平成17年度(2005)年度 第1回 知床世界自然遺産地域科学委員会 議事概要

(抜粋=松田のおもな発言)
場所:北海道大学農学研究科 農学部 4階大講堂(S401)日時:平成17年8月26日 15:45〜19:10
松田: ○○委員に賛成である。地域連絡会議の構成員が行政だけというのはおかしい。整合性が取れない。国際、国内的にも古い形態である。これから変えることが出来るのであれば変える必要がある。地域連絡会議は地元の合意形成の場である。関係図の中で科学委員会の位置付けも不明確である。科学委員会とは別個に利用適正化検討会議もあるが、オーバーユースをどの程度許容できるかというような検討には科学的知見が必要である。すべては無理であるが、科学的認識に基づいた議論をしていかなくてはならない。しかし、そういう枠組みになっていない。連携協力という形でしか反映されていない。科学者の意見が反映されないまま、合意形成が行われてしまったIUCN書簡への対応の前例があるが、それではいけない。そのような不安を払拭しなければいけない。2年後、調査団を招けというユネスコの指摘は異例であり、世界遺産になったとはいっても安心はできないと聞いている。これまでの対応を反省し、きちんと対応していかなければならない。枠組みを全部変えるというのは適切ではないと思うが、共通認識として、利用に関しても科学者の意見が十分反映されるものであるべきだ。そして地域の合意に関しても地域連絡会議の構成員が、行政機関ばかりではないということを明確にする必要がある。
松田: 科学者はあくまで利害関係者ではないという立場で関わっていくべきである。地域連絡会議には地元の方々が正式に入ればよくて、むしろ科学委員会は密接に関係する形で、常に科学的な意見をいう立場が良いと思う。連携協力という形より助言という形のほうがすっきりしており、そのような形をとった方が、地域連絡会議のあり方の改良の実現可能性が高いのではないか。
松田: 連携協力でなく、地域連絡会議へ助言を行うことを入れるべきではないか。また、科学委員会に意見を求めずに合意形成を図ることのないような担保が必要である。この2点について合同事務局の明確な見解をお願いしたい。
松田: 自然再生推進法の協議会では、専門家の意見を求めるという項目が明確にある。それと同じでよいのではないか。
松田: まず、合同事務局は先ほどの私の二つの質問に後で答えてほしい。 次に、管理計画を策定する責任主体はどこかという話について、海域管理計画について考えたが、自主管理であれば役所が作ってはおかしいことになる。海域管理計画の主体は本来、漁協である。 また、私は地域連絡会議が合意形成の場であるという認識を持っている。科学委員会は科学者の立場からそれに意見を述べる立場であろう。また、利用適正化会議にも意見を述べる立場であろう。世界自然遺産登録には地域の合意が必要である。海域管理計画について、わたしたちは明確にそれを約束したと思う。だからもう少しその辺を明確に考えたほうがよいのではないか。
松田: 必要となる調査の中には、基本認識を明確化するための調査と、管理計画を実施するなかで状態の変化を知るための調査がある。本来、管理計画ができ、どのように維持していくかという目標が定まった時点で、それを検証するために必要な調査項目が明確になるというのが流れである。 しかし、例えばエゾシカWGでは、現在、計画骨子を議論している段階なので、モニタリング計画が煮詰まっていないのは仕方がないが、今後、今考えられているモニタリング計画だけでは足りないことは明らかである。そのような状況を前もって把握していただきたい。今、現状で行われているのはまだ「研究」という段階。本当の管理計画のモニタリングではないだろう。今後、変わっていくべきことだろう。

2005年度知床世界遺産科学委員会エゾシカワーキンググループ第1回会議議事概要

(松田の主な発言)
場所:北海道大学農学研究科 農学部 4階大講堂(S401)日時:平成17年8月25日 14:00〜17:15
松田: 話が見えない。知床半島エゾシカ保護管理計画(以下、保護管理計画)は、遺産地域を対象に行うはずである。それ以外に、道がシカの管理を各市町村で行っている。そういうデータも集めて全体として情報を集約し、どのように管理計画にフィードバックしていくかという図が当然あってよいはずだが、それが見えない。このままでは北海道の計画よりも貧弱だという印象を持ってしまう。
松田: なんだかまだ話がかみ合っていない。もう遺産登録されてしまっているのだから、これから保護管理計画が実現できるようなモニタリング体制を考えようというのではもう遅いと自分は思っている。例えば、資料3「知床半島エゾシカ保護管理計画骨子(案)」の4ページに管理目標があり、「b 核心地域のエゾシカの越冬群の密度を○○〜○○頭/km2にする」と書いてある。こういう管理目標を立てるのなら密度を測れなければ仕方がない。/つまり、モニタリングで測れるものを管理計画にいれなければならない。数字をどう入れるかはともかくとして、その密度が測れるようなやり方が頭になければこのようなことは書けないはずである。その辺がかみ合っていないと、今の話を聞いて強く感じた。実現可能なモニタリング体制、実現可能な管理目標を作らなくてはならない。
松田: 4点ほど申し上げたいことがある。

