2012-06-03
■[人文科学]『中国化する日本――日中「文明の衝突」一千年史』與那覇潤、文藝春秋、2011
本書は好意的な批評が多く聞くので興味を持ったのですが、私のような歴史の知識に対して門外漢で、確たる歴史視点を持っていない者にとっては退屈な論文でした。
「本書は、歴史学の方法を使って、そのような新しい日本史を描きなおすものです。そこで鍵になるのが、私たちが「絶えず進歩してきた」とする「古い日本史のストーリー」で頻繁に使われてきた「西洋化」・「近代化」・「民主化」などに代わる「中国化」という概念です。」(12頁より)と著者が「はじめに」で宣言しているとおり、中国の宋の時代に導入された社会構造を「中国化」と説明し、それに沿って、今まで顧みられなかった宋代以降の中国史と、鎌倉時代以降の日本史を見直しているものです。
それらは最近の歴史学の視点であるようで、それが確固としたものなのか、それとも一部の人が主張しているだけなのかわからないのですが(それがごちゃ混ぜになっているように感じるのが本書の欠点だと思われます)、素人にとっては興味深いものでした。
大学の講義を元に執筆されたようなので、文章にその場のノリを感じる勢いが見られて飽きずに読み続けることができるのですが、あまりにもシンプルに解説されているので、内容に対し「本当かな」という疑う視点を何度も抱きました。本書に書かれていることは、今、この時点だから通用するストーリーであって、日本の現状が変われば通用しないのではないでしょうか。
でも、今の日本の政治家が結果的に世襲になっても、選挙で大きな不満があがらないのは、中国化してるからなんでしょうかね……。
- 作者: 與那覇潤
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2011/11/19
- メディア: 単行本
- 購入: 8人 クリック: 150回
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2012-05-27
■[海外ミステリ]『甦った女』レジナルド・ヒル, 嵯峨静江訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,1992→1997.
訳者あとがきによると、レジナルド・ヒル20作目かつダルジール警視シリーズ12作目の作品。本作は27年前のクリスティの小説のような殺人事件の再捜査をするところから始まります。私は、ここのところ続いて昔の事件の再捜査というミステリを手に取っていることになります。小説の設定として書きやすいと思われます。
1963年、ラルフ・ミックルドア男爵邸でハウスパーティーの前日の深夜、客の外交官のジェームズ・ウェストロップの妻のパメラが密室で遺書を残し、胸に銃口を押しつけたショットガンによって自殺かと思われる死体で発見された。
すぐさま警察が呼ばれ捜査が始まると、ウェストロップ家の二人の子どもの乳母であるシシリー・コウラーの部屋にあったタオルについていた血痕がパメラのものであったため、パメラを容疑者として尋問にかけた。パメラとコウラーは二人ともラルフ・ミックルドア男爵を熱愛しており、借金をして政略結婚をしようとしていたミックルドアがコウラーといっしょにパメラを殺したと、コウラーは自供した。そのためコウラーは終身刑となった。その後、コウラーは刑務所内でダフネ・ブッシュという女を殺害した。
27年後、シシリー・コウラーのいとこのワッグズがコウラーの殺人は冤罪であると訴えた。上司の命令によりしぶしぶ捜査を行うダルジールとパスコー。なぜ今になって無罪を主張したのか? 他に真犯人はいるのか?
ここからは本書の内容を紹介していますので、未読の方はご注意を(といっても、私の感想はそのようなものばかりですが、今回は念押しに)。ちなみにヒルに興味を持っている方は、本書を最初にとることは避けた方がよいでしょう。しかし、必読の作品ですよ。
カバーの本書紹介のリードでは、「海を越え、歳月を超えて甦る“黄金時代の殺人”」「円熟の筆致が冴える本格大作」とあり、決して間違いではありませんが、その印象とは異なる不思議な読後感が残る作品です。事件はすべては解明されないのですが、物語は読者にも納得した上できちんと終わるのです。
この事件が解明されないけど奇妙な満足感を「どこかで味わったことがあるな……」としばし考えたところ、意外なことにチャンドラーの『長いお別れ』でした。そこで、本棚を探したのですが、『ロング・グッドバイ』も見つからず……。おおよその記憶ですが、『長いお別れ』のラストシーンは、マーロウが推理を見せるのですが、たしか細部は異なるが大体あっている、というようだったと思います。しかし物語としては、それでよかったわけです。本書も同じで、ダルジールが推理を披露するのですが、あくまでも憶測なので真実なのか判断できません。しかしそれで良いのです。そのように納得できる物語でした。
もっとも謎解きミステリとしては、フェアではありませんので、あまり良いことではなく好みではない人もいると思うのですが、面白さを加味して評価は☆☆☆☆です。
甦った女―ダルジール警視シリーズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
- 作者: レジナルドヒル,Reginald Hill,嵯峨静江
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1997/04
- メディア: 新書
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2012-05-23
■[人文科学]『暇と退屈の倫理学』國分功一郎,朝日出版社,2011.
