平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2016-06-26

[][]松本恵子『松本恵子探偵小説選』(論創社 論創ミステリ叢書7) 22:09 松本恵子『松本恵子探偵小説選』(論創社 論創ミステリ叢書7)を含むブックマーク

米屋の隠居殺害され、百両が盗まれた。大阪出身の出入りの小間物屋である彦兵衛が捕まり最初犯行否定したが、拷問の結果自白南町奉行大岡越前守によって皮剥獄門の極刑を受け、面皮をはがされた首が処刑場にさらされた。しかし彦兵衛の家族はそんな大それたことをするわけがないと思い、大阪から長男の彦三郎が江戸にやってくる。「皮剥獄門」。夫である松本泰が1921年に興した奎運社から出版された『秘密探偵雑誌1923年8月号に、中野圭介名義で発表した創作処女作。いわゆる大岡政談の一つだが、原典があるとは思えないので創作だろう。「顔のない死体トリック変形バージョンが珍しいところだが、大岡ものにする必要性は感じない。

1か月ぐらい付きまとっていた社内の男が会社を辞めた。ちょうどその時、女の元に真珠の首飾りが送られてきた。ちょうどそのころ、会社で使い込みが発生した。「真珠の首飾り」。中野圭介名義。当時の主流と思われるユーモア恋愛譚。一応どんでん返しはあるが、軽い。

地下鉄サムが日本に現れたと聞かされ、許婚百合子を放って逮捕努力する警視庁の石川探偵。そこへ盗まれた財布を持った乞食老爺が捕まるが。「白い手」。中野圭介名義。これまたユーモア恋愛譚の一つだが、これはやっぱり犯罪じゃないか。

タバコ屋の看板娘に惚れ、通う男だったが、ある日タバコ屋から菓子折りが届く。「万年筆の由来」。中野圭介名義。これもユーモアものタイトル意味は、この主人公がなぜ万年筆をもらったのかというところにある。この主人公、よほど目つきが悪いのか。

資産家の飲んだくれの次男が列車に轢かれて死んだ。しかし偶然居合わせた画家の丈吉は、叢から拾った切断された手を見て不審を抱く。「手」。珍しく本格ミステリっぽい作品。もうちょっと長く書けば、もう少し面白くなったかもしれない。

缶詰の卸問屋の社長が殺害された。警察は先月理不尽理由解雇された男を逮捕するが、男の妻は冤罪を晴らす。「無生物ものを云ふとき」。現場の一つの手がかりから真犯人を探し出すものだが、これも枚数が短すぎ、結末がドタバタ

赤い帽子をかぶったモダンガールの万里子は三人の青年揶揄されるが。「赤い帽子」。掌編に近いユーモアもの。表に出る女性作品に多いのは、作者の性格からだろうか。

戦争未亡人女性が、息子と妹と資産家の伯母と食事中に毒を飲んで死亡した。「子供日記」。母親の妹から送られた日記帳という形式で、9歳の子供視点から描かれた作品事件の意外な真相がわかる話だが、無邪気な子供文章がかえって結末の恐ろしさを引き立たせている。本作品中ではベスト

脅迫者を殺害したとして姉が逮捕されそうになるが、現場に呼ばれた妹は姉の冤罪を晴らす。「雨」。推理クイズにあるネタだが、この程度なら警察が分かれよと言いたい。

ロンドンに住む京子には許婚がいるが、通りかかった青年に惹かれる。「黒い靴」。『女人芸術』1929年3月号の「自伝恋愛小説特集に書かれたもので、乗合自動車に乗っているときにすれ違って挨拶したというくだりはロンドンで松本泰との間にあった出来事である

あのナザレ人が、ユダヤ人の救い主となる預言者であるに違いない。イスカリオテのユダはそう信じ、必死イエスに従うのだが、イエスはいつまでたっても戦場に出ようとしない。「ユダの嘆き」。ユダはなぜイエスを裏切ったのかを書いた作品。これもまた一つの解釈か。

