2012-01-28
映画「J・エドガー」
昨日公開。クリント・イーストウッド監督。レオナルド・ディカプリオが若い時から最晩年までを主演。余談ですけどこの作品をみて人に訊くまでレオナルド・ディカプリオのことをブラッド・ピットだと思ってるぐらい映画をほとんど見ないです。本作の主人公エドガーはマザコンなんだけど、そういう精神的弱さを持つけどめちゃくちゃ有能っていうある種の精神病なのかな。そういうキャラクターを演じるのがもう、レオナルド・ディカプリオは抜群にうまかった。演技がすごいんだ。
あなたは知っていただろうか。20世紀の半分を占める約50年ものあいだ、アメリカで大統領さえ及ばない強大な権力を手にしていた男がいたことを。そのたった一人の人間が、アメリカ中のあらゆる秘密を掌握し、国さえも動かしていたという事実を。
イーストウッドをここまで前のめりにさせ、ディカプリオに演じることを熱望させた伝説の男――彼の名は、ジョン・エドガー・フーバー。FBI初代長官。20代にしてFBI前身組織の長となり、以後、文字どおり、死ぬまで長官であり続けた。彼の在職中に入れ替わった大統領は8人にのぼり、その誰もが彼を恐れたのだ。ルーズベルトは彼に逆らえず、J・F・ケネディは彼の監視下に置かれ、ニクソンにとって彼はこの世でいちばん邪魔な存在となった。国家を守るという絶対的な信念は、そのためになら法さえ曲げてかまわないというほど強く、狂信的なものとなり、それゆえ彼は正義にもなり、悪にもなった。大統領をはじめとする要人たちの秘密を調べ上げ、その極秘ファイルをもとに彼が行なった“正義”とはいったい何だったのか?
誰が演じているのかわからなくなるほど徹底した熱演で、J・エドガーの20代から77歳までを演じて見せたディカプリオ。その迫真をもって名匠イーストウッドが降り立った人間の深淵。脚本に、『ミルク』でアカデミー賞を受賞したダスティン・ランス・ブラックを擁し、共演にオスカー・ノミネートのナオミ・ワッツ、「007」シリーズ(『007 ゴールデアイ』以降)M役のオスカー女優ジュディ・デンチら豪華キャストを配した最強布陣で臨む、事実に基づく隠されたドラマ。あくなき高みを目指した男の、果てなく深い心の奥底を、息を呑んで凝視せよ。
公式サイトから引用。いやあ凄かった。政治から調査を引き離し指紋操作などの科学捜査といった概念を引き入れた。組織を大きくしてアメリカの治安と平和を守るために正義を実行し続けた男を撮った映画です。脚本はエドガーがじいさんになったところから始まり、彼が過去を振り返る伝記を速記してもらい、過去と現在が交互に入り交じりながら展開されます。
それにしても素晴らしかったのはエドガーのキャラクタですね。めちゃくちゃ複雑な人格を抱え込んでいるんですけれども、この表現が面白い。まず喋るのがめちゃくちゃ早いんですね。全編を通して凄い速さでしゃべります。じいさんになっても速記してくれている相手にダーーー!! っと喋るので毎度毎度「おいおい……そんなに早く喋ったら聞きとれないし書き取れないよ……」と心配してしまいました。
速いのは喋るのだけでなく、行動もすべてが速い。一度ホテルで歯磨きをするシーンが出てくるんだけど「がしゃがしゃがしゃがしゃ(歯を磨く音)コップに水を入れて ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ っぺ!!」という一連の動作がめちゃくちゃ早かったので「おいおい……歯周病になっちゃうぞ……もっとちゃんと磨けよ」と心配してしまいました。
でもそれが彼の神経質な正確を表していてよかった。速さを常に求めているのは、成すべきことをひとつでも多くなさなければならないと強迫観念的に考えているからでしょう。ひとつでも多くこの世で仕事を成し遂げて生きている限り自分が信じる正義を断行し続けなければならないんだという思想に追われ続けているのです。そりゃあ人格も歪む。