  • まず、p2の「計画策定の目的」における「健全な生態系の保全を目標とする。」について質問する。p1に共通認識として、「少なくとも縄文期から明治〜昭和位まで先住民の人々が居住し、エゾシカの動態に影響を与えていた可能性がある」と記載されている。その後を見ても、知床半島に先住民が居住していた状況以前の状態に戻すということはどこにも書いていないので、先住民が存在しているような生態系というニュアンスが、「健全な生態系」という概念に含まれていると理解している。これはみなさんに合意してもらえるはずであり、議事録に書いていただきたい。
  • 2番目に、隣接地域について「人間生活との軋轢の軽減等を図る」という文言があるが、これは道の管理計画に従って、人との軋轢を避けるための手法を隣接地域でも行うことだと理解している。これに関しては議論があるかもしれないが、世界遺産の隣に住んでいるだから、我慢しろということにはならないと自分は考えている。逆に、世界遺産の隣だからもっと捕れという意見はあり得るかもしれない。
  • 3番目だが、p1に「委員の間には以下の2つの違う立場がある」とあり、「Ⅰ:自然に放置した場合には、過去にはみられなかったような、シカによる植生への不可逆的な悪影響が避けられず、早急な対応が必要である。」というスタンスと、「II:現在見られている植生への影響は過去にも生じたことがあり、生態系過程に含まれると考えられることから、注意深くモニタリングしていく必要がある。」というスタンスが示されている。「過去100年間にはみられなかったような植生への強い影響が発生している」ことは共通認識になっているが、もっと1000年規模で見てどうかというと、現在我々が持っている検討材料は、先程出た花粉分析の図1しかない。この図1を見ると、確かに過去にニレの相対花粉量が減っているところはあるが、現在が一番低くて、これからもっと低くなることが予想されている。ということは、サンプルが少ないため十分な調査とはいえないかもしれないが、この図1を見た限りでは、少なくても過去2000年で見て、シカの採食圧の影響を最大に受けており、今後もっとひどくなるという認識を暫定的にでも持つべきだ。従って、私はⅠのスタンスを取るべきだと思う。これについて議論していただきたいのが3点目である。
  • 4つ目は、p1の「知床のシカ個体群は過去にも局所的絶滅があり、再進入した個体群が爆発的に増加したと思われる。」という現状認識についてである。このあとのページの様々なところで、「ただし絶滅は避ける」といった記載がいくつか見られるが、過去に絶滅したことがあるならば、「絶滅を避ける」ことが果たして必要な管理目標であるのか議論にすべきだと思う。