世間で評判の盗賊鉛筆ウィリー」を捕まえると意気込む、盗難保険会社シアトル支店の新入社員、ジミー。吝嗇家の節約狂、パーソン老人の家から鉛筆ウィリー」によって銀器類が盗まれたと聞き、ジミーは家を訪れる。レイ・カミングス「節約狂」。些細な手がかりから事件真相を導き出すというのはよくある話だが、最後のオチがうまい。カミングスはパルプ雑誌活躍したSF作家推理クイズファンなら、ある有名な推理クイズでおなじみ。

質屋を訪れたのは、実はかつての大泥棒の息子だった。質屋は実は贓品買いで、久しぶりに大泥棒と再会するが、大泥棒は息子が金庫破りもできない小盗人であることを嘆く。作者不詳「盗賊の後嗣」。中野圭介名義で発表されたもので、登場人物はいずれも日本名雑誌には翻案と書かれていたそうだが、実は創作じゃないのだろうか。いわゆる皮肉ユーモアもの

十一時を過ぎるのに、金満家慈善家のマシュー氏はまだ書斎から出てこない。しかも鍵がかかっている。秘書ヘンリーが扉をぶち破って入ると、マシュー氏は後頭部を殴られ殺害されていた。フェンチ探偵が、密室殺人事件の謎を解く。ハリントン・ストロング「拭はれざるナイフ」。犯人は窓から出て外部から鍵をかけたとあるが、その方法は書かれていない。どういうこと? 扉の方は激しく閉めれば自然に錠が下りるようになっていると書かれているが、窓もそうだったということ? あまりにも片手落ちだなあ。ストロングはジョンストン・マッカレーの別名。

東京に出てきた長吉は、懐の財布を掏られない様に注意していたが、食堂で盗まれたことに気付く。先ほど葉巻をくれた酔っぱらい犯人に違いない。そこへ酔っぱらいと一緒にいた紳士がやってくる。長吉は紳士を捕まえて警察に届け出るが、長吉が家へ運び込んだ酔っぱらいが死んでいた。「懐中物御用心」。人名地名はすべて日本語だが、本文の末尾に「カール・クローソン探偵異聞より抄訳」と書かれている翻案。ただし、カール・クローソンがだれかは不明なので、創作可能性があるのではないか。作者が書きそうなユーモアものだし。

評論随筆篇は『紅はこべ』を紹介した「オルチー夫人出世作に就いて」、シベリア鉄道経由でイギリスにわたる途上の体験を書いた「密輸入者と「毒鳥」」、松本泰への追悼文「あの朝」、馬場孤蝶への追悼文「思ひ出」、作者の夢体験を書いた「夢」慶應義塾大学へ聴講したときの思い出を書いた「最初女子聴講生」、松本泰の思い出を書いた「探偵雑誌を出していた頃の松本泰」、翻訳家小説家の武林夢想庵の思い出を書いた「鼠が食べてしまった原稿」。

2004年5月刊行


作者の松本恵子は、1891年函館市生まれ。青山学院英文専門科を卒業。知人の子女の家庭教師としてイギリスに滞在中、松本泰と結婚1919年帰国し、1921年ごろから始まった松本泰の出版活動創作活動を支え、みずから翻訳創作を発表。中島三郎、中野圭介などの名義でも発表。1939年松本泰が病没した後は児童文学探偵小説翻訳を中心に活動探偵小説ではクリスティー作品が多い。児童文学では『四人姉妹』(若草物語)、『あしながおじさん』などで知られ、1974年に第16回日本児童文芸家協会児童文化功労賞を受賞している。1976年没。1925年に短編集『窓と窓』(奎運社)、1962年随筆集『猫』(東峰出版)を出版している。


