平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2016-08-28

[][]江東うゆう『楽土を出づ』(新風舎20:54 江東うゆう『楽土を出づ』(新風舎)を含むブックマーク

楽土を出づ

楽土を出づ

江東烏有が尊敬する院生の白井未央の双子の姉、崎川真央が現われ、夫・崎川建を殺したと告白する。しかし烏有は、彼女真央ではなく未央であることを見破った。未央は建がかつて恋人だったが真央に奪われたこと、真央と建を殺したことを告白するとともに、烏有が曹操に仕えていた詩人・王粲について書いた卒業論文を読み、殺人の時意識したと話す。そのまま未央は失踪し、2年が過ぎた。烏有が勤める法律事務所に双子の伯母が現れ、失踪した真央夫婦が住んでいた屋敷を手に入れたいと相談に来た。固定資産税などは払っているが、肝心の捜査願は出していないという。烏有は二人の行方を探すため、探偵の波多野とともに捜査を始める。

2002年、第12回鮎川哲也賞最終候補作。2003年4月、一部改めたうえ、新風舎より刊行


作者は愛知県出身で三重大学大学院修士課程修了。作品はこれだけのようだ。漫画家としての名義は江東星だそうだが、刊行されたものが無いところを見ると、同人活動のみの様子。本作品新風舎という自費出版系の会社から出ているところから自費出版なのかもしれない。「楽土」は、王粲の詩に出て来るとのこと。

最終候補作に残ったのだから多少は読みごたえがあるかと思っていたのだが、これが失敗。主人公の目の前に犯人が登場し、犯行告白を聞きながら、何のリアクションも無し。仮にも大学講師無断欠勤を続け、妻も失踪、妻の妹も失踪していたのなら、警察なり自治体なりが何らかの行動を起こしてもおかしくない。それ以上に、失踪したから家の権利証が欲しいなんて依頼、普通に考えたら犯罪だろう。登場人物全員がおかしな行動を取っているので、読んでいて腹が立ってくる。いくら刺されたとはいえ、気に入らない依頼者に接触したというだけで職員解雇する弁護士などいるわけないだろう。法律権利とうるさい弁護士が法を破ってどうする。主人公犯人も、ピントがずれているとしか思えない行動ばかりとっている。

失踪密室殺人事件という結末だったのだが、このトリックにも呆れた。説明不足が一つの原因かもしれないけれど、実行自体不可能でしょう、これ。ええと、ここはどこ?と聞きたくなるようなトリックだった。

作者の独りよがりが全開な作品。これがよく最終候補作にまで残ったな、と別の意味で感嘆した。作者には悪いけれど、読む価値ありません。

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2016-08-23

[][]カーター・ディクスン一角獣殺人事件』(国書刊行会 世界探偵小説全集4) 21:24 カーター・ディクスン『一角獣殺人事件』(国書刊行会 世界探偵小説全集4)を含むブックマーク

ライオン一角獣が王位を狙って闘った――

パリで休暇を過ごしていたケンブレイクは、謎の言葉につられて不可思議な殺人事件にまきこまれた。嵐のなか古城にたどり着いた一行を待っていた正体不明の怪盗フラマンドの大胆な犯行予告。そしてフラマンドの逮捕宣言した謎の男は、衆人環視のなか、悲鳴をあげながら二階から転げ落ちた。死体の額には、鋭い角のようなもので突かれた痕があった。伝説怪獣、姿なき一角獣の仕業なのか? フランスの古城を舞台に、稀代の怪盗、パリ警視庁の覆面探偵、ご存じHM卿が、三つ巴の知恵比べを繰り広げる傑作本格推理。(粗筋紹介より引用

1935年発表。1995年11月、新訳刊行


HM卿なのでディクスン名義。相変わらず面倒だなと思ってしまう。予想通りのドタバタ劇があって、予想通り古城に皆閉じ込められて、予想通りの不可能犯罪っぽい殺人事件が起きるあたりは相変わらずというかなんというか。ロマンスが混じるあたりも同様。ただ、怪盗や覆面探偵が出てきての三つ巴の争いは珍しい。犯人トリック推理するだけでなく、誰が怪盗か、誰が覆面探偵かといった謎もあるので、読者の興味を引くことは確か。そういえばHM卿で情報部の大物なんだな、と今更のように思い出した。

