読むぞ太宰。

今年も有難く行ってきました。
『太宰ナイト 2013』
内容に触れていますので、ご了承ください。





又吉さん登場。
このイベントではジャケットを着用している姿を見る気がします。


オープニングでは『太宰ナイト』の誕生のきっかけを話していました。
今回で5回目になる『太宰ナイト』は、太宰が生誕100年になる2009年の6月19日からスタートした。
そのころはまだ仕事がなくて、ひとりでライブをやるというのは凄いことで
『太宰ナイト』をやりたいと思っていたが、それが出来なかったら辞めようとも考えていた。


そのころ、せきしろさんから自由律俳句を一緒にやりましょうという声を掛けてもらった。
しかし、面識もない自分になんで声をかけてくれたのだろう…ゲイなのだろうか…などと思っていたら
西荻に住んでいたせきしろさんは、吉祥寺を散歩していた又吉さんを何度か見かけて
「危うい!」と思ったらしく、その姿に10年前の自分を重ね合わせていたといいます。


しかし、せきしろさんが出版社に自由律俳句の企画を話したと聞いても、
次に会うとなかったことになってしまっていた。
編集の方が、せきしろさんはいいが見ず知らずの若手芸人がくっついてくることに
不安を覚えたようで流れてしまっていたらしい。
それでも、せきしろさんは又吉さんと二人でやることに断固拘り、
連載というかたちではなく書下ろしでの出版で『カキフライが無いなら来なかった』が発売された。


同じころ、せきしろさんと飲んでいた時に「太宰ナイトやりたいんです。」と相談をしていた。
数日が過ぎたある日、せきしろさんから「阿佐ヶ谷ロフトおさえました!」と連絡があり、
念願の『太宰ナイト』を開催することができた。
「だから、自分は何もしてなんです。」と謙虚に話しつつ
「それでは『太宰ナイト』スタートです!」と年に一度の時間が始まりました。


今回の大きな流れは
・太宰・又吉 略歴
・又吉自慢タイム
・解読『走れメロス
・『走れメロス』とは誰が言っているのか
・新説 太宰名言
・太宰短編集を自分が選べるなら
・こんな太宰は嫌だ


○OPV
凛として時雨『TK in the 夕景』に合わせて、又吉さんと太宰が重なるVTR。
ゲストは木村綾子さん、しずる村上さん、パンサー向井さん。


○太宰・又吉 略歴
太宰を知っている人も知らない人もいるだろうということから太宰と又吉さんについて簡単に説明。
又吉さんは38歳になったら、子供をスペインにサッカー留学させたいらしいです。


○自慢タイム
その後、さりげなく始まった又吉自慢タイム。
何やら袖から紙袋を受け取った又吉さん。
その袋から徐に大事そうに取り出したのは、太宰の貴重な初版本の数々。
『桜桃』や『人間失格』、連載をしていた『展望』など。
あまりに嬉しいらしく、時たま「フフフっ」という笑い声が漏れてしまう。
やる予定ではなかったものの、こんなチャンス今しかないとわざわざ間におうちに取りに帰ったそう。
太宰ファンの方から、あなたがもっていたほうがいいと譲りうけたものもある。
念願の時間だったこともあって嬉々している様子が伝わってきました。


 

○解読『走れメロス
ここでゲストの木村さん・村上さん・向井さんの登場。
初版本を嬉しそうに自慢していた又吉さんを見ていた村上さんは、
同じく太宰が好きな木村さんに「凄いことなんですか?」と聞いてみると、木村さんは「物欲がないんです。」と。
なので、又吉さんは木村さんから韓国語?の『人間失格』などを譲り受けたりしているそう。


木村さんは、太宰のすべてを集めたい又吉さんを「男の子っぽいですよねぇ」と。
その姿をCDの初回限定版も通常版も全て欲しいんですよねと分かりやすく説明してくれる村上さん。
向井さんはえらいもんで毎年呼んでもらっていると6/19は『太宰ナイト』だなと覚えてしまったよう。
しかし、又吉さんのお誕生日はうっかり忘れていた向井さん。




