庁舎に自動販売機を置くことは、行政財産の目的外使用か

以前『自治体法務NAVI』の「自治体法務Q&A」に行政財産の目的外使用についての記事が幾つか掲載されているが、これが分かりにくい。
市役所の庁舎内や公の施設に自動販売機を置く場合、行政財産の目的外使用によるのが通常ではないかと思うのだが、同Vol.29の記事は、業者との契約で定めるべきであるとしている。その理由として、市役所や公の施設は、行政財産ではないことを挙げている。具体的には、次のように記載している。

行政財産とは、公用又は公共用に供している市有の不動産(市役所や公の施設のために使っている土地や建物)のことです。市有不動産の用途が市役所や公の施設として使うことなのであって、市役所や公の施設が財産(行政財産)なのではありません。
また、来庁者や利用者の利便のために、自動販売機をどこに置いて、どう利用させるかは、市役所や公の施設の庁舎の管理に係ることであって、財産(市役所や公の施設のために使っている土地や建物)の管理のことではありません。

「市役所」とか「公の施設」が不動産の用途に着目した名称であることは、そのとおりだろう。しかし、そのことから、市役所等が市有の不動産たる行政財産に当たらないということにはならない。これらは、いわば次元の違う用語であって、比較の対象にならないのに、同一の次元で比較して別物だという前提で論じていることが分かりにくくしている原因であるように思われる。
さらに、同記事は、次のように述べている。

市が来庁者や利用者の利便のために自動販売機を置いたからといって、その置いた場所の土地や建物が市役所や公の施設のために使われていることに変わりありません。
また、業者は市との契約によって自動販売機を置き、維持管理するのですから、その置いた場所の土地や建物(行政財産)を使っているのは市であって、業者(市以外の者)ではありません。

この記載自体は、そのとおりだと思うが、そうすると、例えばコピー機を利用させる場合にように、自動販売機が利用されたことにより得られた収入は市の収入にすることが原則になるであろう。そうするのであれば、行政財産の目的外使用によらず、契約によってもよいであろうが、実際にはその収入は業者の収入にするのが通常であろうから、そうすると、行政財産の目的外使用によるより仕方がないように思うのである。
なお、同記事も、自動販売機を置く場合に行政財産の目的外使用によることを全て否定しているわけではなく、次のように記載している。

市が自動販売機を置くことにしたのではなく、市としては置く必要性を感じていないが、業者から置かせてほしいと申請があり、置かせてもその土地や建物を市役所や公の施設として使うことに支障がないので置くことを認めるという場合であれば、行政財産の目的外使用許可の方法で行うことになります。

ここまでくると、ようやく同記事の意図が分かってくる。つまり、施設の本来の目的で使うのか、そうでないかで違うのであり、前者なら契約、後者なら行政財産の目的外使用になるということを難しく言っているだけのようである。
それは、そのとおりなのだが、一般的に自動販売機の設置を行政財産の目的外使用としているのは、上記のような実務の取扱いを考慮してのことなのであろう。つまり、同記事の見解は、結果として必ずしも間違ってはいないものの、現実的な見解とは言えないことになる。
なお、行政財産については、地方自治法第238条第2項の規定により、貸付けを行うことは可能である。そして、行政財産の貸付けによるべきか、目的外使用許可によるべきかは、長期的かつ安定的に貸付けを行う場合には前者により、一時的な使用として認める場合には後者によることとされている(実務地方自治研究会『Q&A実務地方自治法』(P4504〜))。