米国から犯罪者を完膚なきまでに排除するという「正義」を挙げて人を追い込んで組織を拡大していく彼の道のりはみていて気持ちが良いものではある。ただ一方であまりにも「絶対正義の名のもとに!」と正義を断行していくのでとても怖い。いったい彼の正義が正しいことは誰が保証してくれるのか。もちろんそんな保証は誰にも与えることができないので自分の正義を信じるものは恐ろしいのである。
母親からは「権力への指向」を植えつけられ、能力もあったが為に20代にすでにFBIで実質的なトップになっていた。以降何十年もトップに居座り続けるのだが、元々の絶対正義指向もあって自己が肥大化していってしまったのだろう。正義を実行する自分は英雄だと思ったのだろうと色々想像する。それを反映するように老いたエドガーはほとんど狂っている。現実でも過去を自分に都合のいいように変えたりしていたという。
かといって彼のしてきたことが全てひどい自己の勝手な正義の投影なのかというと当然そうではない。しかしやりすぎた。それに歳をとった姿には、観ている方からすれば悲しみがある。若い頃はとてつもない才能と情熱で改革を行なっていき、あくどいこともたくさんやってきたけれどそれ以上に犯罪を断絶してきた。でも歳をとったエドガーは、偏見にこりかたまって思考が縛られ、肉体的に衰えたあまりにも不自由な姿なのだ。
自由なまま歳をとるのは難しい。でも本作のラストはなんというか、それでもいいのかなという気にさせられる。イーストウッド監督の作品はどれも完成度が高くて素敵だ。はずれってものがないんだよね。
黄金の王 白銀の王
二人は仇同士であった。二人は義兄弟であった。そして、二人は囚われの王と統べる王であった―。翠の国は百数十年、鳳穐と旺厦という二つの氏族が覇権を争い、現在は鳳穐の頭領・〓(ひづち)が治めていた。ある日、〓(ひづち)は幽閉してきた旺厦の頭領・薫衣と対面する。生まれた時から「敵を殺したい」という欲求を植えつけられた二人の王。彼らが選んだのは最も困難な道、「共闘」だった。日本ファンタジーの最高峰作品。
すごすぎ。と読み終えた時に思わず呟いてしまうぐらい圧倒的だった。いやーでもこれは本当に凄いなあ。日本ファンタジーと書いてありますけど、国が架空なだけ超常現象などは出て来ません。上にあるのはあらすじなんですけど、タイトルにもある通りこれは二人の王の物語。翠国は鳳穐と旺厦の二大勢力が常に覇権を争っているのですが、物語は鳳穐が一時的な勝利をおさめ、旺厦の次期当主を捉えたあたりから始まります。
当然争い続けてきた二つの勢力が、片方の王を捉えたのだから殺してしまって残党勢力を駆逐していくのが筋道だろうというものですが懸命な鳳穐の王はそれをしません。歳はわずか19歳。なぜなら旺厦の明確な次期当主を殺してしまうことでひとつだった物が千に別れ果てし無きゲリラ戦を強いられる可能性があるからです。
また同時に語られることとして、翠の国の外から、海を渡って独自に発達した文明が侵略してくる可能性が高いことが示唆されます。だからこそ今内部で争っている状況ではないのだと。外敵からの脅威から身を守るために喧嘩をしていた勢力が結束するという話は結構あります。
でも本書では他の物語ではメインテーマとなるそれも「今まで殺し合いをしてきた二つの国が、恨みを乗り越えて何十年といった歴史スケールでひとつになっていく政治過程を書く」ことのうちの一要素でしかありません。この『黄金の王 白銀の王』物語られるのは「どのようにして和解するのか」ではなく「和解を達成していく道のり」にあるのです。
本書ではそれを「川の流れを変える」とうまく例えています。川の流れは一度に変えられるものではなく、少しずつ環境を整備し、進みやすい方に少しずつ、進路をずらしていく他ない。長年に積み上がった恨みをどのようにして解消するのか。どんな困難が巻き起こってくるのか。お互いの父母が「相手を殺せ」と遺言をしてなくなっていくような時代でこれがとても難しい。
物語を語る上で外せない重要な要素が「迪学」(じゃくっていう漢字どう変換していいのかわからん……。)です。この学問を翠の国の人達はみな学ぶのですが、これが非常に、リーダー論っぽい。中心となるのは心構えで、どういう考え方をして、判断基準をどうやって持って、どのような行動をとるべきなのかを定めた学問なのです。
