2012-01-19
鴨
江西南昌(なんしょう)の農村で子供が鴨を河に放していたところ、一羽が田のあぜに逃げ込んだ。田の所有者である秀才が、この時、たまたまあぜ道を歩いていた。秀才は鴨を見つけると、捕まえて連れ帰った。それを見た子供は秀才の後を追いかけ、家の前で追いついた。子供は秀才の腕をつかみ、
「旦那さん、この鴨はおいらんちのだ。返してくれろ」
と頼んだ。すると、突然、秀才は怒り出し、子供をひじで突いた。二人が立っていたのは、秀才の家の前にある池の近くで、子供は突かれたはずみで池に落ちた。池は広く、水は深く、子供は溺れ死んでしまった。
その母親が子供の死を聞いて、泣きながら秀才の家に来た。秀才は母親の姿を見るなり、
「お前の子供は勝手に水に落ちて死んだのだ。私に何の関係がある?」
と怒鳴りつけた。母親は秀才の口調のあまりの激しさに絶望し、子供の後を追って池に飛び込んで死んでしまった。
このことを役所に知らせる者があり、秀才は捕らえられて殺人の罪で死刑の判決を受けた。
刑の執行の日、秀才の妻と三人の子供は刑場までついて来て泣いた。秀才は黙ったまま一言もしゃべらず、ただ涙を流すばかりであった。刑場には大勢の見物人が集まり、黒山の人だかりとなった。
秀才は年の頃四十歳あまりで、たいそう上品な風貌をしていた。凶悪な様子はみじんも見られなかった。それがたった一羽の鴨が原因で、死刑になるような罪を犯してしまうとは、何か前世の因縁でもあったのだろうか。また、忍耐の足らない者はこれを深く戒めとするべきであろう。
(清『右台仙館筆記』)
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2012-01-17
心許身殉
原邑(げんゆう、山西省)の学生、郭長泰(かくちょうたい)は眉目秀麗で才気あふれる少年であった。
十八歳で学校に入ることになり、正装して親戚にあいさつ回りをした。従妹の家を訪ねてみると、そこは後家の母と娘の二人暮しであった。女所帯であったが、身内同士なので席を避けることもなかった。
娘は非常に美貌で、たまたま居合わせた隣家の奥さんがこの娘と長泰を見比べて言った。
「才郎と淑女、まさにお似合いですわねえ」
後家も、
「ほんと、そうですこと」
と答えた。
娘の方はこのやり取りを聞いても格別恥じらう風もなく、泰然自若(たいぜんじじゃく)としていた。
長泰は娘のことを好もしく思っていたので、帰宅すると早速、父親にこのことを告げた。しかし、娘の家は貧しく、父親はこの縁談に乗り気ではなかった。娘の家からの仲人が訪れても、そのたびにのらりくらりと返事を引き延ばした。後に富豪が長泰の才を見込んで是非、婿に迎えたいと申し込んできた。父親は息子には内緒でこの縁談を承諾し、結納まで交わしてしまった。
ある人が、長泰が富豪に婿入りすることを後家に告げた。娘は長泰の縁談が決まったことを知っても動揺した様子を見せなかった。ただ、手にした扇を取り落としたことに気がつかなかった。無言で自室に入ると、そのまま身まかった。
長泰は娘の死を知るとこう言った。
「厳かにして穏やか、偽りがなくて貞淑。何と得がたい人か」
そして数か月も経たないうちに亡くなった。
この二人は心で結ばれていたと言えるだろう。
(清『原李耳載』)
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2012-01-16
板の上の女
光緒六年(1880)五月、湖北の漢口鎮(かんこうちん)に奇妙な木の板が流れ着いた。それは何枚もの板を重ねて荒縄で縛ってあり、上には女が一人横たわっていた。
女は手足を広げた格好で横たわり、両手両足は板に打ちつけた鉄の輪で繋がれ、身動きできない様子であった。かたわらには三千文の銭が置かれていた。また右手のそばには甕(かめ)が一つあり、中には焼餅が入っていた。また、足の間には人の生首が置いてあった。かなり腐敗していたが、かろうじて僧侶であることが見て取れた。
板の上に一本の木が挿してあり、紙が貼り付けてああった。それにはこう書かれていた。
「この女は金口(きんこう)の者で年は十九歳、僧侶は四十二歳であった。これを見つけた人にお願いしたい。女が死んでいたら、この三千文で棺を買って埋葬してやってくれ。女がまだ生きていたら、甕の中のものを食わせて、数日でも生き延びさせてやってほしい。もし見つけても、助けることはない。この女を助けて家に連れ帰れば、人の道に外れるぞ」
これを見た者はあえて救おうとはしなかった。女を乗せた板はやがて流れ去った。金口は漢口から六十里(当時の一里は約580メートル)ほどしか離れていないのだが、誰もその女のことを知らなかった。
翌日、板は葛店(かつてん)に流れ着き、そこで人に救われたらしいのだが、詳しいことはわからない。
(清『右台仙館筆記』)
2012-01-15
鶴の恩返し
[口會]参(かいさん)は母親に孝養を尽くしていた。ある時、[口會]参は矢で射られた鶴を見つけた。かわいそうに思った[口會]参は連れ帰って傷の手当てをし、傷が癒えると、放してやった。
しばらく経ったある夜、鶴はつがいで戻ってきた。それぞれくちばしに闇夜でも光る明月珠をくわえていた。つがいの鶴は[口會]参の家に置いて飛び去った。
(六朝『任[日方]述異記』)
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2012-01-13
唾
南康(なんこう)ウ都県(江西省)の西の川沿いに洞窟があった。夢口穴(むこうけつ)と呼ばれていた。
昔、ある船頭が全身黄色づくめの衣をまとった男と出会った。男は黄色い瓜を入れた籠を二つ担いでいた。
「夢口穴まで乗せてくれんかね」
男はそう言って船に乗り込んできた。夢口穴の近くに来ると、
「これが船賃だ」
と言って皿の上へ唾を吐きかけて岸に上がり、まっすぐに夢口穴へ入って行った。
船頭ははじめのうちは非常に腹を立てたが、男は夢口穴の中へ入って行ったのを見て、常人ではないことを知った。皿を見ると、唾はすべて黄金に変わっていた。
(六朝『任[日方]述異記』)
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