アメリカは自力で再生できるか

断言はできないが、二〇〇八年六月以来、原油価格が半値に下がるほどの暴落を見せ、他の商品価格も大暴落したが、これは、ほんの始まりに過ぎないということだ。先進工業国は、全世界GDPの六〇〜六五%を占めているが、その需要は激減しており、さらに中国でも環境汚染への抑制処置が厳しくなり、中国通貨の段階的切り上げも行われているので、需要は減退している。

では、どのような予測を立てたらいいのだろうか。サウジアラビアは、二〇〇二年までは、一バレル当たり二五ドルが理想的な原油価格だと言明していたが、果たしてその水準に戻るだろうか。それは考えられないことではない。なぜなら、サウジアラビアは二〇〇九年に新油田の操業を開始するので、産油国として最大の原油生産余力を持つことになるからだ。高価格を維持するため、ベネズエラやイランから原油生産量を削減する圧力を加えられても、同国は反対できる立場にある。また、銅価格が一トン当たり二〇〇〇ドル以下に戻ることも、あり得ないことではない。というのは、今回の本格的な景気後退が始まる数力月前には、すでに相場がほぼ半値に下落していたからだ。

そこで五つ目の問題点は、ある特定の国において、苦痛を伴う景気後退や緩慢な経済成長が、経済ではなく政治によって、より劇的に変化するかどうかである。一九九七年から一九九八年にかけて、東アジアで金融危機が発生貼、その最大の打撃を受けたのはインドネシアだ。なぜなら、その危機で長らく独裁者だったスハルトが打倒され、民主制と安定性が戻るまでは、数年にわたる大混乱が続いたからである。政治は、経済よりも急激な断絶をもたらす可能性が大きいのだ。

この危機の元凶となったスハルトのような人物は、アメリカや西ヨーロッパには、恐らく見当たらないが、脆弱な政治組織を有する弱小国や貧困国、あるいは、強権体制で高騰する商品価格に依存する国、たとえばロシアやベネズエラ、それにイランや多くのアフリカ諸国、そして一部中近東国などには存在するかもしれない。

最後の六つ目として指摘したいのは、景気後退の暗雲が垂れ込めている中で、柔軟性と融通性を持ち、強固な政治組織を有する国が、これを乗り切れるということである。したがって、アメリカがこの激動の震源地であるとはいえ、実際は同国こそが、この景気後退の衝撃を緩和し、苦しみながらも対応することで、回復に向かっていくのだ。

この不況が、アメリカの主導権の終息と考え、アジアやBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国の略)の諸国に支配力が移行し、ドル覇権の終焉と考えるのは、間違いだと思う。今回はアメリカがもたらした景気後退であり、その回復はいつになろうとも、実現できるかどうかは、まぎれもなくアメリカ自身にかかっている。