時代、このようなやるせない事件はどこででも起きるのではないでしょうか。著者の良心が感じられるラストの後日談も深い印象を残します。西海岸の青い空の下、正義感に燃える30代イケメン3人の活躍をどうぞご堪能下さい。

 

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 さて、犬好きでキアヌ萌えの方々を筆頭に大絶賛されたアクション映画ジョン・ウィックの続編、ジョン・ウィック:チャプター2』が7/7(金)に遂に公開となります! 飼い犬の復讐のため、たった一人でロシアン・マフィアの大組織を壊滅させた伝説の殺し屋ジョン・ウィック。本作は前作のラストから5日後に幕を開けます。

 

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 亡くなった妻が残した愛犬を殺され、その次に大事な愛車を取り返しに行くジョン(キアヌ・リーヴス)。愛車は取り戻したものの、悲劇から完全に立ち直れないジョンのもとに、かつての知り合いである殺し屋サンティーノ(リカルド・スカマルチョ)が訪ねてきます。彼の依頼を断り、殺し屋界の掟に背いたジョンを待っていたのは、殺し屋VS殺し屋軍団の壮絶バトル大会だったのです!

 

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 以前クリス・ホルム『殺し屋を殺せ』の時にも引き合いに出しましたが、主役も殺し屋なら敵も殺し屋という、殺し屋純度100%のこのシリーズ、殺し屋御用達ホテルや殺し屋界の非情の掟など魅力的な設定がぎっしりと詰まっていましたが、本作ではさらに、武器ソムリエや殺しのイチ推しコーデ、闇の地下組織なども登場し、まさに究極の殺し屋ファンタジーに仕上がっています。アクションシーンはもちろん言うまでもなく、スタント出身の監督が放つ神業カーチェイスのオープニングシーンから、観客は一瞬も目が離せません!

 

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 流れるような動きとともに繰り出される、手際のいい必殺技の数々。前作を上回る、めくるめくボディカウントの嵐にうっとり! しかも本作ではNYホテルオーナーのウィンストン(イアン・マクシェーン)に加え、ローマ本店オーナーとしてあのフランコ・ネロが出演し、ダブル美老人という超素敵なオマケ付き! 「犬に危害を加えようとする奴は許せない!」スタンスはもちろん変わりません。そんなジョン・ウィック:チャプター2』と、ロバート・クレイス『約束』、そして突然ですがボストン・テラン『その犬の歩むところ』田口俊樹訳/文春文庫)という、犬好きに大推薦の三作品、ぜひお楽しみ下さいませ!

 

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●映画ジョン・ウィック:チャプター2』予告篇

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タイトル:『ジョン・ウィック:チャプター2』

原題John Wick : Chapter 2

監督チャド・スタエルスキジョン・ウィック

出演キアヌ・リーブス、コモン、ローレンス・フィッシュバーン

公開表記:7月7日(金)TOHOシネマズ みゆき座ほか全国公開

配給:ポニーキャニオン

■2017年/アメリカ

■コピーライト:©2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

    

akira

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  BBC版シャーロックではレストレードのファン。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらってます。トヨザキ社長の書評王ブログ『書評王の島』にて「愛としみのスットコ映画」を超不定期に連載中。

 

本の雑誌409号2017年7月号

本の雑誌409号2017年7月号

 

  

 

容疑者 (創元推理文庫)

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約束 (創元推理文庫)

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天使の護衛 (RHブックス・プラス)

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【偏愛レビュー】読んで、腐って、萌えつきて【毎月更新】バックナンバー

2017-05-30

第45回 カラッと爽やか痛快ギャンブル連作――P・ワイルド『悪党どものお楽しみ』(執筆者・♪akira)

 

 

 全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは!

 最近、春が短くないですか? 関東地方もはっきりしない天気が続いております。というわけでこんな時は、死体も監禁もサイコパスも出てこない、カラッと爽やかに悪を成敗する痛快ギャンブル連作集、パーシヴァル・ワイルド『悪党どものお楽しみ』(訳・巴妙子/ちくま文庫)をご紹介します。

 

 以前、当サイト連載「必読!ミステリー塾」第2回(2014-03-27)でも絶賛を浴びたこの作品、筑摩書房での文庫化で「堕天使の冒険」も追加収録。嬉しいことにシリーズ全てがまとめて読めるようになりました。改めて読み直してみると、1929年の作品とは思えないこの新鮮な味わいといい、一編ずつ読んでも面白いのに、続けて読みおわった時の驚くべきカタルシスといい、エヴァーグリーンなクオリティの高さには脱帽です。そして何よりも、博打にまつわる物語といえば何かしら暗さがつきまとうのに、この小説はそういった陰りがほとんど感じられません。それどころか、ギャンブラーたちの巧妙なテクニックに舌を巻いたり、斬新すぎる発想のいかさま手口にびっくりしたりと、読んだら誰にでも薦めたくなる、ひたすら楽しいお話なのです。じゃあ博打で生計を立てる気になるかというと、まったくそんなことはなく、むしろ筆者のように「ギャンブルやらない人間でよかった〜」と胸をなでおろす人も多いのではないでしょうか。つまりはそんな“ギャンブル推奨しない小説”でもあるんです!