作者は翻訳家として有名らしいが、不勉強なので初めて知った。アンソロジーでも集録されていた記憶がない。日本最初女性探偵小説作家は小流智尼(一条栄子)と言われているが、それより前に創作探偵小説を発表したのが松本恵子である。短編集『窓と窓』は少女小説とのことなので、探偵小説集は間違いなく初めて。とはいえ短いユーモアものが中心であり、作品が少ないことから翻訳評論随筆も収められている。

洒落作品が多いが、イギリスにいたことも関連しているに違いない。おそらく余技だったのだろうが、一応オチのついた作品ばかりであり、読んでいて楽しい。とは言え読んだら忘れてしまいそうな長さの作品ばかりであり、強烈な印象を持つ探偵小説は無く、アンソロジーに採られないのも仕方がないところ。

はっきり言ってこのような作品集でもなければ一冊に編まれることは無かっただろうからある意味貴重な一冊。よほどのことが無かったら読む必要はないだろうが、読んでも損はしない。ただ、2500円を出すかどうかと言われたら悩むだろう。

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2016-06-24

[][]打海文三『灰姫 鏡の国のスパイ』(角川書店20:10 打海文三『灰姫 鏡の国のスパイ』(角川書店)を含むブックマーク

灰姫 鏡の国のスパイ

灰姫 鏡の国のスパイ

ロシアの極東の地ウラジオストクで、日本の情報調査会社社員瀕死状態発見され、数日後に息を引き取った。その身体には拷問のあとが残されていた――。事件を調べる使命を帯びた同僚は、調査の結果謎の人物〈灰姫〉にたどりつく。北朝鮮の地下に潜り、日本に高度な情報を提供しているという灰姫をめぐり展開する、ロシアKGBアメリカCIAも絡んだ果てなき謀略の数々――。高度に繰り広げられる諜報戦の先にある真実とは? 渾身のポリティカル・スパイ・サスペンス! 第十三回横溝正史賞優秀作。(粗筋紹介より引用

1993年、第13回横溝正史賞優秀賞受賞。同年5月単行本化。


いやー、読みづらい。本当に読みづらい。背後の説明が全くないまま会話が進むので、彼らが何を言っているのかさっぱりわからない。ここまで読者を無視している作品も珍しい。「民間の調査機関である東亜調査会」と書かれているから、てっきり政府か有力政党の調査機関隠れ蓑かと思ったら全然違うし。冒頭がウラジオストクだから、対ロシアかなと思ったら、実は北朝鮮が相手だし。半分くらい読まないと、小説の背景や登場人物立ち位置が掴めない。人物像自体浮かび上がってこない。情報は錯綜しているし、ストーリーは整理されていない。佐野洋が「文章がわかりにくく、半分ほど読んで退屈してしまった」というのもわかる。本当に退屈だから

ただし、妙な迫力というか、独特の雰囲気があるのも事実。ただ読み終わってみると、最初に感じていたスケールの大きさがどんどん小さくなっていっているのは残念。間違いなく、未完成作品である。それでも、選考で落とすには惜しいと思わせる何かがあったのだろう。それが優秀賞という位置付けなんだろうと思う。

作者の後の活躍を見ると、優秀賞とはい出版させたというのはかなりの目利きだ。これを推したのは夏樹静子権田萬治だが、大したものだと思う。

[]犯罪の世界を漂う 20:10 犯罪の世界を漂うを含むブックマーク

無期懲役判決リスト 2016年度」に1件追加。

求刑無期懲役判決有期懲役 2016年度」に1件追加。

長期間暴力による傷害致死は、殺人より重くてもいいのではないだろうか。というか、長期間暴力を加えたら、いつか死ぬなんて誰だってわかることだろう。それは殺人ではないのだろうか。

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2016-06-23

[][]サラ・パレツキー『サマータイム・ブルース』(ハヤカワ・ミステリ文庫23:23 サラ・パレツキー『サマータイム・ブルース』(ハヤカワ・ミステリ文庫)を含むブックマーク