昨年、書評などで評判になった哲学書。人間は物質的に豊かになるにつれて、生きるのに全面的に使わざるを得なかった時間に余剰が生まれた。それを「暇」という。さらに、行きすぎた資本主義がその暇を奪い合っている。「労働者の暇が搾取されている」(23頁より)のだ。なぜ、暇は搾取されるのか? 人間は暇になると退屈してしまい、それを嫌うからだ。「こうして、暇のなかでいかに生きるべきか、退屈とどう向き合うべきか」(24頁より)という問いが生まれた。本書は、それを扱った論文である。それぞれ空間と時間の観点から述べられており、面白い。哲学書なので、思考ゲーム的な側面が強く、メンタル的に必ずしも当てはまらないのではないか、と感じることもあったけれども。
著者は、現状の消費社会が問題であると述べているし、非常に共感できる。我々の生活は、暇がある人もない人も、自らが望んでその生活を選択しているわけではなく、そのように社会から強いられているとしている。そして、誰もがそれを問題点と考えていない。肯定している。ケータイ電話によるサービスが、人間の必要性に立脚したサービスのみではなく、たとえば電車の通勤時間、エスカレーターに乗っている時間、睡眠時間など、それ以前だったら消費されずにいた時間でさえも消費させるようなサービスでビジネスを展開している。それを変だと思うのではなく、経済活動だと肯定しているのだ。それを豊かさと考えている(もちろん全員ではない)。
消費社会とは、サービスという檻とエサに管理された社会である。これを脱するにはどうしたらよいのだろうか。その答えの一つを著者は提示している。人間はなぜ退屈を忌諱するのか。退屈から抜け出すためにはどうしたらよいのか。著者の答えは残酷だと思う。それができるくらいならば、苦労はしないと思わせる。それがどのように残酷なのかは、読んでみるとよいでしょう。
- 作者: 國分功一郎
- 出版社/メーカー: 朝日出版社
- 発売日: 2011/10/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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2012-05-20
■[海外ミステリ]『皆殺し』ローレンス・ブロック, 田口俊樹訳,二見文庫,1998→2006
マット・スタガー・シリーズの第14作目の作品。だんだん残りが少なくなってきました。
前作『処刑宣告』までは、ハードボイルド+謎解きミステリの融合をはかるというか、ハードボイルドを物語として成り立たせるために謎解き要素を取り込んだように感じましたが、本作では一転、謎解きの要素は少なくなり、ハードボイルドというよりも、暴力小説のような感じすらしました。後半は「これがスカダーシリーズなの?」と思ったぐらいです。これは、時代の要請だったのか、それともブロックの迷走なのか、わかりません。
途中、『八百万』を思わせる感動シーンがあるものの、やはり後半の展開はやや不自然だと思います。コミックミステリ(たとえばバーニイシリーズ)でしたら、このような展開もアリでしょう。しかし、年齢を重ねた元アルコール依存症者には不可能ではないでしょうか。したがって非常に厳しめに☆☆☆です。語り口は、もうこれはブロックでしか味わえない極上のものであり、意外な展開もあるのですが、それさえもうっとうしく感じてしまうほどです。
- 作者: ローレンスブロック,Lawrence Block,田口俊樹
- 出版社/メーカー: 二見書房
- 発売日: 2006/03
- メディア: 文庫
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2012-05-13
■[日本ミステリ]『迷路館の殺人』綾辻行人,講談社文庫,1988→1992.
本書は「新本格ムーヴメント」の第一人者、綾辻行人氏の第3作目の作品。私は新本格の流れは掴んではいたものの、決して系統的に読んでいない、決してよい読者ではありません。それは、このムーヴメントが起きた頃は、謎解きミステリから興味が離れていってしまったことにあります。同時期の、ハードボイルド・冒険小説のほうに気が移っていました。
“迷路館殺人事件”というタイトルの推理小説が鹿谷門実という著者で出版された。あとがきによると、その殺人事件は実際に起こった事件で、鹿谷は実際にその現場に居合わせた人物だった。編集者のすすめで書かれたものだという。それを読んでいくところから始まる。推理小説界の老大家の宮垣葉太郎は、ある田舎に一つ一つの部屋まで迷路になっている迷路館という館に4名の推理作家、評論家、編集者などを還暦祝いのパーティーで招待した。しかし、皆が訪れたところで、宮垣は自殺したという。宮垣の遺言によると、肺がんで残りは少なくないので自殺した、自身の莫大な遺産は弟子に近い4名の推理小説家に相続させたいが、これから小説を書いて、編集者・評論家・マニアに読んでもらい、もっとも優れた小説を書いた者に譲るというのだ。そこで、4名が1人ひとり殺されていく……。
本書の評価は難しく、加点法でしたら☆☆☆☆★ですが、減点法でしたら☆☆☆ともいえるもので、総合して☆☆☆☆といったところです。一度読み終えた後、最初から犯人は誰か、探偵は誰かを注意して字面を追っていくと、いかに注意深くフェアに書かれているかがわかります。しかし果たして本書は謎解きミステリなのでしょうか? 本書の魅力は、リアリティのない設定など、自らの弱点でさえもミステリの完成度の味方につけて、そして行きすぎた叙述は幻想になってしまうところにあると思います。
- 作者: 綾辻行人,相澤啓三
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1992/09/03
- メディア: 文庫
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