基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

カクレカラクリ An Automaton in Long Sleep (MF文庫ダ・ヴィンチ) by 森博嗣

一冊完結で、僕はこれ、大好きな作品。工学を使った人間の達成における醍醐味がある。言葉は数千年残ったりするが、物理的な仕組みで人間の寿命を超えて機能させることはなかなか難しい。しかし人間が出来る範囲を超越した仕事を機械に達成させることが出来る。人工衛星や宇宙探査機だって工学の技術なのだ。人間の意志、思考といったものは太陽系を脱出する装置を産み出すことが出来る。そうした工学の醍醐味が本書を読んでいてよく伝わってくる。工学って、それを使って機構を創りあげる人間って、素晴らしいよなあほんと。

物語としては、理系で田舎の旧家ご令嬢な女の子2人に理系の男の子2人が120年後に動き出すというカラクリの謎を解き明かしていく。田舎の雰囲気と工学的な理屈⇒仮説から120年間動く機構ってどんなもんなんだろう、動力源はなんだろう、精密なものなのかはたまた……と延々話し合っているだけで、楽しくて仕方がない。

ミステリといえばなぜか旧家のご令嬢といったイメージがある。お嬢様で、家ごとの確執があって、なんやかんやあって人がばたばた死んでいって。長い人間関係の果てにある確執が殺人に至る動機として使いやすいからかもしれない。本作は別に人が死ぬミステリではないけれど。カラクリの謎を追求していくミステリでもあり、その過程で旧家の確執の謎も明かされていく。結局「なぜそんなものが創られたのか」も合わせて追求しなければわからないので、カラクリを追うってことはその機構的な意味で追うことでもあるし、設置された当時の人間関係を掘り下げていくことでもあるのだ。

珍しいのが、コカコーラとのCM契約をしているせいで登場人物がやたらとコーラを飲む。コーラを飲む描写がたくさん入っているので、なかなか新鮮でおもしろい。ドラマとかではこうした広告ってよくあるし、話の流れを阻害するレベルであることもあるけれど、小説では珍しいのではないか(僕が知らないだけかもしれないけど)。こうして読んでみると、違和感は湧くが、まあ実際コーラばっかり無駄に飲んでいる人もいるからなあ(笑)別に気にならない。僕自身は炭酸が苦手なのでコーラはダメですね。

そして森博嗣作品初めての映像化作品でもある。残念ながらこちらは未視聴。ずいぶん原作から設定は変わっているようだけど、でもドラマにするってのはそういうことだからなあ。もともとドラマにする話があって書き始められたものだが、主要な4人をガッツリ理系で固めてしまうあたりずいぶんとひねくれているよなあと思う。今でこそガリレオとかあるけれど、理系ドラマってメインの視聴者層を考えるとめったに作られないよねえ(何も調べずに書いているけれど)。

カラクリの謎の追求、旧家間に存在する確執の謎、それに恋愛色もはさまってきれーな仕上がりになっている。シンプルな一冊だ。