2-フェルモサの洗礼

かつて少数民族が住んでいた台湾を「発見」したヨーロッパ人は
台湾をフェルモサ(麗しの島)と呼んだ。

現在の台湾人は、開発の進んだ今の台湾を
もう既にフェルモサではないと自虐的に笑う。
しかし私にとっての台湾は未だ未知なるフェルモサである。
2011年11月、私は真冬のような日本を飛び出し
南国フェルモサに降り立った。

台湾を旅行するのは今回で2回目である。
前回の旅では台北、台中(日月潭阿里山)、彰化、台南、高雄、
台東、花蓮(太魯閣)と台湾の主要都市を鉄道で一周した。
有名な景勝地や観光地にはその時にだいたい行った。

そのため今回はそういった有名な観光地には行かない。
よって台湾に初めて行くという人には全く参考にならない
情報ばかりである事を最初に断っておこうと思う。

私は空港についてすぐ、空港から出ている国光バスに飛び乗り
前回泊まったゲストハウスtaipei backpackersに向かった。
このゲストハウスは台北っ子の原宿と呼ばれる西門町にある。
さっそく荷物をゲストハウスに置いて夜の台北に繰り出すことにした。
私は台湾に来てすぐしたかったことがあった。
それは、、、


タピオカ入りミルクティーをがぶ飲みする事である!


というのも台湾は、この珍珠奶茶と呼ばれる
タピオカ入りミルクティーがとても有名なのだ!
しかし、どこの店のミルクティーでもいいというわけではない。
私には、台湾にお気に入りの店がひとつあった。

その店は「50嵐(ウーシーラー)」というドリンクのチェーン店である。
店はそのポップなカラーリングのおかげで、
100メートル先からでも店を判別でき、
さらに店員の手際は良く、量も多いのに安いのだ!
そしてなによりおいしい!

私は台湾に着いたら真っ先に、
このタピオカ入りミルクティーが飲みたかった。
飲まずに私の台湾旅行は始まらないとさえ思った。
つまるところ、台湾の旅は50嵐に始まり
50嵐に終わるといっても過言ではなかった。

しかし、私が50嵐を探し始めたのは夜の10時、
私のブログの主要な読者層である良い子のみんなは
ママとお眠りしている時間である。
そんな時間に果たして50嵐は開いているのだろうか?

西門町を適当に進む事5分、
私はあっけなく開いている50嵐を発見した。
しかしどうだろう。遠くから観察してみたが、
なぜだか店に近づいてオーダーする気にならない。

なぜだろう?私の大好きな50嵐はすぐ目の前なのだ!
遠目にもタピオカがごろごろしているのが分かる!
しかし、私の足は固まったまま、店に近づこうとしない。
そしてしばらく考えてその理由が分かった。

店員がいけてない!

そんなもんどうでもいいだろう!とつっこみをいれられそうである。
しかし私は自らがたてたプランの中で、
50嵐の記念すべき第一杯目は可愛い店員に、
こんにちは!タワポンさん!今日は何になさいますか?
と台湾訛りの中国語で言われ、タピオカ入りミルクティー
満面の笑みで手渡される事を夢見て、
毎日汗を流して労働にいそしみ、ここ台湾までやって来たのだ!

しかしこの店にいる二人の店員といえば、
一人はオタク系男子学生で、もう一人の女性も
実写版ちびまるこちゃんといった感じの女性である。
この罪のない二人には悪いが私は夢のためにも、
こんなところで妥協できなかった。

私は50嵐を背に再び歩き始めた。
後ろ髪をひかれる思いとはこの事か。

地下鉄西門町駅を通りこすと日本統治時代に映画館として
使われていたという西門紅楼があり、そこをさらに通りこすと
お洒落なバーが密集したエリアが広がっていた。
バーの呼び込みが私を誘うが、私が欲しいのはアルコールではない。
私が欲しいのは可愛い店員の作る50嵐の珍珠奶茶だ!

適当に歩くこと5分、私は再び50嵐を発見した。
しかし、既に店のガレージは半分以上閉まっている。
もう注文は受け付けていないようだ。
時計を見ると既に夜の10時40分であった。無理もないか。
私は、美女にミルクティーを手渡してもらうという
夢を諦め先ほどの50嵐にとぼとぼと向かった。

よくよく考えてみれば可愛い店員が作ったミルクティーも、
実写版ちびまるこが作ったミルクティー
同じミルクティーなのである!同じ50嵐なのである!
仏教の教えにも執着をなくせとあるではないか・・・。

なんだか不満は残るが、私はいけてない50嵐に再び着いた。
西門の50嵐は若者の町にあるだけあってまだ開いていた。
私は恐る恐るいけてないブラザーズに近づいた。

いけてないブラザーズは私を見るとすぐに
欢迎光临(いらっしゃいませ)!と声をだした。

私がタピオカ入りミルクティーをひとつ!と頼むと
いけてないブラザーズのリーダーである彼はサイズを聞いてきた。
カップを見せてもらうが、Lでは700ml以上ありそうなのでMにした。
それでも500mlはありそうである。

次に彼は氷いる?と聞いてきた。
私は氷なしのミルクティーが好きだから、
氷はいらないというと、熱いのか、冷たいのかと聞いてくる。
私が冷たいのがいいけど、氷はいらないというと、
彼は納得したような顔で次に甘さは?と聞いてきた。
この店の特徴はこのように熱さや甘さ、
氷の有無まで全てを客が決められることにある。