わたしの名はV・I・ウォーショースキー。シカゴに事務所を構えるプロ私立探偵だ。有力銀行専務から、息子の姿を消したガールフレンドを探してほしいとの依頼を受ける。しかし、その息子はアパートで射殺されており、しかも依頼人自身も偽名を使っていたらしい。さらに、わたしは暗黒街のボスから暴力をうけ、脅迫された。背後に浮かぶ、大規模津かつ巧妙な保険金詐欺……空手の達人にして美貌の女探偵の初登場作!(粗筋紹介より引用

1982年発表。1985年翻訳


女性私立探偵V・I・ウォーショースキーシリーズ第1作。手元にはあったがなんとなく敬遠していた。

主人公こそ女性だが、私立探偵ものの基礎がしっかりとした作品。逆に言えば、主人公女性でなかったらありきたりな作品だったかもしれない。しかし、私立探偵女性にすることで、これだけ幅が広がるのだから不思議だ。女性ならではの視点女性ならではのやり取り、女性ならではの活躍。これが面白い。ただ、男と寝るシーンはいらなかったな。別に私立探偵が恋をする必要はないのだが、一晩明かしたいという魅力が相手になかった。

保険金詐欺を絡めた真相探しもなかなかのもの。これは作者の経歴が一役買っているのだろう。

第一作でこれだけ書ければ、人気になるのもわかる。とはいえ、二作目を読むかどうかとなると、これは好みの問題。私は一作読めば十分だった。

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2016-06-21

[][]小酒井不木小酒井不木探偵小説選』(論創社 論創ミステリ叢書8) 22:17 小酒井不木『小酒井不木探偵小説選』(論創社 論創ミステリ叢書8)を含むブックマーク

小酒井不木探偵小説選 (論創ミステリ叢書)

小酒井不木探偵小説選 (論創ミステリ叢書)

少年科学探偵塚原俊夫の叔父は元逓信省の官吏でお金持ち。俊夫君が探偵になることを勧めた探偵小説好き。俊夫君のところに白紙手紙が届く。明礬で書かれており、窃盗の予告が書かれていた。そこへ叔父から電話がかかり、祖先伝来の宝である紅色ダイヤが盗まれたという。「紅色ダイヤ」。『子供の科学』に掲載された少年科学探偵塚原俊夫の初登場作品で、1924年に書かれた小酒井不木創作探偵小説処女作。意外や暗号ものだが、解けばそのまま犯人がわかるというものではないところがいい。しかもさり気なく犯人の手がかりも提示されており、推理可能

近所にある貴金属品製造工場から白金の塊が盗まれた。「暗夜の格闘」。白金を盗むトリックは、いかにも科学探偵ものと言える一作。

今までで最も強力な毒ガスを発見した遠藤信一博士殺害された。毒ガスの製法を書いた紙は博士以外にはわからず、欧米諸国のスパイが狙っていたのだが、逮捕されたのは文学好きの息子。俊夫君は博士の遺体を診、特に立派な八の字の口髭を熱心に調べた。「髭の謎」。警察が調べればわかっただろうという謎だが、それを少年探偵が見てもわかるようにして調査大事だという工夫がなされている点はうまい

「Pのおじさん」こと、警視庁の小田刑事は、俊夫君の事務所兼実験室に、5日前に見つかった頭蓋骨をもってきた。衣服から2年前に失踪した不良少年であることがわかる。彼は当時、同級生とそれぞれ50円ずつを持ち出したまま行方不明になっていた。警官少年母親が継母であることから嫌疑をかけ、厳しく訊問して白状させた。しかし継母の従兄妹である小田刑事は冤罪であると思い、俊夫君に調査を依頼する。「頭蓋骨の秘密」。日本で初めての復顔術を俊夫君が行う話。ただ復顔術を行うだけでなく、それを基に犯人を誘き出すという探偵小説らしい仕掛けも入っているのはさすが。

