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2018-02-18

[]白色LED対応光害カットフィルター「LPS-D2」発売 19:27 白色LED対応光害カットフィルター「LPS-D2」発売を含むブックマーク

以前、白色LEDと光害カットフィルターとの関係について、ちょっとしたエントリーを書きました。白色LEDは連続スペクトルで輝く上、最も光強度の強い波長470nm付近の光を既存の光害カットフィルターはカットしておらず、いずれ役に立たなくなってしまうのではないか……という内容です。

あれから数年、「ついに」というか「ようやく」というか、白色LEDへの対応を謳う光害カットフィルターが現れました。IDASのLPS-D2がそれで、M48mmとM52mmから先行して発売となります。価格は従来品のLPS-D1から据え置きです。


このLPS-D1とLPS-D2の特性の違いですが、メーカーのサイトでも横並びの比較が行われていないので、少し分かりづらいように思います。そこで、透過率などの数値をグラフから書き起こして比較してみました。*1


まずは、主な光害成分から。

f:id:hp2:20180218191458p:image

図には水銀灯、蛍光灯、高圧ナトリウムランプ、白色LEDの各スペクトル*2、低圧ナトリウムランプで見られるナトリウム原子由来の輝線(589.0nm, 589.6nm)、および天体観測で重要な水素原子由来のHα(656.28nm)、Hβ(486.13nm)、酸素原子由来のOIII(495.9nm, 500.7nm)、硫黄原子由来のSII(671.6nm, 673.1nm)の各輝線を示しています。


従来、主な光害源とされてきた水銀灯は、可視光線として波長404.7nm、435.8nm、546.1nm、577.0nm、579.1nmの光を発しています。また、水銀は紫外域にも波長253.7nmのピークがあるのですが、これを蛍光物質に当てて光らせるのが蛍光灯です。そのため、蛍光灯水銀の発する光に加えて、蛍光物質由来のピークがいくつか見られます。

ナトリウムランプは、昔ながらの低圧ナトリウムランプでは589nm付近の光しか出さないのですが、現在主流の高圧ナトリウムランプでは、電球内のナトリウム濃度が高いために複雑なエネルギーの吸収・放出が起こり、かなり幅広い波長域の光が出ます。

そして白色LEDですが、現在よく使われているのは、青色LEDに黄色の蛍光体を組み合わせたもので、青色LEDに由来する460nm付近のピークと、蛍光体に由来する570nm付近を中心とする幅広いピークが目立ちます。

f:id:hp2:20180218191625p:image

ここにLPS-D1の透過率を重ねてみます。すると、水銀由来のピークと低圧ナトリウム由来のピークはうまくカットできているものの、蛍光灯や高圧ナトリウム由来のピークはカットしきれていないことが分かります。そしてなにより、白色LEDで最も強度の高い460nm付近のピークはほとんど素通しになっています。

昨今の照明事情を考えると、いささか心もとないのは確かです。


では、LPS-D2ではどうか、というのを示したのが下の図です。

f:id:hp2:20180218191707p:image

LPS-D1で問題になっていた、白色LED由来のピークや高圧ナトリウム由来のピークにあたる波長域がばっさりカットされているのが分かります。光害カットの効果はかなりありそうです。一方で、水銀由来の光のうち、波長435.8nmと546.1nmの光はかなりの割合が透過してしまいます。水銀灯はだいぶ減ってきていますが、蛍光灯はまだそれなりの数が残っているので、環境によっては影響がそれなりに出そうです。

透過する波長域を見る限り、特性としてはAstronomikOPTOLONGのCLSフィルターの類にやや近い感じ。しかし400〜450nm付近の光も通すようになっているあたり、LPS-D2の方がカラーバランスは取りやすそうで、連続スペクトルで輝く天体に対しても使えるようにしようという配慮が見られます。

