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第八回翻訳ミステリー大賞 決定!!

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2017-07-06

第30回:なんかもう、ディズニーのノリ(執筆者・上條ひろみ)

 みなさま、こんにちは。いかがお過ごしですか?

 気づけばもう七月。今年も半分が終わってしまいました。早い。早すぎる。でも、七月は新ドラマのクールがはじまる月でもあります。

 そう! すでにご存知の方もいると思いますが、わたしは大のテレビドラマ好き。七月スタートのドラマで楽しみなのが「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命 シーズン3」です。九年まえのシーズン1から見ているので、待ってましたという感じ。いやー、ほんとに待ったわ。シーズン2だって七年まえだし。医療ものや警察ものなど、お仕事系のドラマが好きで、わたしのなかで「コード・ブルー」と「医龍」は双璧です。でも、ここ数年でいちばんはまったのは「逃げるは恥だが役に立つ」と「カルテット」かな。ちなみに、前クールのベストは「緊急取調室 シーズン2」でした。こうしてみると、日本のドラマも海外ドラマ化してきましたね。当たると爛掘璽坤鵝○瓩任弔鼎韻討いのがやたらと多い。そういうの昔は「金八先生」ぐらいしかなかったのに。

 それでは、六月の読書日記です。




■6月×日

 イギリスのお嬢さま学校が舞台の少女探偵ものといえば、記憶に新しいところでは、この連載でも紹介したジュリー・ベリーの『聖エセルドレダ女学院の殺人』があるけど、『エセ女』が年齢のちがう個性的な少女たちが知恵を持ち寄る『若草物語』系だったのに対し、ロビン・スティーヴンス『お嬢さま学校にはふさわしくない死体』は、同級生の少女ふたりが学校内で起きた殺人事件を調査する、少女版ホームズ&ワトソンもの。といっても、なんちゃってホームズ&ワトソンだけどね。というわけで、『エセ女』とは作品の雰囲気がだいぶちがいます。英国少女探偵の事件簿シリーズ一作目です。



 ホームズは、青い目のすらりとした金髪美人で、変人だけど最高に頭がキレ、なんでも知っていないと気がすまない、貴族の令嬢デイジー・ウェルズ。

 ワトソンは、小柄でちょっぴり太めの女の子、黒い髪と黒い目を持つ香港出身のヘイゼル・ウォン。

 舞台は一九三〇年代英国。ディープディーン女子寄宿学校の三年生(十三歳)であるふたりは、〈ウェルズ&ウォン探偵倶楽部〉を結成。ふたりしかいない倶楽部の会長はもちろんデイジー、秘書のヘイゼルは事件簿をつける係で、この物語の語り手です。


 ある日、ヘイゼルは室内運動場で女性教諭の死体を発見します。ところが、人を連れて戻ってみると、なぜか死体は消えていました。みんなはヘイゼルの虚言だと取り合わなかったけど、もちろんデイジーは全面的にヘイゼルの話を信じて、さっそくふたりで調査を開始。生徒たちに聞き込みをして容疑者さがしをするうちに、先生たちをめぐるあやしいエピソードがどんどん出てきて……

 さまざまなエピソードを効果的に使い、伏線をきっちり回収しているのはお見事。強引な展開がほとんどなく、でも適度にハチャメチャで(どっちだよ!)、コージーミステリとしてはちょうどいい塩梅。かなりわたし好みです。クールなデイジーが、自分の大好きな先生は絶対に疑おうとしないのもかわいい。


 とくに好きなのは、夜、女の子たちがおやつを持ち寄っておしゃべりする、真夜中のお楽しみ会の場面。いつの世も女子会って楽しいよね。ヘイゼルちゃんは香港の子だから、お母さんがレンコンの餡入りの手作りの月餅をいっぱい送ってくるの。いいなあ。でも牋朸掬未離僖き瓩噺世錣譴討靴泙Δ里諭おやつは牛タン(!)という子もいてびっくり。ジャーキーみたいな感じなのかな。しかも「牛タンはチョコレートケーキに合うわね」って……そうなの?


 性別逆転ホームズものといえば、テレビドラマ「シャーロック」ばりに現代を舞台にした、高殿円の『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』もおもしろくて印象に残っています。ほかにもたくさんありそうだけど。




■6月×日

『ダッハウの仕立て師』は、イギリス人の歴史学者メアリー・チェンバレンによる初めてのフィクション作品。第二次世界大戦時、ナチス占領地で戦争捕虜となったイギリス人の若い娘の波乱の人生を描く。エンタテインメント的な作品ではないが、いくつかの謎が物語を牽引し、引きこまれずにはいられない。歴史家にしか書けないリアルな物語で、読み終えたあとは、かなりずっしりとしたものが残る。