とはいえ、結局のドタバタ劇で推理の興味がそがれてしまうのは残念。一角獣のトリックは、説明されたって実物を見せられなければ想像も付かないような代物なので、考えるだけ無駄。それよりも、誰がフラマンドなのかという点を畳み掛ける最後がなかなかの迫力。これが無いと、やっぱり収まりが悪い。

タイトルと比べてみると、殺人事件の部分ははっきり言って期待倒れ。まあ、それでもディクスン物はディクスン物なんだなと思わせる一冊ではある。良くも悪くも。

[]また出張21:24 また出張かを含むブックマーク

今週末から来週へと出張が続くようなので、できるときに更新しておく。

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2016-08-21

[][]霞流一『おなじ墓のムジナ 枕倉北商店街殺人事件』(カドカワノベルズ21:08 霞流一『おなじ墓のムジナ 枕倉北商店街殺人事件』(カドカワノベルズ)を含むブックマーク

朝の6時から人だかりのする商店街。騒ぎの主は、なんと通りの入り口に置かれた瀬戸物の猩猩ダヌキだった! 一体誰が何のために!? その後、書店に頼みもしないタヌキそばが十杯出前されたり、喫茶店の前に茶釜が置かれたり、タヌキがらみの奇妙な事件が続発した。そして四日後、こんどは商店街の仲間の一人が何者かに殺害された! まず、第一発見者の唐岸書店長男・誠矢に嫌疑がかかった。もう傍観者でいられなくなった誠矢は、身の潔白を証明するため、事件真相を追求し始める。だが、その直後、第二の殺人事件が起きて……。

最初から最後まで狸づくしの書下し傑作ユーモアミステリー!(粗筋紹介より引用

1994年、第14回横溝正史賞佳作受賞。1994年5月刊行


バカミスキング霞流一デビュー作。何から何まで狸づくしの一作。

ワトソン役は、30歳にて失業中の唐岸誠矢。相方は隣に住む酒屋の娘で印刷会社に勤めるノボこと滝沢登子。推理の舞台は小作りの居酒屋「うつつ」で、探偵役は包丁を握る由良仙太郎。後見役は、店の持ち主であるオールドパーこと畑原春雄。誠矢が中心に情報を集め、毎晩「うつつ」で飲みながら情報を交換し合い、推理を繰り広げる。

最初日常の謎かな、と思わせるようなタヌキをめぐるバカバカしい事件が続いたと思ったら、とうとう本物の殺人事件が発生する。殺人事件まで狸の手がかりが残されていることから、いったいどこまで狸を引っ張るつもりかと思ったら、とうとう最後まで引っ張ったのにはあっぱれと言いたい。それにしても、タヌキにまつわる故事などをよくぞここまで調べたものだと感心した。最後犯人特定するロジックもなかなか。ギャグあり、ユーモアあり、ペーソスあり、といった軽い作風の中で、伏線を貼り、最後推理で解決するしっかりした本格ミステリになっている。惜しむらくは、登場人物最初から多すぎて区別がつかないところか。

正直受賞作でもよかったんじゃないかと思ったが、この時の受賞作が『ヴィオロンのため息の―高原のDデイ―』であったのなら、佳作止まりも仕方がないところか。こういうとき、軽そうに見えるユーモアミステリは損かもしれない。せめて前年に応募されていたらなあ……。ただ、横溝賞とユーモアミステリは肌が合わない気もする。応募先を間違えたんじゃないか、と言いたい。

これで横溝正史賞、コンプリート!。まあ、最終候補作で刊行されている作品もあるが、さすがにそこまでは手を出す気力が起きない。9月末には最新受賞作が出るし、そちらはすぐに買うかどうかはわからないので、このコンプリート達成自己満足もわずか1か月程度の話なのだが。次は鮎川賞かな。こちらもあと数冊だし。

[]「推理クイズ」の世界を漂う 21:08 「推理クイズ」の世界を漂うを含むブックマーク

山口琢也推理クイズ作品リスト」に感想画像他を追加。

3年ぶりに1冊入手したので更新しました。残り1冊は過去のクイズ本の版を変えたものから、これで山口琢也の推理クイズ本はコンプリートかな。

ところでこの人、今は何をやっているのだろう。新聞記事とか調べても、全然消息が出てこないんだよね……。

[]お知らせ 21:08 お知らせを含むブックマーク

『「推理クイズ」の世界を漂う』をniftyからジオシティーズに戻しました。上のリンク先は新しいものに変わっています。過去日記に貼っている分は面倒なのでそのままですが、まあそちらから辿ってくる人はほとんどいないだろうと思っていますので、そのままにします。

