一人一人の働き方が社会を変える

働き方革命―あなたが今日から日本を変える方法 (ちくま新書)

働き方革命―あなたが今日から日本を変える方法 (ちくま新書)

日本のイノベーションのあり方を考えるときに、ワークスタイルの変革が必要だと常々考えています。
そんな中で読んだのがこの本。この課題に一つの示唆をくれる良書です。
著者は社会起業家として有名な方だったので、最初はてっきり自身の事業に関連する客観的な提言がなされているものとばかり思っていました。ところが、実際は、自分自身の働き方を変えた結果それが周囲にどのように波及していったかをドキュメンタリー的に綴ったものだったのです。
サブタイトルの「あなたが今日から日本を変える方法」がこの本のテーマを表現しています。中でも「あなたが」というところがポイント。著者自身の経験をもとに、一人一人の働き方を変えることの意義やインパクトについて書かれたものです。
著者の主張は、1)長時間労働をやめ効率化しよう、そして、2)自分自身だけのための仕事から、自分を含めた社会のための仕事という認識を持とう、さらに、3)仕事とプライベートを分離するのではなく、他者に価値を与えること全てを働くと定義しよう、という骨子に集約されます。
特に、2)や3)が重要なのではないかと感じています。著者はこう書きます。

会社という場所で働きつつ、自分を含めた社会のために働くんだ。そのために職場での『働く』もあれば、家庭での『働く』もあり、地域での『働く』もあるんだ。それぞれ楽しいんだ。それぞれ自己実現できるんだ。そういう風に『働く』スタイルを変えて行く。そう、『働き方革命』だよ。

さて、どうしてこれがイノベーションを考える上で重要なのでしょうか。日本人はイノベーションを支える基礎能力には問題ないのにそのポテンシャルを活かしきれていないという印象があります。その一つの要因は、ポジティブさが足りないこと、そして関連するのですが多様な選択肢や価値観に触れる機会が少ないことです。
これは多くの人々がずっと会社という枠組みで行動し、考えてきたからではないでしょうか。会社の仕組みの中で人生が生み出す付加価値が集約されすぎた結果、経済成長の低迷もあり、会社ワークはどんどんしんどくなり、その反動として付加価値が関与しない「プライベート」という反会社時間が産まれています。残念ながらこれでは、付加価値の創造は限られた会社ワークに閉じ込められてしまい、創造を展開する有効なインプットも得られないまま、つらい思いを半ば我慢しながら働き続けなければなりません。
著者の提言は、この付加価値を生み出す現場を会社以外にも広げよう。そして、それらを広く「働く」と捉えよう。その結果、これら会社の外での「働く」がまた違った自己実現をもたらすよとするものです。豊かな自己実現は前向きな気持ちにもつながりますし、会社以外での「働く」が多様なインプットをもたらし、またそれらが会社ワークにもよい影響を与えて行くのではないでしょうか。ワークライフバランスを越えて、ワークとライフの融合に次の日本社会の姿があるような気がしてなりません。