 一九三九年、ロンドンで仕立て師見習いをしていた十八歳のエイダ・ヴォーンは、スタニスラウス・フォン・リーベンと名乗るハンガリー貴族の男性と出会い、恋に落ちる。ところが、彼とパリに旅行中、第二次世界大戦が勃発。イギリスに帰れなくなったエイダは過酷な運命の波に飲み込まれる。生きるための戦争で彼女に残された武器は、ドレスメーカーとしての才能だった。


 ダッハウといえば、強制収容所があった場所として名前を知っていたので、収容所がらみの話なのだろうとは思ったが、こういう形でからんでくるとは意外だった。戦争捕虜としてダッハウに連れてこられたエイダは、皮肉にもその地でドレスメーカーとしての才能を発揮することになる。敵国の女が美しくなる手伝いをする……それは一見売国奴の行動のように思えるが、エイダにとっては人間でいるための術だった。毎日が生きるための戦争。エイダにとってダッハウは戦場だったのだ。


 ひと口に戦争捕虜といっても、いろいろな事情や背景があり、同じ経験をした人でないとほんとうに理解してあげられることはできないのかもしれない。だが、エイダのような特殊な経験をした人間が、理解してもらえないというのはほんとうにかわいそうだ。男と世間を知らないというだけで(当時の若い娘の大半がそうだっただろうに)、戦時中も戦後も辛酸をなめつづけ、家族にも理解されず、過酷な運命を生きたエイダ。そんな彼女の生きる原動力となったのは、仕立て師としての仕事に対する誇りだろう。生地を手に入れ、デザインを考え、服を仕立てるシーンを読んでいると、エイダのワクワク感が伝わってきて、当時が戦争中であることも、戦後の配給生活であることも忘れてしまう。奴隷のような扱いを受け、屈辱のなかにいても、仕立て師としての誇りを捨てないエイダはかっこいい。失敗の許されない過酷な条件で服を作ろうとするたびに、頭のなかで師匠のアドバイスが聞こえてくるのもじーんとくる。


 垢抜けないドイツの婦人たちでさえ見栄えがよくなり、おしゃれなイギリスの婦人には「あなたの作った服を着るとなんとなしに足取りが弾むのよね」と言われるエイダの服。彼女ならココ・シャネルのようになれたかもしれない。

「ジャージーは欲深で身の程知らずにあちこちに広がろうとする」とか、「(モワレは)波紋模様が謎めいた優雅な光を振りまきながらアラベスクを踊っている」とか、「麻はつむじ曲りで寄り道する」とか、布地を擬人化した表現がとてもすてき。


 この時代の現実を理解する上で、ヒストリカルノートはとても役立った。実在の人物が自然に物語にとけこんでいるのも興味深い。読まれなければいけない話だと思う(大意)、と語られていた訳者の川副さんのことばにも胸を打たれた。




■6月×日

 なんでもないようなことが微妙な引っかかりを生み、しだいに、あるいは一気に事態が変化する様子を描いた作品集『不機嫌な女たち』を読んだ。著者キャサリン・マンスフィールドは、一八八八年ニュージーランド生まれの女流作家で、二十世紀を代表する短編作家だ。



 キャサリン・マンスフィールド……どこかで聞いたことのある名前だなあ……でも読んだことはないはず、と思いながら、先日実家で古い本の整理をしていたら、新潮文庫の『マンスフィールド短編集』が見つかった。ということは、おそらく大昔に読んだんだろうけど、例によってまったく覚えがない。でも、こういう倏票蠅気呂覆い、じわじわくる畄呂虜酩覆蓮⊃誉厳亳海鮴僂鵑任ら読むほうがおもしろいのだ。しかもこちらは新たに原稿が発見された未発表の「ささやかな過去」を含む日本オリジナル短編集で、芹澤恵さんによる新訳。果たして、予想どおりのおもしろさだった。


 なんといっても驚くのは、百年以上まえに書かれたものなのに、いま読んでもまったく古さを感じさせないこと。短編だから連続ドラマは無理にしても、オムニバスドラマにしたらおもしろいかも。輝くばかりの好天の日、公園で楽しく人間ウォッチングをしていたら、自分がおばさん呼ばわりされているのに気づいてしまい、一気に不機嫌になる「ミス・ブリル」のエピソードなんて、朝ドラとかにありそうだし。人妻のよろめき系「燃え立つ炎」はお昼の帯ドラマ枠でぜひ。これに「ささやかな過去」のエピソードをからませて、群像劇風昼メロもいいかも。「小さな家庭教師」はあまりにもかわいそうで、読んでいてつらくなるほど。今だとこういう子は強要AVに気をつけないと。大人って、ヒドイ。


 訳者あとがきで、作品中の彼女たちの行動の裏にある心理として、爛泪Ε鵐謄ング瓩箸いΔ海箸个鮖箸辰討い襪里盡世て世凸。そう、それそれ!と思いましたよ。さすが芹澤さん。「幸福」や「一杯のお茶」などはまさにマウンティングがテーマで、不機嫌になるまえから水面下で女の静かな戦いが、本人すら気づかないうちにおこなわれていて、ドラマ「カルテット」風に言うと爛潺哨潺将瓩靴泙后


 著者の波乱万丈の人生は牴燭盖こらない瓩匹海蹐起こりすぎだけど、それをこういう静かな作風に結晶させているのがかっこいい。爐犬錣犬錣る疊詭はそこにあるのかも。実はいろんな要素が詰めこまれていて、どの作品も深読みすればするほどおもしろいです。




■6月×日

 まだ暑さに慣れない体に、梅雨時の蒸し暑さは応えます。じめじめ、蒸し蒸しといえば、マサラなインド(ちと強引かな)!