教科書にも載っているほどの有名作『走れメロス』を今読み返したらとても面白かったということで
又吉さんなりの『走れメロス』を解説していました。


冒頭の「メロスは激怒した。〜」からの下りを読んで、メロスは照英だと言い始める。
そして、親友のセリヌンティウスケイン・コスギ
両手で老爺の肩を揺らすメロスを考えると照英はそんなことをしなさそうなので、もしかしたら藤岡弘、の可能性もあるんじゃないか。
メロスの自分勝手ぶりに、鋭いツッコミを入れつつ読みすすめていく又吉さん。



この様子に木村さんにも「こういう風に学校の先生にも教えて欲しい」と言われるくらいの出来だったが
ここでタイトルにもなっている「走れメロス」とは誰がメロスに言っている言葉なのか?を考えてきたということで、
なぜか見慣れたフリップが登場。
・メロス自身だとしたら→「走れ、俺!」
・母親だとしたら→「起きろ、メロス!」
などなど…なるほどと思っていたところ、徐々に雲行きが怪しくなってきて
ジョン・カビラだったらの答えで、フリップ芸確定。


そんな太宰で遊ぶ又吉さんに木村さんがご立腹。
寺山修二も『走れメロス』にツッコミを入れているようで寺山修二がたどり着いたのは『歩けメロス』だったので
もしかしたら又吉さんもそこに辿りついて、そこから自分の解釈を話してくれるのかなと期待していたが、がっかり。
木村さんからの信頼を失ってしまう又吉さん。


暗転中、木村さんが漏らした一言「もうやってける自信がないよ〜」


○新説 太宰名言
太宰の数ある名言をそれだけでも十分伝わるけれど、現代・自分に置き換えて言葉を考えてきたものを披露していました。
太宰の名言のみ残します。


ー弱虫は、幸福をさえおそれるものです。
 綿で怪我をするんです。
 幸福に傷つけられる事もあるんです。
人間失格
※「綿」の読み方が「わた」なのか「めん」なのかで分かれるところらしい。
 木村さんは「わた」がいい。


ー死のうと思っていた。
 ことしの正月、よそから着物を一反もらつた。
 お年玉としてである。
 着物の布地は麻であつた。
 鼠色のこまかい縞目が織りこめられていた。
 これは夏に着る着物であらう。
 夏まで生きていようと思った。
『葉』
※そのくらい生きていくことに対して希薄になってしまっていたということ。
 ほんのちょっとしたことが糧になるということを言いたい。


ー生きてゆくから、叱らないで下さい。
狂言の神』


ー私の欲していたもの、全世界ではなかった。
 百年の名声でもなかった。
 タンポポの花一輪の信頼が欲しくて、チサの葉一枚のなぐさめが欲しくて、一生を棒に振った。
『二十世紀旗手』



ーてれくさくて言えないというのは、つまりは自分を大事にしているからだ。
『新ハムレット
※自分がかわいいから、言えないんじゃないかと。


ー生きるということは、大変なことだ。
 あちこちから鎖が絡まっていて、少しでも動くと血が噴き出す。
『桜桃』
※又吉さんにとっての鎖になるものを表現していました。



又吉さんが選んだだけあってネガティブなものが多いけれど、
それ以外にもネガティブじゃない名言がたくさんあると木村さんが話していました。
ここでの解釈に、木村さんの信頼を取り戻す又吉さん。


○自分で短編をつくろう
又吉選「僕を笑わせてくれた太宰治
『親友交勧』
『畜犬談』
『駆け込み訴え』
『彼は昔の彼ならず』
『服装に就いて』
トカトントン
『誰』
『乞食学生』
この10作品を見た木村さんから「みんな男の人同士がいちゃいちゃしてるやつ」とここでも又吉ホモ説をいじられる。
又吉さんがホモであるということになると、せきしろさんにも迷惑がかかってしまうことを又吉さんは心配しているよう。
「大ボス(せきしろさん)がいますんで。」
『駆け込み訴え』は読み方によっては、笑えると思えないかもしれないけど、
又吉さん(木村さんも)は笑える小説だと思っている。
『誰』は最後の一行が素晴らしいのでぜひ、そこも読んで欲しい。


どうしても性癖とか出ちゃうからズルしちゃいましたと紹介してくれたのが
木村選「もしも太宰治がanan編集長になって、恋愛特集を組んだら」
『チャンス』
『皮膚と心』
『猿面冠者』
『女の決闘』
『恥』
『カチカチ山』
『男女同権』
眉山


