おわりに

ブログを始めた当初は、更新頻度が週一程度だったとはいえ、10年以上も続くとは思いもしませんでした。
はてなダイアリー」の終了ということなので、一旦このブログは終了し、「はてなブログ」で新たにブログを始めることにしました。
URLは、次のとおりです。引き続きよろしくお願いします。
https://hoti-ak.hatenablog.com/

「法的な考え方」とは

現在の公職選挙法第58条は、次の規定となっている。

(投票所に出入し得る者)
第58条 選挙人、投票所の事務に従事する者、投票所を監視する職権を有する者又は当該警察官でなければ、投票所に入ることができない。
2 前項の規定にかかわらず、選挙人の同伴する子供(幼児、児童、生徒その他の年齢満18年未満の者をいう。以下この項において同じ。)は、投票所に入ることができる。ただし、投票管理者が、選挙人の同伴する子供が投票所に入ることにより生ずる混雑、けん騒その他これらに類する状況から、投票所の秩序を保持することができなくなるおそれがあると認め、その旨を選挙人に告知したときは、この限りでない。
3 選挙人を介護する者その他の選挙人とともに投票所に入ることについてやむを得ない事情がある者として投票管理者が認めた者についても、前項本文と同様とする。

この規定は、「国会議員の選挙等の執行経費の基準に関する法律及び公職選挙法の一部を改正する法律(平成28年法律第24号)」により改正され、現在の姿になっているが、かつては、次のような規定(以下「旧規定」という。)であった。

(投票所に出入し得る者)
第58条 選挙人、投票所の事務に従事する者、投票所を監視する職権を有する者及び当該警察官でなければ、投票所に入ることができない。

現在の規定であれば問題ないのだが、旧規定の場合には、選挙人が幼児を連れて投票所を訪れた場合に、その幼児が投票所に入れるのか問題となる。
この点について、『自治体法務研究(No.55)』において、ある自治体の職員の方は、公職選挙法の目的は、「選挙が選挙人の自由に表明せる意思によつて公明且つ適正に行われること」であり、幼児を連れて入ることがその妨げになることはないので、当然これを認めるべきであり、それが法的な考え方だとしている。
結論に異論はないのだが、それが法的な考え方だと言われると、やや疑問を感じるところである。旧規定は、選挙が「公明かつ適正」に行われるために、投票所には必要最小限の者しか入れないようにしたというのが趣旨であり、むしろ現在のような規定になっているのは、投票率の向上という点に主眼があるのではないかと感じる。仮に、旧規定で選挙人の連れた幼児が投票所に入ることを認めるのであれば、選挙人との一体性という点に着目した解釈を行う方が自然な感じがする。
ちなみに、上記の職員の方は、現在の規定を「親切心にあふれた条文」と評しているが、私も冗長な感じがするのが否めず、投票所に入ることができる者の判断は、投票管理者に任せればいいのではないかと感じた。そこで、その経過を見てみると、旧規定は、平成28年法律第24号で現在の規定になったわけではなく、「公職選挙法の一部を改正する法律(平成9年法律第127号)」で一度次の規定になっている。

(投票所に出入し得る者)
第58条 選挙人、投票所の事務に従事する者、投票所を監視する職権を有する者又は当該警察官でなければ、投票所に入ることができない。ただし、選挙人の同伴する幼児その他の選挙人とともに投票所に入ることについてやむを得ない事情がある者として投票管理者が認めたものについては、この限りでない。

「この限りでない」という表現がしっくりこない面はあるが、これで十分である。しかし、現在のような規定になったのは、実務において不都合なことがあったのだろう。

飲食店の営業時間等の表記から

次は、ある飲食店ガイドに記載されていた営業時間と定休日の表記である。

飲食店A
営業時間:11:30〜14:00
定休日:月曜
飲食店B
営業時間:月〜土 11:30〜14:00、日 11:30〜17:00
定休日:月曜
飲食店C
営業時間:平日 11:30〜14:00、土・日・祝日 11:30〜17:00
定休日:月曜

飲食店Aは問題ないとして、飲食店BとCには気になるところがある。
飲食店Bは、月曜日が定休日でありながら、営業時間の表記があるのがおかしなところである。「月〜土」という表記を「火〜土」とすべきだろう。
飲食店Cは、一見おかしさはないのだが、月曜日も平日であることからすると、飲食店Bと同様のおかしさがあることになる。「平日」という表記を「平日(月曜日を除く。)」とすればいいのだが、法文に慣れていない人は違和感を抱くのではないだろうか。仮に「火〜金」とするのであれば、そこから「祝日」を除かなければいけないので、解決策にはならない。

市外在住職員の住居手当の減額

富里市 県「減額は不適切」 市外在住職員の住居手当 /千葉
富里市が市議会12月定例会に提案している市外に住む職員の住居手当を減額する条例改正案を巡り、市内への居住促進を目的に掲げる市に対し、県が「適切ではない」との見解を示している。19日の市議会最終日で採決される予定で、その判断が注目される。
市は、借家に住む職員に月額2万7,000円を上限に住宅手当を支給しているが、市外に住む場合は支給額を5,000円減額するとした条例改正案をまとめた。
 (以下略)
毎日新聞2018年12月19日

