平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2016-05-31

[][]伊佐千尋+渡部保夫『日本の刑事裁判 冤罪死刑陪審』(中公文庫22:03 伊佐千尋+渡部保夫『日本の刑事裁判 冤罪・死刑・陪審』(中公文庫)を含むブックマーク

被疑者はなぜ虚偽の自白をするのか、国家は人を処刑しうるのか、日本で陪審制度が嫌われる理由は……。三十年間裁判官を務めた渡部氏と、復帰前の沖縄で陪審員経験を持つ伊佐氏が、誤審死刑制度など、日本の刑事裁判が本質的に抱える後進性を、具体的な事件をあげながら徹底的に論じた対談集。(粗筋紹介より引用

諸君!』1988年3月から1989年2月号まで連載。『病める裁判』というタイトル1989年刊行1996年文庫化


日本の刑事裁判が本質的に抱える後進性を、具体的な事件を挙げながら徹底的に論じた対談集。30年近く前の対談であるから、今読むと古い内容も多い。裁判員制度のようにすでに市民が裁判に参加するようになっている。国選弁護人被害者の段階で付くようにもなっている。彼らに言わせれば、少しは前進したと言えるのだろう。それでも裁判に対する不信は今でも根強い。もっとも、弁護士に対する不信の方がもっと根強いと思われるのだが、こうなるとは二人は思っていなかっただろう。

豊富な事例を基に日本の刑事裁判に対する問題点を指摘しており、対談形式であることから非常に読みやすい。まとまりに欠けるきらいはあるが、テーマごとの対談であるため、それほど苦にならない。

ここで語られている内容は、あくまで一つの見方でしかない。それでも一つの見方を知ることは重要。ここにはそれがわかりやすく述べられている。学者の堅苦しい、遠回しな言い方とは別である。読んでみて損はない。

[]犯罪の世界を漂う 22:03 犯罪の世界を漂うを含むブックマーク

死刑犯罪文献を考察する」に本の感想を1冊追加。

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2016-05-28

[][]麻見和史『ヴェサリウスの柩』(東京創元社22:30 麻見和史『ヴェサリウスの柩』(東京創元社)を含むブックマーク

ヴェサリウスの柩

ヴェサリウスの柩

解剖実習中"ご遺体"の腹から摘出された一本のチューブ。その中には、研究室教授脅迫する不気味な詩が封じられていた。

 園部よ私は戻ってきた。

 今ここに物語は幕を開ける……

動揺する園部。彼を慕う助手の千紗都は調査を申し出るが、園部はそれを許さない。しかし、今度は千紗都自身が、標本室で第二の詩を発見してしまう。

 黒い絨毯の上で死者は踊り

 生者は片腕を失うだろう……

事務員の梶井に巻き込まれる形で調査を始めた千紗都は、チューブを埋め込んだ医師を突き止める。だが、予想外の事実に千紗都は困惑した――その医師は十九年前に自殺していたのだ。

抜群のリーダビリティ、骨太ストーリー意表を衝く結末――

第16回鮎川哲也賞受賞の傑作ミステリ。(粗筋紹介より引用

2006年、第16回鮎川哲也書受賞。同年9月単行本発売。


舞台は大学解剖学研究室。帯にある通り、「解剖学研究室を覆う、19年目の壮大な復讐計画」であるヒロイン研究室所属助手、深澤千紗都。復讐プログラムが動き出すかのように、殺人事件が発生する。園部の恩師である北玄一郎が、研究室の技官である近石が。タイトルにある「ヴェサリウス」は、近代解剖学の父と言われたアンドレアス・ヴェサリウスのこと。

一応探偵役らしき人物はいるが、はっきり言って巻き込まれた人物たちが調べたら事件真相が出てきました、というサスペンス推理トリックも何もない。これがサスペンスならそれでいいけれど、やはり鮎川賞に求めるのは本格ミステリ。ここまで賞の特徴と合致しない受賞作も珍しい。鮎川哲也選考をしていたら、間違いなく選ばれなかっただろう。

大学解剖学研究室が舞台ということもあり、解剖についての舞台裏がいろいろ出てくる。ただ、どことなく乱歩賞のお勉強ミステリを思い出し、あまり好きになれなかった。珍しかったのは事実だが。リーダビリティは抜群。いったいどうなるのだろう、という興味をうまく持たせている。登場人物の造形も悪くない。なんとなくピンと来ないのは、梶原ぐらいだろう。ヒロインだけでなく、犯人もよく描けている。

ただ、ストーリー自体は、乱歩通俗ミステリかよ、と言いたくなるぐらい古臭い。当時ならまだしも、今時このような動機で犯罪に手を染めるだろうか……と言いたいところだが、人って簡単に洗脳されるからなあ。とはいえ、古い。古すぎる。それに、あまりにも偶然に頼り切った犯罪計画。久世という男のどこに魅力があるのかさっぱりわからないというのも問題である