 M・J・カーターの『紳士と猟犬』は、めずらしい十九世紀イギリス統治時代のインドが舞台の歴史冒険ミステリ。お話の途中でヴィクトリア女王が即位しています。試験に出ますと言われて覚えたこの時代のインドのキーワードといえば、東インド会社とセポイの反乱とアヘン戦争と……ぐらいが限界というわたしでも、おもしろくて手に汗握っちゃいました。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞、英国推理作家協会賞新人賞の両方にノミネートされた期待の新人M・J・カーターは、ロンドン在住の元ジャーナリスト(女性)で、本書が初のミステリ作品。



 東インド会社の軍人としてカルカッタで九カ月の訓練を終えたものの、配属も決まらず鬱々としていたウィリアム・エイヴリー少尉は、インド奥地で消息を絶ったイギリス人の詩人ゼイヴィア・マウントスチュアート任務を探すという任務を与えられる。同行するのは東インド会社所属の自称探偵・ジェレマイア・ブレイク。エイヴリーは、変わり者だがかなりの切れ者のブレイクの動向にも目を配るよう、上司から命じられていた。


 東インド会社って、軍隊を持ってたのね。実在する人物をからませながらのストーリーにもかかわらず、こんなに荒唐無稽でいいのかしら、というぶっとんだ展開。でも読んでいるうちにマヒしてきて、インドならまあありなのかなあと思ってしまいます。なんかもう、ディズニーのノリ(わかるかな?)です。いつ虎や象がしゃべりだすのかと身構えましたよ。


 いやあ、それにしてもすごい冒険です。山賊はどこにでもいるし、たまに虎も出るし、だれとだれが通じているのかも、だれが敵か味方かもわからない! 大ケガをして血を流し、飢えと渇きに苦しみながら、何千キロも歩くなんて、体力はもちろんとてつもない精神力がないと無理です。ディズニーのノリと言いつつ、残酷なシーンはけっこう多いし。でも、最初はダメダメだったあまちゃんの若造エイヴリーが、過酷な運命をぼやきながらもどんどん成長していく様子はたのもしく、ちょっと見直しました。やればできる子だったんですね。

 わたし、たまに翻訳者仲間と山にハイキングに行ったりするんですけど、このインドのジャングル逃避行の過酷さを目の当たりにしたら、楽しく山歩きしちゃってすいません、と申し訳なくなりました。こっちはただのストレス解消、エイヴリーたちは命がけですから当然なんですけど。


 ブレイクがホームズ、エイヴリーがワトソン役のバディものとしても楽しみどころは満載で、ブレイクのエイヴリーに対するツンデレ具合とか、エイヴリーがブレイクになついていく様子とかは、腐女子でなくても萌えます!


 実はこのシリーズ、すでに三作目まで出ていて、二作目では一八四一年のロンドンを舞台に、再会したブレイクとエイヴリーがまた組んで探偵仕事をすることになるとか。楽しみすぎる! ぜひぜひ日本でも紹介してもらいたいものです。



 上記以外では、大真面目なバカミスという感じの本格ミステリ、コリン・ワトスン『浴室には誰もいない』、第二次大戦中の盲目のフランス人少女とドイツの少年兵の出会いをドラマチックに描く、あまりにも切なく忘れがたい、アンソニー・ドーア『すべての見えない光』、魔性の女に引っかき回される田舎町や、性的な衝動により自分を失っていく若者たちのとまどいなど、ダークさかげんがほどよいローリー・ロイ『地中の記憶』、シンプルながら直球勝負で読者の心をつかむ、一気読み必至のオーストラリアン・ミステリ、ジェイン・ハーパー『渇きと偽り』もオススメ。




上條ひろみ(かみじょう ひろみ)

英米文学翻訳者。おもな訳書にフルーク〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ、サンズ〈新ハイランド〉シリーズなど。趣味は読書と宝塚観劇。最新訳書はバックレイの〈秘密のお料理代行〉シリーズ第二弾『真冬のマカロニチーズは大問題!』、サンズの〈新ハイランド〉シリーズ第四弾。〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ十八巻は、現在鋭意翻訳中です!