もう何年前に移したのかは覚えていませんが、当時ジオシティーズが50MBしか容量が無く、『「推理クイズ」の世界を漂う』が30MBを超えそうだったので、慌てて移したというのが理由でした。ところがジオシティーズは容量が100MBになるし、『「推理クイズ」の世界を漂う』の方の画像も容量を半分以下に落としたから全然問題は無くなっていたのですが、面倒だったのでそのままにしていました。ところがniftyのほうが@homepageを廃止し、移行するとのことだったので、どうせアドレスを変えるならジオに戻してしまえ、と思い立って、盆休みの間、必死(ソフトを使ったので30分もかかっていない)にアドレスを変更しました。多分リンク変更の漏れはないと思いますが、カウンタを別途用意しないとな……。

ということで自分趣味情報収集優先のページのため、需要があるかどうかはわかりませんが、今後ともよろしくお願いします。

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2016-08-17

[][]後藤均『写本室(スクリプトリウム)迷宮』(創元推理文庫22:03 後藤均『写本室(スクリプトリウム)の迷宮』(創元推理文庫)を含むブックマーク

写本室(スクリプトリウム)の迷宮 (創元推理文庫)

写本室(スクリプトリウム)の迷宮 (創元推理文庫)

大学教授にして推理作家の富井がチューリッヒの画廊で出会った絵は、著名な日本人画家・星野作品だった。画廊の主人から星野の手記を託された富井は、壮大な謎の迷宮へと足を踏み入れる。――終戦直後のドイツ。吹雪の中、星野は各国を代表する推理の達人たちが集う館に迷い込んだ。彼らが犯人当て小説「イギリス靴の謎」に挑む中、現実に殺人事件が起きる! 虚々実々の推理の果て、導き出された驚愕の解答等とは。そして星野の残した謎の言葉翻弄される富井。年に一度だけ訪れる“迷宮使者”とは? 富井は全ての謎を解き、使者出会えるのか? 多重構造の謎が織りなす巧緻なミステリ。第十二回鮎川哲也賞受賞作。(粗筋紹介より引用

2002年、第12回鮎川哲也賞受賞。応募時ペンネーム富井多恵夫、応募時タイトル『スクリプトリウム迷宮』。加筆訂正の上、2002年10月刊行2005年2月文庫化


大学教授推理作家主人公、富井がヨーロッパ出張途中、チューリッヒ星野泰夫の作品出会う。1年に1回、モンセギュールが陥落し、棄教拒否した二百人の信者が山のふもとで火刑に処せられた3月16日だけ飾られるというその絵には、日本人が来たら渡してほしいという書簡があった。その書簡の中には、星野戦後に遭遇した殺人事件について書かれていた「手記・弌」「手記・弐」があり、そして当時犯人当てが行われた小説「イギリス靴の謎」が挟まっていた。

これだけの多重構造、書き方がまずいと独りよがり自己満足に終わってしまうことが多いのだが、鮎川賞を受賞したということだけあって、さすがにそのような愚は犯していない……と言いたいところだが。構造自体非情に魅力あふれる設定だ。中世ヨーロッパの歴史が絡み合う内容は知識を要するところであり、日本人推理するには不向きな気もするが、それは教養と思いながら読めばいい。さて、問題は、肝心の中身が伴っていないところだ。作中作中作になる「イギリス靴の謎」が非常につまらない。これは島田荘司がいう通り、ここが傑作になると、枠の外が生きる展開になるだろう。さらに星野世界で起きた殺人事件の方も今一つで、解決があまりにも安易。そして最大の問題点は、最後に大きな謎が何も解かれず、そのまま「続く」になっていること。読了後、こんな肩透かしを食らわされたのではたまらない。

魅力的なアイディアに、中身が伴っていない典型的作品。そもそも最初から最後まで僥倖に頼りすぎ。まあ、アイディアのみを評価して鮎川賞受賞となったのかもしれないけれど、個人的に見たら未完成作に等しい出来である

