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天体望遠鏡がほしい

来年、1883年10月30日以来、約120年ぶりに本土で見られる金環日食が控えていたり、パンスターズ彗星(C/2011 L4)が2013年に明るい肉眼彗星になりそうだったりと、天文イベントが目白押しの中、久々に天文熱が再発してしまいました。
一応、手元には大昔に買った天体望遠鏡があることにはあります。

ビクセン製の口径125mm F5.8のニュートン反射望遠鏡*1で、同社製のスーパーポラリス赤道儀に、ガイド用の口径60mmの屈折望遠鏡とともに載せてあります。確か、買ったのは1986年のハレー彗星回帰の前で、当時画期的だったコンピュータによる天体の自動導入を実現している最新鋭機でした*2
1997年のヘール・ボップ彗星の時も使用しましたが、さすがにこれだけ年数がたつと、あちこちにガタがでるもの。おまけにこの望遠鏡、過去に一度、観測時に足を引っ掛けて倒してしまったことがあり、接眼部からファインダー取付部にかけて、鏡筒が歪んでしまっています。そのため、光軸は修正不能なほどずれているわ、ファインダーはグラグラで使い物にならないわと問題だらけ。そこへもってきて、2001年には就職して忙しくなったこともあり、いつしか望遠鏡は使わなくなってしまいました。


が、上記のような理由で焼けぼっくいに火がついた格好。久しぶりに調べてみると、望遠鏡の制御は自動化が進んでいるし、光学材料も進歩しているためか望遠鏡そのもののラインナップもすっかり様変わり。完全に浦島太郎状態で、一から勉強しなおす羽目になりました。


天体望遠鏡を選ぶ場合、何を目的にするか、またどんな場面で使うかをハッキリさせることが重要です。初心者の場合、あれもこれもと欲張りがちですが、どんな場面でも使える万能の望遠鏡というのは存在しませんから、無理をすればアンバランスで中途半端なシステムが組みあがり、後悔することになりかねません。で、私の場合ですが…

使う場所の問題

私は車を持っていませんので、望遠鏡を使うとすれば自宅周辺にならざるをえません。そして自宅は東京23区内。当然のごとく光害はひどく、淡い星雲・星団の観望は望むべくもありません。自ずと観望対象は月や惑星が中心になります。淡い天体を対象に写真まで考えるとF値が明るい望遠鏡が望ましいのですが、逆に言えばそこを無理に考える必要はありません。またF値が明るい=焦点距離が短いということですので、倍率が稼ぎにくく、惑星観測には不向きです。
一方、自宅近辺で使うことを考えると、輸送についてはそれほど気を配る必要はないので、ある程度の重さ、大きさは許容できます。とはいえ、あまりに大掛かりなシステムだと設置が億劫になって稼働率が下がりがちになりますので、そこは体力と相談で。

使う目的

上で書いたとおり光害地での観望になりますから、眼視がメインで写真は二の次でしょう。とはいえ、きっと間違いなく写真を撮りたくなるでしょうから、備えは必要です(^^;

望遠鏡の形式

望遠鏡には、レンズで光を集める「屈折式」、凹面鏡を使って光を集める「反射式」、両者を組み合わせた「カタディオプトリック式」の大きく3つの形式があります。以前、こちらに書いたように、それぞれの形式には一長一短があります。
しかし、これらのうち反射式…特にニュートン式と呼ばれる最もオーソドックスなタイプに関しては、現在、質のよいものが入手しにくくなっています。本来、この形式は大口径を低価格で実現でき、また視野中心部については原理的に無収差のため、惑星観測などには最適です。が、「大口径の割に低価格」という特徴は、裏を返せば「安物でも光学的スペックだけはまぁまぁ」という望遠鏡を作りやすいということになります。結果、機械としての作りが甘い中国製の鏡筒が幅を利かせることになってしまっているようです。国産のニュートン式反射としては、ビクセンR200SSがほとんど唯一の選択肢です*3
このR200SS、10年あまりも販売され続けているロングセラー商品で性能も確かなのですが、F4という明るさからも分かるように、どちらかといえば写真向きの鏡筒です。明るさを優先しているために犠牲にしている部分(画面の淵にいくほど星が伸びるように写る「コマ収差」が大きい、斜鏡がオフセットされていて光軸調整が難しい、斜鏡が大きいため回折によりコントラストが低下しやすい等)も多く、私の目的とは合致しません。
惑星観望を目的にするなら、焦点距離を長く取れるカタディオプトリック式は有力な選択肢の1つです。しかしこちらは焦点距離が長い分、写真撮影はかなり困難になります。例えばビクセンVC200Lは口径200mmの焦点距離1800mm。普通の写真でも、超望遠レンズはブレなど気をつけなければならない部分が多くなりますが、加えて天体写真の場合、星の動きを正確に追尾しなければならず、難易度はさらに跳ね上がります。架台を含め、よほど足回りを固めないと、まともな写真を撮るのは覚束ないでしょう。また、光学系の複雑さや副鏡による光路の遮蔽により、像のシャープさやコントラストが犠牲になりがちです。
その点、屈折望遠鏡はメンテナンスが簡単で、EDレンズを使った高性能のものであれば弱点らしい弱点もありません。問題があるとすれば価格面。性能や口径が上がるにしたがって加速度的に価格は跳ね上がっていきますので、どのあたりで折り合いをつけるかが焦点です。惑星を見ることなども考えると、希望としては、せめて口径100mm程度はほしいところです。

