なぜ,苦しんで勉強した方が身につくのか?

苦しめば苦しむほどスキルや知識はよく身につくという研究結果 : ライフハッカー[日本版]」が参照している,TIMEの記事です.

苦しいほうが良いのはなぜ?
「学習パラドックス」とでも呼んでおこう.何か新しい知識をマスターしようとして,苦しんだり失敗したりすればするほど,後々それをうまく思い出して,使うことが可能になるのである.


学習パラドックスは,「生産的な失敗」の肝であり,シンガポール国立教育研究所,学習科学研究所の研究員である Manu Kapur によって確認された現象である.Kapur は次のように指摘する.多くの教師やワーカーが,人に新しい知識を教える際に採用しているやり方,すなわち,問題の枠組みとガイダンスを,問題が自分で解決できるようになるまでの早い段階に多く与えるというやり方は,直感的には理に適っているが,学習を促進する最善の方法ではない可能性がある,というのだ.


それよりも,初学者に対しては,初めは自分自身で問題に取り組ませ,何の助言も与えないほうが良い.今年初めに学習科学ジャーナルに掲載された論文の中で,Kapur と共著者 Katerine Bielaczyc は,生産的な失敗の原理を,シンガポールの3つの学校で,数学の問題を解く実験に適用している.


ある学生グループに対しては,教師は強固な「枠組み」(指導とフィードバック)を与える.その教師の助けによって,このグループの学生は解答を導き出すことができた.


一方,別のグループの学生は,同じ問題を,何の指導もされず,自分たちだけで協力して解くことが求められる.こちらのグループの学生は,完全に問題を解くことはできなかった.しかし解答を得ようとする過程で,問題の基本的な性質や,解答が得られるとしたらどのようなものか,について多くのアイディアを出した.


そして,2つのグループに学習したことについてのテストを与えたところ,後者のグループの方が,前者のグループを結果で「大幅に上回った.」


この後者のグループの見かけの苦しさは,Kapur が「隠し効果」と呼ぶものを含んでいる.この苦しさにより,人は単に正解を出すのではなく,問題の深層構造を理解することができようになるのである.苦しんだ学生は,テストにおいて同種の新たな問題に遭遇した際に,他人の見解を受動的に与えられた学生よりも効果的に,獲得した知識を活用することができるのだ.


実社会では,綺麗にパッケージ化された問題は稀であるため,問題の深層構造を見分けられるかどうかが鍵になる.しかし,と Kapur は言う.誰でも失敗するのは嫌だ.いかにシリコンバレーの起業家が,失敗したアイディアや破産したスタートアップ企業の有益な効果を賞賛したとても.


したがって,Kapur が言うには,「生産的な失敗」を学習の過程に組み入れることが必要である.Kapur は,この種の有益な苦しみを促進する3つの条件を定めている.


1つ目は,「困難だが,失望感を抱かせない」ような問題を選ぶこと.2つ目は,取り組んでいる問題について,学習者に詳細に説明させるようにすること.3つ目は,学習者に対して,良い解答と悪い解答を比較,対比させる機会を与えることである.


それから,このような愛の鞭スタイルを不満に思う人に一言.後々感謝することになると思うよ.

Anne Murphy Paul: Why Floundering Makes Learning Better | TIME Ideas | TIME.com

「困難だが,失望感を抱かせない」(challenge but not frustrate)ような問題って,どんなんでしょうね.


一語学学習者としての感想を述べると,当たり前のようなそうでないような,というところですが,ともあれ「学習科学(learning science)」の成果は今後もどんどん出てきて欲しいです.