平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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長岡弘樹『傍聞き』(双葉文庫)

傍聞き (双葉文庫)

傍聞き (双葉文庫)

患者の搬送を避ける救急隊員の事情が胸に迫る「迷走」。娘の不可解な行動に悩む女性刑事が、我が子の意図に心揺さぶられる「傍聞き」。女性の自宅を鎮火中に、消防士のとった行為が意想外な「899」。元受刑者の揺れる気持ちが切ない「迷い箱」。まったく予想のつかない展開と、人間ドラマが見事に融合した4編。表題作で08年日本推理作家協会賞短編部門受賞。(粗筋紹介より引用)

2007年から2008年、『小説推理』(双葉社)掲載。2008年8月、双葉社より単行本刊行。2011年9月、双葉文庫化。文庫版は『おすすめ文庫王国2012』(本の雑誌社)の国内ミステリー部門で第1位に選ばれた。



作者は2003年に「真夏の車輪」で第25回小説推理新人賞してデビュー。2008年、「傍聞き」で第61回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。2013年刊行の『教場』は「週刊文春ミステリーベスト10」で第1位、「このミステリーがすごい!」で第2位に選ばれている。

単行本で出たときから気にはなっていたけれど、結局買ったのは文庫本で今頃。こんなに薄くても500円を超えるんだあ、と今頃な感想をまた一つ。

4編収録されているが、一番出来が良かったのはやはり「傍聞き」。小学六年生の娘・菜月と二人暮らしの刑事・羽角啓子のやり取りが実によかった。相手から直接伝えられたら疑うような話でも、誰かに話しているのを側で漏れ聞いてしまうと信じてしまう“傍聞き”の使い方が巧い。他にも自分の娘を轢いた男を不起訴にした検事を搬送する「迷走」もよい味が出ている。ただ「899」は母親に後味の悪さがちょっと見えてしまうし、「迷い箱」は短編なのに展開がまどろっこしかった。

基本的にうまい人なんだと思う。ただ、そのうまさが透けて見えてしまうところがあるのはちょっと残念。また読んでみようと思う作家ではあったが。