私が甘さは5分(甘さ5割)くらいでいい、というと
いけてないブラザーズのサブリーダーである実写版ちびまるこは
男どうしの会話を盗み聞きしていたようで無言で
カクテルを作るシェーカーのような物をシャカシャカと振り始めた。
そして2、3秒降ったと思ったら、それを機械にセットした。
すると機械がシェイクし始めた。
手で振るのとどう違うのかは謎だが、餅は餅屋、
タピオカ入りミルクティーは50嵐である。

実写版ちびまるこは機械がシェイクする間、
長い柄のお玉でカップにタピオカをどさっといれ、
そこに甘味料なのだろうか液体をそそいだ。
その上に先ほどのシェーカーの液体をそそいで
飲み口にシールを貼るともう出来上がりである。

私はただいけてないブラザーズの完璧な仕事ぶりに魅了されていた。
この二人は、いけてはないが、仕事はできるのだ。
感心する私の目の前には、もうミルクティーが用意されていた。
黒々と光るタピオカがカップの底で元気に踊っている。
私がお金を払って商品を受け取った瞬間、
二人は元気に谢谢光临(ありがとうございました!)と言った。
私もありがとうといい、店をあとにした。

私はすぐにはストローを刺さず、記念すべき第一杯目を
ゲストハウスで落ち着いて味わうことにした。
そういえば私の彼女は私がミルクティー
嬉しそうに飲む顔をとても見たいと言っていた。
というのも普段ポーカーフェィスの私が
この間5年ぶりくらいに入った回転寿司屋で、
色とりどりの寿司が流れてくるその光景に
珍しくはしゃいでしまい、その時の顔が忘れられないらしい。
確かにこのミルクティーは回転寿司以来の衝撃だ!

私はおもむろにカメラを取り出し記念すべき
一口目の顔を撮影することにした。
私はミルクティーを前に終始にやにやしていた。
やたらとでかいストローを勢いよく差し込みそこに口をつける。
黒いタピオカがミルクティーと一緒に徐々に上がってくる。
どこか宇宙船に拉致される人のようだ。

ストローの先は夢の国につながっていた。

ほどよい甘さのミルクティーとタピオカの弾力、独特の甘さ。
同じ物を東京で頼めば500円はするだろう。
しかし台北では90円もしない。
あぁ私は今、フェルモサにいるんだな、
私は安宿のベッドの上でそれをしみじみと感じていた。

さぁ写真を撮ろう!
私は何度かストローに口を運び腹の底からわきあがる
この感情を写真という二次元に収めようとしたが
いかんせん安宿のライトは暗い。
しかも相部屋の台湾人が怪訝そうな目を私に
向けているので部屋全体を照らすライトはつけずらい。
そりゃミルクティーを飲んで異常にニコニコしていたら
気持ち悪いよな。私なら110するだろう。
これではうまく写らないではないか!

何度か写真を撮ってはっきり写らないことが分かると
私はもう写真を撮るのを諦めた。
私がミルクティーを飲む顔など彼女以外誰も見たくないのだ!
そんなこと知ったことか!

私はミルクティーを夢中で飲み干した。
ミルクティーは飲み干したがのだが、ひとつ問題が生じた。
小さいタピオカの固まりがストローの中で詰まって
上までやってこないのだ!

私は一粒のタピオカも残したくはなかった。
タピオカ一粒一粒全てが愛しかった!

しかしいくら必死で吸ってもストローの先のそれは
一向にでてこない。その時、私はひらめいた!
ストローで思い切りタピオカを吸ってタピオカをストローの中に
封じ込めた後にストローをカップからひき抜いて
逆側から吸えばいいのだ!さすが私である!

私はさっそくタピオカを思い切り吸い
ストローの中にタピオカを封じ込める事に成功した。
そしてストローを突き刺した穴からゆっくり引き抜いた!
ミッション成功かと思われたその瞬間、
ストローと一緒にわずかに残っていたミルクティー
一緒に飛び出し、下にあった私のカメラの上にどばっとかかった!


OH!!!!!!!!!!!!!!!!
フェルモサー!!!!!!!!!!!!


私は一瞬真っ青になり、すぐにティッシュでカメラを拭いた。
レンズにミルクティーをぶっかけるなどもってのほかである!
その後すぐにウェットティッシュでもふいた。
そして恐る恐る電源をいれてみた。

電源は入るものの、ミルクティーでねばついたカメラは
シャッターを保護する部分の動きがねばっこくなってしまい
時々うまく応答しなくなってしまった。




。。。





これはテロか?
実写版ちびまることか、いけてないブラザーズとか
言った私への報復テロか?
だからあえてタピオカの塊を入れたのか?

だいたい私がタピオカ入りミルクティーを食べる顔を
見たいとか言った奴も言った奴である。
そんなもん見てどうなるってんだ!

まったくどいつもこいつも・・・。
私は不満をぶつくさ言いつつもストローをようやく引っこ抜き
詰まったタピオカを吸い取り口に含んだ。
そしてタピオカを噛みながら、一つ心に誓った。


次、50嵐を飲む時は絶対カメラをしまってからにしようと。