平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2017-01-18

[][]ピエール・ルメートル『悲しみのイレーヌ』(文春文庫23:29 ピエール・ルメートル『悲しみのイレーヌ』(文春文庫)を含むブックマーク

異様な手口で斬殺された二人の女。カミーユ・ヴェルーヴェン警部は部下たちと捜査を開始するが、やがて第二の事件が発生。カミーユ事件の恐るべき共通点発見する……。『その女アレックス』の著者が放つミステリ賞4巻に輝く衝撃作。あまりに悪意に満ちた犯罪計画――あなたも犯人の悪意から逃れられない。(粗筋紹介より引用

2006年、フランスで発表。コニャック・ミステリ大賞他4つのミステリ賞を受賞した。2015年10月翻訳刊行


『その女アレックス』が大評判となった作者の処女作、かつシリーズ第1作。いわゆる謎の犯人による連続殺人事件にフランス司法警察のカミーユ警部チームが立ち向かうが、ル・マタン紙の記者であるフィリップ・ビュイッソンが捜査の内情をことごとくスクープし、カミーユ達を悩ませる。連続殺人事件のつながりがようやく明らかになり、しかも過去にも殺人事件を起こしていたことが判明。必死の捜査で犯人にたどり着くカミーユだったが、悲劇が待ち受けていた。

ということで、前作を読んだ人ならどういう悲劇かはわかっている。なんでシリーズ2作目から訳すかなあ……と言いたくなる。それにしても、この邦題はないだろう。原題はTravail soigne。日本語タイトルとは別の物だ。多分出版社主導で付けたのだろうが、ここまでひどいタイトルも初めてだ(こう書く理由は、読めばわかる……って、バレバレだが)。あと解説だが、4つの賞を受賞したというのなら全部記載してほしいものだ。

出版社悪口はここまでにして中身の方だが、これがまた面白いカミーユ警部チームの刑事たちのキャラクターは際立っているため、警察小説としての面白さがある。また、謎の犯人による連続殺人見立てがいい。これはミステリファンならもっと喜ぶんじゃないだろうか。ストーリーもいいし、テンポもいい。殺害方法がかなり残酷なので、読んでいて不快に感じる人がいるかもしれないが、正直言って私はその辺は多少読み飛ばしながら読んでいたので、そこまでの嫌悪感はなかった。

それにしても、最後の後味の悪さは強烈。被害者がどうなるかわかっていたから、この程度の衝撃で済んだが、何も知らずに読んだら投げつけていたかもしれないなあ。そういう意味では、読者のトラウマを抑えるために、先に二作目を訳したのか? まあ、さすがに勘ぐりすぎだが。

『その女アレックス』よりもまずはこちらを先に読むべき。連続猟奇殺人を扱っているから、そういうものが嫌いな人には飛ばし読みをすることをお勧めする。ただ、読んで損はしない。

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2017-01-14

[][]ジョルジュ・シムノン『死んだギャレ氏』(創元推理文庫23:35 ジョルジュ・シムノン『死んだギャレ氏』(創元推理文庫)を含むブックマーク

アール河の避暑地のホテルで、セールスマンのギャレ氏が死んでいた。弾丸に顔の半分を吹きとばされ、その上、心臓をナイフで一突きにされて。弾丸道路をへだてた隣家庭園のほうから飛んで来たのだった。一見、単純な事件のようだが、捜査に乗り出したメグレ警部の前には、つぎつぎと不審事実暴露される。ギャレ氏とは何者か? 殺人の動機は? 犯人は? 偉大なるメグレ警部の生みの親、シムノンの輝かしい処女作!(粗筋紹介より引用

1931年発表。1961年7月創元推理文庫邦訳刊行


1937年に『ロアール館』のタイトルで、春秋社より刊行されているらしい。メグレ警部処女作とあるが、実際のメグレ警部処女作は『怪盗レトン』。単に間違えたのか、『怪盗レトン』が当初他の名義で出版されたのかはいまだにわからない。ググってみると、初めて本名出版した作品とはあったが。

実は再読。とはいっても前に読んだのは学生の頃だからもう何十年も前。当時あまり面白くなかった思い出しかなかったが、実家を片付けたら出てきたので、200ページちょっとしかないこともあり、読んでみる気になった。

改めて読んでみると、これだけのページ数でもきちんと背景などを書きこんでいるし、セールスマンのはずのギャレ氏が勤め先にはいないという摩訶不思議事態から捜査するくだりは地味だが読み応えがある。会話文でどんどん話が進むので、展開もスピーディー。それでいて、人をじっくり書くというシムノンらしさはこの作品でも発揮されているのだから、なぜ当時の私はこれを詰まらないと思ったのだろう、と悔やむぐらい面白く読めた。いや、まあ、ベスト級とまで言うつもりはないけれど、大人が読む作品なのかな、と思ってしまう。

