宮本大人のミヤモメモ(続)

漫画史研究者の日常雑記。はてなダイアリーのサービス停止に伴いこちらに移転。はてなダイアリーでのエントリもそのまま残っています。

連続講演会、ついに最終回

 全部で6回にわたる連続講演会も、今日の蔵座(ぞうざ)江美さんの回で最後となりました。はー、なんか、ちょっと切ないですね。
 蔵座江美さんは、CAMKの学芸員にして司書、であります。現代美術館に司書?と思われる方も多いと思いますが、CAMKには、ホームギャラリーという、ゆったりとくつろぎながら美術書や美術雑誌が読める空間が、館全体の真ん中に、開放的な形で設けられています。天井にも、壁にも優れた作品が展示されているだけでなく、書架そのものが、マリーナ・アブラモヴィッチという現代美術作家の作品になっているという、大変ユニークな閲覧空間にしてくつろぎ空間なのです。(CAMKの施設概要は下をご覧ください)。


http://www.camk.or.jp/information/facilities/index.html


 美術館の図書室というのは、割と目立たない所におまけ的に設けられていることも多く、その場合、あまり利用者もおらず、ということになりがちなのですが、このホームギャラリーは、館全体のロビー的な役割も果たしているので、いつも、ソファや、その中に入り込んで本を読んでよい(部分のある)書架で、美術書や美術雑誌を読んでいる人がいます。ある意味ではこのCAMKのユニークなあり方を象徴的に示す顔のような役割も果たしているわけです。
 開架式の書架には、なんと開館当初からマンガのための一角が設けられています。マンガは、蔵書の全てが常に配架されているわけではなく、展覧会の会期ごとに、その展覧会との関連性を意識した作品群が、お目見えすることになっていて、今はもちろん、井上雄彦の全作品が並んでいます。
 この充実したホームギャラリーを運営する役割を担っているのが、蔵座さんなのです。
 今回の「図書館とマンガ」は、この井上展を通じて、マンガというものの、極めて幅広く人々に訴える力を再確認したという蔵座さんが、聴衆のみなさんに、自分のマンガ体験を語り合ってもらい、その上で、次の展覧会「花・風景−モネと現代日本のアーティストたち:大巻伸嗣、蜷川実花名知聡子−」展の期間中に、マンガ・コーナーに配架する作品を、聴衆のみなさんに選んでもらおう、という趣旨のもと、講演というよりは、ちょっとしたワークショップといった感じで進められました。
 まず、最初に、イントロダクション的に、蔵座さんがこの講演のために、県内の公立図書館47館に依頼した、アンケートの結果が紹介されました。それによると、回答のあった28館のうち、25館でマンガが所蔵されているとのことで、公立図書館へのマンガの浸透が進んでいる様子がうかがえました。
 その後は、聴衆のみなさんに3人1組になって、「初めて図書館(公立図書館、学校図書館)で読んだマンガ」と、それはいつどこでか、「初めて自分で買ったマンガ」、そして「100年後に残したいマンガ」とその理由をそれぞれ、回答用紙に記入しながら話し合ってもらい、お互いのマンガ経験やおすすめマンガを踏まえた上で、CAMK所蔵のマンガ本全体のリストの中から、「花・風景」展の時期にふさわしい作品を一つ選んでもらい、その理由とともに発表してもらったのでした。
 蔵座さんは、みなさんがわいわい話しているところに、順に回って会話に参加し、というふうで、ちょうど人数的に「余り」になってしまった僕も、一つのグループに混ぜてもらって話を聞かせてもらいました。
 で、結果的に選ばれたのは、次の9作品でありました。
 「ヘルタースケルター」(岡崎京子)。これは、特に展示の内容に関係が、と言うわけでなく、3人中2人が推したのが理由だったかと思います。
 「ハチミツとクローバー」(羽海野チカ)。これはベタですけど、要りますね。
 「ブラック・ジャック」(手塚治虫)。これは夏休みの展覧会なので子供連れの人も多いだろうから、幅広く読まれるものということで。
 「キャンディ・キャンディ」(水木杏子いがらしゆみこ)。これは、新刊書店で手に取れなくなっているので、公立の施設でお願いします、みたいなことでしたが、CAMKにも所蔵がないので、実際に配架できるかは微妙とのことでした。
 「櫻の園」(吉田秋生)。これは花つながりですね。
 「ドラゴン・ボール」(鳥山明)。これは「ブラック・ジャック」と同じ理由です。
 「風の谷のナウシカ」(宮崎駿)。これは自然環境とかから「花・風景」につながると。
 「ぼくの地球を守って」(日渡早紀)。これも、なんとなくそんな感じだったかと。
 「日出処の天子」(山岸凉子)。厩戸皇子がいつも花の髪飾りをしているから、でした。
 

 蔵書リストには、もっと「いかにも」なものがたくさんあったんですが、みなさん、かぶらないようにと思って、ちょっとひねってきちゃったんですよね。でも、これはこれで面白いので、このまま並べますということでした。
 蔵座さんは、今回の井上展では、入場整理・会場監視の統括をされています。連日、開館から閉館まで、ほぼ立ちっ放しで、トランシーバー片手に、多数のアルバイトスタッフと連絡を取りながら、お客さんに一番いい状況でこの展覧会を体験してもらうための入場コントロールを行いながら、並外れてたくさんのお客さんが来ていることで起こる様々なアクシデントやトラブルへの対応をするという、展覧会開催期間中においては、最も重要な役割を果たしています。
 正直、端で見ていて、気合と脳内麻薬だけで持っているのではないかと思えてしまうような(笑)、ハードな毎日をお過ごしなので、講演の準備なんかいつするんだろう、と思っていたんですが、あ、この形式は、うまいこと考えられたな、と思いました。参加者のみなさんも、予想外の展開に、初めはちょっと戸惑いつつも、話し合いが進むうちにどんどん楽しくなってきたご様子でした。マンガ体験の語り合いって、僕も経験的に知ってますが、結構盛り上がるんですよね。北九州の漫画ミュージアムの準備や運営にも、ヒントがもらえた最終回でありました。