結局、通俗サスペンスとして面白く読みました、としか言いようがない作品。作者がなぜ鮎川賞に応募したのかを聞きたいぐらい。その後の作品を見ても、本格ミステリとは縁がなさそうだし、本当にわからない。

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2016-05-26

[][]西村望『水の縄』(徳間文庫23:58 西村望『水の縄』(徳間文庫)を含むブックマーク

水の縄 (徳間文庫)

水の縄 (徳間文庫)

徳島県の山村に生まれた蛋谷(ひきや)保広と杉生昌一は共に少年院や鑑別所の入退院を繰り返していた。刑期をおえたばかりの杉生は家出娘と共謀、娘の同級生を次々と誘拐売春宿に売り、指名手配をうける。同級生のもとに逃げるが、その同級生通報であっけなく逮捕。一方、真面目に生活しようとした蛋谷も強姦・強盗をかさね、これまた逮捕。2人にかけられた縄は本物ではあったが、結局は虚しい水の縄だったと著者は訴える。(粗筋紹介より引用

1978年10月立風書房より書き下ろし刊行1982年12月徳間書店にて文庫化


水の縄は「今昔物語集 巻二十七、本朝付霊鬼、第五」より採られており、最後のある登場人物の独白で「法律みたいなものは、水で編んだ縄と同じで、世間はかけたつもりかもしらんが、縄はすぐ溶けてしもうて、実際にはなんの役にもたちはせんのじゃ。(中略)手錠をかけられた杉生がぬっと立っている。場所は徳島駅前らしい。こいつらの縄じゃてどうせ水じゃ。いまにほどけてじきに出て来よるわ」と語れている。確かに法律は水の縄と同じかもしれない。蛋谷にしろ杉生にしろ、鑑別所や少年刑務所を行ったり来たりしている。そして帰ってきても全く変わらず、罪を重ねていく。

蛋谷保広は当然仮名だが、彼が起こしたのは「徳島上那賀母子強盗殺人事件」であり、後に死刑判決が確定し、執行されている。

ちなみに本書では、蛋谷保広の幼友達で友人だった杉生昌一も主人公となっている。杉生もひどい人物で、小学生のころから喧嘩っ早く、気に入らない教師椅子をぶつけて大けがをさせて少年院に放り込まれたという過去があるほど。松山少年院で二人は一緒になり、退院後は母校の職員室を荒らして金を奪い大阪に行く。金が無くなった後、杉生がパチンコ屋に住み込み、客の蛋谷が来た時に玉を出すようにしたが、それほどうまくいかないまま、東京に逃亡。二人でレストランに住み込んだが、3日目で蛋谷は金を奪って逃走。1年後、二人は山口少年院で再会。退院後、杉生は暴力団の盃を受けたが、暴力事件を起こして懲役1年の実刑判決刑務所暮らし。出所後徳島に戻り、組から祝儀をもらったはいいが、ある店で姫路から駆け落ちした16歳の女と知り合い、関係を持つようになる。杉生は女と徳島を逃げ出し、大阪に行って姉の家に行くが、姉はすでに夫の元を逃げ出していた。杉生は女と共謀し、女の地元の同級生や知り合いを誘い出しては徳島の知り合いの売春宿に売り飛ばしたが、犯行はばれ指名手配を受け逃亡。二人は東京に逃げ、同級生だった友人の家に駆け込む。しかし友人は杉生が指名手配を受けていることを知り、職場上司相談の上警察に駆け込んだ。杉生と女は間一髪のところで逃げ出し、事務所に逃げ込んで女事務員人質に立てこもるも、警察に駆け込まれ、逮捕された。杉生は一審で懲役12年の判決を受けた。


杉生の犯行事実かどうかは未調査なのでわからない。もっとも、立風書房から出た西村望作品はいずれも実話をもとにしたノンフィクション・ノベルだから創作ということは無いだろう。同じ町の友人が荒れまくり最後非道事件を引き起こす。作者は登場人物の口を借り、法律は水の縄と同じだと嘆く。

小説としては、最初こそ二人の運命は絡み合っていたが、途中からは別々となり、杉生は逃亡先の東京で蛋谷が強盗殺人事件を起こしたことを知る。同時期に幼馴染みが非道事件を別々に引き起こしたというのは珍しく、その偶然は確かに書いてみたい題材である。ただそれがうまく書けているかと言われると、ちょっと微妙か。時間が言ったり来たりして、しかも二人の物語が交互に書かれているため、少々読みにくい。“水の縄”という言葉にしても、最後最後になって出てくるのだが、もう少し物語に絡めることはできなかったのだろうか。印象深い言葉であるだけ、残念である


あとがきで、蛋谷は求刑死刑に対し無期懲役判決が、杉生には懲役10年が確定したと書かれている。しかし先に書いた通り、蛋谷ことMは控訴審では逆転死刑判決を受けて確定している。そう考えると、この本がどこまで脚色されているのか、かなり不安になることも事実である