まだ薄い本が何冊かあるはずだから、手に取ってみようかと思わせる一冊だった。新訳で復刻すればいいのに……。

[]17年、経ちました 23:35 17年、経ちましたを含むブックマーク

まだやっていたんだ、とたまに言われることがありますが、のんびりやっていきますよ、これからも。継続は、力なり(多分、違う)。

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2017-01-12

[][]早坂吝『誰も僕を裁けない』(講談社ノベルス22:11 早坂吝『誰も僕を裁けない』(講談社ノベルス)を含むブックマーク

誰も僕を裁けない (講談社ノベルス)

誰も僕を裁けない (講談社ノベルス)

「援交探偵」上木らいちの元に、名門企業の社長からメイドとして雇いたい」という手紙が届く。東京都にある異形の館には、社長夫妻と子供らがいたが、連続殺人事件が発生! 一方、埼玉県に住む高三の戸田公平は、資産家令嬢・埼と出会い、互いに惹かれていく。そして埼の家に深夜招かれた戸田は、ある理由から逮捕されてしまう。法とは? 正義とは? 驚愕真相まで一気読み! 「奇才」の新作は、エロミス社会派を融合させた前代未聞の渾身作!!(粗筋紹介より引用

2016年3月書き下ろし刊行


メフィスト賞作家、早坂吝の新作だが、早坂を読むのは初めて。表紙のイラストが今時のラノベ風なので引き気味だったが、中身は案外まともだった。

エロミスなどと謳っているが、過去にはソープ嬢の探偵もいたし、目の付け所は悪くないがそこまで珍しい話でもない。エロミスというのならもっとエロシーンがあるかと思ったが、残念ながら描写淡泊だし、いまいち社会派、というほどの問題提起をしているわけでもない。とまあ、出版社惹句文句を付けた後、中身に触れてみる。

九枚の扇形が放射状に突き出た円を、二枚重ねた形の館で、どの扇形に行くためにも一度円形ホールを経由しなければならず、一階と二階を行き来できるのはホールの中心にある螺旋階段のみ。いかにも、という感じの館だし、作中でも揶揄されているぐらい。まあ、これを使ってトリックを仕掛けますよ、と見え見えだし、事実連続殺人事件が発生。まあ、事件トリック犯人当てははっきり言って添え物。むしろ作品の肝は、上木らいちの視点で語られる連続殺人事件とは別にある、戸田公平の章がどういう風に重なり合うかという点。一部は想像付いたのだが、さすがに全部は予想つかなかった。それだけでも意外だったが、さらに結末まで読んでかなりびっくり。なるほど、こういう着地点のミステリがあるのか、と感心した。うん、この構成をよく考えた、と言いたい。作者の狙いは、見事成功した、と言っていいだろう。

ミステリもひねるといろいろ出て来るな、と素直に感心した。この手の作品ばかり読まされるとさすがに腹が立つだろうけれど、たまに読む分にはいいかもしれない。

[]どうでもいいことだが 22:11 どうでもいいことだがを含むブックマーク

登録していた企業関係からのメールで誕生日を思い出すなんて……。もう年だね、本当に。

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2017-01-11

[][]三沢陽一『致死量未満の殺人』(早川書房21:08 三沢陽一『致死量未満の殺人』(早川書房)を含むブックマーク

致死量未満の殺人

致死量未満の殺人

雪に閉ざされた山荘で、女子大生弥生が毒殺された。容疑者は一緒に宿泊していた同じ大学ゼミ仲間4人――龍太、花帆、真佐人、圭。外の世界から切り離された密室状況で、同じ食事、同じ飲み物を分け合っていたはずなのに、犯人はどうやって弥生だけに毒を飲ませることができたのか。警察が到着するまで、残された4人は推理合戦を始める……

15年後、雪の降る夜。花帆と夫の営む喫茶店を訪れたのは、卒業以来、音信不通の龍太だった。あと数時間で時効を迎える弥生事件は、未解決のまま花帆たちの人生に拭いきれない影を落としていた。だが、龍太はおもむろに告げる。「弥生を殺したのは俺だよ」

たび重なる推理どんでん返しの果てに明かされる驚愕真相とは? 第3回アガサ・クリスティー賞に輝く正統派本格ミステリ。(粗筋紹介より引用

2013年、第3回アガサ・クリスティー賞受賞。応募時タイトルコンダクターを撃て』。大幅に加筆修正の上、2013年10月刊行


15年ぶりに現れた音信不通の友人が、当時の事件真相告白するという話。いわゆる「雪の山荘ものだが、毒殺というのが何とも地味。逆に言うと、「誰が、いつ、どうやって毒を入れたのか」という謎を論理的に解き明かすことができる楽しみがあるわけで、そこに至るまでをどう書くかに興味があった。しかし読み終わってみると、その期待は大きく裏切られたと言っていい。

まずはトリック。正直言ってタイトルネタバレに近いと思うのだが、それを抜きにしても、後遺症や何らかの兆候が見られないというのは不自然。さらにいえば、これだけ証拠を残していれば、殺人未遂で引っ張られてもおかしくないと思う人物を警察が見逃している点が不思議

続いて登場人物と舞台。これがまた、作ったかのような設定。そもそも、これだけ複数人物から恨まれている弥生が、狭い空間の大学で噂になっていないはずがない。そんな人物と、普段から行動を共にする人物がいるという点も疑問だ。