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マンスフィールド短編集 (新潮文庫)

マンスフィールド短編集 (新潮文庫)


2017-06-01

第29回:新たなダークヒロインの誕生(執筆者・上條ひろみ)


 こんにちは。

 先日、世話人をしている翻訳ミステリーお料理の会で、第八回調理実習がありました。都内某所の調理実習室で今回作ったのは『ストリート・キッズ』のニール・ケアリーのチーズバーガー。バンズから作ったので時間的には大忙しでしたが、なかなか美味にできあがり、みなさんにもご満足いただけたようで、ほっとしています。ファストフードとはいえ、きちんと作ると意外とあなどれないハンバーガー。いや、バンズから手作りの時点ですでにファストフードとは言えないか。

 調理実習のゲストは『ストリート・キッズ』を訳された故・東江一紀さんを師匠と仰ぐ、翻訳者のないとうふみこさんと那波かおりさん。同じウィンズロウでも、ニール・ケアリー・シリーズは倏鯏豺将瓠『犬の力』などは犢東江瓩般し分けられていたというお話が印象的でした。

 次回は何を作ろうかな? 翻訳ミステリーを読んでいて気になる料理や食べ物がありましたら、ぜひご一報ください。

 では、五月の読書日記、ゆるゆるとまいりましょう。




■5月×日

 まずはL・S・ヒルトンの『真紅のマエストラ』。いや〜、すごい話だった〜! 予想がつかない野望と欲望のジェットコースターR指定サスペンス。過激な展開に一気読みでした。



 美人だけど育ちがあんまりよろしくなくて、学歴もたいしたことないジュディス・ラシュリー、二十七歳。ロンドンのオークションハウスの絵画部でアシスタントをしていた彼女は、オークションに出品されることになっているスタッブスの絵が贋作ではないかと疑ったことで、上司から解雇を言いわたされる。落ちこんだジュディスは、バイト先で知り合った気前のいい常連客と南フランスに向かうが、またもや不運に見舞われ、イタリアに逃げるはめに。ローマ、ジュネーヴ、そしてパリ。いつしかジュディスは犯罪に手を染めていく。


 持ち前の美貌と才覚で成功を手に入れ、これまで自分をバカにしてきたやつらを見返して、もしくは仕返しをして、すっきり、ざまあみろ、みたいな話かなと思ったら、さにあらず。イギリスからフランス、イタリア、スイス、またフランスへと流れていくが、決して流されているわけではなく、巻き込まれ型、というのでもない。最初はほしいものを手にいれるためにちょっと悪いことをしていただけなのに、だんだんとエスカレートしていって、途中からは悪いことをするのを楽しんでいるみたいな印象。ファム・ファタルができるまで、という感じかな。後半のジュディスのたくましさ、冷酷さ、そして頭のキレ具合は、とても前半と同じ人とは思えない。もともと素質はあったんだろうけど、怒涛のような日々をすごすうちに進化せざるをえなかったんだろうな。よくも悪くも変貌していくジュディスが、恐ろしいやらたのもしいやら、読者としては複雑な気分だった。


 でも、男目線で書かれていないのは気持ちいい。若いイケメンよりデブなおっさんの方が大勢出てくるのも、男を美化しない現実的な女目線という感じがする。セックスはセックスで楽しんで武器にはせず、男との関係においても情に左右されない強い女。だからこそ爽快で、『その女アレックス』のような痛々しさがない。新たなダークヒロインの誕生だ。共感できるかどうかは微妙だけど。


 タイトルの爛泪┘好肇薛瓩狼霈△簗梢佑魄嫐するイタリア語、マエストロの女性形。でもなんで真紅なんだろ……?

 ソニー・ピクチャーズが映画化権を取得して、脚本化が進んでいるとか。ジュディスはだれが演じるのかな。




■5月×日

 平日昼間のジムは年配女性の天下だ。しかもみんなスポーツウーマンだけあって若々しく、六十代ぐらいかなと思っていた方が八十代だったりする。そんなお姉さま方を見ていると、これからの人生も捨てたもんじゃないと思えて、ちょっとうれしい。

 エリザベス・ペローナの〈死ぬまでにやりたいことリスト〉シリーズのおばあちゃん五人組も、平均年齢七十歳超のお達者シニア女子。シリーズ第二弾の『恋人たちの橋は炎上中!』でも、彼女たちが死ぬまでにやりたいことリストのなかからいくつか夢をかなえながら、殺人事件の謎を解き明かします。



 元看護師のフランシーンと、ミステリおたくのシャーロット、豪邸に住むアリス、ケータラーのメアリー・ルース、テレビリポーターのジョイは、サマーリッジ・ブリッジクラブのメンバー。五人はそれぞれ六十個の犹爐未泙任砲笋蠅燭い海肇螢好鉢瓩鮑遒辰討い董△互いの目標達成のために協力し合うことになっている。今回はそのなかの爛札シーなピンナップガールになる瓩鮹成するため、インディアナ州パーク郡の古い屋根付き橋で写真撮影をしていたところ、一発の銃声が!

