還暦過ぎて

十二月六日(水)晴
『幕末京大坂歴史の旅』『還暦以後』と二冊続けて松浦玲の本を読んだ。面白かった。歴史家として信頼できるだけでなく、文章が巧いので楽しく読めるのである。私も還暦が近づいているので他人事ではないが、もちろん明るく元気な還暦過ぎの人生を語る書ではなく、歴史上のさまざまな人物の還暦の迎え方やその時の状況やその後の生き方を、老齢者の記憶の問題と絡めて手際よくさばいた感じの本である。
それにしても暗殺されて惜しかったのは大久保利通原敬だと思うが、三人目が思い浮かばない。犬養毅ではちょっと弱い。伊藤博文ではもちろんない。坂本龍馬はあまり好きではないし、後はすぐに思い浮かばないくらいだからインパクトが弱いのだろう。この手のは三つ揃いの方が恰好つくのでいつか三大惜しむべき暗殺された政治家を決定したいと思う。それと、松浦の最初の本を読むと、薩摩もやっぱり心底嫌いになる。大久保も陰険だが、それでももう少し仕事をさせたかったという思いがある。少なくとも山県や井上馨が生き残るよりは遥かにましだっただろう。
幕末から明治初期の歴史は面白いが、志士とか新撰組とか薩長同盟や雄藩の動きには興味が薄い。世の中の急激な変化に翻弄される幕臣とか医者、商人や芸人などの方に関心が向く。『藤岡屋日記』をまず一冊買って弘化三年から読んでいるが、幕臣の人事と世間の雑事が並んでいて面白くてたまらない。この感じでペリー、開港、長州征伐、大政奉還、王政復古と、庶民の目で追って行きたいと思っている。