タミフルの寄付金・研究費に関する報道

タミフル報道で何がびっくりしたかというとなんといっても研究費の話です。最初見たとき、何を報道しているのかよくわからなかったぐらいです。各社いろいろな形で報道してますが、おしなべてこんな感じですかね。

タミフル研究班、別の教授にも6000万円 中外製薬

http://www.asahi.com/special/070320/TKY200703300369.html

 厚生労働省は30日、インフルエンザ治療薬「タミフル」の服用と異常行動の関連を調べている同省研究班の3人が、タミフル輸入販売元の中外製薬(東京)から寄付金を受けていたとして、研究班から除外すると発表した。これまでに明らかになっている主任研究者の横田俊平・横浜市立大教授らのほかに、データを分析していた文部科学省系の統計数理研究所の藤田利治・教授側に06年度6000万円が渡っていたことが新たに判明。このうちタミフルの研究に627万円を使っていた。

どうもマスコミは、基本的に臨床試験というものは製薬会社の資金で実施するということを知らないようです。知っていてあえてこのような書き方をするとしたらかなり悪質ですが。

まず、今回の研究班の調査は、「厚生労働省補助金」なんてタイトルがついていますが、当の補助金は調査に必要な資金の10分の一程度しかなかったとのことです。つまり、50円で500円のパン買って来いってことなんですよ。そりゃ無理です。
で、通常はそういう場合、製造者の責任で費用負担を求められるのは別に特別な話ではありません。そもそも当局&学会に対する製薬会社の立場はどんなに不等号を重ねても足りないぐらい弱いものです。製薬会社側が有利になる構図なんてどんなに金を積もうが実現しないのが普通です。

中外製薬のサイトにも経緯が示されています。まあ、こんなもんかなと思います。

http://www.chugai-pharm.co.jp/html/info/070330.html

報道によってはこのお金を「裏金」だとか「献金」だとか表現している場合も多いです。意味が違いすぎますね。やれやれ。論調はほぼみんな同じで、

「製薬会社の資金で実施された試験だから手心が加えられている可能性がある。信用できない」

という感じなんですが、ここでちょっと考えて欲しいですね。まず、新薬承認申請のための臨床試験は、日本のみならず世界的に「製薬会社が資金(研究費)を出して医療機関に委託」しているものです。つまり、上の論理が成り立つなら、世界中のどんな薬も信用出来ないって話しになります。

そもそも、それが本当ならどんな薬でも有利なデータが出るので承認されまくりなはずなんですが、現実には申請された新薬が必ず承認が下りるわけもなく、それどころか比較試験で負けて開発断念なんてのもめずらしくありません。まあ、今のマスコミにここまで知っていろとは言いませんが。

また、奨学寄附金も槍玉に上がっていたかと思いますが、そもそも大学病院などで使っている薬を出している製薬メーカーは、多かれ少なかれその大学に寄付を行っているはずです。寄付を行っているというとなんか下心があってお金を渡しているように聞こえるかもしれませんが、実質上これは請求に近いもので、むしろ打ち切ろうもんなら競合他社品に変えられてしまう可能性すらあります。

そもそも奨学寄附金ってのは大学等にちゃんとした窓口があるもので、賄賂でも裏金でも無いんですよ。賄賂の窓口なんかあるわけないでしょw。しかも、講座は指定できますが、お金そのものは大学に入るものなんです。決して個人のフトコロに入るものじゃありません。賄賂性があるというなら、使い道を調べてみれば良いでしょう。高級車やマンションなんか誰も買ってないんですから。

また、病院だけでなく、学会なども開催の時には製薬会社に協賛金の依頼が来ます。調査班は最初学会の寄付をあてにしたらしいんですが、結局元を辿れば製薬会社の資金だった、ってオチだったかもしれませんね。

そもそも今回の件、明らかに厚生労働省は把握していたはずなのに、マスコミから騒がれたらすっとぼけてしまい、研究班から中外から資金供与を受けた者、中外の治験に参加した者をはずしてしまいました。これはぶったまげましたね。

そもそも日本にはこういった調査に十分なお金を出す仕組みが最初からありません。マスコミは全部国家予算で実施すべきだと思っているんですかね?安全性評価委員会にかかる薬剤がどのくらいあるか知ってるのかな?そもそも、製薬会社から寄付を受けてない大学病院があると思っているのか?

もちろん当局はこういう事情を知っているはずなのですが、今回は場当たり的な対応をしてしまいました。さて、マスコミは今の研究班に中外以外の製薬会社から資金提供を受けている人は居ないのかなんて突っ込みはしないんでしょうかね。摩訶不思議。