 おりしもパーク郡では屋根付き橋フェスティバルなるものが開催されており、スイーツの出店をすることになったメアリー・ルースの手伝いで大忙しのメンバー。しかし、銃撃事件でフランシーンのいとこが亡くなり、問題の屋根付き橋が放火で焼け落ちると、好奇心旺盛な彼女たち(おもにフランシーンとシャーロット)は、情報集めに奔走する。


 屋根付き橋といえば、思い出しますね、『マディソン郡の橋』。屋根付き橋は郷愁を誘うとともに、ロマンティックなイメージがあるのでしょうか。フランシーンの曽祖母も、若かりしころに屋根付き橋で情熱的な体験をしたようです。


 今回もシャーロットが引っ掻き回して、フランシーンがフォロー役。マイペースすぎるシャーロットに手を焼きながらも、その推理力にはフランシーンも一目置いている様子です。二作目ということで、キャラが一作目よりもさらにはっきり打ち出されていて、個性的なメンバーのやりとりを読むのがますます楽しい! とにかくみんなパワフルで、読んでいて元気が出ます。六十個のリストも余裕でクリアしそうですね、このぶんだと。百個でもよかったのでは? フランシーンの旦那さまのジョナサンも、イケメンでやさしくてすてき。


 メアリー・ルースのスイーツをはじめ、おいしいものもたくさん出てきます。でも、メアリー・ルースによると、「景気が回復して、外食が増えて、家で料理する人が減っている」せいでクッキング・チャンネルは人気が落ちているとか。日本では一分レシピ動画とか人気なのにね。日本はまだ景気が回復していないということか。




■5月×日

 わたし的に今年上半期のベスト1は今のところシャルロッテ・リンクの『失踪者』だが、ティナ・セスキスの『三人目のわたし』も失踪者のお話。

 というわけで、興味を惹かれて読んでみた。



 愛する家族をマンチェスターに置き去りにして、ロンドンに出てきた訳ありの若い女性エミリー(本名エミリー・キャサリン・コールマン)。精神的にかなり追い詰められている様子の彼女は、変人ばかりが住むおんぼろのシェアハウスに転がりこみ、キャサリン(キャット)・ブラウンと名乗って、新しい生活をはじめる。こつこつと努力を重ねるうち、しだいに生活環境も向上していき、新しい自分にも慣れていくエミリーだったが、「あの日」が近づくにつれ、冷静ではいられなくなる。


 彼女は何から逃げてきたのか、そして「あの日」に何があったのか。


 いくつもの謎を思わせぶりにちらつかせ、読者を翻弄しながら、エミリーの過去と現在が交互に語られ、パズルのピースがはまっていくのかと思いきや……


 エミリーにはキャロラインという双子の妹がいる。一卵性双生児でどうやら顔かたちはそっくりらしいのだが、読んでいるととてもそうは思えない。エミリーはおだやかでやさしく、キャロラインは気性の激しい問題児。『エデンの東』のアロンとキャルを思わせる、性格がまったくちがう双子なのだ。それまでの生活を捨ててロンドンで新しい生活をはじめたエミリー(キャット)が「三人目のわたし」ということになるのだろうか。


 読んでいくうちに、隠されているのは相当に悲惨な秘密だろうなと推測され、真相を知りたいような知りたくないような気分になる。いや、もちろん知りたいんですけどね。でも……かなり意外でした。ほう、こう来たかと。派手に背負い投げされたわけじゃないけど、翌朝起きたら、なぜか青あざが……みたいな、あとからじわじわくる感じ。わかりにくいですね、すみません。ネタバレせずにおもしろさを伝えるのってむずかしいっっ!


 中盤まではちょっと長いかなという気もするけど、後半の急展開は長さを感じさせないリーダビリティ。デビュー作ということで、ところどころちょっとぎこちなさも感じるし、ツッコミどころがないわけではないけど、勢いがある作品だと思う。家族の厄介さと愛しさに引き裂かれながら読むべし。




■5月×日

 オーストラリアの新鋭、キャンディス・フォックスの『邂逅 シドニー州都警察殺人捜査課』にも度肝を抜かれた。読もう読もうと思いつつ、気づけばすでに二作目の『楽園』が出ていたんですね。



 相棒を自殺で失い、ノース・シドニー署殺人捜査課からシドニー州都殺人捜査課に異動になったフランク・ベネットは、同じく相棒を失ったエデン・アーチャーと組むことになる。同じ課にはエデンの兄エリックもいて、しきりと挑発してくるのには閉口するが、謎めいた美しいエデンに一目で惹かれ、なんとかいい関係を築こうとするフランク。