山田留吉という15歳ながらも3歳以下の知恵しか持たない少年母親が、家に忍び込んだ強盗絞殺された。現場に残された手拭いから、村のならず者の信次郎が逮捕されたが、信次郎にはアリバイがあった。困った小田刑事は俊夫君に依頼した。「白痴の智慧」。犯人を捕まえた後、俊夫君が「科学探偵とは、顕微鏡や試験管を使うことばかりを意味するのではありません。物事を科学的に巧みに応用して探偵することも科学探偵なのです」と語る通り、俊夫君は犯人に罠を仕掛け、自白を導き出す。

俊夫君は叔父さんから紫外線を発する水銀石英灯を買ってもらい夢中になる。そこへ小田刑事が現れ、昨夜電車に轢かれて死んだ身元不詳の男が持っていた手紙暗号文を解いてほしいと知恵を借りに来る。水銀石英灯を使い、手紙に書かれていた住所の空き家を探すと、首飾りが出てきた。それは2週間前、銀座の宝石商の金庫から盗まれた時価八十万円の首飾りだったが、残念ながら模造品だった。「紫外線」。当然のことながら水銀石英灯が活躍するのだが、そこから犯人推理するロジックはなかなかのもの

俊夫君のところへ銀行の重役が訪ね、7歳の長男誘拐され、拳骨団という組織から3万円の身代金要求する手紙が届いた。後妻の頼みで警察に電話するのはやめ、代わりに俊夫君に捜査を依頼する。その夜、重役の家から俊夫君と助手の「兄さん」こと大野を迎えに自動車が来たが、俊夫君が車に乗った瞬間、車は走り去り、大野は殴られ気絶する。「塵埃は語る」。解放された俊夫君が、持ち帰った塵埃を顕微鏡で調べ、あっという間に犯人の住処を探し出す。ただ犯人については子供証言から簡単にわかってしまったのはちょっと安易

日本汽船会社員小野龍太郎は、金銭上の関係から支配人の佐久間を殺そうと決心し、ピストルで佐久間を撃ち殺す。「玉振時計秘密」。珍しい倒叙もの、それもフリーマンの形式と同じで、前半部で犯行が書かれ、後半で探偵がミスから犯人を捕まえる。大人が読めば一発でわかるだろうが、この時代で倒叙もの少年探偵小説に組み込もうとした意欲は買える。

浅草Y町の株式仲買人が夜中に自宅で殺害された。妻は療養中で、手代と二人暮らしだったことから、警察は入口の格子戸の錠が何ともなっていないことと、格闘した形跡がないことから、知人が犯人だとして悪所狂いで借金のある手代逮捕した。しかし手代は白状せず、物的証拠もないことから捜査は難航していた。俊夫君は小田刑事の依頼を受け、現場写真を見ただけで犯人左利きであると見破る。「現場写真」。警察がここまで間抜けだとは思わないが、少年が大人の気付かない点を指摘して犯人推理するという姿に、当時の読者は憧れたに違いない。それにしても犯人像はかなり意外。今の若い人ならわからないかも。

高利貸しの老人が、寝間着のまま首を吊って死亡した。鍵がかかっていたこから自殺だと思われたが、老人には自殺する理由が無かった。警察は自殺だとして捜査を打ち切ろうとしたが、小田刑事は疑問を持ち、俊夫君に捜査を依頼する。「自殺か他殺か」。容疑者になり得る人物は一人しかおらず、俊夫君は尋問から容疑者犯人であるという証言を引き出す。密室の謎は他愛もないが、尋問の方は時代劇物などでもよくみられる王道パターン

俊夫君の家に、殺人の予告電話がかかる。中央局に確認して電話元を探り出すが、そこの家の美容術師の家には盗賊が忍び込み、麻酔剤を嗅がされて今まで眠っていたという。そして数時間後、小田刑事よりT劇場の女優が毒殺されたと連絡が入る。その女優は以前、高価な首飾りを盗まれて俊夫君に依頼し、俊夫君は犯人を明るみへ出すことなしに首飾りを取り返したことがあった。しかも女優の胸の上にあった名刺には、塚原俊夫と書かれていた。しかし俊夫君が小田刑事とともに現場へ行くと、見張りの二人の警察官は眠らされ、遺体は消えてなくなっていた。「深夜の電話」。暗号もので、科学探偵らしいキーが出てくる。最後に科学探偵では解きようのない謎が明かされている点が面白い

