2012-03-28
ケイ素生物は存在不可能なのか?
『スプーンと元素周期表: 「最も簡潔な人類史」への手引き』という本を読んでいるのですがこれが超おもしろい! 化学なんてわけのわからない、面倒くさい暗記科目としか思っていなかった高校時代の僕に読ませてあげたい。元素記号が意味を持って生き生きとしてくる本だ。
まったく今まで知識がなかった分野なので少しずつ頭に回路を作りながら読んでいるため時間がかかる。ただ読んでいる途中でどうしても触れておきたいトピックが出てきたのでここにまとめておく。それがSFファンにとっては夢のひとつであるケイ素系の生物の可能性だ(というか、不可能性か)。
この可能性を探るためには前提知識がいくつか必要で、なかなか難しいので順をおって自分に納得させながら進んでいこう。
【前提知識】
原子は手持ちの電子をエネルギー準位の低い内側から先に埋めたうえで、電子を手放すなり、共有するなり、盗むなりして、最も外側の準位にしかるべき数の電子を確保する。電子をそつなく共有ないし交換する原子もあれば、かなり汚いやり口を使う原子もある。このことが、化学が解明した事柄の半分であり、それはこんな一文にまとめられよう。すなわち最も外側の準位に足りていない原子は、戦ったり、交換したり、施しを求めたり、同盟を組んだり解消したりするなど、必要なことはなんでもやって、しかるべき数の電子を確保するのだ。
補足説明。原子は必ず電子を持っている。原子の中でいくつかの階層にわかれていて、それが今上に運用したエネルギー準位にあたる。原子はこのエネルギー準位をいっぱいにしようとするが、エネルギー準位は同心円状に入れ子構造を作っていて、内側から順番に電子をたくわえていく。準位ごとにいくつ電子が入るかが基本的には決まっていて、最も内側は二個、ほかの準位では八個のことが多いようだ。
【ケイ素と炭素】
さて、以上の知識をもってケイ素と炭素をみてみると、この二つは結構似ている。というのも炭素は六番元素で、ケイ素は十四番元素なのだ。その差は八である。ケイ素の場合、二個の電子が最初の準位をみたし、八個が次の準位を満たす。余りは四個分。当然炭素も二個の電子が内側の準位を満たし、余りは同じく四個だ。
炭素というのは元素の中では最も使い道の多い元素だ。炭素はアミノ酸の骨格をなしていて、アミノ酸がビーズのように連なるとタンパク質に進化する。どのアミノ酸も一方の橋に酸素原子を、反対側に窒素、そして中央に炭素原子を二個持っている。
窒素はとりあえずおいておくと、酸素原子は八番元素なので最初の二つで準位をひとつ満たし、余りは六個、二つの電子を酸素は探す。二個ならば見つけることがそう難しくはないらしい。
一方で炭素原子は最初に説明したとおり四個外側に持っている。なので四つ探すことになるが四つ見つけるのは大変らしい(当然だがこの辺の大変だとか難しくないとかの違いをざっくりと本書では語っているがイメージしづらい)。
四個集めるのは大変難しいので、炭素はなんでもつかまえようとする。炭素は自らの心の隙間を埋めるために誰にでも股を開く淫乱原子なのだと想像するとわかりやすい(ここまできて最低のたとえだが思いついたのだから仕方がない)
炭素はゆえに、最高四個の原子と電子を共有することができる。この炭素の結合のしやすさこそがアミノ酸、ひいてはタンパク質(そして生命体)の元となる絶対条件だ。アミノ酸の幹にある炭素原子が、別のアミノ酸の窒素と電子を共有し、連結が連結をつないでいった先にタンパク質へとつながっていく。
ケイ素が注目されているのは、同じ四個余り元素としてこうした炭素の柔軟性という特性をある程度持ち合わせているからだ。しかし本書では結局のところ、炭素とケイ素は明らかに別物であると説明する。
【炭素に出来てケイ素にできないこと】
地球の生命体はすべて炭素生命体なので身体から炭素を出し入れする。基本的にこれは気体の二酸化炭素を介して行われる。いっぽうケイ素も自然界ではほとんどの場合酸素と結合している為、仮にケイ素も気体であるならば呼吸をするようなイメージでケイ素を出し入れする生命体を思い浮かべることができるだろう。
しかしこれは難しいという。なぜなら二酸化ケイ素は二酸化炭素とはちがって、二千度を超えても固体のままだ。気体になるのは二二〇三C°。とても生命が生まれて生き延びられるような温度ではない。
じゃあ固体のままがんばって代謝すればいいやんと短絡的に考えてしまうが、細胞呼吸のレベルでは固体を呼吸するのはうまくいかない(よくわからないけど、まあ固体を呼吸すると言われると難しそうだね。ひどい理解だが。)。
ケイ素生命体を、炭素生命体と同じく組織やらを修復するためにケイ素を出し入れする形で組み立てるのはどうにも難しそうである。
【なんとかならないの?】
気体を取り込む形での炭素生命体踏襲型ケイ素生命体はどうにも難しそうである。ではほかの方法でなんとかならないものだろうか。ここでまたケイ素生命体にとっては不利な情報が出てくる。もっとも豊富なケイ素である二酸化ケイ素は宇宙で豊富な液体である水に溶けないのだ。
水に溶けないことの何が問題なのか。それは血液のような液体をつかって栄養および老廃物を循環させる進化論的に有利な方法を諦めることが必要になる(これもこの本に書いてある。へえそうなのか、有利だったのかと思った←アホみたいな感想)。
またケイ素は炭素よりかさばる。なにしろ六番元素と十四番元素なので重たい。しかも二重結合を作ることができない。とにかく、いろいろな理由があってダメだという(原子二個が電子二個を共有すると単結合、四個を共有すると二重結合になる)
ううむひどい。出来ない理由はわかったからどうにかして出来る方法を考えてくれ! と思ってしまう僕は他力本願のダメ人間な上にSFキチガイである。ケイ素生命体……。一応ありえるパターンも考えてくれているがだいぶおざなりだ。
ケイ素生物などありえないと予想するほど私は愚かではないが、超微小シリカを絶えず吹き出す火山が存在するような惑星で、ケイ素生物が砂粒からシリカを精製しながら活きるというのでなければ、この元素は生命維持の役には立たない。
「99.9999%、つまりほとんどありえない」といった感じ。なんとかケイ素が気体にできればいけるのかもしれないが、そんな難しい過程を積み重ねなければいけないぐらいケイ素で生物を作ることには現実感がない。悲しい結論だがケイ素エイリアンは諦めたほうがいいのかもしれない。まあいいさ。ケイ素生命だけがエイリアンではないのだから。
- 作者: サムキーン,Sam Kean,松井信彦
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2011/06/23
- メディア: 単行本
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