 そんなとき、スチール製の収納ボックスが海底から引きあげられ、なかから少女の遺体が発見される。ボックスはほかにも多数あり、いずれの遺体にも少女と同じ特徴があった。


 事件の猟奇的側面や、犯人の変態ぶりもさることながら、事件と並行して語られる、廃棄物処理場の運営者ハデスが幼い兄妹を育てることになったいきさつが、事件以上のインパクト。この兄妹がエリックとエデンなのだが、ふたりが警察官になったいきさつも到底信じられないぶっ飛びぶり。そして、えっ、これってアリなんだ……とだれもが絶句する衝撃の結末へ。ダークな警察小説はいろいろあるけど、ここまでのものははじめてかも。まだ謎の部分もいくつかあるので、二作目以降で明らかになるのだろうか。早く『楽園』を読まないと。


 語り手はフランク。このフランクって、小出しにされるエピソードの印象では、エリックでなくとも一発殴りたくなるようないやなやつだけど、エデンやエリックにまつわる特殊な事情を受け入れるには、こういうキャラでなくてはならなかったのかなあとも思う。まあ、それでも受け入れがたいとは思うけど。かつては恋人に人生を諦めさせて自分の所有物にしておきたがる傾向にあったフランクが、とある女性に出会ったことで、相手の幸せが自分のよろこびと思えるようになり、かつての自分を恥じるようになったのは少し見直した。


 壮絶な過去を持ち「危険なまでに美しく、どことなく神秘的な」女刑事エデンは、キャロル・オコンネルのクールな女刑事マロリーを思わせるところも。エデンと育ての親ハデスの関係は、ちょっと映画「レオン」風味。




 上記以外では、綾野剛主演のドラマ「フランケンシュタインの恋」を見ていて、そういえば読んでなかった!と気づき、メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』を(もちろん芹澤恵さんの新訳で)あわてて読んだ。今更でほんとに申し訳ないんですけど、こんなにも深遠でドラマチックでおもしろい話だったとは! 全編書簡と語りなのでさくさく読めるし、格調高い訳文にもうっとり。

 ジャック・ルーボーの『誘拐されたオルタンス』は、読者を煙に巻くような独特の語り口や、数学ネタが多くて頭が混乱する過程までもが楽しくて最高でした。大好きな『麗しのオルタンス』の続編ということで、ふたたびルーボーワールドを堪能できたことに感謝です。




上條ひろみ(かみじょう ひろみ)

英米文学翻訳者。おもな訳書にフルーク〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ、サンズ〈新ハイランド〉シリーズなど。趣味は読書と宝塚観劇。最新訳書はバックレイの〈秘密のお料理代行〉シリーズ第二弾『真冬のマカロニチーズは大問題!』と、サンズの〈新ハイランド〉シリーズ第四弾『恋は宵闇にまぎれて』。


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エデンの東 新訳版 (1)  (ハヤカワepi文庫)

エデンの東 新訳版 (1) (ハヤカワepi文庫)

エデンの東 新訳版 (2)  (ハヤカワepi文庫)

エデンの東 新訳版 (2) (ハヤカワepi文庫)

エデンの東 新訳版 (3)  (ハヤカワepi文庫)

エデンの東 新訳版 (3) (ハヤカワepi文庫)

麗しのオルタンス (創元推理文庫)

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ストリート・キッズ (創元推理文庫)

ストリート・キッズ (創元推理文庫)

犬の力 上 (角川文庫)

犬の力 上 (角川文庫)

犬の力 下 (角川文庫)

犬の力 下 (角川文庫)



2017-05-04

第28回:凝りに凝った構成とコンパクトさが売り(執筆者・上條ひろみ)

 みなさま、こんにちは。

 第八回翻訳ミステリー大賞ジョー・ネスボの『その雪と血を』に決まりましたね。しかも読者賞とのダブル受賞! 関係者のみなさま、おめでとうございます。われわれ翻訳者が、そして翻訳ミステリー読者が自信を持っておすすめするこの作品を、多くの人たちが手に取ってくださいますように。わたくしごとですが、授賞式では今年も加賀山さんと開票を担当させていただきました。大きなポカもなく無事に終えることができてよかった。授賞式およびコンベンションに参加してくださったみなさま、投票してくださった翻訳者のみなさま、全国読書会のみなさま、そして読者のみなさま、ありがとうございました&お疲れさまでした。

 先日、同業者と話していて、訳書のタイトルの話になりました。翻訳者や出版社(編集者)によってちがうのかもしれませんが、わたしの場合、ほとんど編集者さんが(編集会議を経て)つけてくださっています。参考までに……という感じで、自分で考えたタイトルを伝えたり、さりげなくゲラに書いてみたりしたことはありますが、なかなか採用されませんね〜。いつか編集者さんがぐうの音も出ないタイトルを考えてみたいものです。

 ちなみに、つねにまったく予想ができないタイトルになるのはロマンス、ということで意見が一致。ロマンスのタイトルには独特の語感がありますよね。原題はまったく色気がないのに(失礼!)、邦題になるとバラの花びらや古城をバックにしたとき、なんとさまになることか。いつもすてきなタイトルを考えてくださる編集者さんに感謝しています。