[]ミステリの世界を漂う 23:58 ミステリの世界を漂うを含むブックマーク

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2016-05-21

[][]有沢創司ソウルに消ゆ』(新潮社21:11 有沢創司『ソウルに消ゆ』(新潮社)を含むブックマーク

ソウルに消ゆ

ソウルに消ゆ

漢江の河口付近に上った身元不明東洋人男性の水死体。「るりり、るりるり…」の謎の文字を残して消えた社会部エース記者ルイスジョンソン世紀の対決には国際陰謀ワナマフィア日本人暴力団、北朝鮮工作員が見え隠れする中、日本政界から与党大物政治家が登場。謎解きの面白さを存分に味わわせつつ、国際スケールで描く謀略と友情サスペンス。第5回日本推理サスペンス大賞受賞。(「BOOKデータベースより引用

1992年、第5回日本推理サスペンス大賞受賞。同年12月単行本刊行


作者は産経新聞記者で、受賞当時は論説委員長。後に本名八木荘司名義で古代の日本を扱った作品を多数執筆している。

ソウルオリンピックが舞台で、新日報の社会部記者暗号を残して行方不明となる。同期生編集庶務室から出張している武尾が、語学専門学校日本語科に籍を置く通訳ミス・ユンとともに事件の謎を追う。背後にはカール・ルイスベン・ジョンソンの世紀の対決が絡んでいた。

実際の出来事をそのまま本筋に組み込むというのはちょっとした違和感があるものの、筆そのものは軽快。現役記者だけあって文章は達者だし、謎の提示も悪くない。日本、韓国、アメリカの裏事情が絡み合う展開もなかなか。読者を惹きこむには十分の素材と、読者を納得させるだけの料理の腕がここにあった。受賞自体文句なしだろう。

はいえ、不満が多いことも事実。一番の問題点は、大事データミス・ユンから常に提供されること。少しぐらい操られていることに気づけよ、主人公。そもそもこの主人公、友人が誘拐されてせっぱつまっているのに、ミス・ユンに交際を申し込むって、どんな余裕だ。暴力団による五輪賭博で、ルイス1.4倍、ジョンソン86倍の非常識なオッズがついている時点で、何か裏があると思わない客がいるほうが不思議だ。普通だったら舞台裏に何かあると思って、誰も賭けなんかしないぞ。あと、運動部長の藤堂。スクープを見送ろうなんて、こんな新聞記者いないよ。夕刊紙記者の深見って、必要ないだろう。

結局作者のご都合主義物語が進む点が大いに不満。主人公も元々新聞記者なんだから、舞台がソウルはいえ、もう少し自分で追いかけてほしかった。

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2016-05-19

[][]松木麗『恋文』(角川文庫22:21 松木麗『恋文』(角川文庫)を含むブックマーク

恋文 (角川文庫)

恋文 (角川文庫)

落ちぶれた純文学作家上野兼重が自宅で死体となって発見された。死因がインスリンの大量摂取であったことから自殺と思われ、遺体も荼毘に付された。しかし死亡当日の動きに不審な点があったことから、警察は後妻でスナックの美人ママである規世子に事情聴取をしたところ、規世子はあっさりと自供。T地検に着任した間瀬惇子は規世子に聴取したうえで起訴した。しかし公判で規世子は罪状認否で「たぶんやった」と曖昧な返答しかしなかった。そして第二回公判で弁護側は、兼重の先妻の戸籍謄本と、兼重が残した小説証拠として提出した。

1992年、第12回横溝正史賞受賞。同年5月単行本刊行。加筆訂正の上、1998年4月文庫化


作者は現職の検事(当時)。1998年には本名佐々木知子で自民党から参議院選挙に比例代表立候補し、当選。1期務めた。現在は弁護士。ペンネームは、「まっ、きれい」から来ている。

現職の検事が書いた心理サスペンス。兼重は『最後の恋文』で文学賞を受賞してベストセラーとなったのに妻に駆け落ちされ、2年後に13歳下の規世子と再婚している。主人公の惇子も、母が死亡した後、父親が従妹と再婚し仲良くしている。惇子は規世子に母の姿を重ねる。

うーん、何とも言い難い作品推理小説としての興味は、一度は自供しながら公判否定する規世子の心理であるし、公判で自供をひっくり返すだけの証拠であったりするわけだが、それが出てくるのは後半も後半。そもそも短い作品である文庫で229ページ)し、惇子の過去が規世子の心情とオーバーラップする形で語られるため、物語の進行としては非常に遅い。惇子の部分を抜いたら、短編と言ってもいいぐらいだ。そのくせ惇子がどのような姿をしているかは全く浮かび上がってこないし、それ以上に規世子がどんな人物か、あまりにも印象が薄すぎてこれも伝わってこない。タイトルの「恋文」も、よくよく考えてみるとありきたりなネタであったりする。

はっきり言って、作者が現役女性検事でなければ受賞しなかっただろう。それぐらい印象が希薄作品

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