終-太鼓とコイン

十分という村で天燈を飛ばした私達は
次に九份という台湾の人気観光地へ向かった。
十の次は九というわけだ。

九份は日本統治時代に金の採掘で繁栄した村で、
その後も『悲情城市』というニ・ニ八事件を扱った
映画でロケ地に選ばれ再び人気となった。

そんな歴史など知るはずもない彼女は金魚のように口をパクパクさせ
「私は红豆汤(台湾のお汁粉)が食べたい!」とぶつぶついっている。
まったく胃袋に足と手が生えたような女である。

まぁ、それにしてもなんと観光客の多いこと!
往時を偲ぶ遠い目なんかで歩いていると、
観光客とぶつかり歩けたもんではない。

通りの左右は観光客を相手にした土産物屋でぎっしり埋まっており、
それがかなり先まで続いている。
少し立ち止まって店の商品を見ようものなら
すさまじいセールスを受けるので、
本当に買う気がないと店の商品も見られない。

私達が通りの店に誘惑されながらも
しばらく進んでいくと、次第に太鼓の音が聞こえてきた。
どうやら近くの施設で太鼓の発表会をやっているようだ。
会場の扉は開いており、特に見学料も必要ないようだ。

おそるおそる入って行くと壇上では
小学生から中学生くらいまでの子ども達が
一生懸命、日本の和太鼓にそっくりな太鼓をたたいていた。

椅子に座っているのは客と保護者だろう。
演奏が終わる度に、会場中に拍手がなり響く。
わが子の演奏の後にはアンコールまでしている。ノリノリだ!

彼らはみんなが決まったリズムで一斉に叩くこともあれば
それぞれがソロで会場中の注目を浴びる中、
自分が好きなリズムを叩くこともあった。

自分の得意なリズムで一生懸命バチを振るう子ども達を見ていると
私はいつしか彼らの両親の気分となり
よく練習がんばったんだね・・と感動すらしていた。
彼女も同じ気持ちなのか、静かに聞き入っては
演奏が終わると熱心に拍手をしていた。

胃袋も一応、感動はするようだ。

どれだけ見ていただろうか。

私達は結局、最後のアンコールまで見て、
割れんばかりの拍手が鳴り止まない会場をあとにした。
会場を出た彼女は私にこういった。

「わたし前から太鼓やりたかってん!」

うーむ。初耳である!全くの初耳である!
この胃袋は本気で言っているのだろうか。
それとも一時的に感動して、興奮のあまり
変な事を口走っているんだろうか。
まぁいい。この胃袋はしばらくそっとしておこう。

私はというと、太鼓にも感動したのだが、
ふらっと入ったみやげ物屋で偶然見つけた古銭に夢中になっていた。
そこには清や台湾の古い硬貨や貿易銀などが置かれてあった。
数百年前に実際に活躍していたコインと思うだけで
東アジアの近代史に関心のある私にはたまらない!
この硬貨はそうした歴史の目撃者なのだ!と
思うと胸のドキドキが止まらない。
この硬貨をどんな人が持ち、その人はどんな時代を生き、
どういう経緯でこのコインはここに並んでいるんだろうと
考えただけで私の夢はふくらんでゆく。

胃袋はそんな私を見て呆れていた。
早くお汁粉を食わせろというオーラが全面に出ていた。
しかし、歴史に魅了された私にとって
お汁粉なんぞ知ったことではない。

私はコインを眺めうっとりしていた。
このコインを西太后も使ったのだろうか。
このコインを蒋介石も、いや張学良も・・・!
嗚呼!!私はまさに歴史と一体となっていた。

そしてふんだんに悩んだあげく、私は二枚の硬貨を買った。
一枚は日本もかつて貿易で使ったと思われる「貿易銀」である。

そしてもう一つは愛新覚羅 溥儀の描かれた大清国のコインである!

私はお汁粉を飲みながらもコインばかり眺めていた。
あの溥儀やで!と言っても胃袋はポカーンとしている。

お汁粉の飲みたかった彼女はお汁粉のトッピングに
おたまじゃくしの卵のようなものを入れて!と
お願いしたところ、うまく伝わらなかったのか
お汁粉とはまったく違う液体にそのおたまじゃくしの卵の
ようなものを入れられて結局、お汁粉が飲めずがっかりしていた。

お汁粉にさほど興味のない私は普通にお汁粉を頼んで
普通にお汁粉を飲んで、哀れな女を横見に満面の笑みで
お汁粉を飲んでやった。

溥儀と飲むお汁粉はこれまた格別であった。

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私と彼女は台湾での短い滞在期間中、
ブログで書いた以外にも数多くの場所に訪れた。
温泉や寺、ナイトマーケット、台北北端の淡水にも行った。


台湾で2番目においしいと評判の小籠包の店に行っては、
そのおいしさに感激した。

泊まったゲストハウス牡丹居でのもてなしも素晴らしかった。
毎朝、おばさんが朝食時に謎のフルーツを切り分けてくれた。
お勧めのゲストハウスだ。→http://www.mudanhouse.com/

台北は十分に観光開発がされており、
観光がとてもスムーズに運び、当の本人は楽しいものの
それを文にしておもしろいようなトラブルや出来事も
起こりにくいので、ここではそれらの話は割愛します。

よって、台湾のブログはここでおしまいです。
台湾は、夏以外は過ごし易く、公共交通機関も便利です。
人も優しく、特に日本人の私達には、とても親切にしてくれました。
そして、歴史的なこともあり、日本と文化も近いです。
私が大好きな海も身近にあり、南にはリゾート地までありました。
食に関しても、日本人に比較的近い味覚をもっています。
米も戦時中に日本人の口に合うように品種改良された
米を使っているので、日本の米のようです。
実際、私は食べ比べしても分からないでしょう!

逆に悪いところを思い浮かべるほうが難しいくらいです。
強いて言えば、一度、豆花という台湾スイーツを食べに行った時に、
汚れた格好をして掃除をしていた店員のおばさんが
めんどくさそうにオーダーを受け、用意してくれた
スイーツに蚊が入っていて、気分を害したくらいです。

蚊が入っている事を指摘すると、めんどくさそうにもう一杯
作ろうとしてましたが、私はどうもその汚いおばさんの
スイーツを食べる気になれず、店を出ました。

そんなこともありましたが、私はすっかり台湾が好きになりました。
今の気持ちを一言簡潔に述べるとこんな感じです。







台湾に住みたいわん!






はい、私は台湾に住みたいです。
いつか日本語教師として台湾に移り住み、
台湾での生活に慣れたら、日本の家庭料理を扱うレストランを
オープンさせたいというのが今の野望です。
料理は日ごろからよく作るものの、全てが自己流なので
一度基礎から勉強しなおすつもりです。
その際は皆様のご来店を心よりお待ちしております。



では、その時まで。再见!



タワポン渡辺
http://tawapon.web.fc2.com/