とはいえ、黄色〜オレンジにかけての色情報が大きく削られることになるので、被写体によっては注意が必要かもしれません。例えば、馬頭星雲の近くにある「燃える木」星雲(NGC2024)は、従来型の光害カットフィルターを用いた場合でも十分に露出を与えないとオレンジ色が出てきません*3が、LPS-D2の場合はさらに色が出づらくなりそうです。

*1ウェブサイトで公開されている透過率等のグラフ画像を読み取って数値化し、グラフを書き起こしています。なので、多少の誤差はありますが、大きな違いはないはずです。

*2:ここに示したのはあくまで一例です。水銀灯以外は、製品によって実際のスペクトルはまちまちです。

*3:オレンジ色に相当する波長600nm付近の光がカットされるため、露出不足だと濁った赤色に写りがちです。

きよりんきよりん 2018/02/18 21:05 お〜、光害地で天体撮影をする身としてはたいへんありがたいレポートです。というか、こういう記事を天ガや星ナビで見たことが無いと言うのがなんとも情けない。
昨夜は久しぶりに川崎の西長沢公園にでかけて撮影してたんですが、クソ寒くて3時間ほどで撤退してたヘタレですw

HIROPONHIROPON 2018/02/18 22:31 確かに。個人ではなかなか難しいので、複数製品並べて比較、とかやってほしいんですけどね。グラフを見る限り、若干天体を選びそうな気配はするものの、光害カット性能は結構高そうなので期待したいところです。

それにしても、この冬は寒すぎますね。現在の防寒装備じゃとても耐えられそうになかったですし、風もひどく強かったので、昨夜は家でヌクヌクしてました(^^;

にゃあにゃあ 2018/02/19 01:11 こうやって丁寧に解説いただけることがありがたいです。うちからちょっと離れた場所にある防犯灯はLEDなのですが、ベランダの目の前の防犯灯はまだ蛍光灯なので、まだ導入を急がなくてもよいかなというのが分かりました。しかし、買い物にも行きたくない寒さが続きますね。会社にも行きたくないですが、これは寒さに加えて別の問題です(笑)

MattMatt 2018/02/19 21:13 Hiroponさん
こんばんは、Mattです。我家の近所の街灯(夜中は人なんかほとんど歩いてませんが)もLED化になってます。しかし、ショボい街ですが隣の市の光が22時までは影響あります。最近は電柱地中化夜間工事をしているので迷惑ですね。(注)我家の傍の道の電柱はそのままです。
私も何時かはこれを買うことになるでしょうね。絶大な効果があるならすぐにでも買うかもしれません。(隣家はレースのカーテンのみなので結構灯りが漏れていて、別の家壁に反射します。これのお陰で30秒の露光が失われます。

HIROPONHIROPON 2018/02/19 23:11 にゃあさん>

普段撮影に使っている公園周辺はほぼLEDですね。寿命の関係か、水銀灯がまだ1〜2本残ってますが、
これも時間の問題でしょうか。ただでさえ壊滅的な空なので、これ以上は勘弁してほしいのですけど……。

ちなみにLED化による光害悪化は世界的な問題みたいで、チリのアタカマ砂漠周辺でも
問題になりつつあるとかなんとか。困ったものです。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180219-00000031-jij_afp-sctch

HIROPONHIROPON 2018/02/19 23:12 Mattさん>

せっかく街灯とかを新しくするなら、なるべく周囲に無駄な光をまき散らさないタイプにしてほしいところですけど、
なかなかそうもいかないみたいですね。遠方からでも明るい光が見えるようだと、目がくらんでかえって危ないと
思うのですが。

電柱の地中化工事については……街なかから撮っている身からすると、しばしの辛抱を強いられるにしても
羨ましい話だったり。縦横無尽に張り巡らされた電線が、街なか撮影の最大の敵なのですよ。

もっとも、お釣りで街灯がLED化されるとそれはそれで迷惑ですが……(^^;