松田: 本来、緩衝地域があることによって、隣接地域が通常の道の管理計画で済むようにするべきだ。隣接地域と核心地域の間に緩衝地域を置いて、核心地域を守るのがデザインとしてはすっきりする。現状ではそうなってはいない。
松田: 季節移動の範囲に隣接地域を設定するのが座長の案だと思うが、そう決めることによって何が変わるのか。つまり、隣接地域については道の管理計画に基づき、人との軋轢をさけるような方法をとるのであり、隣接地域の範囲をどこまで広げるかがどう影響するのか。
松田: 確認するが、隣接地域は道の管理計画ではなくて知床世界遺産の管理計画として予算を出して行うということか。
松田: 隣接地域とは何かということがp7〜8にかけて書いてあるが、確かに先ほど○○さんがおっしゃったように、隣接地域の市街地におけるシカと人との軋轢を避けるために、緩衝地域で何かをするというのは本末転倒だと思う。保護管理計画では、「核心・緩衝地域の保全に資する管理を行う」のが隣接地域であると明記されている。これはやはり道には抵抗があると思う。これは道による通常の管理ではない。/しかも、密度操作実験について、知床世界遺産地域の順応的管理のために、隣接地域で仮説実証試験として行うというイメージだ。この様なことを行うのであれば、隣接地域を明示し、当然道の事業ではなく世界遺産の事業としてやるべきである。世界遺産の事業として管理するか、通常の道のやり方で隣接地域を管理をするかによって、だいぶイメージが変わると思う。もし、隣接地域で密度操作実験を行うのであれば、先ほど○○さんが言われたように、季節移動の範囲という考え方で今後煮詰めていけばいいのではないかと思った。
松田: 普通、実験を行う地域は緩衝地域であって、隣接地域ではない。緩衝地域というのは、その外側に影響が及ばないように、コアな部分を責任もって守るための地域である。環境省が責任を持ち、その緩衝地域までを含めて世界遺産地域とし管理する範囲を定めるべきで、今おっしゃっているようなことは、本来隣接地域で行うべきことではないと思う。密度操作実験をなぜ緩衝地域で行えないのかというのが自分の質問である。
松田: 世界遺産地域としては核心地域・緩衝地域という言い方は意味があるかもしれないが、保護管理計画のなかでこのような言い方をするのは非常に誤解を招くと思う。断ったうえで、この言葉を使うとか、違う表現を用いたほうが良いと思う。
松田: p1に書いてある「少なくとも縄文期から明治〜昭和位まで先住民の人々が居住し、エゾシカの動態に影響を与えていた可能性がある」という2行は合意されていると理解している。
松田: それはよくわからない。要するに、日本各地どこも同じだと思うが、放置して「健全な生態系」が守れるという認識もないわけである。狩猟をすべてやめた結果、シカを含む生態系がよくなったかというと、良くなっていない。そのような認識が少なくとも自分はある。従って、縄文以降人間が関与していることがむしろ、「健全な生態系」であると自分は認識している。
松田: 繰り返すが、明治時代やその前くらいの自然状態を「健全な生態系」と言うのではないか。その「健全な生態系」には人がいた。だからといって先住民を戻せということではない。自然状態としてはそういう時代を意識しているということでいいか。
松田: 今、【仮説の】ⅠかIIかを選べといわれたら、Ⅰだろうというのが自分の意見だ。またもう1点あり、花粉分析結果において、堆積土の深さ1cmというのは、10年分くらいだと思う。それを50年単位で採っているから、周辺の地域も調べてみるべきだと思うし、もっと核心地域で調べる必要もあると思う。また、もう少し短いタイムスパンで花粉量の変動が起こっている可能性もあるから、もっと詳しく見ないと見過ごす可能性がある。このようなことも視野にいれて花粉分析を行っていただきたい。
松田: 絶滅はもちろん複合事象として起こるわけであるが、例えば、道の管理計画だと最低1000個体は絶対に割らないようにとか、絶滅を避ける手段をとっている。その様な設定は知床では、自分はしなくて良いという認識でいる。確率論的におこる絶滅という現象は、ある程度視野にいれても良いのではないか。皆同じ意見ではないかと思う。
松田: 率直に言って、この保護管理計画骨子案は、先ほど議論になった共通認識のⅠかIIかという観点から見ると、IIに基づいていると思う。もしⅠをとるとすれば、だいぶ書き方が変わってくると思う。花粉分析の結果が出た時点で見直す場合、両方の観点から保護管理計画の策定を作っていく必要があるかもしれないが、○○委員のような意見だと、花粉分析の結果如何に関わらず、Ⅰのスタンスになる。その様な意見を含めて、ⅠかIIをどう選択するかということを、早めに決めていく必要がある。/また、先ほど第3章を「モニタリング」にし、4章を「計画実施体制」にするという意見があったが、その4章の「計画実施体制」の中に、合意形成についてきちんと書いていただきたいと思う。率直に言って自分は、隣接地域で操作実験を行うことは地元で合意できるか難しいと思うので、きちんと書いていただきたい。/3点目だが、これまでの今の話だと、核心地域が一番重要ではなく、さしあたって管理が必要ではない地域な気がする。記載する時にこの順番では誤解を招くのではないか。むしろ緩衝地域でどうするかということを、最初に挙げていただきたい。先ほど○○委員から、今は思ったより高山地域ではシカの影響がないという話があり、それはいいことだと思った。しかし、今後、より低いところが高密度になって食害が進めば、もしかすると高山地域に影響が出てくるのではないかということを、一応視野にいれて考えていくべきだと思う。
松田: やはり基本認識がはっきりしないと管理計画はできないと思う。実質的に結論を出さないというのはIIの立場と同じだと思う。それも選択の一部だが、それでは過去にあらゆる地域で起こっているような、取り返しがつかないことになると自分は思う。