 

 主人公のビル・パームリーは、コネティカットの裕福な農家に生まれました。18歳の時に家を出て、はんぱ仕事を渡り歩きながらポーカーを副収入として日々を暮らしていたところ、ある日仲間がいかさまをしているのを見てしまいます。見つからなければ何だってあり! と新たな道徳観念を吹き込まれたビルは、いかさまの腕を磨き、賭博師としての人生を歩んでいくことに。上手くいったりいかなかったりで6年経ったある晩、ツキに見放されて故郷に帰るのですが、厳格な父は彼を暖かく迎えてはくれませんでした。しかしそこで父親の出した意外な提案が、ビルの人生観を180度変えることになります。

 

 それ以来、自分でも意外なほど農場経営を楽しんでいたビルは、ある日若いご婦人を自動車トラブルから助けます。これこそまさしく運命の出会い! といっても相手はその愛らしい女性ミセス・クラグホーンではなく、彼女の夫トニーなのですが。<さあ楽しくなってきましたよ!  農業で日焼けしてたくましくなった端正な顔立ちのカントリーボーイの人柄を見抜いたのか、彼女はビルに夫が賭博でひどい目にあった話をします。話を聞けば聞くほど明らかにカモられていると確信したビルは、騎士道精神とちょっとした好奇心から、トニーを救い出すことにしたのです。

 

 大勝利に終わったその出来事以来、ビルは文字通りトニーから逃れられない運命に。ビルよりも10歳以上年上のトニーは、いわば富豪の高等遊民。優しい夫ではあるものの、ものごとを深く考えるタイプではなく、ギャンブルをやるには素直すぎる性格で、気前もいいが調子もいい上にお金持ちという、ネギどころか出汁と鍋まで背負ってきたカモの理想形のようなトニー。身ぐるみ剥がされるのを助けてくれたビルを、ついに僕(だけ)のヒーローが現れた! と慕うのも無理からぬこと。親戚が、友人が、クラブの知り合いが……と、トニーは次から次へビルに助けを求めます。しかもそのトラブルというのが、これまた一筋縄ではいかない難問や珍事件のオンパレード。不可能犯罪としか思えないそのトリックの数々を、快刀乱麻を断つがごとく鮮やかに解決していくビルのクールなことといったら! 読者はトニーとともに快哉を叫ばずにはいられません。

 

 かように面白さ抜群の本書、皆様お待ちかねの【腐要素】はどうかというと、これがまたほのぼのとラブリーなエピソードがてんこ盛りなのですよ! 

 

 これといった苦労もなく、頭が良くてしっかり者の妻に支えられ(ているとは微塵も気づかず)、ハッピーに人生を過ごしてきたトニー。ギャンブルも暇つぶしの一つといった境遇のため、負けたところで運がなかったと思うだけだったのんきな彼が、ビルの登場により、世にはびこるいかさまを暴き出す使命感に燃えるという単細胞っぷりは、読んでいるこちらには大変微笑ましくうつりますが、一方的に頼りにされるビルにしてみればいい迷惑。しかし! バディというよりは師匠と弟子のようなこの凸凹コンビ、回を追うにつれ、あれよあれよと仲よし度が増していくのです。いやー、たまりませんね! 「僕が世界で一番会いたかった人なんだよ!」などとビルの首根っこにかじりついたり、好意と賞賛を隠せないトニーの素直さには、妻やビルはもちろん、読者も幸せな気分になるのではないでしょうか。

 

 しかし本書の優れた点(腐読みどころともいう)はそれだけではありません! ビルと出会って不正を暴いていくうちに、トニーは人間性というものに不信感を抱くようになってしまいます。底抜けに明るい性格だった彼が、嘘といかさまを目の当たりにして猜疑心の塊になりかけるところを、その都度彼の素直さをほめ、なにげなく正直の美徳を説いて、ダークサイドに落ちないよう密かに心を砕くビル。そこから詐欺師になったかつての自分の二の舞を踏まないよう、年上の親友を守ろうとするビルの男気にグッときます。

 

