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百水日記

2012-01-09

Chimera BOOKが伝えたいこと

ZineChimera BOOK』を作って、何人かの書店の方から、「これはどういう雑誌?」「なぜこれを作ったの?」という問いをもらいました。伝えたいことは雑誌の中に込めましたので、という答えもありますが、ここではごく個人的に、この雑誌を通じて伝えたいことを少しまとめて書いておきたいと思います。

私が思うに、出版物は”垂直的価値”と”水平的価値”の2つをもっています。垂直的価値というのは、読む人がページを開いたときに作り手から読者に向かって立ち上がる価値のことです。水平的価値というのは、その出版物が社会に流通することによって人々の話題となったり、情報として持ち歩いて参照されたりすることで、コミュニケーション触媒として働くときに現れる価値のことです。簡単にいえば、垂直的価値とは面白さのことで、水平的価値とはお役立ちの程度です。

Chimera BOOK』の面白さ、垂直的価値は、現物をじっくり読んで吟味してもらうに越したことはないと思いますし、この価値はたとえば『VOW』に載っているような道端の標識にさえ含まれているものなので、あえて説明する必要はないと思われます。

けれども、もうひとつの価値、すなわちお役立ちの程度、水平的価値についてはこうやって誰かが何か語ることが重要だと私は思っています。発売後は話題にもならなかった本が、ある日メディアに紹介されてから皆がこぞって「面白かった」と話す現象を、出版営業の仕事をしていて私はこれまで何度となく見てきました。その本は急に面白くなったのでしょうか? もちろん本の中身は何も変わりません。その本の社会的価値が急騰することによって、面白いと発言する人が増えたのです。その本を「面白かった」と発言する行動が社会的価値を持つようになった、と言い換えることもできます。

「いい本なのに、なぜ売れないんだろう?」「面白くないのに、なぜこんなに売れるんだろう?」本心からの発言かどうかは別として、このような言い草を耳にすることがあります。でもこの2つの発言は煙幕だと私は思うのです。東京タワーは高いのに東京ドームより狭いのはどうしてだろう? と言っているようなものです。

ある出版物の高さ、垂直的価値は変わらなくても、広さ、水平的価値をあとから変化させることはできます。それでは『Chimera BOOK』は、この2つを掛け合わせた価値を無限大に大きくすることを目的として作られたのでしょうか? 私の答えはノーです。社会的に最も多く流通するものを作ろうとしているわけではありません。ウェブで、無料で、ワールドワイドに、ではなく、個人で、紙で、限られた部数を届けようとしているわけですから。けれども、ただひとつのコミュニティ内だけで流通するものを作りたいわけではありません。

想定している読者は、質感のあるもの、垂直的価値の高いものに憧れながら、身の回りには大量消費財があふれている、そんな環境にいる人々です。この雑誌の表紙に「都会の小さな文芸誌」という文言を入れていますが、私にとっての都会とは、人工物で溢れてしまった場所のことです。しかしながら、そのような都会と仲良くすることなくしては、未来を語ることはできないのではないか、この雑誌にはそういうメッセージを込めています。そして、そのための幻視の方法を追求する、というのがこの雑誌のテーマのひとつです。

いま雑誌を東京で、仕事ではなく娯楽ではなくコミュニケーション活動の一環として作ること、その意義を表現した雑誌です。内容的にはバカバカしいところもありますが、私のまじめな水平的意志に興味を持って手にとってくださる方がいることを望みます。

 

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