ナナメヨミBlog

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なぜ鳥越俊太郎は負けたのか?

 みなさん御存知の通り、7月31日投開票の東京都知事選挙野党統一候補鳥越俊太郎は134万票の得票で敗れた。当選した小池百合子は291万票。次点は自公推薦の増田寛也で179万票。公示直前に鳥越氏が出馬表明したときには、直近の参院選の野党票と与党票が拮抗しているので与党票を分け合う小池と増田は不利、野党票をまとめれば鳥越は勝てるという下馬評も多かった。しかし蓋を開ければ3位での惨敗。なぜ鳥越俊太郎が負けたのかを問うことは今後のリベラル・野党共闘を進化させていくうえで避けては通れない。私は大阪市民なので東京都知事選挙は新聞テレビの報道やインターネットで得た情報にしか接していないことを最初に断っておく。

与党と比べて人格・政策・熱意が厳しく問われる野党候補

 そもそも議会政治における野党は政権・行政の腐敗や暴走をチェックし批判する立場である。権力のウソやごまかしを厳しく追及する野党政治家は与党と比べて人格・品行方正がより厳しく問われる。まして、権力を監視するジャーナリストであればなおさらである。鳥越氏は野党候補でありジャーナリストである。もっとも激しく権力を追及してきたからこそ、今回の選挙で吹き出した過去の女性問題はダメージが大きかったし、適切に対処する必要があった。その点、本人の口からちゃんとした説明がなかったのは非常にまずい対応だった。一般的に国民は与党政治家のスキャンダルには甘く、野党には厳しい。与党政治家は「女性や金に汚い」「そういうもの」だと思われているので、スキャンダルが出ても支持者の驚きは少ないし、のらりくらりとかわすこともできる。それを見て「与党の連中もやっているのだから俺もそれくらい問題無いだろう」という感覚があったのではないか。与党のあり方を批判する立場が同じようなことをやっていたのではダメだと思う。女性問題が事実なら真摯に謝罪・釈明すればよかったし、事実でないならきっぱりと否定すべきだった。

都政の政策は「3日で勉強できる」のか

 政策面ではどうか。鳥越氏は公示前日の共同記者会見で政策を問われ「ガン検診100%」とフリップにかかげた。ガン検診が広まれば早期発見で助かる命もあるだろう、それはわかるけれど、東京都知事選挙の候補者の政策の目玉ではないだろう。東京都なら待機児童・介護など子育て・福祉の問題は深刻だし、オリンピックを控えて膨張する予算をどう抑えるか、大地震に備えて都市防災をどのように強化するか、重要な課題は多い。しかし鳥越氏は自らのガン闘病の経験を踏まえた「ガン検診100%」を最初に打ち出した。「聞く耳をもっている」と鳥越氏はいうが、都民の声を聞くより、自分の思いのほうが先走っていたのではないか。そして、「安倍政権打倒」「改憲反対」など国政にかかわるスローガンが中心で都政が置き去りになったのではないか。対抗する小池氏や増田氏の政策がまともだったかといえばそうではなく、「都議会冒頭解散」とか「二階建て通勤電車」など荒唐無稽なものだった。しかし政策においても人格と同様、野党政治家は与党政治家よりもより多くの知識・見識をもって練り上げなければいけない。与党は官僚・役人という行政の最前線にして最強のシンクタンクに乗っかっているのである。野党が与党・行政を批判して対案を提示するには、都民が何に困っているのか、都民の声を聞いて回らないといけないし、それを政策として提示するには、予算がいくらかかるか、財源をどうやって確保するか、そこまで調べ上げないといけない。決して「3日で勉強できる」ものではない。選挙戦に入ってからも「大島では消費税5%にする」とか「東京から250km以内の原発廃炉にする」など都政とのかかわりが不透明であったり、どうやって実現するのかプロセスがまったくわからない政策が突発的に出てきていた。そして、国政のスローガンを都知事選挙に持ち込むのは、確かに憲法が変われば地方自治体のあり方にも影響を及ぼす(たとえば「福祉」「人権」を軽んずる憲法に変われば、地方自治体の福祉政策が後退するのは間違いない)けれども、政策・スローガンの目玉にはなりえない。都政に関する不勉強、都民の声を聞く努力を放棄しているような印象を受けた。
 とはいえ、この政策の乱れは「野党共闘」ゆえに、政策が玉虫色にならざるをえないというところに本質的問題がある。共産党民進党の政策をそのまま取り入れれば、政策としてはまとまった形にはなったが、野党共闘のために特定の政党の政策をまるごと取り入れられなかった。だから中途半端になった感はある。各政党も鳥越氏なら京都大学卒でジャーナリスト経験も豊富だから本人に任せればそれなりにまとまった政策が出てくると甘く見ていたのではないか。

組織力」をどう捉えるか

 都民の切実な声を拾い上げる努力をどの程度していたのか、これは鳥越氏本人の問題というより、野党共闘各党・リベラル派全体の問題だ。「どぶ板」を軽視して、選挙のときだけスローガンを高らかにかかげるだけでは有権者はついてこない。日常的な活動を強化する、「どぶ板」を重視しないと、きめ細かい政策は練り上げられないのではないかと思う。
 私が野党共闘に関して問題だと思うのは「組織力」をどう生かすのかということである。連合とか共産党系団体、市民団体などは労働者や自営業者、地域住民と直に接してさまざまな活動を行っているのに、そこから出てきた声をまとめ上げて政策に反映させる、練り上げる力が弱まっているのではないか。これらの組織を生かすことこそ「組織力」であり野党の強みだと思うのだが、現実には野党各党は選挙のために利用する「集票マシーン」「集金マシーン」くらいにしか考えていないのではないか。自分たちを支持してくれている組織からすら声を聞く努力を怠っているのに、組織以外の都民から声を集めるなど無理な話である。「組織」とどうやって向き合うか、野党各党は反省して取り組みを変えていくべきだろう。

野党共闘の深化にむけて

 都知事選挙での問題点はもっとあると思うが私が指摘するのはこれだけにとどめておく。とにかく、野党に必要なのは共闘するために政策を棚上げにしたり玉虫色にすることではない。各政党が直に支持者や組織と向き合って声を拾い集めること。支持者や組織と共同して政策を練り上げていくこと。そこを放棄してスローガン連呼や劇場型選挙、知名度選挙を仕掛けても勝てない。民主党政権が「政権交代」で失敗したことで、有権者は野党のスローガンには安易に乗ってこないし慎重になっている。この大前提を理解せず「有権者がバカだからわれわれが負けた」ではいつまでたっても与党の思うがままだろう。「大健闘した」で済ませて自己満足していてもだめだろう。私も活動家の端くれとして努力する、だから各政党もちゃんと総括して努力してほしい。