そしてストーリー。時効が完成する15年ぶりに当時の関係者が現れて告白するというのはありだろうが、単なる脇役かと思った人物(こう書くと誰だかわかっちゃうのだが)がいきなり事件の謎を解き明かし、しかも黒幕(いわゆるコンダクター)まで推理するというのは都合よすぎる。しかもこの時点で解き明かすという点がおかしい。今まで一体何をやっていたんだ、お前は、と言いたいぐらい。過剰などんでん返しが、読者をかえってしらけさせている。結末の付け方も、誰もが狂言廻しで終わってしまうというのは首をひねってしまう。15年も悩んでこれが結末じゃ、事件関係者も浮かび上がらない。まあ、これが罪と言えば罪なのかもしれないけれど。ついでに文章は装飾過多というか、大げさな表現が目立つし、無駄も多い。それでも多少は読める文章であることは救い。

選考を読んでも、かなり苦しい評が目立つ。アドバイスを受け、大幅に書き直した結果がこれでは、元の原稿は相当ひどかったのだろう。鴻巣友季子なんか、「実は最初総合点は僅差ながら受賞作が最も低かった」なんて書いているし。受賞後、「大幅に」加筆修正、なんて初めて見た。

うーん、褒めようにも褒めるところが思いつかない作品。言い方悪いけれど、こんな作品に“アガサ・クリスティー”の冠をかぶせた賞を与えていいのかい、と言いたいぐらい。

[]ミステリの世界を漂う 21:08 ミステリの世界を漂うを含むブックマーク

「受賞作を読もう!」にアガサ・クリスティー賞と新潮ミステリー大賞のリストを追加。

まり読む気が起きない賞ですけれどね。まあ、ぼちぼちと読んでいこうかと。

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2017-01-10

[][]ハロルド・Q・マスル『霊柩車をもう一台』(ハヤカワ・ポケットミステリ22:25 ハロルド・Q・マスル『霊柩車をもう一台』(ハヤカワ・ポケットミステリ)を含むブックマーク

著作権代理業者アダムコールマンは、共同経営者のダン・ヴァーニーにハリウッドの映画会社に売った小説の代金5万ドルを持ち逃げされたうえ、そのことで小説の作者からは訴えられるというていたらくだった。彼は友人の弁護士スカット・ジョーダンを訪ね、ヴァーニーの行方の調査を頼んだ。その小説はフレッドダンカンと言う元警官が書いた、四年前の実在事件モデルに警察内部の腐敗事実を数えあげた暴露ものだった。そこで小説が映画になり、一般に公開されると、当時事件関係した警官たち――今では指導者立場にある彼らを窮地に陥れることになる。当然、その上映を禁止しようとする策動が始まり、ダンカンにも脅迫の手がのびた。じつは彼もその事件にかかわった一人であったが、膝に怪我をしたのをきっかけに警察をやめ、信託銀行の貸金庫の守衛で営々としていたのだ。今度、あえて彼が暴露小説を書いたのは金がほしかったからだ。一方、コールマン家では父親病死し、肝心の遺書が見つからないために4百万ドルの遺産相続をめぐって大騒動だった――。

5万ドル拐帯事件脅迫事件遺産相続争いをめぐる二つの殺人! 巧みな構成とテンポの速い筋の展開、メイスものに劣らぬ面白さ。マスルの1960年の最新作!(粗筋紹介より引用

1960年、発表。1961年邦訳発売。


当時の米国の人気作家、ハロルド・Q・マスルの第八長編邦訳はこれが初めてで、その後何冊も訳された。長編には何れもニューヨークの弁護士、スカット・ジョーダンが出てくる。

解説で書かれている「ガードナーよりも、いっそう読みやすく、いっそう大衆化を進めた」作品である。作者はガードナーと同様、弁護士開業経験がある。登場人物も、弁護士のジョーダン秘書のキャシティ、私立探偵マックス・ターナーという登場人物の並びも、メイスものと同じ。もっとメイスンは刑事専門だが、ジョーダンは民事専門だ。さらに秘書のキャシティはデラ・ストリートと異なり、ジョーダンが引き継いだ弁護士事務所に、先代から勤めているという立場である

作品小説の映画化の権利金を持ち逃げした友人の共同経営者を追う事件小説の作者を当時の関係者脅迫する事件、さらに友人の遺産相続をめぐる争いの3つの事件が絡み合い、テンポよく物語が進んでいく。ガードナーをより通俗化したような作風で、最後に意外な解決が待ち受け、事件大団円となる。

少なくとも読んでいるときは面白い。この続きはどうなるだろうという楽しさがある。事件がどんどん起きるので、読んでいて飽きが来ない。そして読み終わってああよかった、楽しかった、はいおしまい。はっきり言って、読んでいるときだけ楽しめて、読み終われば忘れてしまえばいい。そんな作品である

なるほど、時間に追われる人にはうってつけの作品である。短めの長編だし、時間つぶしにはもってこい。娯楽に徹するという点では、作者にお見事と言いたい。ただ、何も第八作目から訳さなくてもいいだろう、と言いたい。シリーズで読んでいれば、もうちょっと驚いたのに、という箇所がある。

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