 とはいえ、本書は説教臭さをいっさい感じさせません! 喉から手が出るほどビルの手助けが欲しいくせに、そのわずかな報酬すら値切ろうとするオヤジに対し――

 

「卑劣でみみっちくて見下げはてたケチ野郎」

 

 ――と胸のすくようなたんかを切るビルのカッコよさ!! これはトニーじゃなくても(?)惚れるでしょう!!!(大体、俺のために働けるだけでありがたいと思えとかいう手合いは、一人としてロクな奴じゃありません。これから働く方々はゆめゆめ忘れないように)

 

 そして決定打ともいえるこの一文!――

 

しかし何よりも重要なのは、ビル・パームリーから認められることであり、それこそトニーが熱烈に待ち焦がれているものだった。

 

 はい、そこの腐女子のあなた(とそうでないあなたも)! ここまで書かれたら読まないわけにはいきませんよね? さあ今すぐゲットしてください! 十中八九、本書はあなたの一生ものの愛読書になることでしょう。騙されたと思って、ぜひ。

 

 

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 さて、一度のギャンブルで大金をなくす人もいますが、6月1日(木)公開のアメリカ映画『ゴールド/金塊の行方』では、天文学的な数字の金が一夜にして消えてしまいます。

 

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 舞台は80年代初頭のアメリカ。不景気のため、父から受け継いだ鉱山採掘会社が倒産寸前に追い込まれたケニー(マシュー・マコノヒー)は、ある日、海外の奥地で金鉱を発見する夢を見ます。それをお告げと信じた彼は、かつて銅の鉱山を発見し一躍有名になった地質学者のマイケル(エドガー・ラミレス)に連絡を取り、インドネシアの奥地へと向かったところ、驚いたことにそこには夢で見た光景が眼前に広がっていました。ケニーは尽くしてくれる彼女(ブライス・ダラス・ハワード)を裏切ってまで無謀な金策に走り、狂気にも近い情熱で採掘に全力を注ぎますが、その思いとは裏腹に、一向に金鉱は見つかりません。トラブルが続き、万策尽きたと思われたその日、予想もしなかったほどの大規模な金鉱が発見されたのです!

 

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 この映画は、93年にカナダで実際に起きた Bre-Xミネラル社事件を元にしています(*興を削がないために内容は伏せますので、気になった方は映画鑑賞後にググってみてください)。

 本作は80年代に設定を移していますが、当時流行っていた派手でゴージャスな服装や髪型などが、そのエネルギッシュなストーリーに不思議なほどマッチしています。

 

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 当たれば億万長者、外れれば身の破滅。まさに博打のような金鉱発掘へのチャレンジは、ケニーだけでなく周りの多くの人の運命をも巻きこんでいきます。夢に憑かれたケニーの一発勝負が、アメリカン・ドリームへと花開いたその後、いったい何が起きたのか。ラストに待ち受ける驚愕の真相をどこで見抜くことができるか。野望、かけひき、謎、そして意外なことにバディ要素までもが満載の、一人の男が挑戦した壮大な賭けの顛末を描いたサスペンスです。

 

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 それにしても凄まじいのがマシュー・マコノヒーのルックス。髪型はともかく、キャラクターにあわせるためにわざわざジャンクフードで体重を95キロまで増やしたという恐るべき役者魂!(これ絶対に特殊メイクだと思ってたんですけど!) だとしてもこのキャラ、実在の人物じゃないんだからそこまでの体型にする必要があったんだろうか・・・と思うのは私だけ?(笑)

 『マジック・マイク』とは正反対のベクトルで体を張ったマコノヒーの熱演、ぜひ劇場でご堪能下さい!

 

●映画『ゴールド/金塊の行方』予告篇

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タイトル:『ゴールド/金塊の行方』

公開情報:6月1日(土)より TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

提供:東北新社

配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント/STAR CHANNEL MOVIES

 

出演:マシュー・マコノヒー(『インターステラー』『ダラス・バイヤーズクラブ』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』)

   エドガー・ラミレス (『Hands of Stone』『ガール・オン・ザ・トレイン』)

   ブライス・ダラス・ハワード (『ジュラシック・ワールド』『ピートと秘密の友達』)

監督:スティーヴン・ギャガン (『シリアナ』『トラフィック』※脚本)

製作・脚本:マックス・ランディス

原題GOLD/2016年/アメリカ映画/2時間2分

クレジット© Photo by Lewis Jacobs

    

akira

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  BBC版シャーロックではレストレードのファン。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらってます。トヨザキ社長の書評王ブログ『書評王の島』にて「愛としみのスットコ映画」を超不定期に連載中。

本の雑誌408号2017年6月号

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探偵術教えます (晶文社ミステリ)

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検死審問ふたたび (創元推理文庫)

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