 では、四月の読書日記です。




■4月×日

『青鉛筆の女』と聞いて、わたしがすぐさま連想したのは大好きなフレッド・ヴァルガスの『青チョークの男』だった。なんとなくつながりを感じさせるタイトルでしょ? え? そうでもない? まあ、まったく関係ない話だったけどね。アメリカでは原稿にチェックを入れるとき、赤じゃなくて青鉛筆を使うそうで、青鉛筆の女とは女性編集者のことでした。



 本書は、二〇一四年に解体予定の家の屋根裏から発見された貴重品箱にはいっていたという、三種類のテキストで構成されている。すなわち、一九四五年刊行のパルプ・スパイスリラー、ウィリアム・ソーン著『オーキッドと秘密工作員』と、編集者からその著者に宛てた手紙、そして同じ著者による(こちらは本名のタクミ・サトー名義で書かれた)未完の作品『改訂版』である。この三種のテキストの抜粋が、ちょっと変わった入れ子形式を取って、入れ替わり立ち替わり登場し、読者は頭のなかで流れを確認しながら読むうちに、そういうことか!とわかってくる。じわじわとおもしろく、そして悲しい物語である。


 青鉛筆で消されて行き場を失った登場人物たちがさまよう『改訂版』は、ジャスパー・フォードの文学刑事サーズデイ・ネクストの世界みたい。ときどきつらくて息がつまりそうになるけど、『改訂版』を最後まで読んでみたかったな。解説するのも感想を述べるのも、ネタバレを考えるとひじょうにリスキーな作品だが、訴えたいことをあえて削除することによって際立たせる手法は、すごくスマートでかっこいいと思った。


 凝りに凝った構成とコンパクトさがこの本の売り。きっちり丁寧に読み込めば、さらに理解が深まっておもしろさが増すだろう。再読も味わい深い。アメリカ推理作家クラブ賞ペーパーバック部門ノミネート作品。




■4月×日

 ベリンダ・バウアーの作品はダークな内容のものが多いけど、どれを読んでもはずれがないという印象。英国推理作家協会(CWA)賞にもよくノミネートされていて、気になる作家だ。『視える女』は『ダークサイド』の前日譚で、のちに地方に異動になったジョン・マーヴェル警部のロンドン警視庁時代の話だという。



 四カ月まえに四歳の息子が行方不明になってからというもの、玄関のドアを閉め忘れた夫を責めつづけ、まるで罰のように家じゅうを磨きたて、家のまえのセメントに残った息子の小さな足跡をひたすら磨く若い母親アナ・バック。一年まえから行方不明で、何者かに連れ去られた可能性がある十二歳の少女、イーディのことが頭から離れないジョン・マーヴェル警部。そのイーディのことで警察が協力を要請したこともある、霊能者のリチャード・レイサム。藁にもすがる思いでレイサムのもとを訪れたアナは、さらに不思議な行動をとるようになる。


 視えるって、どういうこと? それにどんな意味が? と思いながら読んでいくうちに、どんどんアナの印象が変わっていく。「視える」ということをマーヴェル警部がなかなか信じようとしないのがはがゆいが、この人も貧乏くじを引きつづけてけているような人で、途中からなんだかかわいそうになってきてしまった。結末はあらゆる予想を覆されて、ポカーンという感じ。なんとなく以前読んだことがあるアレ(超有名作品)に似てるな、と思った人も多いのでは?


 傲慢で石頭で偏見に満ちているので、読んでいて頭にくるキャラのマーヴェル。でも彼のキャラクターが物語のリアリティを補強しているのはたしかだ。そのマーヴェルが、三歳のころはペットのポニーにつけるようなハーネスをつけられていたと回想するのが驚き。しかもそれでお馬さんごっこをして遊ぶのが楽しかったとか。羽をつけたりしてかわいくしたソレをときどき見かけるけど、そんな昔からあったものなのだろうか。ポニーにつけるようなのだから、かわいくはないだろうけど。




■4月×日

 サマーランドに、よみうりランド、富士急ハイランド。そして忘れちゃいけないディズニーランド。翻訳ミステリー的にはフィンランド、アイスランド、ロマンス的にはスコットランドやハイランドも気になるけど、お子さまに人気なのはやっぱりアミューズメントパーク。静岡県にもジョイランドというアミューズメント施設があるようですが、スティーヴン・キングの『ジョイランド』の舞台は、ノースカロライナの海辺の町ヘヴンズベイにある遊園地。大学生のデヴィン・ジョーンズが〈ジョイランド〉でバイトをしていた、一九七三年の夏から秋の出来事が語られます。



「天国の近くで働く!」という謳い文句に惹かれて、海辺の遊園地を夏休みのバイト先に選んだ二十一歳の大学生デヴィン。遊園地内の幽霊屋敷〈ホラーハウス〉で四年まえに殺人があり、殺された娘の幽霊が出没するという話を聞かされた彼は、休みの日にバイト仲間のトムとエリンとともに〈ホラーハウス〉にはいってみたところ、友人のトムだけが幽霊を目撃。殺人事件と幽霊の謎に興味を持ったデヴィンは、エリンに協力してもらって犯人探しに乗り出す。


