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物理学と切手収集 Twitter

2011-12-23

Of Miracles

ヒッグスの話と関係無いようで、ちょっとだけある話。


少し前に、Twitter経由でこんな話を見かけました。


ページが見つかりません |ロケットニュース24


どうやら最初に報じたのは、イギリスタブロイド紙The Sun。


Card players dealt one in two thousand quadrillion hand – The Sun


ホイストというゲームに興じていたイギリスのおじーさんおばーさん4人が、それぞれ同じマークのカード13枚を配られた、という話です。The Sunとかロケットニュースから出てきた話なので、まず、ホントかよ?というツッコミがあるんですが、とりあえず本当に起こったことだとして考えてみましょう。


ランダムなデックから、マークが揃って配られる確率

カードを全くデタラメな順番に並べて配ってみた時に、4人ともマークが揃った手を配られる確率は、


2,235,197,406,895,366,368,301,560,000分の1


です*1


この数字がどうやって出てきたかは確率の練習問題にするとして*2、28桁もあるとんでもない数字です。こういうとんでもなく小さい確率が出てきた時には、まぐれ以外の何かがあるんじゃないか?、と疑うのが健康な反応でしょう。


ランダムなのか?

さっき書いた確率が正しいのは、全部で52!通りあるカードの並び順が、どれも同じ確率で現れる場合です*3。もし、マークが揃って配られるような並び順が、他の並び順より現れやすかったり、現れにくかったりすれば、適用できない確率なんですね。というわけで、ホイストをプレーした後、シャッフルしたデックが、ランダムなのかどうか少し考えてみます。


ホイスト(Wikipedia)は、ブリッジの前身と言われているゲームで、「トリックテイキングゲーム」に分類されます。Windowsにタダで付いてくるハーツと似ている、と書いた方が分かる人は多いかも知れません。


ブリッジやハーツと同じように、ホイストのワンゲームは13ラウンド*4に分かれています。1ラウンドに4人とも1枚ずつカードを出し、一番強いカードを出した人が4枚とも回収します*5。そして、ブリッジやハーツと同じように、ラウンドの最初に出たカードと同じマークの札を持っている場合、そのうちのどれかを出さなければなりません。


このルールから分かるのは、ホイストのゲームが終了した時点では、同じマークのカードが4枚並んでいる状態が良くあるわけです。こういった状態のカードをシャッフルするとどうなるのか、かなり単純化したケースを図にしてみました。


↓A、B、C、Dはそれぞれ違うマークだとします。それぞれ4枚ずつ揃った状態から、2等分してシャッフルする、というのを2回繰り返します。


f:id:hundun2:20111223210321g:image


AAAABBBBCCCCDDDD

という並びだったカードが、

ABCDABCDABCDABCD

になりました*6


これを4人のプレイヤーに配ってみると…全員、同じマークのカードだけ配られることが分かりますね。これはあまりに単純化されたケースですが、トリックテイキングゲームをした後、2,3回しかシャッフルせずに次のディールをした場合、同じマークのカードは固まる傾向にあります*7


混ざりきってなかったと結論して良い?

上に書いたような、混ざりきっていないカードの場合に、マークが揃って配られる確率がもし100兆分の1だったとします。日常的にはほぼ出会わない出来事ですが、トランプの歴史ではこういった事が1回起こってもいいかも、というレベルです*8


この確率でも、混ざりきっていた場合の確率よりは13桁も大きい数字です。この4人は絶対に10回以上シャッフルしていた、というような事が分かっていなければ、シャッフルが十分でなかった事は確実、と言えます。実際にどういう計算からこういった事が言えるのかは、もう少し(計算が)面白い例が見つかったら解説しようと思います*9


ヒッグスとの関係

トランプの話はこれで終わりでいいんですが、ヒッグスの話と関係がある、と書きました。それらしい話を下に書くので、繋がりを読み取ってみてください。今回はちょっと不親切なので、読み取れなくても心配しないで下さい。(参照:「ヒッグスは99.98%の確率で見つかったのか? - 物理学と切手収集」)


ベイズ統計学に、事前確率と事後確率という概念があります。事前確率とは、新情報が入る前に考えていた、ある出来事が起こる確率。例えば、4人のおじーさんおばーさんがホイストをしている時に、カードがランダムになっている確率はどれくらいでしょう?、と聞かれて答える数字です*10


そこに、新情報が入ります。この4人がホイストをしていたら、マークが全部揃って配られたらしいよ、と。この情報が入った時点で、カードがランダムになっている確率についての考えを改めないといけません。このカードが配られた時には、カードはほぼ確実に混ざりきってなかったんだ、と分かったわけです。この更新の事をベイズ更新といい、更新が行われた後の確率を、事後確率といいます。


事後確率を厳密に求めるためには、色々な情報が必要になります。「どれくらいの確率でこの人達はちゃんとシャッフルしてるのか?(事前確率)」、「カードがランダムな場合にはどれくらいの確率でこんな事が起きるのか?」、「混ざりきっていない場合には?」。


事前確率、つまり最初の質問への答えは、人によって違ってくるでしょう。この4人がホイストをしているのをじっくりと観測していた人でもなければ、勘で答えることになりますから。そして、この答えによって、事後確率、つまりこの奇跡的なディールが起こった時にカードが混ざり切っていた確率も、変わってしまいます。


人によって確率が違っていいのか?と思われるかも知れませんが、それでいいのだ、というのがベイズ統計学の考え方です。ありとあらゆる問題について言えることで、個人が持っている情報は不完全で、人によって違います。だから答えが違ってもおかしくない。大事なのは、新情報が入った時に考えが更新されることなんですね。

*1ロケットニュースが間違えたのは、イギリス式のオッズの書き方を読み間違えたため。

*2:答えはこちらでどうぞ→「2,235,197,406,895,366,368,301,559,999分の1の確率で起きたトランプの奇跡? - 大人になってからの再学習

*3:"!"は階乗を表す。52! = 52×51×…×3×2×1は68桁の数字。

*4:ラウンドの事を「トリック」と言います

*5:ブリッジやホイストの場合、出来るだけ多くのトリックを取る(ラウンドで勝つ)事が、ゲームの目的。

*6:手品師は、こういうのはとっくに考えてるでしょうねぇ。

*7シャッフルがどれくらいカードの並び順をランダムにするのか、というのはスタンフォード大学のPersi Diaconis(大学のページ)という手品師兼数学者などが研究しているそうです。彼の研究をとても大雑把にまとめてしまうと、5回以上シャッフルしないとランダムにはなり始めない、言い換えると、4回以下のシャッフルでは、始める前の状態についての情報がまだ大部分残っている、という事です。もう少し厳密な話は、彼の論文を探して読んでみて下さい。僕はまだ(汗)

*8:100兆という数字は、これまでにプレーされた52枚のトランプを使ったゲームの回数の(僕の)見積りです。少し多めのはず。さらに言うと、この記事で書いたような理由を考慮しても100兆分の1よりも桁違いに確率の小さい出来事だったとすると、実際に起こらなかった可能性が高いと思います。

*9:「統計が今アツい | 道」に出てくるようなもの。ネタをパクりたくないのでこれはそのまま使いたくない。

*10:この場合、本当は確率分布。