上野の奥にある三つの寺、法光寺、東泉寺、福念寺の一つ、東泉寺の寺男が石塔の前で男の死体発見した。駆け付ける俊夫君たち。殴られた跡があるが、メリヤスシャツズボン下以外は奪われていたため、遺体の身元がわからない。捜査の結果、男が直前に洋食屋に寄っていたことが分かる。その洋食屋ではもう一人の男と食事をしており、偶々名刺を落としていた。その名刺には歯科医名前があったが、その歯科医はすでに震災で焼死していた。「墓場殺人」。俊夫君曰く「最も骨を折った事件の一つ」とのこと。6回に分けて連載された、本シリーズで最も長い一編。途中で読者の挑戦らしき文言が出てくる。もっとも言うほど苦労しているとも思えないし、推理らしい推理もない事件ではあったが。

東京湾において行われた海軍大飛行演習で、3日連続飛行士が墜落して死亡した。「不思議の煙」。パウルローゼンハイン「空中殺人団」の焼き直しではないかと指摘を受け、中絶。科学的なトリックが使われていたようなので、中絶は非常に残念。<参考作品>として、その「空中殺人団」も収録されている。確かに似たような事件が起き、ジェンキン探偵がその謎を解く。汽船煙突の煙が一つだけ違うという設定も同じなので、偶然の一致というには似すぎなのも事実ローゼンハインはドイツの探偵作家で、ジョー・ジェンキンズ探偵シリーズがあるとのこと。

評論随筆篇」では以下を収録。「科学的研究探偵小説」「『少年科学探偵』序」「『小酒井不木集』はしがき」を収録。『少年科学探偵』は本書の塚原俊夫シリーズ六編を収めた短編集で、1926年12月、文苑閣より発売された。『小酒井不木集』は1928年3月に発売された平凡社の「現代大衆文学全集」第七巻に収録されたものである。ちなみに「私の最も力を注いだ探偵小説」として収録されているのは、「疑問の黒枠」「恋愛曲線」「肉腫」「難題」「痴人の復讐」「遺伝」「手術」「卑怯な毒殺」「印象」「秘密の相似」「安死術」「暴風雨の夜」「猫と村正」「メヂユーサの首」「死の接吻」「直接証拠」「三つの痣」「人工心臓」「通夜の人々」「ふたりの犯人」「呪はれの家」「謎の咬傷」「愚人の毒」「龍門党異聞(探偵劇)」「虹色ダイヤ」「暗夜の格闘」「髭の謎」「頭蓋骨の秘密」「白痴の智慧」「紫外線」「塵埃は語る」「玉振時計秘密」が収録されている。

2004年7月刊行


珍し所を集めている論創ミステリ叢書だが、小酒井不木集は子供の科学社(後に誠文堂子供の科学社と変わる)から出版されていた『子供の科学』に1924年12月号〜1927年2月号、及び1928年1月号〜12月号、『少年倶楽部』に不定期掲載された少年探偵塚原俊夫シリーズを全作品収録している。「現場写真」「深夜の電話」「不思議の煙」は単行本初収録である