オヤジオヤジ 2018/02/20 07:53 HIROPONさん
何時も技術解説感謝しております。
豚に小判状態は同じですが(汗)、こちらの解説は、本当に分かり易いです。
町内・我が庭を含め、全部、LEDの外灯に替わってしまい、昨年の暮れから途方に暮れてました。
本日、発売とのことで、ニワトリの比較撮影が楽しみです。
外灯の形状
路面を照れせば良いのですが、傘の形状から水平方向にもバンバン光が通ってまして、救いようのない外灯機材です。(汗)
460nmの減衰に、大いに期待してます。

あぷらなーとあぷらなーと 2018/02/20 09:58 我が家の周囲もLED街灯が増えてきていて難儀しています。
LPS-D2は救世主になるかも、ですね。
波長435.8nmと546.1nmが透過してしまっているのが残念ですが、カラーバランスを考慮した結果なのかも知れませんね。

実際の夜空は色々な光源の混成になっていると思うので、光害のスペクトルを測定できれば適切なフィルター選びができるのですがねぇ。

忍者忍者 2018/02/20 20:33 タイムリーな分析情報いつもながら良く感謝しています。
家の前の通りは、いつの間にか街灯がすべてLEDに替っていました。
電線の集中攻撃とLEDで、光と視界がめちゃくちゃです。2階のベランダで
なんとかできないか考えましたが、労力の割に制限が多そうで、遠征の方が良いの
結論です。ところで、当フィルターを使うと露出時間は何倍ほど必要になりそう
ですか?

HIROPONHIROPON 2018/02/20 23:31 オヤジさん>

こちら、今のところ自宅前の街灯はは蛍光灯のままですが、時間の問題でしょうねぇ。
近所でLED化されたところの街灯の形状を見ると、かなり凶悪に光をまき散らすタイプなので、
このままだと少々困ったことになりそうです。

普段使っている公園も、LED化されて確実に環境は悪化してますし、どうしたものか。
区役所とかにねじ込んでどうにかなるものなら、なんとかしたいところですが……うぅむ。

HIROPONHIROPON 2018/02/20 23:32 あぷらなーとさん>

まがりなりにも青、緑、赤、それぞれの色を確実に通すようにしてあるあたり、
カラーバランスをかなり意識している感じはありますね。
高圧ナトリウムランプの帯域もしっかりカットされてるので、郊外でも
それなりに役立ちそうな気はします。

光害のスペクトルは……実はそのうち測ってやろうと思って過去に
色々調べてたのですが、面倒で延び延びになってました。
この際ですから、やってみますかね……?(^^;

HIROPONHIROPON 2018/02/20 23:33 忍者さん>

元々街なかは光害が酷い上に、電線で邪魔されたりLED街灯に直射されたりで、泣きっ面に蜂とは
まさにこのことかと。その点、自分の場合は電線に邪魔されない空を確保できているだけでも
御の字かもしれません(^^;

露出時間は……実際のところはもちろん使ってみないと分からないわけですが、550〜650nmあたりの
波長の光がばっさりカットされている一方で、センサー感度の高い緑色光がより多く通るように
なっているので、従来品のLPS-P2やLPS-D1と比べると長くても1.5倍くらいで済むのじゃないかと
思っています。また、現在の光害を効率よくカットできるなら、より長時間の露出も可能に
なるかもしれませんね。

tomoto335tomoto335 2018/03/10 00:37 非常に有用な記事をありがとうございます。前から欲しかったLPS-D1を買おうと思ってIDASのサイトに行ったらLPS-D2が出ていて、比較記事もまだあまりなく、こんなふう↓に決めあぐねています(苦笑)。
http://tomoto335.hatenablog.com/entry/2018/03/10/003028

HIROPONHIROPON 2018/03/10 02:04 tomoto335さん>

コメントありがとうございます。

私の場合、都心で撮影している関係で光害対策は死活問題なので、自分用の整理も兼ねて
公開データをまとめてみた次第。少しでも参考になりましたら幸いです。

でも本当、きちんとした比較記事がほしいところですね。場合によっては「人柱」になるのも
やぶさかではないのですが、いざやるとなると、きっちり条件をそろえるのがなかなか難しそうです(^^;

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