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厩舎の障碍GI制覇のスピード記録

先週の中山大障害では田中剛厩舎のマジェスティバイオ号が優勝。現役時代は名障碍騎手として鳴らした田中剛師はこれで現役9人目の障碍GIトレーナーの仲間入り。騎手としても調教師としても中山大障害を制したことになります。マジェスティバイオ号はデビューこそ栗東の藤原英厩舎でしたが、障碍デビューは田中剛厩舎転厩後ですから、当馬がここまで成長したのは本来持っていた障碍センスはもちろんですが田中剛師の手腕に依るところが大きいのは間違いなく、さすが「障碍競走を自分の管理馬だけで成立させたい」旨の発言をしているだけあります。田中剛厩舎は障碍競走に関しては実質今年から参戦でしたが、いきなり6勝で調教師リーディング奪取。今後も障碍競走といえば田中剛厩舎、ということになるのでしょう。


ところで、田中剛厩舎は開業2年目の新規厩舎。平地競走であれば管理馬の引き継ぎ等の関係で開業初年度でGI優勝、ということもたまにありますが、JGIを開業1年目あるいは2年目で優勝というのは珍しいのではないでしょうか。そこで、JGIに相当する過去の中山大障害および中山グランドジャンプを優勝した厩舎が、開業何年目で優勝しているか、複数優勝している場合は初優勝時に何年目だったか、というのを調べてみました(以下、すべての中山大障害および中山グランドジャンプをJGIと総称します)。
この調査、本来初出走時点からの年数で調べたいところですが、初出走日のデータを取得できない時期に調教師免許を取得・開業している厩舎が多いため、開業何年目、ではなく調教師免許取得後何年目、でカウントせざるを得ないところがあります。このあたりをご了承いただけたらと思います。また、あまり昔ですと、調教師免許取得年すらぼんやりした調教師が多い(Wikipediaで免許取得年が明らかになっている調教師もいますが、全員ではない)ため、1950年以降に調教師免許を取得したことが明らかになっている調教師に限定しています。さらに、尾形充弘師については、障碍GI相当競走の初優勝は1988年ですが、このときは東京大障害として施行されたため、これを除いて中山で開催された大障害競走の初優勝年を当てはめています。結果は以下の通り。


年数調教師(初優勝年)
1年目 
2年目田中剛(2011)
3年目見上恒芳(1952)小西喜蔵(1952)大久保末吉(1957)嶋田功(1990)
4年目松元正雄(1953)
5年目田中朋次郎(1959)阿部正太郎(1961)佐藤勝美(1968)矢野進(1977)須貝彦三(1978)小島貞博(2005)
6年目松山吉三郎(1955)二本柳俊夫(1962)
7年目 
8年目尾形充弘(1989)二本柳俊一(1991)岩元市三(1996)郷原洋行(2000)
9年目勝又忠(1969)大久保洋吉(1984)
10年目佐藤林次郎(1983)境征勝(1992)吉永正人(1998)松元茂樹(2001)
11年目橋本輝雄(1963)伊藤修司(1974)大和田稔(1987)藤原辰雄(2004)
12年目中村均(1988)
13年目鈴木清(1965)高橋義博(2010)
14年目和田正道(1995)
15年目 
16年目八木沢勝美(1980)
17年目二分久男(1981)
18年目 
19年目 
20年目吉岡八郎(1997)
23年目柄崎義信(1980)大久保正陽(1993)鈴木康弘(1998)
25年目野村彰彦(2009)
26年目中尾正(2003)
27年目田中良平(1990)瀬戸口勉(1999)福島勝(2000)
29年目武宏平(2004)
30年目大久保勝之(1985)田村駿仁(1994)
31年目中村好夫(1995)
32年目田中和夫(1991)
36年目吉田三郎(1986)
38年目稲葉隆一(2011)
不明稲葉秀男(1934)川崎敬次郎(1935)杉浦照(1935)大久保房松(1936)尾形景造(1937)藤本冨良(1938)土田順三(1939)田村仁三郎(1940)佐藤重治(1941)稗田虎伊(1942)布施季三(1942)稲葉幸夫(1943)鈴木信太郎(1947)古賀嘉蔵(1948)柏谷富衛(1949)尾形藤吉(1949)久保田彦之(1950)平井寅雄(1950)上村大治郎(1951)東原玉造(1951)田中和一郎(1953)望月与一郎(1954)久保田金造(1955)武輔彦(1958)上田武司(1961)中村広(1963)諏訪佐市(1967)野平省三(1969)小川佐助(1982)


2年目でのJGI優勝、というのは少なくとも1950年以降では田中剛厩舎が初めてのようですね。近年はスピード記録で上位に挙がってくる厩舎が少なく、小島貞厩舎の5年目というのが目につく程度ですので、初めてというだけでない意義深さがあると思います。もっとも、近年の新規開業厩舎は障碍競走をおろそかにすることなく、出走に意欲的なように思えますので、この先もスピード記録で上位に挙がる厩舎が出てくるかもしれません。
調教師免許取得年にJGIを優勝した厩舎はいまのところありません。これは、これまで免許取得年はだいたい開業待機で、翌年あるいは翌々年から開業、というケースがほとんどだったこと、障碍馬の育成にはそれなりに時間を要すること、チャンスが春と秋の年2回しかないこと、あたりが挙げられるかと思います。これを勘案すると、免許取得後3年目でJGIを優勝した4厩舎もなかなかのものと言えそう。と、ここにも嶋田功厩舎の名が。開業初年度の勝利数レコードホルダーでもあり、序盤は順風満帆に見えるのに、現状に至ってしまったというのはどういうことでしょう…。
また、免許取得後10年以内にJGIを優勝した厩舎が多めなのが目につきます。一方で、20年目以降で優勝する厩舎はあまり多くありませんが、21世紀になってからはベテラン厩舎が大願成就、というケースがちらほらありますね。稲葉隆一厩舎に至っては今年、定年目前のラストイヤーにして中山グランドジャンプを優勝。この例はこの例で珍しいと言えるでしょう。


さて田中剛厩舎、騎手生活が長かった関係で厩舎開業は遅め、このため定年まではあと約20年しかありませんが、そんな中でもJGIの勝ち星をどこまで伸ばすのか注目されます。厩舎の障碍馬の層の厚さに加え、大将格のマジェスティバイオ号はまだ4歳、順調ならまだ勝てるでしょう。JGIの勝ち星の歴代最多は矢野進厩舎の7勝。不世出の記録に見えますが、田中剛厩舎ならやれるのでは。現在は大障害優勝馬は以後出走できない、という規定も、大障害優勝馬は斤量加増、という規定もないですから、厩舎のJGI優勝がこの1勝だけでは困ります。大いに期待したいところです。