主人公である塚原俊夫は12歳(多分数えだよなあ)だが、6歳の時に三角形内角の和が二直角になることを発見するなど頭が良く、尋常二年で中学程度の学識があった。文学よりも科学が好きで、遊星の運動説明する模型特許になるほど。結局小学校を中途で辞め、独学で勉強することに。叔父の影響で探偵小説が好きになり、科学探偵になる決心をする。三年で動物、鉱物、植物学、物理、化学、医学の知識を学び、通じるようになる。自宅の横に小さい実験室を建ててもらい、毎日夜遅くまで実験をしているが、事件解決が評判となり、毎日数人の事件依頼者が来るようになる。しかし腕ずくでは犯罪者にかなわないので、両親が雇ったのが、柔道三段の大野で、本シリーズワトスン役。さらに警視庁の小田刑事、通称「Pのおじさん」が俊夫の手足となって働いたり、難しい事件を持ち込んだりする。

児童向けの探偵小説金字塔である江戸川乱歩少年探偵団シリーズ(1937〜1962)より以前に書かれていたのが本書、塚原俊夫シリーズ単行本としてまとめられたり、選集にも収録されているため、目を通した事がある人は当時は多かっただろう。しかも「紅色ダイヤ」は作者の創作処女作であるし、シリーズは作者が無くなる数か月前まで断続的ではあるが連載が続いている。よほど思入れが深いのか、『小酒井不木集』にも収録されており、作者自身が「少年諸君のために書かれたものでありますけれど、大人の方々にもきっとお気にいるだろうと信じます」と書いている。

どちらかと言えば医学知識を用いた変格物が多い作者が、少年ものはいえこのようなストレートな本格探偵小説を書いていたことに驚き。内容的にはフリーマンのソーンダイク博士子ども版といった印象もある。そのせいかと言っては失礼だが、活劇シーンが多かった少年探偵団シリーズあたりと比べると、かなり地味。いくら退屈だからといって、事件があったと喜ぶのもどうかと思う。結局万能の探偵が失敗らしい失敗もないまま事件を解決するため、子どもたちが求める冒険心が欠けているのが残念。中ヒット程度だろうが、現代まで人気が続かず、忘れ去られたのはそういった点だろう。

からと言って、歴史の流れに埋もれさせるのは惜しいシリーズ。編者の横井司もかなり力を入れたのか、中絶作品に加え、その焼き直しと指摘された元作品まで収録しているのだから、大人の読者にはたまらない。作者が言うように、大人が読んでも鑑賞に耐えられるだけの作品がそろっている。

[]犯罪の世界を漂う 22:17 犯罪の世界を漂うを含むブックマーク

死刑確定囚リスト」「死刑執行判決推移」を更新

無期懲役判決リスト 2016年度」に1件追加。

毎回書いているけれど、「生きて償いたい」って、何をどう償うの? この質問について回答をもらったことは一度もないし、回答が書かれている本や記事も見たことが無い。「冥福を祈る」ことが「償い」だなんて、誰も納得しない。

[]せっつかれてもなあ…… 22:17 せっつかれてもなあ……を含むブックマーク

メールをいくつかもらいましたが……。私だって仕事はあるし、色々と都合もあるから判決があったからって必ずしもすぐに更新できるわけじゃないんだけど……。だいたいこのホームページは一素人趣味でやっているものであり、金をもらってやっている事じゃないんだからちょっと愚痴でした。

ようやく更新する時間が取れました。もっとも、明日はまた東京出張なのですが。

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2016-06-12

[][]河村啓三『こんな僕でも生きてていいの』(インパクト出版会12:05 河村啓三『こんな僕でも生きてていいの』(インパクト出版会)を含むブックマーク

こんな僕でも生きてていいの

こんな僕でも生きてていいの

コスモリサーチ殺人事件を起こし、大阪地裁で死刑判決現在大阪拘置所在監の確定死刑囚河村啓三(現姓岡本)の、事件を起こし逮捕されるまでの半生記。「死刑廃止のための大道寺幸子基金」の第1回死刑囚表現展優秀作品。(著書紹介より引用

