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横浜国大 松田裕之 公開書簡

2016-06-30

クロマグロ「初期資源量」の2%まで減ったという根拠は?

Date: Thu, 30 Jun 2016 14:47:19 +0900

クロマグロの国際管理機関最新の資源評価の概要8頁1行目から6行目にかけて、クロマグロの現在の資源量がSSB at F=0【漁業をしていないときの産卵親魚量】 の2%というのが上記のISC報告書表現ですよね。しかし、これが初期資源量だとどこに書いてあるのでしょうか?

 SSB at F=0の計算方法は上記に脚注があって、「The unfished SSB is estimated based upon equilibrium assumptions of no environmental or density-dependent effects」とあります。要するに昔の資源量を調べたわけではなく、何らかの再生産関係を仮定して(密度効果も入れていないということはあり得ないので、この点はよくわかりませんが)、それも環境(変動)の効果を無視して(おそらく、決定論モデルを使ってという意味だと思います)、平衡状態を計算し、それと比較しているのだと思います。当然ながら、このような推定方法は極めて不確実性が高く、まさに櫻本さんが批判している密度効果を仮定した決定論的手法に該当するでしょう。これは、資源学の専門家でなくても、上記の英文をたどれば想像できると思います。逆に言えば、専門家でなければ、この文書からだけでは、「SSB at F=0が決定論密度依存性を仮定したときには初期資源量を意味する」とは読み取れないと私は思います。

 1950年代からの資源量の減少は同じ資料P14の図4に載っていますが、せいぜい数分の1程度【1/10*1】です。ということは、初期資源量から1950年代までに20分の1数分の1*2程度に減り、そのあと強烈な乱獲によって数分の1【さらに10分の1】に減ったことになるでしょう。1950年代までの累積漁獲量を知りませんが、どうなのでしょうか。

 

 以前、大西洋クロマグロの時も以下のように書きました

大西洋クロマグロ提案書を読むと、昔の資源量がきわめて多いと評価され、減少分が当時からの累積漁獲量よりも多くなっている。それが事実ならば、マグロ減少の理由は乱獲ではないことになるだろう。日本政府が主張したのはその点であり、この点に対する反論を私は知らない。

 今回も同じことでしょう。

Date: Fri, 1 Jul 2016 05:41:28 +0900

 精度を上げるのはかまいませんが、決定論モデル密度依存性を仮定した平衡状態を【計算】していることに変わりはありません。つまり、櫻本さんの批判がそのまま当てはまるということです。

 もちろん、その批判は当たらないという意見はあり得ますが、誤解に基づく的外れ批判ではないということです。

 今回の議論を通じて、クロマグロ漁業管理機関自体は2%という数字を「初期資源量」とは表現していないらしいということになりました。誰かがそう解釈したのでしょう。つまり、櫻本さんの批判は漁業管理団体にではなく、自然保護団体に向けられている。今回の議論を通じて、そのことが全く理解されていないということがわかりました。

 リスクの科学でも、しばしば未実証の前提を用いて外挿します。だからといって、不確実性の極めて高い非線形関係を仮定した数字をはじき出すわけではない。太平洋クロマグロの場合、1950年代から9割も減少しているということが重要なのであり、一層の資源管理が必要だという点に全く異論がありません。

 2003年の故Ransom Myersらのマグロ9割減少説、2006年のBoris Wormらの2048年資源壊滅説(2009年論文で本人が事実上撤回)、2010年ワシントン条約での「大西洋クロマグロ資源はあと数年で枯渇」など、極端な意見は枚挙にいとまがない。しかし、全く進歩していないと思います。

 もちろん、極論を宣伝するほうが政治的効果があるのか、科学的に冷静な議論をするほうが結局は力になるかは、私にもわかりません。しかし、科学者なら間違いなく後者を選択するはずです。

*1:P5の表1を見ると1/10というほうが妥当ですね

*2:ごめんなさい

hymatsudahymatsuda 2016/07/01 11:32 (環境収容力という概念が妥当だとしても)資源が減った後の再生産関係から環境収容力を外挿するなど無謀もよいところです。たとえばRicker式やHokey-stickやBeverton-Holtのモデルでどれかが選択されたとしても、そのモデルが資源回復後も成立するという意味ではありません。そして、パラメータ推定はそのモデルが妥当だとした場合の区間推定であり、外挿することの妥当性を保証するものではない。
 万有引力の法則を大宇宙に適用するのとは訳が違います。
 資源が今の10倍以上に回復した時の密度効果の強さを、現在のデータから推定した非線形の関係式で予測できると考える生態学的合理性は、どこにもないでしょう。
 まして、この議論にはレジームシフトによる環境収容力のDecadal Changeなど、通常の資源動態で考慮する要因すら入っていないかもしれませんね

早川理恵子早川理恵子 2016/07/19 06:08 勉強になりました。
ブログに書かせていただきました。
http://blog.canpan.info/yashinomi/archive/1604

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