ここでネガティブではない名言も紹介されていました。
ー理屈はないんだ。ふっと好きなの。
『猿面冠者』
ー恋愛は、チャンスではないと思う。私はそれを、意思だと思う。
『チャンス』



時間も迫っていて、後半かなり駆け足になってしまっていましたが、
太宰は装丁も自分で配置などを考えていたという才能もあったという話や
それぞれ誰に寄稿して欲しいといった現実的な話も飛び出して、かなり読みたいと思わされる内容でした。


そこへ突然『走れメロス』が「食べろラーメン」に聞こえていたという村上さんから
「僕が初心者にオススメする二郎ランキング」が発表される。
1・三田本店
2・ひばりケ丘
3・中山
4・目黒
5・野猿
6・歌舞伎町
7・藤沢
8・めじろ台



○「こんな太宰は嫌だ」
太宰の有名な写真も使いつつ、安定のフリップ芸を披露。


そのままエンディングとなりました。
案の定、締めることができない又吉さんイジられながら、
終わって欲しくないというのもあるのかなと思いつつ終演となりました。


皆さんが舞台から下がった後のモニターには太宰の名言が映し出され、
鳴りやまない拍手が贈られていました。






兎にも角にも、又吉さんの熱量が凄い。凄まじい。今年は凄かった気がします。
そんなに早く喋れるの?というくらいの、早口で畳みかける。
それでもやはり2時間で時間が足りるはずもなく、2時間20分を過ぎたあたりで終了しました。


太宰のすべてを集めたい又吉さんのことをCDの買い方で例える村上さんや、
JUNONボーイと自分を重ねる又吉さんに対し「いやいや、呪怨ボーイでしょ」とすかさずツッコミを入れる向井さんたちを見て
「流石だ…」とひとり興奮していましたが
その二人をもってしても入る隙がないほどのマシンガントークを又吉さんが繰り広げた2時間強でした。


時間が押していたこともあって急いでいるけども、伝えたいことはどうしても伝えたいという又吉さんの気持ちが、
噛むことすらしない流暢な早口という形で実を結んでいました。
本当に『走れメロス』の解釈は素晴らしくて、
学生時代にああやって教わったら文学が好きになるだろうなと思いました。
やはり好きな人が伝えようとすることは、何よりも刺さるし伝わりやすい。
その中に、愛のあるイジりこその笑いも大いに盛り込んだ素敵な時間でした。


人間失格』を14歳の時に読んで、その中の14歳までのエピソードと自分があまりにも重なってびっくりした。
小説の中のそれ以降は14歳の自分にはフィクションだったが
今読み直してみると、そこもフィクションではなく自分と重なっている。と話していて
そういう作家に出会えるという奇跡は、今の又吉さんの後ろ盾にひとつとなって輝いているのかなと思いました。


太宰が好きすぎて、何度も太宰のことを褒め言葉での「えげつない」という表現を使っているところや
太宰の作品に出てくるのは「変なひと」と「ふつうのひと」ではなくて
「変なひと」と「変なひと」が出会って、そこで起きる出来事が描かれている。
それは又吉さんが作品をつくるときに大事にしていることであり、
それが又吉さんが太宰にひかれた理由のひとつかもしれないと話していたことが印象的でした。


「うわぁ〜!向井がTUBEいじってるぅ〜!」なんていう無邪気な姿も垣間見れて
又吉さん盛りだくさんの時間だったなと思いました。


木村さんは、太宰に対する想いをとても感じる中にも
冷静で、女性ならではの視点で太宰を話してくれるので、すっと入ってくる気がします。
いつもの後輩の皆さんと違った視点で又吉さんのことも斬っていくのが新鮮でワクワクしました。
ズバズバ行く木村さん好きです。
そして、相変わらず美しい。


今年は気のせいか、より濃厚な時間に感じて、話を聴きながら何度も「うわぁ!」と興奮しながら、
今、凄い話聞けているという幸せを噛みしめて過ごしていました。
頭に気持ちに、バンバン刺さる言葉を受け取って
それこそ「えげつないな」と思いました。


又吉さん木村さん村上さん向井さん。
今年も濃ゆい時間をありがとうございます。
はて、待ってた先輩って誰だったんでしょうか…
また、こんな時間を過ごせますように。
太宰を今年も読み直します。自分にとっての名言を探してみよう。
そんなきっかけに感謝。