死刑廃止のための大道寺幸子基金」とは、生前に多くの死刑囚や獄中者に面会し、励まし、「生きて償う」ことを共に模索し、死刑囚の母として、社会、国際機関メディアに対して、日本の死刑制度の実態死刑囚処遇死刑囚人権について語り続けてきた大道寺幸子さんが2004年5月12日亡くなり、死刑廃止死刑囚人権保障という意思を生かすために、遺された1000万円を基に創設された基金。毎年6人に、再審請求のための補助金として10万円を渡すとともに、毎年死刑囚表現展としてあらゆる分野のオリジナル表現作品募集し、優秀作品を選定している。本作品は第1回の優秀作品受賞作である

本書の内容は、作者が生まれてから事件を犯して逮捕されるまでを書いたもの河村以外の人物はすべて仮名となっている。タイトルは『こんな僕でも生きてていいの』とあるが、なぜ生きたいかなどは書かれていない。なお河村毎日冥福を祈り続け、月に一度は教誨師に来てもらっているとのこと。そして今活かされているのも穂と絵の思し召しだと考え、明日、突然仏の命で召されることがあってもいいように、自分ができること、被害者冥福をただひたすら祈り続け、その家族へ仏の加護があるように祈りたい、と書いている。また、Kさん父親からはお詫びの手紙の返信をいただいたとも書かれている。その割には再審請求を提出し、命の引き延ばしを図っており、どこまで本心なのかはわからない。一応表紙には、本人が書いたと思われる般若信教が書かれている。

書いている通り、河村の転落の仕方は出来すぎたストーリーなのだが、これを読むと最後こそ自分が甘い、などと反省しているものの、やはり生育環境のせいにしている部分があるのは否めない。そして何より、見通しの甘さと楽観主義には恐れ入るぐらい呆れる。特に事件で得た金のうちの1000万円を月三分の利息で組の相談役に貸しており、これで逃走中の生活費に困らないと考えているのだから呆れた。言い方は悪いが、ちんけな悪党が大それたことをした、そんなイメージの内容になっている。しかし、彼が犯したのは2人を殺害し1億円を奪った強盗殺人死体遺棄事件である個人的には、何かを隠した書き方になっている、自分責任をできるだけ小さくしようとしている、というふうに読める。それはことあるごとに共犯者である末森博也に責任押し付けようとしていることからも明らか。特に完全犯罪と思い込んでいた事件が表に出たのも、末森や共犯のIが悪いという書き方になっている。裁判でもどちらが主犯か争っていたという。裁判では河村が計画を言いだした主犯格となっているらしい(細かい部分は判決文を読まないとわからない)。本書ではそのことが書かれていない。あくまで末森に誘われたことになっている。河村には河村の言い分が、末森には末森の言い分があるのだろう。それにしても、被害者である社員のWさんのことについて「一番能天気だったのは、被害者田辺仮名)さんのようであった」など書いているようでは、被害者の心情など全くわかろうとしていないのであろう。所詮加害者は、被害者がどれだけ恐怖に怯えているのか想像もつかないに違いない。

はっきり言いますが、つまらない本です。コスモリサーチ事件を知りたいというのなら読んでみてもいいかもしれませんが、普通の人なら読後に不快になります。そしてこういう人物が、死刑が確定しても10年以上生き延びていることを不思議に思うでしょう。

[]昨日調べていて気付いた 12:05 昨日調べていて気付いたを含むブックマーク

ケーエー・プロダクションのホームページが消えているのだけれど、なぜ?

まあ、できたら明日はがんばって更新しよう。

素人A素人A 2016/06/12 21:02 何冊も本を出しているらしいですね(版元や書名変えただけの同じ本、だったらとんだ思い違いですが)。
その基金の影響も大きいのでしょうけど

けいけい 2016/06/20 16:12 16日、菊池記志被告の控訴審判決(東京高裁朝山芳史裁判長)がありました。結果は不明です。報道がありましたら更新お願いします。

hyouhakuhyouhaku 2016/06/21 22:19 >素人A様
 確認したところ、合計3冊出ています。全部違うようです。あまり読む気はしませんが。

>けい様
 情報、ありがとうございました。残念ながら報道は見つかりませんでした。

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