望遠鏡の架台

こちらに書いたように、望遠鏡を載せる架台には、大きく分けて「経緯台」と「赤道儀」の2つの種類がありますが、写真撮影まで考えるなら赤道儀の一択です。ここで考えるべきは、赤道儀の大きさ。本格的な写真撮影を考えると、架台に望遠鏡本体のみならず、カメラや天体追尾のためのシステムを載せる必要があります。架台には、機種によって載せることのできる重量がそれぞれ決まっていますが、上記の点を考えるとある程度余裕を持っておきたいところです*4。ただ、搭載可能重量の大きい架台は、それに比例して架台自体の大きさ、重量、価格が上がってきますから、そこも考慮に入れておく必要があります。


…と、まぁ、こんなあたりを考えて機種選定を進めました。しかし、後日詳しく書こうと思いますが、望遠鏡のラインナップ、以前に比べると、初心者には色々な意味で厳しいものになってますね…。


ともあれ、候補として残ったのは以下の4種類。

ここでまず最初に脱落したのは、高橋製作所の「TSA-102SBT2M」です。「TSA-102S」は口径102mmの高性能屈折望遠鏡ですが、いかんせん価格が高すぎます。高橋製作所は天体望遠鏡の専業メーカーで、その製品は光学性能といい機械精度といい、ハイエンドの名に恥じない立派なものなのですが、さすがにこれは手が出ません*5。しかも上記セットで使われている赤道儀EM-11 Temma2M」は搭載可能重量が8.5kg。一方、望遠鏡本体のTSA-102Sは本体だけで5.4kgあります。鏡筒を固定するバンドの重さなども加味すると、7kg近くになるでしょうか。写真撮影をする場合、架台にはメインの望遠鏡に加え、カメラや天体追尾監視用の望遠鏡を載せる必要がありますが、そんな余裕がないのは一目瞭然。架台をもう一回り大きい「EM-200 Temma2M」にすれば、搭載可能重量は16kgにまで増えますが、価格はさらに15万円ほど上がってしまいます。
同じ高橋製作所の「SKY90MT2MM」も脱落しました。「SKY90」は口径90mm、焦点距離500mm(F5.6)と小ぶりな望遠鏡。コンパクトで軽量(本体重量3.2kg)なため、取り回しはよさそうですが、焦点距離の短さが気になります。写真には向いているのでしょうけど、眼視では少々使い勝手が悪そうです。また、例によって価格が高め。高橋製作所、天文ファン的に憧れではあるんですが、やっぱりなかなか手が出ません…(^^;


結局、生き残ったのはビクセンの2機種。鏡筒はどちらもEDレンズを使った口径103mm、焦点距離795mm(F7.7)の屈折望遠鏡ですが、違いは架台。一方は搭載可能重量12kgのSXW赤道儀、もう一方は搭載可能重量15kgのSXD赤道儀になります。SXDはSXWの上位版という位置づけで、基本機能こそ同じものの、SXWに比べてパーツのグレードや材質が高くなっています。
ビクセンの場合、カタログ上の「搭載可能重量」は、どうやら眼視での観望を念頭に設定されているようで、写真撮影を考えるとカタログ値の2/3程度に考えておいたほうがよいようです。となると、SXWの実質的な搭載可能重量は7〜8kg前後、SXDは9〜10kg前後と思われます。
一方、鏡筒のED103Sは付属品等含めた重さが5.4kg。搭載重量の余裕を考えると、SXDの方が無難でしょう。SXWよりだいぶ高くなってしまいますが、ほいほい買い換えるような性質のものではないですし…。

*1:ちなみに本体に貼ってある「天文ガイド」のステッカーは、以前投書が天文ガイド本誌に掲載されたときに記念でもらったもの。

*2:世界初の天体自動導入装置である「マイコンスカイセンサー」。もっともコンピュータ制御といっても、今のレベルからすればきわめてお粗末なもので、毎回、使う前に日時や緯度経度を入力しなければならなかったり、目標天体を別添のデータ表のコード番号で入力しなければならなかったりする上、天体導入の動作も遅く、正直、目視と手動で導入した方が圧倒的に速いようなシロモノでした。

*3:ニュートン式に限らなければ、高橋製作所のミューロン(ドール・カーカム式)もありますが、カタディオプトリック式と同様、焦点距離が長すぎて写真撮影の難度は高いですし、それなりに高価です。

*4:その点を考えると、以前の私の持っていたシステムは過積載ぎみといえます。当時は中学生で、そこらへん分かってなかったからなぁ…

*5:もっとも高橋製作所のラインナップ中では、TSAシリーズはこれでもスタンダード品の位置づけです。さらに上のFSQシリーズやTOAシリーズになると、価格はそりゃあもう…