若い頃にアルバイトを

していたジャズ喫茶のマスターが11月に亡くなり、その追悼ライブが先日あったので行ってみた。マスターはワタナベサダオさんと親交が深かったことは知っていたが、今回のライブはベースのスズキヨシオさん(通称チンさん)のバンドだった。ちょっと意外だったが、考えてみればマスターも元々はベース弾きだし、チンさんは貞夫さんバンドのベースだったのだから、やはり結構親交があったのだろう。

最近はライブハウスでジャズを聴くこともとんとなかったし、ましてチンさんの演奏なんてそれこそ30年以上ぶりではないかと思う。彼はワタシの大好きなプーサン(キクチマサブミさん)のバンドのベースでもあったから、二十歳ごろまでは何度も身近で聴いていた。彼らの出演していたジャズクラブでバイトをしていたのだ。終電に乗り遅れた時に、一度車でアパート近くまで送ってもらったことさえあった。彼の家と私のアパートがたまたま近くだったのだ。でも、チンさんは全く私のことを憶えていないことは、その店を辞めて数年後に新宿の地下通路でバッタリ彼に会って話しかけた時に、「えーと、どなたでしたっけ?」と言われたことでハッキリしていた(笑)。

今はタモリさんの店になっている新宿のライブハウスで歌っていた時、タモリさんやギターの増尾ヨシアキさんと一緒に来て歌を聴かれたこともあった。増尾さんはノリノリで聴いてくれたが、チンさんはフフンと鼻で笑うような感じに見えた。私は当時まだ既婚で、アフターアワーズの付き合いをしない人だったし、どうせチンさんはワタシを憶えていないのだしと思って、軽い挨拶程度であまり話もしなかったように思う。

ま、そんな風に、関わりがほとんどないチンさんなのだが、今回は彼がリーダーの、若手を集めたクインテットで、普段海外で活動している人が多いらしくほとんど知らないメンバーだったのだが、唯一ピアノが数年前に一度興味を抱いたことがあるハクエイ・キムという人だった。勿論バンドの人たちはそれぞれ優秀なプレイヤーだったのだが、もしキムがいなかったら、やはりちょっとコンサバな演奏に聴こえたろうと思う。まぁ、ピアノがちょっと浮いてる感じではあるのだけれど。

いずれにしろ、会場が狭いので少し遅れて入った私は立ち見で、平日(月曜)でもあり1ステだけ聴いて帰って来たのだが、帰り際のMCでチンさんが「最近ジャズの名盤を紹介する本を出したのだけど、これが結構好評で…」云々と言っていたのが気になって、kindleで購入してみた。それが滅法面白いというか、選ばれているアルバムがほぼほぼ私の好みと一致していて、うんうん頷きながら読み進めている。

「人生が変わる55ジャズ名盤入門」というタイトルなのだが、昔からジャズの名盤を紹介したり、入門として聴くべきはどれかなんていうのは沢山出版されていた。でも、それらの選曲を見る度に、なにか違和感を感じていた。アートブレイキーの「モーニン」だのMJQだの、バド・パウエルだのって、そりゃあ確かに名盤だろうけれども、やはり今更感が強い。もし自分がまだジャズを知らなくて、知っている人に「モーニン」勧められたとしても、決してジャズファンにはならなかったと思う。それがなぜかということに、今回この本を読んで初めて気づいたけど、これまではワタシより一回り古い世代の評論家の人たちがアルバムを選んで来たのだと思う。今回のチンさんの本は、実際に演奏している人たちが選んでいるもので、世代も多分ワタシとほぼ同じくらいから数歳上下の人たちが多いのではないか。その人たち50人に好きなアルバムを20枚ずつ挙げてもらい、その中から55枚を選んでチンさんが色んなエピソードを挟んで解説しているという体だから、必然的に自分の好みに近くなってきたのだろう。

ちなみに、彼等の選んだ第一位はMiles Davisの「Kind of Blue」なのだが、これはワタシも、死んだら棺桶に一緒に入れて欲しい最右翼の一枚である。もう一枚、棺桶に入れて欲しいコルトレーンの「Ballads」は5位だ。とにかくベストテン、すべて異議なしの選曲ぶりだ。