最も単純な形にまでこの教えを落としこむと「なすべきことをなせ」になるようです。
「迪学の訓をひとことに約めると、何だと思われるか」
「なすべきことをなせ」
薫衣は即答した
「では薫衣殿のなすべきこととは」
「おまえを殺すこと」
なすべきことをやり、してはならないことをしない。これが迪学の根本的な教えです。しかし一番難しいのは「いま何をなすべき時なのか」「いま何をすべきでないのか」を判断することです。
──そうか。迪く者としてあることの、いちばんの困難は、なすべきことをなすこと自体でなく、何をなすべきかを見極めることにあるのだな。
二人の王は「今自分たちが為すべきなのはお互いに争うことではなく、親の遺言に背いてでも争いをこの世から消すことなのだ」と自覚していきます。しかしそれは非常に難しい。偏見、道徳、すべての基準が今よりも強い時代なのです。でも凄いのは、「親から相手を根絶やしにしろと遺言され、長年殺しあってきた相手と和解するのが自分のなすべきことなのだ」と自覚できたことなんだよなあ。
「困難からお逃げになるのか」
「困難ではない。不可能だ」
「困難と不可能を見分けよと、師は言われなかったか。血が重く、迪くものが多いほど、困難の度合いが大きくなる。我々は、常人には不可能なことも、なしとげなくてはならないのだ」
一国のリーダーという立場は重いなあと本書を読むと当たり前のことを考えてしまいます。何しろ自分に命令を下してくれる人はだれもおらず、自分がとった決断の責任はすべて自分でとらなければならない。本書は困難なことにどのようにして立ち向かうべきなのか、迪学を通してリーダーとしての心構えを教えてくれます。困難なことに挑戦していかなければいけないということも。
いやあ本当に面白かった。これはオススメ。
- 作者: 沢村凜
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2012/01/25
- メディア: 文庫
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新装版 レモンをお金にかえる法
絵本で大人ならば5分ぐらいで読めてしまう。。経済は今のところはまだ「科学」出来ているわけではない。つまり完全な再現性のある現象として全てを解明できているわけではない。それは当然予測不能である人間が関わっているからでもある。一方で、原則的なルールが適用される部分もある。たとえば物の価格が上がった時に購入量は下がるといったルールは例外はあるにせよ誰もが認めるところだろう。
この絵本に書いてあることは経済の最も基本的な需要と供給、競争と合併、インフレからの不況、そしてケインズ的な景気回復まで、経済原則が主人公の女の子がレモンをレモネードにしてお客に売り始めることで、実感として理解できる。『新装版 続・レモンをお金にかえる法』の方はもう少し踏み込んでいてインフレ、不況、景気回復まで。こちらではレモンの不作によって、レモンの価格が上昇⇒レモネードの価格も上昇⇒レモネードを買うために他の物価も上昇⇒賃金も上昇⇒失業率が大幅アップといった基本的な流れが学べる。
絵本だからといって馬鹿にしてはいけない。巻末の解説は完全に大人向けだしね。
- 作者: ルイズ・アームストロング,ビル・バッソ,佐和隆光
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2005/05/21
- メディア: 単行本
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- 作者: ルイズ・アームストロング,ビル・バッソ,佐和隆光
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
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