この作品の続編が、『グーテンベルク黄昏』ということらしい。さすがに読む気が起きないぞ、これじゃ。

insectinsect 2016/08/20 20:20 酷暑お見舞い申し上げます。
お盆は、一審死刑2名、一審無期2名の計4名と面会を果たしてきました。
別の死刑1名は拒否されました。
上記死刑3名に本の差し入れをしてきました。

hyouhakuhyouhaku 2016/08/21 21:14 >insect様
こちらこそお見舞い申し上げます。
また、面会、お疲れ様でした。
なかなかできることではないと思っておりますので、今後とも頑張ってください。

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2016-08-14

[][]麻耶雄嵩『隻眼の少女』(文藝春秋23:13 麻耶雄嵩『隻眼の少女』(文藝春秋)を含むブックマーク

隻眼の少女

隻眼の少女

大学生種田静馬は、死に場所を求めてガイドブックにも載っていないような栖苅村の温泉旅館・琴乃湯を訪れた。栖苅村には、かつて洪水を起こした龍の首を退治した不思議な力を持つスガル様がいた。そして今も琴折家には、スガル様が代々受け継がれ、村を治めている。村に来て四日目、今日も龍ノ淵でぼんやりと過ごしていた静馬の元に、古風な水干を着た17歳の一人の美少女が声を掛ける。父とともに琴乃湯に先に泊まっていた彼女の名は御陵みかげ。父は元警視庁捜査一課に所属した山科恭一、母は十数年前に亡くなった“隻眼の探偵”御陵みかげ。目の前にいる御影は二代目であり、彼女も隻眼であった。二日後、瀧の淵で琴折家の次代のスルガ様となる予定だった春菜殺害され、首を斬られた。警察はよそ者で、近くに落ちていた手帳から静馬を容疑者として引っ張ろうとするが、みかげ現場の状況と推理によって、犯人は琴折家にいることを指摘する。後に活躍する御陵みかげの初舞台であった。しかし事件は、春菜の三つ子の妹、夏菜が殺害される。みかげ推理によって犯人を指摘するも、秋菜と山科が続けて殺害された。みかげ推理ミスを認め、そしてようやく事件の謎を解くも、静馬の前から姿を消す。18年後、栖苅村で再び事件が起きた。

2010年9月書き下ろしで発売。第64回日本推理作家協会賞、第11回本格ミステリ大賞受賞。


麻耶雄嵩、5年ぶりの長編シリーズものではなく、新たに御陵みかげという少女名探偵に据えた本格ミステリ私自身が麻耶雄嵩を読むのは9年ぶり。読んでいて驚いたのは、いつの間にこんなに文章がまともになったのだろうということ。かつての癖のある文章は影を潜め、とても読みやすい作品となっている。

今回はメルカトル鮎や木更津などのシリーズものではなく、新たに隻眼の少女御陵みかげ名探偵としてデビューする。しかも初めての事件推理を失敗し、助手見習いの男性種田静馬と結ばれ、父親殺害され、ようやく解決するも静馬と別れ旅立ってしまう。こうやって読むと、本格ミステリファンならずともワクワクする設定ではないか。そして、それにふさわしい推理が繰り広げられる。特に最初の静馬への容疑者扱いに対する警察へのロジックはお見事としか言いようがない。これは麻耶の代表作となるか、そう期待した。

ところが第二部が始まると、色々な意味裏切られる。18年後に起こる全く同じ首切り方法殺害される少女。それは、当時の犯人が生きていること、当時のみかげ推理が誤っていたことを示すものである。これ以上描くとネタバレになるからここで止めておくが、それにしてもこの展開はよくぞ考えたといってよい。読み終わってみると、色々な意味本格ミステリ常識の裏をかき、それでいて本格ミステリであるという世界を構築している。見事なくらいアクロバティックな構成だとはいえるが、問題はその裏をかいた方法があまりにもちゃちだったところだろうか。それも含めて、本格ミステリファンを裏切ろうとしているのなら、作者の術中にはまっているのだろうが。

まあ、確かに当時大絶賛されたのはよくわかる。解決後のもやもや感も、最後キャラクターに救われるようにしているのも、巧みである。読み終わってみると、作者が『翼ある闇』のころからやろうとしていることに変わりがないことがよくわかった。

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