ローン・サバイバー



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

2005年6月。アメリカ海軍の特殊部隊ネイビー・シールズに対して、極秘任務が下される。アフガニスタン山岳地帯に潜むビン・ラディンの側近でタリバンのリーダー、アフマド・シャー殺害をせよ、というのだ。実行部隊は4人。リーダーのマイケル・マーフィ大尉(テイラー・キッチュ)、マーカス・ラトレル二等兵曹(マーク・ウォールバーグ)、マシュー・アクセルソン二等兵曹(ベン・フォスター)、ダニー・ディーツ二等兵曹(エミール・ハーシュ)がメンバーだ。エリック・クリステンセン少佐(エリック・バナ)指揮の元、電波の悪い険しい山岳地帯に降り立ったシールズだが、隠密作戦の最中、羊飼い達に見つかってしまう。民間人を殺害すれば、倫理に背くだけではなく、世界中からの非難を浴びて国際問題へと発展するのは明らかだ。しかし見逃せばタリバンに通報され、追われる危険が非常に高い。無線が通じない孤立した中で、4人は激論し、遂には羊飼い達を解放する。その結果…200人ものタリバン兵らが四方八方から攻撃して来るのであった。徐々に追い詰められる4人を待ち受ける運命とは。


アメリカ軍に大損害をもたらしたというレッド・ウィング作戦の映画化です。私はこの作戦自体知らなかったのですが、孤立無援で絶体絶命の中、奇跡的に生き延びた兵士の手記を基にしています。


映画の幕開けは、シールズの過酷な訓練模様を捉えたドキュメンタリ映像です。常人だったらとても耐えられないような、文字通りしごきとしか言いようのない、理不尽なまでの訓練の数々。当然ながら脱落者も続々出て来ます。この試練をくぐり抜けられた者達だけが持ち得る一心同体の精神は、必然でしょう。これが映画中盤以降の戦闘場面で効いて来ます。


監督と脚本はピーター・バーグ。近年は俳優としてよりも、監督&脚本家として活動中の人です。特に『キングダム/見えざる敵』『バトルシップ』での歯切れの良いアクションが印象的でした。本作は作戦開始と同時に緊張感が澱み無く続き、アクションも観ていて痛い描写が満載です。一般人ならばとっくに死んでいるであろう状況でさえ、シールズ隊員らは戦い続けるのですから。観客を実戦に放り込んだかのような、臨場感満点で力強い演出が目を引きます。私はバーグ作品全部を観た訳ではありませんが、これは監督としての技術力が最高に発揮された作品ではないでしょうか。


一方で、観ている間に気になる点も出て来ます。冒頭のドキュメンタリ映像から、仲間同士の強固な結束、自己犠牲等が強調されるので、これは余りに海兵隊万歳の映画ではないのか、と。しかしこの映画での山場は、実は好戦性とは対照的な場面である事に気付かされます。映画序盤の最初の山場は、捕えた羊飼い達をどうするか、という場面です。シールズ隊員同士での、生かすか殺すかの大激論。しかし最終的に彼らは、自分達を死地へと追い込むであろう選択を行います。そして後半の山場。生き残った兵士に思わぬ助けの手が差し伸べられるのです。


苛烈な戦闘場面が強烈な映画です。が、劇中で最も重きを置かれているのは、「殺す」のではなく「生かす」「助ける」行動であり、その精神の気高さでした。バーグは軍事マニアだそうですが、そのような視点を持っているところが単なるマニアではない、優れた映画監督である証し。これは中々に骨太な映画なのです。


主要人物が皆髭面、戦闘場面もカタルシスがまるでない臨場感重視という映画ですが、静と動の音響デザインも含めて細部まで丁寧に作られていました。俳優達も皆、熱演しています。


ローン・サバイバー
Lone Survivor

  • 2013年|アメリカ|カラー|121分|画面比:2.35:1
  • 映倫:PG12(戦闘における銃器による殺傷・鮮血の描写がみられるが、親又は保護者の助言・指導があれば、12歳未満の年少者も観覧できます。)
  • MPAA (USA): R(Rated R for strong bloody war violence and pervasive language.)
  • 劇場公開日:2014.3.21.
  • 鑑賞日:2014.3.21.
  • 劇場:TOHOシネマズ横浜ららぽーと2/デジタル上映鑑賞。公開初日の金曜日、3連休初日の23時40分からの回は20人程の入り。
  • 公式サイト:http://www.lonesurvivor.jp/ 予告編、作品紹介、コラム「池上彰が解説。」といったコーナー等々。

ウルフ・オブ・ウォールストリート



★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1990年代初頭。ウォール街にやって来た無垢な若者ジョーダン・ベルフォート(レオナルド・ディカプリオ)は、一般人から金をむしり取る術を身に付け、やがて26歳で自ら証券会社を設立。アコギな商売で次々収益を増やし、会社の規模を大きくして行く。若き億万長者となった彼は豪邸に住み、モデルのような美女ナオミ(マーゴット・ロビー)を妻にし、豪華クルーザーを買い、セックスとドラッグにまみれ、人生を謳歌するのだ。だがウォール街の寵児となったベルフォートにも、落日が近付いてくる。FBI捜査官デナム(カイル・チャンドラー)に目を付けられるようになったのだ。