 乗り物の操縦や、かぶりものを着てのダンス。熱中症の危険はつねにあるけど、ちょっと変わった大人たちに混じっての遊園地のバイトはなかなか楽しそう。海辺だし、海の家のバイトを彷彿とさせるなあ。失恋のつらさを忙しさでまぎらわせていたら激やせしちゃったとか、なんだか切ないけど、これぞ青春だよね。デヴィンってすごくみんなに愛されていて、ほんとにいい子なんだなあと思う。彼を愛していなかったのって、恋人だったウェンディだけじゃない? ああ、それもなんか切ないわ。あと、エリンもすごくいい子だよね。


〈ホラーハウス〉は出てくるけど、ホラーというよりはミステリー。「スタンド・バイ・ミー」を思わせる、さわやかな感動を呼ぶ物語だ。作家になった中年の主人公が、当時を思い返して語るという形式も似ている。


 二度と戻らない時間。二度と会えない人たち。バックには波の音。「せ〜い〜しゅ〜んの〜う〜し〜ろ姿を〜」と歌うユーミン(すみません、ライブに行ってきたばかりなので)。切なくて心地よい時間をありがとう。そんな気持ちになる読書でした。キングってほんとに多才だなあ。




■4月×日

 サラ・パレツキーの描くシカゴの女探偵V・I・ウォーショースキーは、いくつになってもやっぱりタフでかっこいい。シリーズ十七作目となる『カウンター・ポイント』は、亡きいとこブーム=ブームの汚名をそそぐためにヴィクが立ちあがる物語。



 二十五年まえ、ヴィクの地元で十七歳の少女が実の母親に殺害されるという事件が起きた。ところが、刑期を終えて出所した母親のステラは突然、娘のアニーを殺したのはアイスホッケーの人気選手だったブーム=ブーム・ウォーショースキーだと言いだす。なぜか都合よく発見された娘の日記に、嫉妬深いブーム=ブームに悩まされているという記述があったというのだ。そんなことはありえない。しかもブーム=ブームはとうに亡くなっており、反論しようにもできないのだ。その上、マスコミを通して父や母まで誹謗中傷されたヴィクは激怒。しかしなんとか怒りを抑えて、二十五年まえの事件の真相を調べはじめる。


 ブーム=ブームの親友の娘、ベルナディンヌ(通称バーニー)を預かることになり、子供のいないヴィクが、バーニーと母娘のような暮らしをすることになるのがなかなか新鮮。ヴィクももう五十歳、大学生になる子供がいてもおかしくない年齢なのね。でもこのお嬢さん、いい意味でも悪い意味でもイマドキの子で、保護者役のヴィクは最後までハラハラさせられどおし。安全策をとれば臆病者となじられ、「わたしは年をとり、私立探偵に必要な危険を冒す気をなくしたのかもしれない」と思わず反省しちゃったりして。家族のいないヴィクだけど、バーニーを必死で守ろうとする姿はまさに母親。ヴィクの心のなかにはつねに母ガブリエラがいるからかも。


 恋人ジェイクとの大人の関係もいい感じ。お互いを信頼し、大切に思っているのがよくわかる。ふたりで、ブーム=ブームの伝記はやっぱり書かないとね、いっそのことホッケーのオペラを作っちゃう?と妄想するシーンが微笑ましくて楽しい。ふたりのあいだにつねに音楽があるというのもすてき。ヴィクの歌声を聴いてみたいな。


 現実世界では新大統領のもとで変化しつつあるアメリカ。新時代の社会悪とどう戦っていくのか、今後もヴィクから目が離せない。


 上記以外では、完成度の高い作品ばかりの初期短編集、ダフネ・デュ=モーリアの『人形』、ホワイトハウスに新大統領が引っ越してきて、アメリカの現状と微妙にリンクしているジュリー・ハイジーの大統領の料理人シリーズ第四弾『絶品チキンを封印せよ』もおもしろかった。ロバート・ゴダードの1919年三部作の第一部『謀略の都』は、スパイ小説がちょっぴり苦手なわたしでもつるつる読めました。さすがのゴダード・クオリティ。第二部も読まなくちゃ。

 ではみなさま、ゴールデンウィークも楽しい読書を。



上條ひろみ(かみじょう ひろみ)

英米文学翻訳者。おもな訳書にフルーク〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ、サンズ〈新ハイランド〉シリーズなど。趣味は読書と宝塚観劇。最新訳書はバックレイの〈秘密のお料理代行〉シリーズ第二弾『真冬のマカロニチーズは大問題!』。サンズの〈新ハイランド〉シリーズ第四弾『恋は宵闇にまぎれて』も出ました。お菓子探偵ハンナの動向については、今秋翻訳刊行予定の十八巻で新展開が! もうしばらくお待ちください。


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