保護貿易

十二月十二日(火)晴
コーエンとデロングによる『アメリカ経済政策入門』読了。アメリカの関税政策について知りたくて手にしたが、知りたいことは書かれていないものの面白いので読んでしまった。みすず書房らしからぬキャンベルスープ缶のアップによる赤い装丁が印象的な本だ。みすずは哲学や心理学の本を出しているイメージがあるが、トマ・ピケティのヒットもあってか経済学関連の本も随分出しているのを初めて知った。要するに、ハミルトンが最初の設計図を描いた、イデオロギーによらない実利的な経済政策がアメリカの繁栄を築いたのであり、その政策は保護貿易主義と政府による経済発展指導とでも言うべきものであったのに、80年代以降それがうまく機能していないということなのだろう。アメリカは自分たちがそうであったと信じているほどには自由貿易主義的ではなく、自国の産業を選択的に援助して来た軍産複合体は政府の財政を使った立派な保護主義的政策に他ならないという指摘は説得力がある。ハミルトン・システムの忠実な追随者たる日本や中国の成功を見ればわかるように、自由貿易という理想は成り立たないものなのかも知れない。そして、金融の自由化によって製造業が空洞化し、何ものも生み出さない金融業界のほんの一部のトップに富が偏在する現状は明らかに異常であり、金融には適切で現実的な規制が必要であるとの主張には大いに同意したいところだ。格差社会の原因のひとつは明らかに金融の規制緩和によるカネと人材のシフトによるのだから、アメリカの尻馬に乗って儲けようと思っても、結局はカモにされるのが落ちなのだ。