地方公務員の給与は、均衡の原則(地方公務員法第24条第2項)*1がある以上、在住する場所によって手当の額を変えるのは適当とは言えないだろう。
仮に市内在住者に何らかの金銭を交付することを考えるのであれば、それが補助金であれば公益性があるかどうかという問題もあるが(地方自治法第232条の2)*2、いわゆる闇給与として給与条例主義(地方公務員法第25条第1項)*3に違反しそうである。
考えられるのは、福利厚生の一環として何かできないかということだが、果たして適当な方法はあるのだろうか。

*1:「職員の給与は、生計費並びに国及び他の地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定められなければならない。」という規定である。

*2:普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる。」という規定である。

*3:「職員の給与は、前条第五項の規定による給与に関する条例に基づいて支給されなければならず、また、これに基づかずには、いかなる金銭又は有価物も職員に支給してはならない。」という規定である。

書き振りが気になる規定の例(19)

「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」は、狩猟をしようとする者は都道府県知事の免許(以下「狩猟免許」という。)を受けなければならないとし(同法第39条第1項)、狩猟免許を網猟免許、わな猟免許、第一種銃猟免許及び第二種銃猟免許の4種類に区分している(同条第2項)。そして、狩猟免許を受けるには、都道府県知事の行う狩猟免許試験を受けなければならないが(同法第41条)、狩猟免許の欠格事由及び狩猟免許試験の受験資格について同法は次のように規定している。

(狩猟免許の欠格事由)
第40条 次の各号のいずれかに該当する者に対しては、狩猟免許(第6号の場合にあっては、取消しに係る種類のものに限る。)を与えない。
(1) 網猟免許及びわな猟免許にあっては18歳に、第一種銃猟免許及び第二種銃猟免許にあっては20歳に、それぞれ満たない者
(2) 精神障害又は発作による意識障害をもたらし、その他の狩猟を適正に行うことに支障を及ぼすおそれがある病気として環境省令で定めるものにかかっている者
(3) 麻薬、大麻、あへん又は覚醒剤の中毒者
(4) 自己の行為の是非を判別し、又はその判別に従って行動する能力がなく、又は著しく低い者(前3号に該当する者を除く。)
(5) この法律又はこの法律に基づく命令の規定に違反して、罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から3年を経過しない者
(6) 第52条第2項第1号の規定により狩猟免許を取り消され、その取消しの日から3年を経過しない者
(受験資格)
第47条 第40条各号のいずれかに該当する者は、狩猟免許試験を受けることができない。

狩猟免許の欠格事由と狩猟免許試験の受験資格は、基本的にはパラレルになっているが、規定だけ見ると異なる扱いとなるのは、第40条第6号の定めである。
つまり、狩猟免許の欠格事由は、第40条の柱書で「第6号の場合にあっては、取消しに係る種類のものに限る」とされているので、例えば第52条第2項第1号の規定により*1、第一種銃猟免許を取り消され、3年を経過していない者であっても、網猟免許であれば受けることができることになっている。
しかし、狩猟免許試験の受験資格は、第一種銃猟免許を取り消されて3年を経過していないのであれば、網猟免許試験の受験資格もないことになる。
実務を承知していないのでこれでよいのかもしれないが、普通に考えれば、狩猟免許試験の受験資格は狩猟免許の欠格事由と同一であるべきではないかと思われる。第40条の「第6号の場合にあっては、取消しに係る種類のものに限る」という限定を柱書でかけたのは、第6号では書き難かったような感じがするが、そうすると、第47条でも同様の手当てをすべきだったのだろう。

*1:第52条第2項は「管轄都道府県知事は、狩猟免許を受けた者が次の各号のいずれかに該当するに至った場合は、その者の狩猟免許の全部若しくは一部を取り消し、又は一年を超えない範囲内で期間を定めて狩猟免許の全部若しくは一部の効力を停止することができる」とし、同項第1号は「この法律若しくはこの法律に基づく命令の規定又はこの法律に基づく処分に違反したとき」としている。

施行期日を定めない省令

学校教育法施行規則の一部を改正する省令の一部を改正する省令(平成29年文部科学省令第42号)
学校教育法施行規則の一部を改正する省令(平成29年文部科学省令第27号)の一部を次のように改める。
附則に次のただし書を加える。
ただし、第126条第2項の改正規定については、平成30年4月1日から施行する。

この省令は、附則がなく、施行日を定めていない。
改正事項は、改正規定の一部について別の施行日を定めることとするものであり、法律の施行日を定める政令について附則を定めない(施行日を定めない)こととの類似性に着目したのであろう。しかし、形式は通常の一部改正省令であるのだから、この場合は施行日を定めるのが普通の考え方だろう。

例規の立案で間違いやすい例(72)

職員の退職管理に関する内閣官房令の一部を改正する内閣官房令(平成29年内閣官房令第9号)
附 則
 (施行日)
1 この内閣官房令は、平成30年1月1日から施行する。

見出しの「施行日」は略称として用いられる文言である。「施行期日」とすべきである。