櫻本和美氏の「脱MSY」の主張について

Date: Wed, 15 Jun 2016 14:25:24 +0900
 【水産経済新聞2016.6.10にも紹介された櫻本和美さんのMSY批判の講演会の件ですが】論点を私なりに以下のように整理しました。【櫻本さんの同意を得たわけではありません】
親魚量と加入量の再生産関係について

  1. 国際的にはホッケースティック型の再生産関係(親魚量がある値までは加入量と密度非依存の比例関係にあるが、それ以上だと密度効果により加入量は親魚量に依存せず、環境条件のみで決まる)を仮定している議論が多い。これは通常のMSYのような「お椀型」の密度依存性ではないが、密度依存モデルの一つであり、環境変動を考慮しても、広義のMSYが定義できる(だからと言って、MSYに基づくTACを決めるべきではないというのが松田の主張)
  2. 特に日本では「密度効果により親魚量にかかわらず加入量が決まる。ただしその加入量は環境条件に大きく左右される」という主張もある(ホッケースティックの天井部分のみ)。この場合には資源管理が不要。
  3. 櫻本氏の主張はどちらとも異なる。むしろ密度効果を否定し、同じ環境なら親魚量と加入量は比例関係にあり、ただし環境変動に強く依存して加入量が決まると考えている。したがって、資源管理は必要であり、密度効果がないのでMSYが定義できないという主張である。


 その意味で、櫻本氏はMSYに基づいてTACを定義すべきではないという主張であり、TAC自体を否定しているわけではない。そして、ABC算定規則にMSYを参照していないという点で、日本のTAC政策は櫻本氏の主張を反映している。
 ただし、櫻本氏だけでなく、松田も日本のABC規則においてMSYを参照しないことに貢献したつもりだ。松田は密度効果の存在そのものを否定するつもりはない。