演技過剰、ナレーション過剰、映像過剰、音楽過剰、札束過剰、ドラッグ過剰、セックス過剰。上映時間だって2時間59分もあります。これは何もかもが過剰な、痛快ブラック・コメディ映画でした。


マーティン・スコセッシレオナルド・ディカプリオのコンビ作品、そう『ギャング・オブ・ニューヨーク』『アビエイター』『ディパーテッド』『シャッター アイランド』といった作品群にどこか首をかしげる人が多いそうです。かくいう私もその1人。もっとも私は『ディパーテッド』だけは支持しますが。そして『タクシードライバー』や『レイジング・ブル』といった、往年のスコセッシ&デ・ニーロ作品に想いを馳せ、「あぁ何でスコセッシはレオとコンビを続けるのだろう。早く別れてしまえば良いのに」、と嘆息する向きもありましょう。しかしその嘆息も過去のものとなりました。ここのところ暫く、持ち前のパワーと輝きを失いつつあったスコセッシ作品としても、これは会心作でしょう。『グッドフェローズ』の疾走感こそ薄いものの、ぐいぐいと太いタッチで人物を中心に映画を進めるのは、スコセッシならでは。久々の本領発揮です。


モラルのかけらもない自己中心的な登場人物が殆どという、スコセッシのギャング映画と似通った異世界を描いたこの映画は、ウォール街に巣食う、搾取を生業とした男達の映画でもあります。映画の冒頭で描かれているのは、オフィスで行われているパーティ。そこでは、小人を的に向けて投げつけて点数を競い、嬌声を上げている男女達が大勢います。このオフィスではストリップや乱交パーティ、ドラッグの吸引が行われるのは日常茶飯事。狂乱ここに極まれりの異空間なのです。めまいがするような会社ですが、主人公ベルフォートの周囲では、それが当たり前なのです。


そんな世界で異彩を放つのが、これも異様な造形の登場人物ばかり。うぶだったベルフォートを金儲けの権化に変えた上司ハナ役のマシュー・マコノヒーは、近年、すっかり目が離せない役者となりましたが、ここでも妙な歌を聞かせてくれ、笑わせてくれます。若者を毒すには十分に魅力的な、そして毒気たっぷりな男役を、マコノヒーは怪演していました。副社長としてベルフォートの右腕となるドニー役のジョナ・ヒルは、出っ歯にメガネの外見と耳障りなしわがれ声を武器に、見るからに不快で、ずるがしこく、ねちっこく、とても友人にしたくないヤツ。しかしヒルは、間抜けでどこか憎めない暴走男を演じています。オフィスで見せる彼のとある奇行は、『ワンダとダイヤと優しい奴ら』のケヴィン・クラインへのオマージュでしょう。他にも見るからに頭の悪そうなベルフォートの忠実な部下達等も笑わせてくれます。脇役で特に気に入ったのは、ベルフォートの父親でした。近年は監督としてすっかり冴えないとの評価を受けているロブ・ライナーが、温和且つかっとなりやすく口汚い父親を演じていて、これもたっぷり笑わせてくれます。ウディ・アレン映画でも笑わせてくれた元々コメディアンだった彼を、今後もスクリーンで観てみたいものです。


ここ10年ばかりのディカプリオには、常に深刻ぶって眉間に皺を寄せてばかりのワンパターン演技で、少々辟易させられていました。『華麗なるギャツビー』に本作と、最近は柄に合った役と出会えて良かった。ここでは自らの悪に自覚的でありながら、享楽的な人生の謳歌を続けるべく七転八倒する男を快演しています。露悪的なまでの性格の悪さや往生際の悪さ等、近年の役柄と似通っている部分が気には掛るものの、普段よりもオーヴァーアクト気味なのが、このスケールの大きく、しかし結果的に個人に収斂していくブラックコメディに似つかわしいものでした。


ウルフ・オブ・ウォールストリート
The Wolf of Wall Street

  • 2013年|アメリカ|カラー|179分|画面比:2.35:1
  • 映倫:R18+(大人向きの作品で、極めて刺激の強い性愛描写、各種麻薬の常用、及びヌード表現、性的台詞がみられ、標記区分に指定します。)
  • MPAA (USA): R(Rated R for sequences of strong sexual content, graphic nudity, drug use and language throughout, and for some violence.)
  • 劇場公開日:2014.1.31.
  • 鑑賞日:2014.2.10.
  • 劇場:横浜バルト9 シアター11/デジタル上映鑑賞。飛び石連休の谷間、平日月曜11時半からの回は30人程の入り。
  • 公式サイト:http://www.wolfofwallstreet.jp/ 予告編、作品紹介など。